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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第二章:出張開始
22/204

拳の約束(マニフェスト)

続きです、よろしくお願いします。

「キィヤァァァァ!」


 ウーパールーパー男は、甲高い叫び声を上げながら、俺達に襲い掛かってくる。そして、馬車の前まで回り込むと、その腕を剣の様に変化させ、馬を斬り付ける。お蔭で、馬車がバランスを崩し、横転するが、咄嗟にハオカが俺と悠莉ちゃんを、ミッチーが愛里さんを抱えて馬車から飛び出し、巻き込まれるのを回避する。


「何! 何なの? あのラッコ男もそうだけど、変異種って皆こんなのばっかなの?」


「いや、自分たちも、変異種自体、あのラッコ男しか見た事無いッスから……」


「キィヤァァァァ!」


 俺とミッチーのやり取りを無視して、ウパ男が斬りつけてくる。俺はそれを、ギルドカードの壁を俺達の前に斜めに作り上げて逸らす。ヒイッ! アレ元は腕だよね! 何で火花出してんだよ!


「くそっ! 愛里さん! 強化よろしく! ハオカ、ミッチー、フォーメーションだ! 行くぞ!」


「「ハイ!」」


 俺の合図に二人は頷く。愛里さんは、俺達に身体能力強化のスキルをかけてくれる。俺はそれを確認すると、ギルドカードの弾力性を上げてウパ男の周囲に展開する。


「オッケーだ! 行け!」


 俺がそう言った瞬間、ハオカがウパ男をバチで殴りつけ、ウパ男が怯んだ隙に、ミッチーが斬りつける……そして、二人はそのまま勢いを殺さず、自分たちの目の前のギルドカードを蹴りつけ、反転する……そして、それを繰り返し、徐々にスピードを上げ攻撃を加える方向を増やし、縦横無尽に殴り、斬りつける。


 これが、俺達がここ数日訓練してきた、俺の武器(ギルドカード)を利用した『フォーメーション』だ。


「もしかして、これ結構いける?」


 俺が勝機か? なんて考えていると、ミッチーとハオカが少し息を切らして、こちらに戻ってくる。


「どうした?」


「旦那さん……あれ、いっこも手ごたえがあらしまへん。殴った感触がえらいやらかいどす」


「斬ってもすぐ再生するみたいっスね……」


 俺達の目の前では、斬られて左腕を無くし、殴られて首が後ろを向いているウパ男がいた……


 直後、ウパ男はその身体を震わすと、左腕から新しい腕を生やし、そのまま両手を使って後ろを向いていた首を元の位置に戻した。


「――っ! 不死身かよ……」


「流石に、塵一つ残さんければ大丈夫と思うてけど……」


 ウパ男は身体を元に戻すと、暫くぼうっと立ち尽くしていた。


「椎野さん……もしかして、まだ変異したてで上手く身体を動かせないんじゃないですか?」


 倒すなら、今のうちか? と思って、皆に意見を求めると先ほどからずっと震えていた悠莉ちゃんがついに、口を開いた。


「いや、だめ、あたし、爬虫類とか、両生類とかダメなの……あのヌメッとした感じがもうムリ! 生理的にムリ!」


 それで、ずっと震えていたのか……まあ、仕方ないっちゃ仕方ないけど。


 俺達は取り敢えず、恐怖で動けない悠莉ちゃんと、回復・後衛役の愛里さんを後ろに下がらせ、ウパ男と相対する。


 再度フォーメーションを仕掛けるが、何度斬りつけても殴りつけても回復してくる。幸いその度に、回復に集中するためか、ぼうっとしているため、俺達は時間を稼ぎながら作戦を練る。


「ああ、サッチー連れてくりゃ良かった! あれ、物理攻撃じゃ無理じゃん! ……あっ」


 自分で行ってて気づいた、ハオカとの連携ならいけるか?


