サイレントシティ
続きです、よろしくお願いします。
ナキワオの街を出発して約半日――俺達は今日の宿のある村に到着したのだが……
「ご飯の調達?」
宿に着いた俺達に告げられたのは、「手違いで飯の材料が足りない」と言う非常事態であった。
「えぇ……ここ最近、街道沿いの霧が濃いせいか、仕入れの業者の到着が遅れ気味なんですよ。一応、その分も見込んで前回、多めに仕入れしておいたんですけど……」
どうやら、その霧のせいで引き返してくる者も多く、折角用意した食料もあっと言う間に消費してしまったらしい。
「ふむ……仕方ない。ツチノ、トール、サチ! 今から狩りにでも行くか! なあ?」
俺達はそのまま、ブロッドスキーさんに連れられて、村の近くの森で狩りをする事となった。
俺は狩りと言ったら魔獣狩り! のイメージがすっかり植えつけられていたのだが、今回は普通の狩りの様だ。
俺がそう漏らすと、ミッチー、サッチーもそう思っていたらしく、苦い顔をしていた。
「あれぇ?」
狩りを開始してから三十分、俺は少し戸惑っていた。狩り自体は魔獣を相手にするより、何倍も容易いのだが……
「ブロッドスキーさん……霧が、濃くないですか?」
先ほどから気になっていたのだが、この辺りは特に盆地でもないのに森以外の平地でも霧が濃い気がする……
「そうだな……この辺りで一度村に戻ろう」
俺達は狩りを切り上げ、村に戻る。どうやら、霧は村までは来ていないらしく、ほっとした俺達は、急ぎ宿に戻り狩りの成果と霧の件を報告する。
「そうですか、遂にこの辺りまで……」
宿の主人によると、霧はドンドンとその目撃報告が村まで近づいているらしく、村民の間にも不安が広がっているそうだ。中には、村から出てナキワオの街に避難する人もいるそうだ。
「魔獣絡みかも知れん……いずれにせよ、通り道だ。明日の朝出発し、霧が出る前に次の街に行こう。そこで、本格的な調査を行いたいのだが、協力して貰えるか?」
俺達に断る理由も無く、俺達は次の街を拠点に霧に関しての調査を実施する事になった。
「しかし、霧ですか……? 魔獣絡みだとして、どんな魔獣がいるんですか?」
「過去の目撃例だと、何らかの効果を持った霧をスキルとして使ってくる魔獣がいた。精神攻撃系が多いから厄介な事この上ない……」
愛里さんの質問に、ブロッドスキーさんが言葉を濁す。話によると、精神攻撃系のスキルを使ってくる魔獣は強くはないが、非常に犠牲者が多いそうだ。
「って事は、仕入れ業者が遅れてるのも?」
「魔獣の可能性を恐れているのか、霧にやられて魔獣の餌になっている可能性もある……まあ、まだ魔獣絡みとは決まってないがな」
悠莉ちゃんは「爬虫類じゃありませんように」とぶちぶち呟いている。俺は何気に魔獣がスキルを使うと言う事に、ビビッてしまってるんだが。
「あのー、魔獣ってスキル使うんですか?」
今まで出会った、ラッコ、蜘蛛、ウパは使わないから、てっきりそう言うものだと思っていたけど。
「うん? 言ってなかったか? これはスマンかった! しかし、スキル持ちの魔獣は滅多にいないからな」
――スキル持ちの魔獣? いや、引っかかるのはそこじゃない、この世界の法則に従えば、『スキル』を持つと言う事は、その存在が『ジョブ』を持っていると言う事だ……
そして、『ジョブ』を持つと言う事は、『天啓』『拝命』を行っていると言う事。少なくとも『拝命』が出来ると言う事は、何かを決意する『意志』が、そして、『知能』があると言う事じゃないのか?
だとすると、そもそも『魔獣』とは何だ? 長生きした『動物』が変異したモノ? 本当か?
