地獄の巻き添え
続きです、前半部分は、前回の話のサラリーマン視点で書いてみました。
それでは、どうぞよろしくお願い致します。
俺は今、魔獣と対峙している、しかも五匹……社長命令とは言え、何か理不尽すぎる気がする。
俺が社長への意趣返しをどうしてやろうか考えていると、魔獣がこちらに突進してくる。
やべぇ、取り敢えず『塗り壁』!
――ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!
「「「「「ギャゥッ!」」」」」
ふぅ、取り敢えず足止めは出来たかな? 念の為にもあちこちに壁を張っておこう……
魔獣達は今の壁との衝突が痛かったらしく、ギャウギャウと唸っている。社長命令じゃなきゃ、今のうちに逃げたいんだけどな……
俺がちょっとうつな気持ちになっていると、魔獣のうちの一人が口を大きく開けているのが視界に入ってくる。
「何だありゃ?」
良く見ると、口がバチバチと電気を帯びている様だった。あ、もしかしなくても、電撃かよ!
俺は慌てて自分の周りにカードを展開する。同時にカードの向きを調整しておく。
「名付けて『リーマン流、畳返し』!」
なんちゃって!
俺が展開したカードは上手い事、魔獣のスキルを反射してくれたみたいだったが、流石に電撃を放った魔獣には電撃は効かないのか、スキルを放ったその口で電撃を吸収していた。そして、緋色の毛皮の個体に至っては、全く効いていない様に見える。こいつだけ、毛皮の色が違うな……もしかして、群れのボスか?
何にしても、この緋色の魔獣は厄介だな……
俺は念の為、カードを増やして魔獣の攻撃に備えておく。魔獣達はこちらを見ながら、小さくギャウと鳴いている。
……あれ? 襲ってこないな。もしかして、さっきの『畳返し』で警戒してるのか?
それなら丁度良い。周りに誰もいないし……新技の練習台になって貰おう。内緒で完成させて、皆にギャフンと言わせてやる。
まずは一枚、カードを『必殺仕様』にする。
「よっと!」
カードを飛ばすと、魔獣の一匹の爪を切断する事に成功する。
「でも、何か違うなー」
もっとこう……カッコイイ感じに出来ないかな?
俺はカードを何枚か『必殺仕様』で飛ばしてみる。
すると、緋色の魔獣が「ギャウン」と吠えると、群れの先頭に出てきて、朱い雷を落とす――
雷は俺が飛ばしたカードに見事に命中し、地面に落ちるとあちこちに反射しながら滑っている。
「怖えぇ!」
俺は自分の足元に滑って来たカードを慌てて消す。
「ウォォォン、ギャウン!」
魔獣達を見ると、地面が盛り上がって滑ったカードを防いでいる。
……あの魔獣、どんだけスキル持ってんだよ……
やべぇ、ちょっと甘く見てた。俺、生きて帰れるかな……?
「いかん、弱気になるな! 『ポーカーフェイス』!」
俺は弱気になった事を魔獣に気取られない様に、スキルを発動する。
魔獣達は何やらギャウギャウ唸っているが、こちらに襲い掛かる様子はない……もしかして、いたぶられているのか?
「こんな所で死んでたまるか……」
もっと、もっとカードを増やす! 集中だ! 集中!
お、良いコト思いついた。魔獣達は……? よし、まだ襲い掛かってきそうにないな。
俺はカードにひたすら集中し、その形を作り上げる――
「出来た! 『リーマン流、千羽鶴』!」
おお、これならビジュアル的にも良いんじゃないか?
俺は複数のカードを組み合わせて作った千羽鶴を『必殺仕様』に変換する。
すると、緋色の魔獣が多芸な魔獣に一吠えする。やばい、気付かれた。
俺は慌てて、作り上げた千羽鶴を魔獣達に向かって飛ばす。
しかし、一歩遅く多芸な魔獣は土壁を作り上げる。
「っ! くそ、まだだ!」
俺は止める事無く鶴を飛ばす。
――ザッザッザッ
鶴は土壁にぶつかると、勢いを殺すことなく、壁を切り裂いていく……
「おぉう……」
結構威力高いな……これ。
俺が鶴の威力に軽く引いていると、魔獣の内の一匹が群れの先頭に出てきた。
「ニャーニャー! ニャー!」
その一匹は、前足を俺の方に突き出して、何か吠えている。
――その瞬間
俺の背筋を何か冷たいものが走る……
「ひぃっ!」
思わず声を上げてしまったが、何だ今の……? 思わず「ごめんなさい」と言いそうになってしまった。何かのスキルか……?