「ハオカッ!」


「はいなっ! 『大太鼓』!」


 ギルドカードをウパ男の周囲に展開し、阿吽の呼吸でハオカが朱雷を放つ。そして、ギルドカードの結界の内部を朱雷が包み始めたその時、ウパ男が信じがたい行動に出た……


「っひぃ! やっぱ、両生類とか無理!」


 ウパ男は自ら、その首を切り落とし、空中に放り投げた。そして、俺とハオカの連携は見事に、ウパ男の身体を消し飛ばしたが、直後に、放り投げた首から新しい身体が生えてきた。


 まさか、あそこで、自分の身体を捨てるとか……流石にあの攻撃は不味いって事か? いや、頭を飛ばしたって事は、頭を消されると流石に死ぬって事なのか? と言うか、瞬時に再生した? 再生に慣れたのか? それとも、本当にやばい時は再生速度が上がるのか? くそっ! 落ち着け、俺!


 俺が今起きた現象について、考えを巡らしていると。ウパ男は、地面に着地し、そのままハオカを蹴り飛ばし、次に腕の剣を振るい、それを剣で受け止めたミッチーを鍔迫り合いの末に吹き飛ばしていた。そしてそのまま、俺達の目の前まで迫って来ていた。


「やべ! 考えすぎた!」


 俺は咄嗟に、大蜘蛛戦で使った透明な壁を目の前に展開する。


 ――ゴインッ!


 衝撃と共に、壁が砕け間近にいた俺と、壁にぶつかったウパ男が同時に吹っ飛ぶ。


「……椎野さん、アレ好きですよね。まあ、有効だから良いんでしょうけど……」


 吹っ飛ばされた先にいた愛里さんが白い目で俺を見てくる。ま、効くと分かったら、使わずにはいられないから当たってるんだけどね!


 俺は、透明な壁を俺達とウパ男の間に多数展開する。


 ウパ男は暫く、その場に立ち尽くしていたが、やがて耳の辺りのエラをピクピク動かすと、そのまま的確に俺の壁を避けながらこっちに向かって来た!


「嘘だろ!」


 あっという間に俺達との距離を詰めたウパ男は、その剣を振りかざし、今度は悠莉ちゃんを斬りつけようとする。


 悠莉ちゃんは、まだ震えたまま動けないでいる……


 俺が手を伸ばして、悠莉ちゃんを守ろうとすると、愛里さんがそれより早く悠莉ちゃんを突き飛ばしていた。


「姐御! 悠莉ちゃん!」


 ウパ男はそれでも二人を斬りつけようとするが、ギリギリの所でミッチーが駆けつけウパ男を衝撃波で吹き飛ばす。


「痛っ! 悠莉ちゃん! 大丈夫?」


「えっ? あ、愛姉……あ、あ、血が!」


 悠莉ちゃんを庇った愛里さんは、その腕を斬り付けられ血を流していた。愛里さんは「……大丈夫」と言って、スキルで自分の傷を治すと悠莉ちゃんの頭を撫でていた。その間、悠莉ちゃんはずっと唇を噛みしめ、涙を浮かべていた。


