表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大・出・張!  作者: ひんべぇ
第二章:出張開始
24/204

その抗争(ケンカ)俺が買う……?

続きです、よろしくお願いします。

 さて、いきなりだが、俺は今、羽衣ちゃんが入学する学校の校庭で、厳つい筋肉親父と対峙している……


「てめぇ、非戦闘職だって話じゃねぇか……それでも俺は手加減しねえぞ?」


「はっ! 非戦闘職だからって、油断してたら足元掬われるぞ?」


 啖呵切ってる俺だが、正直逃げ出したい……あ、そうだ死んだふりしよっかなー。そうだそうすりゃ、相手もビックリじゃね? 皆泣き悲しんで、みっともないとこチャラになんじゃないかなー?


「……おじさん、死んだふりとか無しね?」


 俺がそんな事を考えていると、悠莉ちゃんが近くに寄ってきてボソリと呟く……この子、何で『ポーカーフェイス』が効かないの?


 ヤバイな……逃げ道がドンドン封じられていく……どうする、どうするの俺?


「おじちゃーん! 頑張れー!」


 ああ、やるっきゃないか……くそっ、どうしてこんな事に……


 ――三時間前


「――これより、入学式を始めます」


 羽衣ちゃんの入学式、その保護者席に俺達はいる。


 グリマー事件から数日、俺も悠莉ちゃんも疲れやら筋肉痛やらで依頼を受けられる状態では無かった為、特に何事も無く日々が過ぎていった。


 そして、俺達――主に、俺、ミッチー、サッチー、そして何故かブロッドスキーさんは、カメラマンとして先ほどから入学式の様子を撮影している。


 ブロッドスキーさんは、こちらの世界の映像記録装置(何か、望遠鏡みたいなの)で撮影している。しかし、俺達は自分の携帯電話で撮影しているため、ちょいちょいサッチーとハオカにスキル『充電』を使用して貰っている。正直、ハオカにはこの日のために、ここ数日『充電』の特訓をして貰ったため、申し訳ない気持ちで一杯だ。


 式も終盤になり、今は一人一人、生徒の名前が呼ばれ校長から祝辞を貰っている所だ。この後は入学式が終わり、各教科で保護者達を交えての交流会らしい……


「ウイ=スアカリちゃん!」


「はい!」


 羽衣ちゃんが呼ばれる番になると、俺の周囲からパシャパシャとシャッターを切る音が連発する……


「キャーッ! サチッ! 羽衣ちゃんよー!」


 ダリーさんは隣に立つサッチーの背中をバンバンと叩きながら、涎を垂らしている……他人のふりしよう。


「タテ=クスリヤ君!」


「ファイッ!」


 タテが噛んだ……普段結構冷静な感じだけど、やっぱ緊張してんのか? あ、ダリーさんが鼻血出し始めた……


 ――一時間前


「それでは、みんなー今日からよろしくねー?」


 教壇に立つ先生が、自己紹介の終わった生徒たちに改めて「仲良くしましょうね」と定番の挨拶をしている。


「しっかし、おやっさんとこの羽衣嬢ちゃんと一緒のクラスになるたぁ、これも何かの縁かねぇ」


 知り合いの冒険者、騎士団の人達の子供さんたちも多数入学しており、俺はその中の何名かと雑談を交わしていた。


 そして、羽衣ちゃん達は早速何人かの子供と仲良くなった様で、先生の話も聞かずにキャッキャッとはしゃいでいる。


 ――三十分前


「さいきょーは、うちの親父だ!」


「違うもん! おじちゃんだもん!」


 ……どうしてこうなった? 今、俺の目の前では男子生徒の一人と羽衣ちゃんが言い争い、タテはその羽衣ちゃんの後ろでオロオロしている。


 どうやら、相手の男の子の父親が、戦闘職の冒険者であるらしく、羽衣ちゃんの「サラリーマン最強説」に異論を唱えているらしい。


 正直、俺は男の子の意見に異論はないんだが……


 保護者組が暫く様子を見ていると、何故かクラスが二グループに分かれて口喧嘩を始める始末。


 男の子を先頭としたグループは、「非戦闘職が最強のはずないじゃん」と言う意見を持つ子たち。


 羽衣ちゃんを先頭としたグループは、「おやっさんは最強なんだ」と言う意見を持つ子たち。


 どうやら、後者のグループは俺と仲の良い、つまりは蜘蛛討伐の時の冒険者と騎士団関係者の縁者らしく、俺の武勇伝らしきものを聞かされているらしい……


 俺が呆れた目で、関係者を睨むと、目を逸らしてすっとぼける始末……こいつ等半分面白がって話を盛りやがったな!