やべぇ、何だこの「どうしよう、やっちまった」って感じは? 今すぐ土下座したい気分だ……クソッ! 頭痛くなってきた。
『先、輩……業、務』
俺が頭を抱えていると、後輩の幻聴が聞こえてくる……
ああ、そうか、悩んでいる暇はないよな……
俺は頭をぶんぶんと振って、改めて魔獣に向かって立ち上がる。
すると、魔獣達の内、三匹ほどが集まってギャウギャウ唸っている。何か食ってんのか……?
まあ、何にせよ襲い掛かって来ないなら、まだチャンスはある。
さて、ただ投げるだけは安定しない、鶴にしてみたけど、速度が遅くて、防がれやすい……なら、どうするか?
「よしっ!」
昔、物理の授業で物は回転を与えると安定するって、聞いた覚えがある――寝てたから、うろ覚えだけど……
その事を思い出した俺は、カードをクルクルと回し始める。そうだ……蜘蛛の時のサンダで良いじゃないか! あの時はただ硬度を上げただけだったけど……『必殺仕様』にすれば!
浮かべたカードは、回転速度を上げていくと、徐々にその角度を水平に保ち始める――よし、成功だ。
「ニャーニャー!」
カードの『必殺技』が完成しつつあったその瞬間、魔獣の一匹がこちらに向かって、猛ダッシュしてきた! しかも、その爪で『塗り壁』をドンドンぶち破っている。
俺は慌てて、カードを魔獣に向けて飛ばそうとする――
「ッ! ニャー! ニャー!」
――っ! 魔獣が……泣いてる?
「ニャッ! ニャーニャー!」
――ドクンッ
接近してきた魔獣が再度吠えた瞬間、俺の中の何かが反応し始めた。
バカな……俺は……魔獣に、欲情したのか……?
俺は余りの衝撃に、その魔獣に見惚れてしまった。
「ちっ!」
気のせいだ……気のせいだ……
「「ギャウギャウ!」」
俺の動揺を見透かすかのように、他の魔獣が吠えている……違う、誤解だ!
俺は自分を誤魔化す様に魔獣にカードを投げる。
すると、その二匹の魔獣を庇うように、緋色の魔獣が立ち塞がってくる。
魔獣はその身を捻り、俺に後ろ足を向けると、前足でその後ろ足を撫でる――
――ドックンッ
気のせいじゃ……無いのか……俺は、魔獣に……
俺が戸惑っていると、先ほど接近してきたスラリとした魔獣と、若干肉付きの良い魔獣がこちらに近付いて来た。
並び立つ魔獣は、こちらに近付いてくるが、襲い掛かって来る様子は見せない。
「ニャ、ニャーニャー! ニャーニャーニャー!」
――ピクッ
何かが、俺の中の何かが、ナニカを期待して喜んでいる……?
「ナ、ナァーゴ! ゴロゴロナァ!」
――ピクピクッ
間違いない――俺の熱いハートが、ナニカを期待し、喜びに打ち震えている! これは、何かのスキルなのか?
もう、俺は二匹の魔獣から目が離せなかった……
羽衣ちゃん……おじちゃんは、もしかしたら、ここで魔獣に喰われるかも知れない……不甲斐ないおじちゃんを許してくれ……
二匹の魔獣は更に俺に近付くと、止めとばかりにその身をくねらせる……
――ワックワック♪
「「ニャ、ニャッフーン」」
「…………」
「「…………」」
「……………………………………」
「「……………………………………」」
……何だ、この訳の分からないガッカリ感は……くぅ、これも、何かのスキルか……? しかし――
「なめるなぁ!」
このモヤモヤ! 納得いかない! 金返せ!
俺は力の限り、カードを増やし、浮かべる。すると、緋色の魔獣が二匹の魔獣の隣に更に並び立つ……
「ミャァオ……フミャァ……」
何だこの気迫……コイツ……出来る!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ツチノっちの前に立ち塞がったハオカちゃんは、ジィッと……いや、ジトッとツチノっちを睨んでる。
「旦那さん……これが最後どす……」
優しくハオカちゃんがツチノっちに語り掛ける……
「今すぐうちらん所に戻って来やはったら……都に戻った後で、うちら三人が、生あいやでそん顔を踏んであげますえ?」
「…………」
「「「…………」」」
「……………………………………」
「「「……………………………………」」」
「いや、ハオカちゃん……流石にそれは無いっしょ?」
流石のオレも、ハオカちゃんの提案にはドン引きするわー。
その時だった――
「グ、グァァァァ――」
ツチノっちが頭を抱えて苦しみだした。
「え、マジかよ!」
オレが呆れ半分、驚き半分で声を出すと、再び魚がツチノっちの背後に忍び寄る――
「旦那さん! ホレッ♪」
ハオカちゃんが半纏の裾を捲る。
「っ! な、めるなぁ! このっ」
それを見た、ツチノっちは物凄い大声で叫んだ――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ミャオ、ミャオ、ミャーン!」
緋色の魔獣が何か吠えると、俺の身体に電撃が走る……
「グ、グァァァァ」
頭が痛い、痛くて痛くてこのままじゃ頭が割れる!
