グリマー湖の人
続きです、よろしくお願いします。
俺達は街に戻ると、グリマー湖で起こった事の一部始終を動画を見せながら説明した。
「これは……変異種誕生のメカニズム解明に役立つだろう」
「えぇ、今まで変異種の誕生に立ち会って生還した人はいませんし、何より映像を持ち帰ったという事実は大きいです!」
どうやら、今まで変異種を倒した事のある人はいても、誕生に立ち会って生還した人はいないらしく、結構な手柄となる様だった。
動画は、そのままこちらの世界での映像記録装置に転載される事になった。(そう言うスキルを持つ人がいるらしい)
俺達の功績は早速、王都まで通達されるらしく、近いうちに本当に王都の研究機関に行って貰う事になりそうだとは、ブロッドスキーさんの弁だ。
『まさか、先輩ホントに討伐しちゃうとは……捕まえられなかったんですか?』
現在、俺は後輩に依頼達成の報告をしている。
「お前、アレに追いかけられて同じ事言えるか? 後で動画送ってやるから覚悟しろ!」
どうやら、後輩としては魔獣をライブで見たかったらしく、ブーブーと文句を言われた。
「ホント、そっち帰った時覚えてろよ?」
『…………ふふふっ! えぇ、覚えておきますよ♪』
そして、疲れてるからと通信を終了し、動画を送っておいた。
「おーじーちゃーん!」
「おわっぷ! おー、羽衣ちゃーん、『じ』の後伸ばすと、大爺ちゃんみたいで、俺がへこむから止めようなー? ……ホントに頼むなー?」
家に戻ると、羽衣ちゃんがダイビングしてそのまま、座席に飛びついて来た。羽衣ちゃんは、俺達が依頼に出ている間、タテと遊んだりしていたらしいが、やはり俺達がいないのが寂しかったらしい。
「父上ー!」
「ぐわっぷ!」
俺が羽衣ちゃんに「ごめんごめん」と謝っていると、今度はタテが俺の腹めがけて突撃してきた。
「え? なに? 父上? 何で」
タテによると、どうにも自分の主人は『姫』であり、俺の事は主人とは思えなかったとの事。それを羽衣ちゃんに話したところ、羽衣ちゃんが「じゃぁ、パパだよ!」と教えてくれたらしい。父親という所はシックリ来たらしいが、「パパ」と言うのは何か違うらしく、結局「父上」になったとの事……
「母さん……俺、嫁さんの前に息子が出来ました……」
俺が密かに、ショックを受けていると、タテは愛里さん、悠莉ちゃん、ハオカに囲まれ、「じゃあ、お母さんは誰?」と言う質問を受けていた。久しぶりの和む話題に、皆ニコニコ喰いついてタテに迫っている……
結局、タテはその後羽衣ちゃんを連れてどこかに逃げてしまった。
俺は、現在サッチーとダリーさんと共に、お互いの動向を報告し合っていた。
「すまねぇ、ツチノっち……まさか、そんな事になってたなんて」
「いや、流石にこれはしょうがないだろ? 確かにサッチーがいればなとも思ったけどさ……それより、サッチーの方は何か変わった事はなかったか?」
俺がそう問いかけると、サッチーは一変、明るい表情を作り、俺達が留守の間にあった事を話してくれた。
どうやら、羽衣ちゃんとタテの入学手続きは滞りなく完了したらしく、来月から登校開始らしい。二人は手続きの時に会った他の入学希望の子供達と早速仲良くなったらしく、その様子が大層微笑ましかったと、ダリーさんが涎を垂らしながら語ってくれた。
次の日、俺はいつも通り、後輩に定期連絡を行っていた。
『……先輩、あの動画、社内で波乱を呼んでいます』
「だろ? 俺達がどんだけ危険な目にあったか、お前もこれでようやく……」
『いえ、言い難いんですが、その……非常に出来のいいパニック映画として売れないかと皆で大騒ぎです』
「俺達の命を掛けた戦いをパニック映画って……」
後輩の話によると、俺達がグリマー湖に着いた後の、林を慎重に進む様子や、ジッとウーパー達の共食いを撮影していた時の様子、そして、ウパ男に追われるまでの様子がドキュメント風パニック映画みたいだ、と言う誰か――恐らく後輩――の意見によって、社長が「あ、じゃあ売っちゃう?」となってしまった様だ。
『先輩が、先輩が悪いんですよ! 先輩が「じゃあ、ドラゴンでも探してきましょうか?」なんて言うから! 社長がすっかりその気になってしまったんでしょ? ボクがビデオ見せた後、何て言ったと思います? 「えー、ドラゴン探すって話じゃないの? サラマンダー? ああ、ウーパールーパー? ……ハッ」ですよ? ボクまで鼻で笑われたじゃないですか!』
「いや、だって、俺だって、場を和まそうと冗談言っただけで、まさか本気にするとは……いや、ホント良かれと……良かれと思ったんだよー!」
会社員が二人して、膝を折りその場で嗚咽を漏らす光景を見かねた愛里さんが、黙って通話を終了させる……
「えっと……頑張ってください、椎野さん!」
因みに、会社に提出した動画は、編集を行った上で短編ドキュメント風パニック映画『グリマー湖の人』として、本当にネットで販売したらしく結構な売上をたたき出したそうだ……ねぇ、俺達の取り分は?
