ドランクリーマン
続きです、よろしくお願いします。
ゴンガの街跡から、ほぼ一日、俺達はようやく次の街に到着することが出来た。
道中、ミッチーは何かを考え込んでいる様な、塞ぎ込んでいる様な感じだったが、街に着く頃には表面上立ち直った様に見えた。余り、無理をするのも宜しくないので「大丈夫か?」と聞いてみると、ミッチーは……
「大丈夫とは言えないっすけど、次にあそこに寄った時に、出来る限り旅の想い出を語ろうと思ってるんス……ずっと、塞ぎ込んで何の話も出来ないのが一番、駄目だと思ったんス」
と話してくれた。
「そっか、なら精一杯楽しむか!」
「うっす!」
しかし、よくよく考えてみれば、まともな宿に泊まるのも食事をするのも、ナキワオを出てから初めてじゃないだろうか? 俺がそんな事を話題にだすと、皆も言われて気付いてしまった様で、俺達はこの街――ジマの街で休養を兼ねて観光する事にした。
「そう言えば、おじさん、ナキワオ出てから、後輩さんに連絡ってしてないんじゃないの?」
俺以外の男性陣は、とっとと飲み屋に行ってしまった。俺達も行くつもりだったのだが、出掛けに、悠莉ちゃんに尋ねられてしまった。
背筋に寒気が……何で連絡しなかったんだっけ? ああ、そっか、霧のせいか……
「悠莉ちゃん……傍にいて?」
「ふぇ? な、何?」
「このままだと、俺、凄い怒られる! 誰か傍にいれば! 少しは怒りづらいかもしれない!」
「あー、そう言う事ね……」
悠莉ちゃんが、ゴミを見る目で俺を見てくる。
結局、悠莉ちゃんと愛里さんに頼み込み、事情説明の手助けをお願いする。
――そして、勝負の時は来た!
『先輩……開幕土下座は感心ですが、どういう事ですか? ここ四、五日ほど、定時連絡がありませんでしたが? こちらからフォローしようにも出来ませんし? ボクはてっきり、最悪の展開を予想してしまいましたよ? 大体、先輩は――』
そこからは暫く、後輩の説教タイムだった。やがて、見かねた悠莉ちゃん達が事情説明を開始してくれ、漸く俺は土下座の解除を許された。
「もうちょっと、早く助けて欲しかった……」
流石に足が痺れた……
「うりうりー♪」
「すいません、椎野さん……♪」
「あー、やめてー」
そして、二人は現在後輩の指示で、痺れた俺の足をつついてくる。更には……
――ピロン、ピロン
「悠莉ちゃん……後でこっちにも頂戴ね?」
『あ、こっちにもお願いします』
動画と静止画まで撮られた。どうしよう? 後輩に渡したら社内で笑い者になる気が……
『しかし、霧の魔獣ですか。魔獣って動物だけじゃなかったんですね? 話を聞く限り知能もある、と。魔獣って一体何なんでしょうかね?』
「俺も、それは気になるんだけどな。変異種って言われても何かシックリ来ないんだよなぁ。取り敢えず、王都の研究所とかで相談してみるよ」
『はい、お願いします。取り敢えず、お疲れでしょうから今日はこれ位で終わりにしましょう?』
俺達はそこで通話を終了し、一息つく。
「悠莉ちゃんも愛里さんも、悪かったな? 実際、俺以外の話も聞かせておかないと、信用して貰えないからさ」
「おじさん、どんだけ信用無いのよ……?」
「色々あったんだ……」
遠い目をする俺を愛里さんが慰めてくれる……
ともかく解放された俺達は、ブロッドスキーさん達と合流するために、飲み屋を探す事にした。
しかし、前々回は小さな村、前回はゴーストタウンだったから、ナキワオの街以外の街って本当に初めてになるんだよな。そこまで大きくはないけど、活気があって良いな。
愛里さんと悠莉ちゃんは先ほどから、通り沿いの店を見ながらはしゃいでいる。俺が「ナキワオの街と違うの?」と聞いてみると、品物――特に装飾品の系統が違うらしい。あ、これちょっと調べて、後輩に報告できそう。
「じゃあさ、気になったの適当に見繕ってくれない? ちょっと、仕事に役立つかも。お礼に何かプレゼントするからさ」
「え、本当? いいの?」
「わぁ、何か得しちゃいましたね」
二人供喜んで引き受けてくれる様だ。
「あ、でも椎野さん……こういう時はハオカさんも呼んだ方が良いですよ?」
「あ、そうね、呼ばないと後でおじさん、また踏まれるよ?」
え? マジで? じゃあ、呼ばない方が良いのかな?
