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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第三章:王都訪問
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撃鉄 魔法使いの標的

遅くなってしまいましたが、続きです、よろしくお願い致します。

 水晶の中のチョウチンアンコウは、体長は約一メートル半と言った所で、その身体を覆う様に無数の小さなチョウチンアンコウがへばり付いている。


 そして、先程から部屋に溢れる青い光は、水晶の中の大きなチョウチンアンコウの頭上の象徴(チョウチン)から漏れ出ている。


 あれ……? 何か、光を見過ぎたせいか、クラクラする……


「――ッチ、ツチノっち!」


「えっ? あ、すまん、ちょっと疲れてたみたいだ」


 サッチーに肩を揺すられて慌てて目を擦る。


「ツチノっちもかよ……さっきから他の皆も、ぼうっとしてんだよ。疲れちまったのか?」


 周りを見回すと、確かに皆疲れた表情を浮かべている。


「やっぱり、罠を何とかして一回戻ろう」


 俺は罠の確認をする為に、広間の入り口から通路に向かって小石を投げてみる。すると、石が通過した通路の上下左右から槍が伸びてくる。


「やっぱり、このままじゃ帰れないか……」


 この罠を何とか解除しないといけないんだが、ざっと、広間を見渡してみても、中央の水晶以外は特に目立ったものは無い。隠しスイッチでもないかと、皆で手分けして探してみたが、やはり何もない。


 もしかしたら、この遺跡自体、この水晶アンコウを封印する為の物なのか……? だとしたら、逃げ道は無いって事か?


「正面突破してみるか……?」


「おじさん、もうめんどくさい! 罠なんか全部壊しちゃって帰ろうよ?」


 俺が正面突破を考え始めるとほぼ同時に、悠莉ちゃんがこの状況に耐えられなくなってしまったらしく強行突破を主張してくる。


「よし、悠莉ちゃん! それでいこう!」


「えっ? いや、冗談のつもりだったんだけど。ホントにやるの?」


 俺は「もちろん」と頷くと、皆に近くに来るように呼びかける。


「取り敢えず実験だ、これが上手くいったら本番だ」


 そう言うと、俺はギルドカードを何枚か使って、一メートル四方の箱を作る。その箱を浮かべながら通路に向けて動かすと、通路の上下左右から先ほどと同じく槍が伸びてくる――しかし、槍は箱にぶつかると暫く箱を貫こうと火花を散らしていたが、やがてその柄の中頃からポッキリと折れてしまった。


「よし、成功だ!」


 俺はギルドカードの箱が壊れないことを確認すると、今度はサイズを一メートル四方から、通路の幅ギリギリ一杯まで広げてギルドカードの箱――ギルド箱を作る。


「はい、皆入って」


 そうして、六人が箱に入ると中から箱を操作してそのまま通路を突き進む。


「お、おじさん、ホントに大丈夫……?」


「つ、椎野さん、これはちょっと心臓に悪いです……」


「ツチノっち! こっち! こっち、ちょっとへこんだって!」


「じ、自分は、おやっさんを信じてますから……」


 ――ギャリギャリギャリ


 箱を壊そうとする槍とギルド箱が衝突し、火花を散らす。


「はあ、旦那さん様も色々思い付きますね……」


 皆がビクビクする中、ハオカは飛び出してくる槍を見てはキャッキャッとはしゃいで、まるでアトラクション感覚だ。


「ほら、悠莉ちゃんも愛里さんも……こういうアトラクションだと思えば?」


「ミスったら死んじゃうようなアトラクションなんか無いわよ!」


「無理です椎野さん! こんなの無理ッ! 死んじゃう!」


 ――ギャリギャリ


「「ひぅ」」


 二人が涙目で俺に抗議すると、丁度その真横の壁に槍が激突し、二人は思わず俺に飛びつく。


大丈夫だよ(役得、役得)二人供(ポーカーフェイス)


 左右(無と有)からの衝撃に、俺は咄嗟にスキルを発動する……これ、もうちょっと進行速度落とそうかな? 強度的には問題ないみたいだし……


「旦那さん、お二人供怖がってらっしゃいますから、さっさと進みまひょね……?」


 俺がちょっと、そんな事を考えると、後ろからハオカが伸し掛かってきて耳元で呟く。


「おじさんがそのスキル使うとこ見て安心しちゃった……け・ど! おじさん? 外に出たら……分かってるわよね?」


 ハオカの呟きが聞こえたのか、悠莉ちゃんがジトッと俺を見てくる。


「前から、聞いてみたかったんだけど……悠莉ちゃん、何で分かるの?」


 額から流れてくる汗をハオカに拭って貰いながら、俺は悠莉ちゃんに聞いてみる。これは早めに対策立てないと、今後の生活に支障が出るかもしれない……!