そして、『この映画を足掛かりにして、政府と一緒に、徐々にそちらの世界の事を浸透させつつ、機会が訪れたら、公表を行うつもりです』と、後輩が教えてくれた。
「……俺達に取り分無いの?」
我慢できなくて聞いてみた。
『もちろん、愛里さんと悠莉さんと三知さんには、こちらで売上の一部を報酬としてご家族の口座に振り込ませて頂きましたので、後でご確認ください。先輩に関しては、業務ですから……』
「え? ねぇ? じゃあ、ハオカの分は?」
『ハオカさんは、扱いに困っていまして……地球の方ではないですし……』
「じゃあ、俺の口座に入れてよ。俺の家族みたいなもんだし!」
『……じゃあ、派遣社員として登録しましょうか?』
「え? いいの? じゃあ、それで!」
こうして、俺の口座には月々、俺の給金とハオカのバイト代が入る様になった。その事をハオカにも伝えると「旦那さんの覇権社員どすか? ええどすなぁ、ありがたく務めさせて頂きますえ?」と、あっさりと了承を得た。やった、これで俺の貯金が増える!
『あ、因みにハオカさんのお給料は、当面の間、支社長の先輩の口座から引き落とすって事になりました』
そっかそっか。じゃあ、今回の出張成果……あれ? 俺だけマイナスな気分なんだけど、何で?
通信終了後、首を傾げる俺を置いて話は進む、どうやら今日はこれから、羽衣ちゃんの保護者として学校に改めて挨拶に行くとの事だった。一応、手続き関連はサッチーとダリーが行ってくれたが、実際の保護者は、俺の名前で登録したらしく、流石に保護者が顔を見せないのも不味いだろう、と言う事らしい。
「保護者ってか父親役って俺だけでいいのか? 一応、皆顔見せといた方が良いんじゃないか? ほら、地球の幼稚園とかだと代理のお迎えは先に顔見せしとくとかあるんじゃないのか?」
俺の疑問は、「そう言えば……」と言う感じで皆にも承認される事となり、結局、皆で挨拶に行く事となった。
道中、悠莉ちゃんが筋肉痛で動きづらそうだったので、「おんぶしてやろうか?」と言ったら、珍しく素直に「お願い」と言って来た。
「悠莉ちゃん……そんな辛いなら、羽衣ちゃん達と一緒に留守番してたら?」
「イ・ヤ! 何で、あたしだけ除け者みたいな気分を味合わなきゃいけないのよ? 羽衣はあたしにとっても、む、娘みたいなもんなんだから! 絶対行くわよ! ッ痛!」
正直重、いやそんなに筋肉痛が痛いなら休んでりゃいいのに、と考えながら悠莉ちゃんをおんぶする。
「そうよね……羽衣ちゃんは私達にとっても娘みたいなものですからねー? 悠莉ちゃん?」
「そうどすなぁ。悠莉はん、お姫ちゃんは皆の娘どすからね?」
「む、娘……? 羽衣ちゃんが? うぇへへへ、サチと羽衣ちゃんに挟まれた新生活……」
何、この親権争い……皆距離が縮まったかと思ったら、若干冷戦っぽくなってんだけど? あと、一人何か見てて不安になる人がいるんだけど!
俺を含めた男性陣は、びくびくしながら道を歩く……すれ違う人達も、皆「ヒィッ」と声を上げて目を逸らす。
道中こそ不穏な空気を孕んでいた俺達だが、いざ学校に到着し挨拶を済ませると、その空気は一変して和んでいた。
それというのも、学校では恐らく在校生であろう子供達が元気に遊び回っておりその空気に充てられたからだろう。
「羽衣ちゃんもタテも、一杯友達が出来ると良いな……」
「椎野さん……ええ、そうですね」
これで羽衣ちゃんも寂しさが薄れるかな? そう願いながら、俺達は学校を後にした。




