森脱出と自己紹回
続きです、よろしくお願いします。
「あぁ、俺、助か、ったの、か……?」
「えぇ、お疲れさまです」
俺が、ラッコ男が去って行った方を見ながら、一人安堵していると、横から聞き覚えのない女性の声が聞えてきた。
「えーっと、貴女は?」
「あぁ、すみません。私は、あちらの方達から、事情を聴き貴方を助けに来ました。騎士団所属の、ダリー・チェリンと申します」
俺の問いかけに女性騎士、ダリーさんは子供たちのいる方向を指さしながら、俺の腹に手を当てていた。
「あの、何を……?」
俺が、彼女に疑問を投げかけると同時に、彼女の手が淡い緑の光を放ち始める。
「熱っ!」
「少し我慢してください、今、応急処置していますから」
突然、腹部を襲った熱に俺が驚いていると、ダリーさんはジッとしている様、俺に注意した。
というか、応急処置……? ただ、手を当てているだけじゃないのか? これが、本当の手当てってか?
そんな、俺の考えが表情に出ていたのか、彼女は俺の顔を見てにこりと笑い、改めて言った。
「とりあえず、応急処置はしました。血は止まりましたし、骨も内臓も大丈夫なように感じます。しかし、貴方も疲れたでしょうし、さっきの魔獣がまた戻ってくるかもしれません。あちらの馬車に、同行されていた、他の方達もいらっしゃいますので、詳しい話は馬車で移動しながらにしましょう?」
その言葉に、反対する理由もない、俺は素直に頷き、馬車へと移動した。
馬車の中には、つい先ほど、別れたばかりの皆がいた。皆は俺を見て、涙を浮かべ再会を喜んでくれた。
「おじさま! 無事でよかったです……」
「おじちゃん、お腹痛い?」
「おじさん……置いてっちゃて、その……ごめんね?」
「おっさん! よがっだぁ、無事だっだんだだぁ?」
「おっちゃん! マジパネェよ!」
「皆、無事で良かった。しかも、本当に助けを呼んできてくれたんだな、ありがとう。感謝するよ」
俺達が互いの無事を確かめ合い、馬車で移動を始めてから、十分ほど経った頃だろうか? 一緒の馬車に同乗していたダリーさんが、俺達に話しかけてきた。
「皆さん、お疲れ様でした。まさか、ジーウの森にあれ程の魔獣が出現するなんて……」
いやぁ、確かに大変だったなぁ……そうか、魔獣かぁ……
「ん? 魔獣?」
「はい、あれは恐らく、何らかの魔獣の変異種でしょう……挙動を見る限り、知能もそこそこ発達しているようですし、今生きていられるのは、正直、奇跡に近いですよ?」
いや、無事生き延びる事が出来たのも驚きだけど、今ツッコミたいのは、そこじゃない。そう考えていると、俺の横に座っていた女子大生が、手を挙げてダリーさんに質問する。
「すいません、私達はそもそも、その魔獣? というのがよく分からないんですが……」
「え? 魔獣がわからない? 今まで見たことないんですか?」
女性の言葉に、今度はダリーさんが疑問を浮かべる。
「っていうか、あたし達、そんなの見たことも聞いたこともないよね?」
ダリーさんの質問に肯定しつつ、女子高生は「ねー?」と、俺達に同意を求めてくる。
「はい、彼女たちの言う通り、俺達はそんな存在は知らないです」
俺がそう答えると、ダリーさんは「えっ?」と戸惑いの表情を浮かべながら、俺達の顔をキョロキョロと見渡した。
どうやら、俺達とダリーさんの間に、何か認識の違いがあるみたいだな。とりあえず、命の危機は去ったみたいだし人里に着くのも時間がかかりそうだ。少し、皆で状況を整理するべきかな。
俺がそう判断し、提案をしようとすると。
「ふむ、まずは皆さんから詳しい事情を聞かせて頂いても宜しいでしょうか? お疲れでしょうが、街に着く前にある程度、皆さんの事情を把握した方が良さそうです」
おぉう、先取りされた。まぁ、良いけど。こちらに異議があるはずもない、俺が頷くと他の皆も同じく頷いた。
「よし! じゃぁ、折角だしまずは、自己紹介でもしようか? 森の中では正直、逃げるのに精一杯で、お互いの名前も聞く暇無かったしな!」
俺の提案に皆が賛同する中、ダリーさんが呆れたと言わんばかりの表情で、俺を見ている。あれ? 何か俺、おかしなこと言ったっけ?
「皆さんは知り合いじゃなかったんですか? というか、名前も知らなかったんですか? そんな人達のために、貴方は命を懸けたっていうのですか?」
「まぁ、あの時は、自暴自棄というか、死を覚悟してテンションが可笑しくなってたというか……」
「あぁ、確かにおっさん、テンション高かったすね、まさか生で、『ここは俺に任せて先に行け』とか聞けるなんて、思ってなかったっすよ♪」
ふふ、落ち着け俺! これをネタにされると言う事は、生きてる証拠だ! 恥ずかしくなんかない! 耐えろ! 耐えるんだ!