「……ジリ貧だな、こりゃ」


 段々とウパ男の知能が上がってる気がする、頭さえ吹き飛ばせば何とかなるかもしれんが。


 合流したハオカやミッチー達を交えて俺の見解を伝えると、ずっと俯いていた悠莉ちゃんが、キッと涙を拭い、俺の顔をしっかりと見据えて言った。


「愛姉、おじさん、フォーメーション準備お願い……」


「フォーメーション? 愛里さんとって事は、強化スキルか回復スキルのフォーメーションだけど、どれだ?」


「……当然、ありったけの超強化のやつでお願い!」


「でも悠莉ちゃん、悪いけどそれでもアレに効くとは……とても思えないよ?」


「うん、だから愛姉……準備が終わったらおじさんと、ミッチーの目隠しヨロシク!」


 そう言うと、悠莉ちゃんは愛里さんに何か耳打ちをする。


「っ! まさか、悠莉ちゃん!」


「うん、そのまさか……正直なとこ、今まで恥ずかしくて練習もしてないスキルだけど……今、あたしに考えられる手段ってこれしかないんだよね……」


 愛里さんが驚愕の表情で悠莉ちゃんを見る。俺とミッチーは、わけが分からずオロオロしているだけだ。


「うん、だから……お願い。力を貸して!」


 悠莉ちゃんの悲痛な叫びに、愛里さんは唇をキュッと結び、俺に向き直る。


「椎野さん、今、ギルドカードは何枚出せますか?」


「……後の事を考えないなら、千枚だっていけるぜ?」


 恐らく、悠莉ちゃんは命を掛ける覚悟なんだろう……なら、俺だって、その位踏ん張ってみないとな。


 俺がそう言うと、愛里さんは「その全てに、強化スキルを飛ばしますので、強化フォーメーション『極』でお願いします」とだけ、言った。


「分かった、なら奴の足止めは……」


「うちとミッチーはんで引き受けまひょ」


 ハオカがミッチーと足止めを引き受けようとすると、愛里さんがハオカを呼び止める。どうしたのかと俺が尋ねると、愛里さんはハオカと何やら内緒話をする。すると、ハオカは愛里さんの言葉に「了解どす」と答えた……


「じゃあ、打ち合わせ通りお願いね?」


 そう言うと、悠莉ちゃんは目を瞑り、身体能力強化のスキルの準備に入る。それを合図に、ハオカがウパ男に向かって朱雷を放ち、ミッチーが斬りつけ、足止めをする。


 俺は、その場からウパ男に向かって続く、ギルドカードのアーチを作り上げる、その数凡そ百、一つのアーチに大体十枚を使用している。愛里さんがそのアーチ入口の一枚に全力の強化スキルを放つとスキルの光をギルドカードが反射する――


 反射し続ける光は、アーチの出口付近まで伝わると、そのまま今度は入口方向に向かって光を反射する……やがて、アーチの一つ一つが、エメラルドグリーンの膜を張ったような状態となり、俺と愛里さんの強化フォーメーションは完了した。


「よし、準備完了! 後は、このアーチを一つ潜るごとに身体能力が強化される訳だが……悠莉ちゃん、後に控える全身筋肉痛は覚悟しておけよ?」


「そのぐらい、覚悟してるわよ……おじさん、アーチの角度上げてくれる? 上からの重力も乗せたいの」


「……了解」


 体重と言わず、重力と言う辺りは乙女心か……そう思いながら俺は、アーチを四十五度位の角度まで上げる。


「ハオカ! ミッチー! そろそろいくよ!」


「了解しました。悠莉はん、よろしゅうお願いしますえ?」


 ハオカはそう言うと、一際大きな朱雷でウパ男を痺れさせる。


 そして、ミッチーと共に、こちらに戻って来たかと思うと、いきなりミッチーに電撃を放ち気絶させる。


「っ! ハオカ? 何やってんの?」


 俺の疑問もそのままに、ハオカは今度は俺を背中から踏み倒すと、そのまま俺の上に乗っかりその手で俺の目を塞ぐ。……えっ、これ何固め(ひゃっほう)