「……さん? 椎野さん? どうしたんですか?」
「ん? ああ、ゴメン! ちょっと考え事してた」
愛里さんが俺を心配して、顔を覗き込んで来ているのに気付き、俺は慌てて「大丈夫」と答える。……これに関しては、また要検証だな。
「お、ツチノっち! 次の街が見えてきたぜ!」
サッチーの「見てみろよ」と言う言葉に従い、視線の先を見てみると、そこには、ナキワオの街よりは規模は小さいものの、そこそこな広さの街があった。
「今日は、良いベッドで寝られそうっスね……」
昨日の宿の布団に不満があったのか、ミッチーが呟く。
そして、俺達が街に入ったその時、事件は起きた。
「ようこそ! ゴンガの街へ!」
街に入ると、入り口で歓迎を受けた。歓迎してくれたのは、この街の議会議長とその娘さんなのだが、議会議長さんの話では、どうやらここ数日霧のせいで、街に来る人の数が少なくなり、観光収入などが激減していたそうだ。そして、困り果てていた所に俺達が丁度来たという訳だ。
しかし、今、気になる問題はそこではなかった……
「じ、じ、じ、じ、じ」
ミッチーが、顔を真っ赤にして立ち尽くしている。「じじじ」って……お前は故障した機械か?
「じ、自分は、み、三知徹とい、言います。そ、そちらのおじょ、お嬢さん! お、お名前を、その、聞かせて頂いてもよ、宜しいでしょうか?」
鼻息荒く、自己紹介を終えたミッチーは、俺達を最初に迎えてくれた、白のローブを着た女性に手を差し出し、握手を求めていた。
「え、えっと、わ、私ひゃ、こ、きょ、この街の、ぎ、議会議長の娘で! ミ、ミトとです!」
てっきりミッチーの勢いに、「これは引くだろうな」と俺が考えていると、その女性――ミトさんはミッチーと同じく、顔を真っ赤にして、握手に応えている……
「マジか?」
「愛姉、愛姉! 何か面白い事になってるよ!」
「悠莉ちゃん……失礼よ?」
「いや、愛里ちゃん……そんな鼻息荒くして言っても、全く説得力ねえよ?」
「ほう、これはこれは……ツチノよ、今晩の酒の肴が出来た様だぞ」
いやぁ、俺も人の事を偉そうには言えないが、皆――ブロッドスキーさんまで――楽しむ気満々だな。
「ミッチー、俺達は今日の宿探して来るから、ちょっとこの辺りを散策して、情報収集しておいてくれ!」
俺達はそう言うと、ミッチーに「頑張れよ」と合図して、今日の宿を探す事にした。
ミッチーは、「押忍! が、頑張ります!」と言うと、ミトさんに街の案内を頼み、一緒にどこかに出かけていった。
ミッチー達と別れた俺達は、それからずっと、宿を探し回っているのだが、どうにも様子がおかしい。
「何か……どの店も閉まってないか?」
宿もそうだが、小腹が空いて何か食おうにも、店が閉まっていて買う事が出来ない。
「うーむ、もしや昨日の村と同じく、仕入れが出来ていないのか?」
ブロッドスキーさんは手を顎に当て考え込み始めた。さて、本当にどうするかな……
「おやっさん! 皆!」
途方に暮れていると、ミッチーとミトさんが、俺達に声を掛けてくる。どうやら、初デートは終了らしい。しかし、この短い間に指と指を絡めて恋人繋ぎか、初対面時の緊張の仕方からすると意外なほど積極的だな……こいつ等。
「あ、すいません。その……この街は、そう! 夜に店を開く所が多いんですよ!」
繋いだ手をジッと見ながら、俺達が店が閉まっている事を相談すると、ミトさんがそう教えてくれた。
ミトさんによると、確かに最近、仕入れが出来ていないのは事実であるが、食料などはある程度は自給出来ているため、食事の心配はしないで良いらしい。
ついでに、泊まる場所についても「私の家にいらして下さい」とミッチーを見つめながら誘ってくれたので、遠慮なく甘える事にした。
俺達の訪問に、議長さんは驚いていたが、快く泊めて頂ける事になった。
そして、俺達がこの街を拠点として霧について調査する事を伝えると、議長もミトさんも揃って真剣な顔になり「お願いします」と頭を下げた。
――二日後
調査を開始した俺達だが、一向に調査が進まない。特に、街の人への聞き込みの進捗が芳しくなく、半分以上の人が霧について尋ねても「ヒィッ」と怖がるばかり……残り半分の人に関しては、話すら聞いてもらえず、無視されると言う始末。
「おじさん、あたし、もう人間不信になりそう……」
「私も同感です……」
俺達は議長の家に戻り、成果報告をしていた。聞き込み組は誰一人、有力な情報を得ることが出来ずにいた。
「こちらも同じく、成果はないな……」
街の外の調査に出ていたブロッドスキーさん達も成果は無しか。
「ここに来て、成果があるって言ったら……」
俺はそう言うと、ミッチーの方――正確には、ミッチーとミトさんの方を見た。二人はこの二日で順調にその距離を縮めているらしく、見ているこちらが胸焼けするほどの空気を醸し出していた。
「「いいなぁ……」」
愛里さんと悠莉ちゃんは、ミッチー達の甘い空気が羨ましいらしく、事あるごとに、「いいなぁ」と言っている。
――その夜、俺は何となく寝付けずにいた。
しかし、二日掛けて手掛かりゼロか……これ、もう王都とか専門の人に任せた方が良いんじゃないのか?