「おじちゃんは、ヒーローなんだよ! 皆のピンチに皆を守ってくれるの! うい、知ってるよ!」
「確かに! 見ず知らずの人達のために命を懸ける事が出来る人物なんて、騎士団でもそうそういないわよ!」
「ヤメテ! もう、耐えられない」
無理だった。子供と女性の純粋な言葉と目線に、何だか居た堪れなくなってきた……やめて、そんな綺麗な瞳で見つめないで! ダリーさんも、そんな興奮しないで!
――数分後
皆の生温かい視線の中、悶え転がる俺が落ち着くのを待って、改めて皆の自己紹介が始まる。
まずは、俺から……
「では、改めまして。俺の名前は、薬屋 椎野、二十七歳、男性、独身、しがない会社員だ」
「「えっ? 二十七?」」
俺の言葉に、女子学生コンビが驚いている。確かに、ちょっと老け顔で、ここ数日、客先に泊まり込んでたから、髪ぼさぼさで、無精髭が酷いけどさ……
ショックを受けている俺と女学生ズを見ながら、ダリーさんが一言呟いた。
「クスリヤさんですか、家名持ちという事は、どこかのお貴族様何ですかねぇ……ツチノ家なんて聞いたことないですし……どこの国でしょうか?」
そういや、ダリーさんの名前は名前・家名の順ぽかったっけ。その事に気付いた俺は、ダリーさんに俺達の名前は、家名・名前の順、である事と、家名はあるが別に貴族でも何でも無い事を説明した。その説明を聞いたダリーさんは、怪訝そうな表情を浮かべたが、とりあえずは納得してくれた様だ。
続いて、俺の頭上……俺に肩車されている子供が大きく手を挙げる。
「うーんと、素灯 羽衣、五歳、女の子です! とある幼稚園に勤める独身です!」
おぉう、俺の自己紹介を真似たのか……ちょっと、懐かれた気がして、嬉しいな。父親の気分ってこんなんだろうか……
まぁ、それはともかく、羽衣ちゃん印象としては、大きなくりっとした目に肩口まで伸びた髪、そして、幼稚園の帰宅途中であったのだろう、近所で良く見かける幼稚園のスモックを着ている。何だろう……何だか、シーズー犬っていうのが、イメージピッタリな感じだな。
馬車内の空気が和んだところで、次は俺の隣に座っている女性から声が上がる。
「私は、桃井 愛里です。十九歳で、大学一年生です。あ、あとは、独身です!」
彼女の印象は、上品な顔立ちに、豊かな胸、その胸の当たりまで伸びているロングヘアー、ベージュのふわっとした感じのセーターに、紺色のロングスカート(森で走ったせいか、破れた裾が良い感じに切れ込み入ってる、眼福だ)で、その柔らかい雰囲気は、ザ・近所のお姉さんって感じだな。
ここまで来ると、大体流れが把握できたのか、続いて、桃井さんの隣に座っていた女子高生が立ち上がった。あ、馬車の揺れに耐えきれず、転んで、結局座った……あ、この子残念な子だ。
「えっと、宇津井 悠莉です。今年、十七歳になりました。高校二年生です。えっと、独身です」
この子の目は……アーモンド形って言うのか? ちょっと、ツリ目で、髪は茶髪のショート? これ、髪の毛を頭の上の方で括っているから、一応ポニーテールっぽい。学校帰りなのか、セーラー服だ。まぁ、全体的なイメージは、スレンダー(笑)な猫って感じか。
さて、続いては男性陣だ。まずは、先ほど俺の黒歴史を弄ってくれた、親切な彼だ。俺は、彼の事を忘れない!