 俺のそんな焦りに気付いたのか、悠莉ちゃんは「教えなーい」とニパッと笑っていた。


 そんなやり取りをしながら、俺達は全ての罠を破壊しながらゆっくりと進む。やがて、俺達は無事に遺跡から出て調査隊のキャンプまで戻ることが出来た。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「水晶の中に、魔獣らしきもの……ですか?」


 遺跡から脱出した俺達は、調査隊の人達に通路が一本道である事、道を戻ろうとすると罠が発動した事、奥の広間に水晶漬けのアンコウがいる事を報告している。


「罠自体は、解除の仕組みが見当たらなかったので、申し訳ないですが、全部破壊してしまいました」


「いえ、それは構いませんよ? 遺跡の中にはそう言った物も良くありますから、怪我がなくて何よりです。それよりも、後でその奥の広間まで案内して貰っても良いですか?」


 俺達は「少し休憩した後で良ければ」と、広間までの案内を承諾する。


「しっかし、キモかったよな? あの魚」


 休憩しながら、俺達は奥の広間で見た水晶アンコウについて話し合っていた。


「あたし、あの光景に似ているの……知ってる」


「私も……」


「自分もッスね」


「当然、うちもどすなぁ」


「やっぱり、そう思うか?」


「え、オレだけ仲間はずれ? 何々? 何なのよ?」


 サッチーを除く四人はどうやら俺と同じ事を思い出していたみたいだ。


 俺はサッチーに皆が何を考えているかを説明する、つまり……


「え、例の地球で販売した動画の話の元ネタって事?」


「いや、元ネタも何も、そのものずばりなんだが……」


『グリマー湖の人』――俺達が王都に呼ばれる切っ掛けにもなった、グリマー湖で遭遇した変異種の事だ……


 あの時、変異種のウーパルーパー男――ウパ男は最初はどこからどう見てもウーパールーパーだったが、同型の魔獣と互いに喰いあった結果『ウーパルーパー型の魔獣』から『ウーパルーパーをベースとした人型の魔獣』へと変貌を遂げた……


「つまり……あの水晶ん中の魚が、もしも、生きてて更に魔獣だった場合、変異種になる可能性があるって事か?」


 サッチーの問い掛けに、皆で頷く。


「付け加えると、アレは多分生きてる」


 意識の有無は別として、チョウチンが光っていたしな。


 俺はそこまでをサッチーに話し、ついでに調査隊の人達にも同じ話をする。


 調査隊の人達は、水晶には極力触れない様に調査する方針を決めた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「しかし……本当に、何もないですね」


 奥の広間での調査隊の第一声はそれだった。


「プロの目で見てもやっぱりそう思いますか?」


 俺の質問に、調査隊の人達は皆、苦笑いを浮かべながら頷く。俺達は調査が行われる間、特にやる事も無いので皆で雑談中だ。


「変異種ねぇ……ラッコ男に蜘蛛……は違うのか? 後はウーパルーパー男か、二匹しか遭遇してないけど、正直もう出会いたくなかったな」


「いえ、椎野さん、以前聞いたんですけど、二匹も遭遇して生き残ってるって奇跡らしいですよ? 熟練の冒険者の方でも、変異種と戦闘になれば相性次第で、手も足も出ないと言うのが普通らしいです」