そんな事を考え、ふと窓の外に目をやると、何か複数の人影の様な物が見えた気がする。
「……?」
外から見えない様に気を付けて、改めて外を見てみると、やはり複数の人影らしきものがユラユラと屋敷に向かってきている。
妙な胸騒ぎを覚えて、俺はそっと部屋を出てブロッドスキーさんの元に向かう。
「人影……? 見間違いではないのか?」
「多分ですけど、流石にあの数は見間違いでは済まない気がするんですよ」
俺とブロッドスキーさんは、そのまま静かに窓の外を見る。やはり見間違いではない。今も人影が増え続けてる!
「ツチノ……皆を起こして来てくれ! 理由は分からんが、屋敷を取り囲むつもりの様だ……!」
俺は無言で頷くと、まずは近くの悠莉ちゃんの部屋に行く。
「んん? 何? 愛姉?」
寝ぼけながら、悠莉ちゃんが出てくる。俺は口に人差し指を当て、悠莉ちゃんに静かにするように伝える。
「え、え? も、もしかして、そう言う事? うゎ、どうしよう……」
俺は顔を真っ赤にして、何か勘違いしている悠莉ちゃんの頭を軽く小突くと、「怪しい奴らに屋敷が囲まれてる」と耳元で囁き、皆を起こすからついて来るようにと伝える。
悠莉ちゃんは更に顔を真っ赤にすると、無言で頷き、俺について来る。同じ様に、愛里さんを起こしに行く。
「はい、え? 椎野さんに、悠莉ちゃん?」
まだ寝ていなかったらしい愛里さんは、俺達の姿を確認する。俺は口に人差し指を当て、悠莉ちゃんにした様に静かにするように伝える。
「え、え? も、もしかして……え、でも? 悠莉ちゃんもいるし、さ、三人で……?」
俺は顔を真っ赤にして、悠莉ちゃんより酷い勘違いをしている愛里さんの頭を少し強めに小突くと、「屋敷が囲まれてる」と耳元で囁く。
すると、愛里さんは悠莉ちゃんと同じ様に更に顔を真っ赤にして、頭をさすっている。これ、面白いな……今度からちょいちょい、仕掛けてみるか?
「おじさん、ワザとやってない?」
「……気のせいだ」
次いで俺達は、サッチーとミッチーを起こし、急いでブロッドスキーさんと合流する。ブロッドスキーさんは荷物を纏め戦闘準備を終えており、俺達は今すぐ脱出する事になった。
「おやっさん! ミ、ミトさん達は?」
ミッチーは顔を真っ青にして聞いてくる。ブロッドスキーさんはミッチーに落ち着く様に言い聞かせ、「まだ無事だ、これから合流しよう」と提案し、先頭を歩き出す。
「ブ、ブロッドスキー殿! これは、一体……?」
「屋敷が囲まれています。相手の目的が分かりませんが、まずは逃げた方が良いと、私の勘は言っております」
ブロッドスキーさんの進言に少し躊躇った後、議長は「ミトを連れてまいります」と言って、屋敷の奥に向かっていった。
「屋敷の地下に、いざと言う時の為の脱出路があります。林の中に繋がっておりますのでそこから逃げましょう……」
ミトさんを連れてきた議長はそう言うと、屋敷の地下に俺達を案内する……
俺達は地下の通路を進みながら、今後の方針を検討し、屋敷を脱出した。