「流石に今、旦那さんを気絶させる訳にはいきまへんから……暫くしんぼしておくれやすね?」


「えっ? 何、何なの?」


 俺が騒ぐ中、悠莉ちゃんの「よしっ!」と言う言葉が聞こえたかと思うと、ガチャガチャと音がする。


「愛姉、預かってて?」


 そして、次にシュルシュルっと衣擦れの音が聞こえてくる……


「ふぅーっ! 『銅龍の系譜』!」


 悠莉ちゃんがそう叫ぶと同時、ハオカの手越しにピンクゴールドの輝きが俺の目に差し込んでくる。その光に見惚れたのか、ハオカの手の拘束が甘くなった。


 そして、ハオカの指の隙間から俺の目に写ったのは、ナックルガードもレッグガードも防具も衣服も脱ぎ、下着姿になって、ピンクゴールドの光を放つ悠莉ちゃんだった。


 悠莉ちゃんの肉体を覆う光は、やがて薄いピンクの羽衣を纏ったような形となった。そして、その状態になった悠莉ちゃんは、地面を蹴って空に舞い上がる……


 悠莉ちゃんはそのまま空中で反転し、飛び蹴りの姿勢を取ると一言だけ、「……『ミーティア・ストライク』」とスキル名を呟く。


 その瞬間、悠莉ちゃんの背中の羽衣が一際強く輝きピンクゴールドの粒子を放出し、その粒子に押されるかの様に、飛び蹴り姿勢の悠莉ちゃんは、アーチの輪を潜ってウパ男に向かい始めた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ウーパールーパー男に突撃するアーチの中、悠莉は自らの思いをぶちまけていた。


「あたしはずっと、おじさんに、愛姉に、護られ続けてた! ラッコ男に追いかけられた時は、おじさんに逃がして貰った! 蜘蛛の時は、愛姉に励まされて、またおじさんに助けて貰った! そして、おじさんのお蔭で、ママともパパとも、画面越しだけどもう一度会うことが出来た! だけど……もう、護られてばかりはイヤ! ちゃんと、皆を護って! それで……それでおじさんの隣に立てる様になるんだ! 子ども扱いを卒業するんだ! その為にも! 好き嫌いは無くすんだっ! さっさと消えろー!」


 アーチを潜る度に悠莉を包む光の輝きは増していく。アーチを潜り終えたと同時にウーパールーパー男の束縛が解けるが、既に時遅く、悠莉のスキルが直撃する。


「キィエィャァィィィィ!」


 ウーパールーパー男の叫びが響くのと同時、凄まじい轟音と爆風とも言うべき衝撃波が発生する。土煙が舞い上がり、その場にいる者の視界は一切が奪われた。


 発生した衝撃波によって、椎野達もなすすべもなく吹き飛ばされてしまった……


 ――数分後


 クレータになったスキルの爆心地――その中心で愛里は倒れている悠莉を見つける。


「悠莉ちゃん!」


 悠莉は、外傷こそなく、意識はあるもののその場から動けずにいた。


「あ、い、ねぇ」


「あぁ、良かった……悠莉ちゃん」


 悠莉は、愛里の姿を見ると、ホッとした様に微笑む。


「もうっ! 頑張り過ぎよ……」


「ご、めん、こん、な、に、威、力ある、とか、おもって、なかった……」


 悠莉は、気まずそうに目を逸らしながらそう言うと、続けて……


「で、も、これ、で、おじ、さ、んに、お返、し、出、来、たか、な……?」


「うん……十分だと思うよ?」


「なら、次、は、ちゃん、と、大人、扱い……して、貰う、んだ!」


 悠莉はそう言うと、プルプル身体を震わせながらも、その拳を天に突き刺し……


「魅て、ろ、よ! お、じさ、ん……」


 そう誓うと、その意識を手放した……


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あの後、悠莉ちゃんが気絶してしまったため、二時間ほどその場で休憩を取り、悠莉ちゃんの目が覚めるのを待っていた。


 悠莉ちゃんが最後に使ったスキルの威力は凄まじく、爆弾でも落としたかのようなクレータが出来上がっていた。そして、目が覚めた悠莉ちゃんは、俺が忠告していた様に酷い全身筋肉痛に襲われていた。


 愛里さんによると、筋肉痛は最低でも三日は続くらしく、悠莉ちゃんは「ここまでとか聞いてない!」と涙ながらに語っていた――

……平成式〇イダーキック、結構好きです。

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