「え、マジで?」


「そ、マジでよ。だからナキワオの街では、おじさんに、『おやっさん』って二つ名付いてるのよ、知らなかった?」


「え、アレって二つ名扱いなの? 嘘!」


 愛里さんと悠莉ちゃんに呆れられながら「本当です」と告げられる。そもそも、二つ名ってもっとカッコイイのじゃ無いのかよ……


「おい、お前たち! 何してる!」


 その時、部屋の中央辺りで怒声が鳴り響く。


 俺達が思わず振り向くと、数名の調査隊の人達が、スコップやナイフ、あるいは素手で水晶を殴りつけていた。


「び、美少女が! 中に閉じ込められた美少女が、俺に助けを求めてるんだ! 邪魔するな!」


「ご飯……美味しそうなご飯……」


「金塊……掘るんだ! 俺の金塊!」


 調査隊の人達は、それぞれ何か意味不明な事を叫びながら水晶を殴りつけている。


「あ、ぶ、ぶ、ぶぶっぶぶぶっぶ文明ー!」


 やがて、最後に残った一人も水晶に突貫していく。


「何が起きてるんだ……?」


 俺達が呆然としていると、やがて水晶の中のチョウチンアンコウの頭上のチョウチンの光が点滅し出した。


「ッ! あきまへん、旦那さん!」


 その時、ハオカが勢いよく俺に飛びつき、そのまま目を塞ぐ。


「何? 前にもこんな事無かった?」


 暫くすると、ハオカは俺の目からその手を離す。その顔は焦りに満ちており、下唇をキュッと噛んで周りの様子を見ていた。


 すると、悠莉ちゃんと愛里さん、ミッチーがフラフラと水晶の前まで歩いて行く。


「おじさん? 羽衣の教育に良くないって、あたし、言ったよね?」


「椎野さん? まだアドレスとメール残してたんですか?」


 二人の身体に、どす黒いオーラが幻視できる……


「おじさんの……」


「椎野さんの……」


 二人はその拳を握り締める。


「「バカー」」


 そして、その拳を水晶にぶつける。


 ――ピシッ


 俺の背中に冷たいものが走る……何でか知らんが、あの二人には今、あの水晶が俺に見えているらしいが、もし、もしお店のアドレスを残してたら、俺、水晶にひびが入る位の威力で殴られなきゃいけないの?


「ハオカ……あれ、俺死んだよな?」


「確実どすなぁ……」


 俺達がその光景に絶句していると、ミッチーが静かに剣を振り上げ、力を込めている……


「ミトさん……これを、斬れば良いんスね……」


「っ! ミッチー! 駄目だ!」


「ミッチーはん!」


 ミッチーは、涙を浮かべ、微笑みながらその剣を振り下ろす。


 その瞬間、水晶は静かな破壊音を響かせて砕け散る――


 水晶から解放されたアンコウはそのまま、宙に浮かび続けている。


「ハオカ、今のうちに片付けるぞ!」


「はいな! 『大太鼓』!」


 俺はギルドカードをアンコウの周囲に展開する――が、水晶を殴りつけていた皆が、その手を広げ、アンコウを守る様に立ち塞がる。


「まずい、ハオカ! ストップ!」


 俺は慌てて、ギルドカードを消し、ハオカにも止まる様に命令する。ハオカは既に攻撃を中断し、歯を食いしばりアンコウを見つめている。


「ムナクソわりい……」


 俺とハオカがどうしたものかと悩んでいると、隣にいたサッチーがふらりと前に出る。


「しまった、サッチーもか!」


「サッチーはん! しっかりしいや!」


 サッチーはゆっくりと俺達の方を振り向く。


「ツチノっち、ハオカちゃん、オレは正気だぜ?」


 しかし、その顔は真っ赤に染まり、唇を噛みしめ、口からは血が滲んでいた。


「でもさ、ちょっと自分でもモヤモヤしてんだけど……あの魚はムカつくんだよ! 響け! 『轟雷』!」


 サッチーはアンコウを睨み付け、スキルを発動させる。


「サッチー!?」


 俺が「止めろ」と叫ぼうとすると、サッチーが放ったスキルは綺麗に壁になっている皆を避け、アンコウに直撃する。


 サッチーのスキルを喰らったアンコウ達は、そのまま壁に激突する。それに合わせて、操られていた人達は糸が切れたようにその場にへたり込む。


「お、おお……すげぇ」


 俺はサッチーのスキルに感心しながら、悠莉ちゃん達に近づく。


 悠莉ちゃん達は、混乱こそしているものの傷一つ無い様で、頭を抑えながら周りをキョロキョロと見回している。


「あ……旦那さん、まだ終わっておりまへん!」


 ハオカが叫んで指差す方向を見ていると、吹き飛ばされたアンコウ達は再び宙に浮いていた――


 そして、大きなアンコウの周りに取り付いていた小さなアンコウ達はそのまま溶ける様に、大きなアンコウの身体に吸い込まれていく。


「これが……変異種の、誕生……?」


 俺はどこか遠くに聞こえるサッチーの呟きを聞きながら、三度目の遭遇をどう逃げようか、考えていた。


「ピィギィィイイイイイイイイイイ」


 そして、チョウチンアンコウは、その身をドロドロに崩れさせていった。そのドロドロは次第に、這いつくばる様な姿勢の人型に変形していく――


 やがて、変形が完了したドロドロの後には、頭上にチョウチンをぶら下げ元のチョウチンアンコウの面影を残した紅蓮の鱗の変異種が立っていた。

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