「おっす。自分は三知 徹です。えっと、新米ですが、レスラーやってます。二十二歳で、独身です」
えっ、こいつレスラーだったの? だったら、あの時、俺と一緒に残って戦えよ! という、心の底からの叫びを声に出さなかった俺は、マジで偉いと思う……
確かに、コイツ……細マッチョって感じだな。何だろう、ファッション坊主というか、にやけ面がやけにムカッと来るが、コイツはモテるんだろうなぁ。あぁ、何だか殺意が……
それはさて置き、森の中で一緒だったメンバーとしては、ドッキリを只管に信じ続けていた彼が最後だ。
「幸 敏行っす。二十七っす。ゲーセンで店長代理補佐やってるっす。彼女募集中なんで、よろっす」
まじか、コイツ……何気に俺と同い年じゃねぇか、お前は俺の事をおっちゃん呼ばわりすんなよ。というか……もっと、しっかりしろよ。茶髪にロンゲって、二十七のアラサーがする格好じゃねぇぞ。
と、いかんいかん、余りの衝撃に、ちょっと意識が飛んでしまった。
さて、気を取り直して、最後に、俺達を助けてくれた騎士団の女性、ダリーさんだ。
「私は、ヘームストラ王国騎士団に所属しておりますダリー・チェリンです。今向かっている、ナキワオの街に赴任しております。以後、よろしくおねがいします」
おぉ、空気が張り詰めた感じがする。これは、真面目な話をする感じだな。
「さて皆さん、お疲れの所、誠に申し訳ないのですが……今回、私共騎士団も、ある目的のためジーウの森、皆さんを保護したあの森に向かっていた所でした。私は、私共の目的と、皆さんが森にいた事は無関係とは考えづらいと考えております。ですので、街に着くまでに、皆さんから現在の状況に至るまでの経緯を伺いたいのですが……街に入るまでの暇つぶしも兼ねて、どうかご協力をお願い致します」
「私は構いませんよ? 皆さんはどうですか?」
桃井さんが、ダリーさんに承諾の意を示し、俺達に同意を求めてきた。特に断る理由もないので、俺達も皆、問題ないと答えた。
「ご協力、感謝致します」
ダリーさんはそう言って、俺達に一礼すると、懐から拳くらいの大きさのレンズを取り出した。
「ダリーさん、それは何ですか?」
俺の質問にダリーさんは微笑みながら、レンズについて説明してくれた。
「これは、真偽の器と言いまして、これを持っている者の話すことが真実か嘘かを判定するものです。例えば……私は、女性です」
すると、真偽の器は青く光りだした。続けて、ダリーさんは、呟く。
「私は、男性です」
すると今度は、真偽の器は赤く光りだした。なるほど、ウソ発見器みたいな物か。
「さて、それではこれを持って順番に、今までの経緯を説明して頂きたいと思います。んー、どなたから始めて頂きましょうか……」
ダリーさんが、俺達を見渡すと、一人、飛び切りの笑顔を浮かべてダリーさんを見ている、というか興奮している。そう、羽衣ちゃんだ。
「うい、やりたい! ピカってやりたい!」
羽衣ちゃんは、俺から降りるとダリーさんの傍まで行き、「は~い、は~い」と、元気に手を挙げながら、アピールしている。その様子に、顔をだらしなく緩めたダリーさんは、「今日何があったのか、お話ししてね」と、玩具をプレゼントするかの様に、真偽の器を羽衣ちゃんに渡し、羽衣ちゃんを自分の膝に乗っけていた。
「あのね、今日、幼稚園の帰りにママとお買い物に行ったの!」
ピカー! おぉ、青く光った。
「そしたら、ママが迷子になっちゃったの!」
ピカー! おぉ、また青く光った。というか、実際には羽衣ちゃんが迷子だったんだが……もしかして、このレンズ、持つ人の認識次第で、真偽が分かれるんじゃないか? 何だろう、この感じ、何だか嘘発見器の嘘を見破った気分だ……
「それでね、寂しくて泣いてたら、おじちゃんが、一緒にママを探してくれたの!」
ピカー! おぉ、また……
「おじちゃんと頑張って、ママを探してたら、お店のお外で、ママを見つけたの!」
ピカー! ……眩しい。
「そしたら、そしたら、お空からお月様が降ってきて、そしたら森の中にいて、ラッコちゃんと追いかけっこしたの!」
ピカー! ……超眩しい。
羽衣ちゃんが、喋るたびに真偽の器が光るのを楽しんでいるため、その度に、馬車内が青い光に包まれて、正直目がちかちかする。
まぁ、意外と羽衣ちゃんの話は、時系列に沿ってるし、迷子の件以外は、俺の認識とほぼ一緒だな。
はしゃぐ羽衣ちゃんを微笑ましく見ていると、俺より更にだらしない顔をしていたダリーさんが、「オホン」と、軽く咳払いをした。
「羽衣ちゃんありがとう。よく分かりました。次の人のお話を聞きたいから、一回その玩具、お姉ちゃんに貸してくれるかな?」
おい、この人今、玩具って言っちゃったぞ!
ダリーさんに「はい!」と、元気よく返事をし、真偽の器を手渡した羽衣ちゃんは、再び俺の元へ来て俺をよじ登って来た。……何だろう? ここは、定位置なのか?
「それでは、先ほどの話だと、薬屋さんが、話の立ち位置が近いようですので、薬屋さんのお話を聞かせて頂けますか? 出来れば、先ほどの羽衣ちゃんのお話を掘り下げてお願いします」
俺は「了解です」と答え、一呼吸置いて、今日何があったかを話し始める。
説明回、少なくしたいのですが、上手い表現ができない……
申し訳ないです。
※2014/04/23 17:20
幼稚園のスモッグ→幼稚園のスモックに修正致しました。
「「スモッグ」は公害ですよ。」とのご指摘ありがとうございます。