何て事を考えていると、悠莉ちゃんが白い目で見てくる……
「いや、うん、そうだね、呼ぼうか!」
俺は大人しくハオカを呼び出す。顕現したハオカに事情を説明すると、ハオカは珍しく頬を染めて喜んでいた。
「んじゃ、色々店回ってみますか」
まずは、近場のアクセサリーショップを回ってみる。悠莉ちゃんとハオカはここでは特に好みに合うものが無いらしい。しかし、愛里さんは気に入った指輪があったらしく、それを購入する事にした様だ。愛里さんは右手の指輪を付け替え、今後はそれをメインで使う事にしたらしい。
「へぇ、今度の指輪は面白いね?」
愛里さんが選んだ指輪は、石自体は今まで同様にエメラルドグリーンのものだが、指輪自体から出た鎖がセットの腕輪と繋がっている。
「えぇ、腕輪の方にスキルを強化する効果があるらしんですよ」
どうやら、デザインも気に入ったらしいが、それ以上にその副次効果が気に入った様だ。
次いで、服屋に寄ったのだがここでは、悠莉ちゃんの好みの服があったらしい。悠莉ちゃんはその場で購入した服に着替えた。何だっけあれ、……そうだ、ペプラムだっけ? ペプラムの上下に靴をアルパルガータに変えて、結構露出が上がってる……中々に良い足だ。
「おじさん、ドウシタノ?」
「椎野さん……? ドウシタンデスカ?」
俺が『ポーカーフェイス』を発動して足を見ていると、気が付けば愛里さんと悠莉ちゃんが揃って俺を観察する様に見ている……あれ? 何か白い目で見てる? いや気のせいだ、バレてない筈だ。
「さぁ、次に行こうか!」
俺は動揺がバレない様に皆を促す。それを見て、ハオカがクスクスと笑っている。
愛里さんと悠莉ちゃんは二人してひそひそ話をしているかと思えば、ハオカに何か、「足? 足ね!」と確認している……俺は何かを期待して良いのか? それとも、ガードが固くなるのか?
最後に雑貨屋に寄ってみると、そこではハオカが二つのヘアバンドをジッと見ている。
「それが欲しいのか?」
「へぇ、タテのお土産にもええかと思いまして。ほら、こん小さな角が一本生えた様なんがうちで、二本のんがタテで何や式神っぽいではおまへんか?」
俺はそれを購入すると、そのままハオカの頭に付けてやる。ハオカは嬉しそうに微笑むと「おおきに」と言った。
一通り店を回った俺達は、丁度ブロッドスキーさん達がいる飲み屋を見つけたので、そのまま合流する。
ブロッドスキーさんは「やっと来たか」と疲れた顔で俺達を引っ張る。どうしたのかと思えば、ミッチーとサッチーが飲み過ぎてダウンしてしまったらしく、一人飲みが寂しくなったらしい。
俺とハオカは、ブロッドスキーさんと一緒に酒を飲みながら、明日の予定を話す。
「じゃあ、明日は昼ぐらいに出発ですか?」
「ああ、流石にこの二人の様子を見ているとな……」
「ああ、なるほど」
俺達の前では、ミッチーとサッチーが顔を白くして「気持ち悪い」と寝言をこぼしている。
「なら、ゆっくり寝られますな。旦那さん」
そう言う事なら、多少飲み過ぎても良いかな? 三人で結構なペースでグラスを空ける……
「ねぇ、愛姉、お酒って美味しいの?」
「……ワタシ、ノンダコトナイカラ」
「……怪しいよ、愛姉」
俺達が酒を注ぎなおす度に乾杯していると、悠莉ちゃんが羨ましそうに、こちらを見ている。
「ああ、ゴメンな? 俺達ばっかり」
俺はほろ酔い気分で二人に謝る。二人は俺達に気にしない様に言いながら追加の酒を注文してくれる。
そして、そろそろ宿に戻ろうかと言う時――
「ねぇ、小指にちょっとだけなら良いかな?」
「えっ! 悠莉ちゃん?」
悠莉ちゃんは、コップの縁の水滴を小指で掬い取ると、それをペロリと舐めとった。
「あれ? 何か暑いよ?」
そこから先は悠莉ちゃんの名誉の為にダイジェストでお送りしよう。
――会計時
「おじさーん、おんぶー! だっこー! 肩車ー!」
どうやら、日頃から羽衣ちゃんみたいに肩車してみたかったらしい。ブロッドスキーさんはこの時点で、嫌な予感がしていたらしく、「もう一軒行ってくる」と言って消えていった。
――宿に向かう間
「いーやー、もっと遊びたいー」
最終的には、かくれんぼしたいとか言い出した……
――宿到着
「たーだいまー♪」
止めて! 宿の備品を壊そうとしないで!
――部屋の前
「いやーっ! 一人で寝るの寂しいの! 愛姉もおじさんも一緒に寝よー?」
いや、勘弁して下さい。愛里さんも苦笑いしてないで、ちゃんと止めてよ!
――部屋の中
「いやっ! 降りない! 今日はこのまま寝るもん!」
肩車で寝るって、どうすんのさ! あれ? 愛里さん? どこに行ったの? ねぇ! 見捨てないで!
――就寝時
「すぅ、すぅ――」
手を、手を放して! 何? これが戦闘職の握力って事? 舐めてた! 俺、すっげぇ舐めてた!
――起床時
「――ッ! キャーーーーーーーー!」
何て、理、不、尽な……
俺はそこで気を失った。
――説明終了
「あたし、一生お酒は飲まない……」
「そうしてくれると、俺も助かる……」
現在、悠莉ちゃんが、顔を真っ赤に腫らした俺に、土下座をすると言う、異常事態が発生している。
幸い、二日酔いなどは無いらしいが、記憶はバッチリ思い出せた様で素直に俺に謝って来た。
そして、俺達はミッチーとサッチーが起きてくるのを待って、ジマの街を後にするのだった。