「じゃあ、今から勝負してどっちが正しいか決めりゃいいじゃん!」


「いいよー! ういのおじちゃんはさいきょーだもん!」


 口喧嘩がヒートアップした時、遂に男の子が言って欲しくなかった一言を言ってしまった……


 ――そして現在


「待ちやがれ! 逃げんじゃねー!」


 俺は、男の子の父親――筋肉親父に追いかけまわされている。馬鹿が! まともにやって非戦闘職が戦闘職に勝てるかよ! こっちは作戦練らせてもらうぞ! 当たり前だ!


 どうする、どうする、くそっ! 取り敢えず、カードで何とかするしかないか……


「いくぞ! 『リーマン流 札落とし』!」


 我ながら適当な流派だが……かかってくれよ!


「ッ! ……? 何だ何も起きんぞ? はっ、所詮は非戦闘職か、じゃあ、改めて覚悟しろ!」


 そう叫ぶと、筋肉親父は改めて俺に突っ込んでくる……ふふふ、かかった!


 ――ツルッ!


 筋肉親父が足を踏み出した瞬間、俺は透明にして足元に仕掛けていたギルドカードを思いっ切り手繰り寄せる! その結果、筋肉親父は盛大にすっ転んだ。


「はっ! 非戦闘職だと油断してると、足元掬われるってさっき忠告しただろ!」


「て、めえ! 姑息な真似しやがって! 子供の口喧嘩に巻き込んじまったから穏便に済まそうかと思ったが、もう勘弁しねえぞ!」


「いや、あんた最初から手加減しねえって言ってたじゃん! こっちは、必死なんだよ! 『リーマン流 花吹雪』!」


 そう言うと、俺はギルドカードを分裂させ、桜色のラメラメにして、相手にぶつける。


「イタッ! ッタ! クソ! チカチカしてイライラする!」


 知るか! ……しかし、真面目な話、俺は一人じゃ戦えんて……


 俺はチラリと、羽衣ちゃんの方を見るが、相変わらず羽衣ちゃんは俺の勝利を疑ってないみたいだ……それどころか、サッチーと悠莉ちゃんまで、「当然!」みたいなドヤ顔してんだけど……


 皆の信頼が痛いな……! 負けられない理由だけが増えていく気がする……


「『リーマン流 塗り壁』! 『塗り壁』! もう一丁! 『塗り壁』!」


 俺は、筋肉親父の前に透明な壁を作る。筋肉親父がそれにぶつかり、次はぶつからない様にと迂回した先々にドンドン壁を作る。


 もう少し、もう少しだ……


「っこの! いい加減にしやがれ!」


 壁にぶつかりながら、進んでいた筋肉親父はとうとう我慢の限界が来たのか、スキルで自分の身体能力を強化し、爆音を上げて強引に壁をぶち破ってくる……よし!


「はぁ、はぁ、もう打ち止めか?」


 全ての壁を突破されると、息が上がった俺に、同じく息の上がった筋肉親父がそう問いかけてきた。


「あぁ、もう逃げねぇよ……ギルドカードも今以上に分裂させる体力無いしな。それより、そっちこそ大丈夫かよ? 身体強化切れてるんだろ?」


「はっ! 身体強化なんざ使い切っちまっても、俺にはこの筋肉があるんだよ!」


 よしよしよし、とても良しッ!


「決着付けるか……来い!」


「……いい度胸だ! 少し見直したぜ!」


 そして、俺と筋肉親父は共に相手に向かって、疾走する。そして俺に肉薄した筋肉親父が俺の腹めがけて拳を振りぬくと……


 ――スカッ!


「「「「「「えっ?」」」」」」


 拳が俺の腹をすり抜ける……良し! ひっかかかった!


 観客が戸惑いの声を上げる中、俺は内心お祭り状態だ! 


「……おじさん、何やったの?」


「ふふふ、新技『リーマン流 霞』だ!」


 と言ってもさっき思いついたんだけどな……


 俺がやったのは、鏡状にした複数のギルドカードから反射された俺の像を透明なギルドカードに集める――するとどうだろう、透明なギルドカードの前には俺の残像が写るという力技! 


「折角だから……『乱れ霞』!」


 上手く引っかかってくれたのを見て、俺は残像の数を増やす。


 いや正直、バレ難い様に前準備する間にやられないかとドキドキしていたが、上手くかかってくれて良かった……


 これは、魔獣相手でも使えるかな……? でも、相手がスキル乱発して土煙を上げてくれたのもデカいしな。


「な? 何だ? こりゃ? お前……本当に非戦闘職か?」


 筋肉親父は、俺の残像達を見て驚愕の表情を浮かべている……さてと、そろそろ本当に決着かな?


「ちっ! マジで力を使い切る羽目になるとはな……ガァ!」


 筋肉親父はそう呟くと、大きく息を吸い込み、その後に一喝し、全身から衝撃波を放つ……げ、俺の鏡が全部割れた!