『先輩……先輩……』
ああ、後輩の声が聞える……頭痛が収まっていく……
「ミャァオ♪」
『先輩……』
緋色の魔獣が後ろ足を前足で撫でる……後輩が呼びかけてくる……でも!
「っ! な、めるなぁ!」
妙なスキルで俺を好きに出来ると思ったら大間違いだ!
「このっ! 腐れアンコウ!」
俺は自分の背後に向かって、『必殺仕様』のカードを投げつける。
「ピギィイイィィイィィィィイィィィィ!」
俺の背後で何かしていた、魔獣――水晶アンコウは、その頭上のチョウチンを切り落とされ、盛大に鳴き声を上げた。
「ツチノっち!」
「おやっさん!」
「オジサン……?」
「ツチノサン……?」
「旦那さん……はぁ……」
あれ? 何か女性陣の視線が冷たい。
「あ、あれぇ? 俺は一体、ドウシタンダロウ?」
「「「………………」」」
冷や汗が止まらないけど、取り敢えずとぼけておこう。
「と、ともかく、あのアンコウ、どうにかしよう!」
俺は未だ頭を押さえて叫び声を上げる水晶アンコウを指差す。
「……ま、良いわよ。あ・と・で……」
「どうですね。あ・と・で、お話ししましょうね? 椎野さん?」
「クスクス……覚悟しておいて下さいね? 旦那さん?」
「……はい……」
何だか、崖の上で自白する犯人の気持ちが分かった気がする。
「ま、ツチノっちが無事でよかった! 取り敢えず、今はこのムナクソわりい魚を始末しようぜ!」
「そうッスね……コイツのせいで……」
サッチーとミッチーは、ゆっくりと水晶アンコウの近くまで歩いて行く……
「頭の上のニョッキが無いと、何も出来ねぇみたいだな……この魚」
「こんな変異種もいるんスね……」
「ある意味、一番めんどい相手だったわね……」
悠莉ちゃんも二人に続いて前に出る。
「「「お前のせいで!」」」
おお、何か三人とも燃えてる……
「椎野さん……? 早く準備して下さい?」
「ひぃっ! はいっ!」
何か、愛里さんまで怖い、ハオカは後ろでクスクス笑ってるけど、何か変に迫力あるし……
「「フォーメーション『極』!」」
俺と愛里さんは、限界ギリギリまで力を使って強化スキルの『門』を作り上げる。
サッチー、ミッチー、悠莉ちゃん、ハオカは、それぞれ『門』を潜ると、水晶アンコウに向かって吠える。
「この魚!」
ミッチー……魚って……見たまんまじゃねぇか。
「アンタのせいで! またあたしの乙女心が傷付いたじゃない!」
悠莉ちゃん……うん、何かごめん……
「この魚野郎……ミッチーの傷利用したり、愛里ちゃんと悠莉ちゃんを利用したり、ツチノっち……はまあいいけど、やり口が全部ムカつくんだよ! とっとと、くたばれ!」
サッチー、俺は良いのかよ……?
皆に総攻撃を喰らって水晶アンコウは満身創痍と言った感じか。
「止めだ!」
そう叫ぶと、サッチーの身体からライトイエローの輝きが溢れ出る――
「埋まれ! 『土竜叩き』!」
サッチーがスキルを発動すると、水晶アンコウの頭上に大きなハンマーがどこからか現れた。
「ピ、ピギギギギッ!」
ハンマーはそのまま、水晶アンコウに襲い掛かり、その身を潰していく……
やがて、ハンマーが消えると、そこには既にクレーターですらない、底の見えない大穴が空いていた。
「ふぅ、スッキリした!」
サッチーはそう言うと、その場に座り込み、皆も酷く疲れた様で、後に続いて座り込む。
「おいおい、皆、そんなに疲れたのか?」
俺がそう言うと、皆に一斉に睨まれた……ごめんなさい。
「あっ!」
その時、悠莉ちゃんが何かに気付いた様で、顔を真っ青にしている。
「どうした! 悠莉ちゃん! まさか、まだあのアンコウ生きてたのか?」
「いや、その……遺跡に穴開けちゃったけど、これ修理費、あたし達が出すの?」
……どうしよう?
俺達は変異種は倒したものの、新たな(賠償責任と言う)敵を見つけてしまったようだった――
視点変更はまだ難しいですね。駄文で申し訳ありません。
誤字・脱字・誤用・ご意見・ご感想など、お待ちしています。