「はぁ、はぁ、はぁ……これで全部か……?」


 息も絶え絶えな筋肉親父は、残像が消え現れた本物の俺に向かってゆっくりと近づいてくる……


「お前さんは俺相手によくやったよ……お前さんとこの嬢ちゃんには、ちゃんと言っといてやるから安心しろ」


 俺は一歩また一歩と近づいて来る筋肉親父に対し、少しずつ後退る……


「退くな……負けるその時まで前に進め!」


 いやいやいや、何言ってんのこの親父! 俺は……


「負けるつもりで下がるわけないじゃねぇか! 『名刺交換』!」


 ニヤリと笑って最後のスキルを発動する。


「どうも。薬屋 椎野です。よろしくお願いします」


「……おじさん、セコイ」


「椎野さん……はぁ……」


 周りで見ている人達には丸見えなんだろうけど……


「これはこれは、どうもご丁寧に。ナキワオの街の議会議長をやっております。ジャック=サッカリーと申します。以後、よろしくお願い致し」


 ――ゴインッ!


「……ま、す」


 俺の挨拶に、筋肉親父が応え、頭を下げた瞬間、空に浮かべていたギルドカードを消す。すると、その上に乗せていた岩が落ち、筋肉親父の頭に直撃する。身体強化が切れ、スキルを使う力が尽き、疲労困憊の筋肉親父は脳震盪を起こした様で、その場に跪く……


 俺は、ゆっくりと筋肉親父に近づき、その首にギルドカードを押し当てる。


「さて、一本ありだよな? どうする? まだ続けるか?」


 頼む、これで負けって言ってくれ! いや、何この人? さっきから首の薄皮一枚くらい切れればと思ってカード当ててんのに、全然傷一つ付かないし!


 俺は、バレない様に『ポーカーフェイス』を発動させ、不敵な雰囲気を演出する。


 筋肉親父はまだ脳震盪が治らない様で「いや……俺の負けだ」と言ってくれた。


 さてと、もう一仕事だ!


 俺は、今の勝負をどう受け止めるべきか迷っている子供達の前に立ち、声を張り上げる。


「いいかい皆! 今のは確かに俺が勝った! しかし、それは相手が俺が非戦闘職だからと油断し、手加減してくれたからだ!」


 俺は子供達の顔を見ながら話を続ける。


「皆も、この先成人したら色んなジョブを獲得するだろう……だから、覚えておいてくれ! 非戦闘職でも頑張って勉強して、知恵を巡らせれば、相手が戦闘職でも勝機を見出す事が出来ると! そして、戦闘職でも油断してしまえば非戦闘職にも負ける事があるんだと! 『油断は死に繋がる』……覚えておいてくれ。そして、どんなジョブになっても大丈夫な様にしっかりと勉強するんだよ? 後は、皆仲良くな?」


 演説を終えた俺は皆の反応を見る。悠莉ちゃん、愛里さん、ダリーさん、ミッチー、サッチーの俺を見る白い目が痛い。羽衣ちゃんとタテはキラキラした目で俺を見てくる……よし、二人の期待には応えられた様だな。そして、羽衣ちゃんと喧嘩していた男の子は、目に涙を浮かべながらこちらに歩いてくる……


「おっさん……親父は……強かった?」


 男の子は、そう聞いてくる。確かに、目の前で自分の親父をあんな負け方させられたら、悔しいし、悲しいよな……


「あぁ、強かったよ。油断してくれてなければ、俺の方が負けてたよ……」


「そっか……うん、分かった」


 それだけ言うと、男の子は父親の元に駆けつける。そして、何かを親父さんに呟くと次は羽衣ちゃんの所に行き「疑ってゴメン」と言っていた。


「アンタ……クスリヤだったか? すまねぇな、つい、息子にカッコイイとこ見せたくてよ……」


 筋肉親父――男の子の親父さんは俺の元に来てそう言った。


「俺も、羽衣ちゃんにイイとこ見せたかったからお相子だよ。悪かったな」


 俺も少し照れながら、そう返す。


「ジャック……俺は、ジャック=サッカリーだ。あっちは息子のケイシー=サッカリーだ、このナキワオの街の議会議長をやらせて貰っている。改めて、親子共々よろしくな! おやっさん!」


「はぁ、アンタの方が年上だろうに……」


 こうして俺とジャックは硬い握手を交わし、パパ友になった。


 この件で俺は子供達からも「おやっさん」と呼ばれることになったが、まぁ、それはもう諦めよう……


 因みにその後、悠莉ちゃんとタテ、それと、ケイシーは同級生の中でも特に仲良くなったらしく、ケイシーは俺達の家や、騎士団の訓練所に良く顔を出すようになった。

我ながら、この流派と技名はないと思います……いつか改名するかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