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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第二章:出張開始
21/204

キラー・ネオテニー

続きです、よろしくお願いします。

 冒険者と騎士団の訓練が終了した次の日、俺達は携帯の前に揃って並び、後輩と通話していた。


『先輩、会議の結果、この『グリマー湖の異変調査』の依頼を受けてはどうだろうと言う事になりました』


 後輩の提案に、手元の依頼詳細を確認する――


『一応、読み上げますね。『グリマー湖の生物に変化の兆しあり、ジーウの森の件もあるため、至急調査の必要あり』ってやつです』


「え、それ結構怖いんだけど……」


「一応、騎士団の方でもすぐ動けるように準備はしていますが……」


『別に、魔獣を倒せと言ってるわけじゃないですよ。良いですか、先輩? あくまでも『調査』です』


「つまり?」


『……ここからは、社長からメッセージを預かってますので、今からメールで送ります』


 ……この感じ、嫌な予感がする。


 すると、即座に後輩からメールが送られてくる。件名は『調査作戦』……動画?


「取り敢えず、再生してみませんか?」


 愛里さんの言葉に仕方なく従う……


『ザザッ――おはよう薬屋君。……今回の君への社命だが……えっと、何だっけ? あぁ、グリマー湖? の生態調査に出向いて貰いたい。可能ならば、魔獣と呼ばれる生物の確保、最低限、そちらの生物などの動画は撮って来る様に……任務の失敗によって、君が死亡したらごめんなさい。なおこのメッセージは自動的には消滅しないので、そちらで消しといて下さい。以上、成功を祈る』


 再生した動画では、何か、黒いカーテン? を被った社長? らしき人物が、所々誰かと話しながら俺宛てのメッセージを伝えてくる。これ、別に後輩から伝えて貰っても良かったんじゃねえの?


 俺達が、微妙な空気を味わっていると、動画にまだ続きがあるらしく、再生が終了していない。


『ねぇねぇ、どうだった? 黒幕っぽかった? いやあ、一回こう言うのやってみたかったんだよねー』


『っ! 社長! まだ回ってます!』


『えぇ! ちょっと、そこ後で消しといてよー? じゃあ、私はもう行くよ? ――ブッ』


 そこで、動画は終了した。俺達の間の微妙な空気が、俺に対する憐憫に代わるのが分かる……って言うか、撮影スタッフが後輩な時点であいつもグルじゃねーか!


 俺は、すぐさま後輩に電話を掛けるが、何回コールしても通話中で出やしねぇ……くそっ、逃げやがった。


「どうするんですか? 椎野さん」


「タテは羽衣の護衛があるから、同行するのはハオカさんだけッスよね。流石にそれは心配なんで、自分もついて行くッス!」


「あ、あたしも今、丁度受けてる依頼無いからついて行くわよ?」


 皆はもう俺が依頼を受ける前提で話しを進めている……どうしよう、今更怖いからイヤ! とか言えない。


「そ、そうだな、サッチーはどうするんだ?」


「ゴメン、オレ今日はダリーとデートでさ……」


 さよなら、サッチー! お前の事は(覚えていろ!)忘れない(この野郎!)……


「取り敢えず、行ってみるか……魔獣討伐じゃないみたいだし、グリマー湖の生態っというか、生き物の映像を撮ればいいだろう」


「でも、おじさんの会社もなんで、そんなの欲しがるんだろうね?」


 悠莉ちゃんが、話に飽きて眠ってしまった羽衣ちゃんを膝枕しながら聞いてくる。


「んー、多分だけど輸入して、動物園に卸すとか考えてるんじゃないか?」


「え、魔獣をですか?」


「いや、魔獣だけじゃなくて、地球で見かけないような動植物があれば、他の企業より先に確保しときたいんだろうな……この先、地球に帰還する時にその辺のサンプルとか、生態が把握できてれば、ちょっとした儲け話になるって考えてんじゃないか?」


「なんつうか……ゴーカイな社長さんっすね……」


「ま、何もしないでいざ帰還ってなった時に慌てるよりかは良いんじゃないか?」


 その後、ギルドに行き依頼の受注手続きを済ませる……


「おじちゃん、いつ帰ってくるの?」


「一応、今日の夜か、明日の朝で切り上げて帰ってくるから、予定では明日中には帰ってくる予定だよ。サッチー、ダリーさん、それとタテ! 羽衣ちゃんをよろしく頼むぞ?」


「はい! 姫の事はお任せください!」


「おう! 安心して行って来いよ!」


「ついでだから、二人の入学手続きもしておきますね?」


 そうして、俺達は街から湖に向けて出発する。


 ――三時間後


 ナキワオの街から、グリマー湖までの道程は、馬車でのんびり六時間と言った所で、俺達は今、丁度街と湖の中間地点だと考えられる。


「おじさん、そろそろハオカ呼んでおいた方が良くない?」


「ん? ああ、そうだな、『オン・サラ・リー』!」


「ふぁぁ、おはようさんどす、旦那さん。あらあら……? ここはどこどすか? 馬車ん中なんは分かるんやけど……」


 俺達は道中の暇つぶしを兼ねて、ハオカに一通りの説明をした。


「そんなら、うちはいざと言うときに、旦那さんを護るために、すぐ動ける様にしてればええんどすなぁ?」


「はい、そんな感じで良いですよ」


 やがて馬車はグリマー湖に到着する。今回は、依頼に慣れている愛里さん達の指示に従う意味も込めて、俺はミッチーと悠莉ちゃんに前後を挟まれ、左右を愛里さんとハオカに挟まれると言う隊列を取っている。そして、湖とその周辺を撮影中だ。


「しかし、以外と生き物が少ないな……」


 今回の依頼は湖周辺の生態調査であったから、それなりに生き物がいる事を期待していたんだが、やけに生き物の気配が少ない……


「だから、調査依頼が出てたんじゃない?」


 なるほど、そりゃそうか。悠莉ちゃんの言うとおりだ。


「ッ! 二人共、少し静かにするッス……何か気配がするッス」


 肩透かしを喰らったような状況に、少し俺がホッとしているとミッチーが口のチャックを閉めるように、俺達を黙らせる。


「ほんまどすなぁ、どこぞでぎょうさん生きモンが動く気配がしますえ。……あっちみたいどす」


 ハオカの案内で、俺達は湖周辺に広がる林の中に入っていく。そして、その林の中を暫く歩くと、やがて、ちょっとした広間に出くわした。


「っ! なっ!」


「ウーパー、ルーパー?」


 そう、俺達の見つめる先には、白、マーブル、金色、黒色、色とりどりのウーパールーパーがいた。


 そしてそれらが、地獄絵図と言うのがピッタリと当てはまる光景を生み出していた。


 沢山のウーパールーパーらしき生き物が、只管に共食いを繰り返している……


 隣を喰らっては、その後ろに喰われる。それを延々と繰り返している。


「これは、中々キツイな……後輩に動画を渡すときには注意が必要だな……」

 

「そうですね……椎野さん、これは私の私見ですけど……湖周辺の生物が消えたのって、あれじゃないですか?」


「あたしも、そう思う……」


 確かに、あれだけの数がいれば、湖の生物くらいは喰い尽すかもしれないな……


 調査はもうこれで十分じゃないか? 俺が小声でそう言うと、皆もそれに賛成らしく、ゆっくりと頷いた。


「っ! おやっさん……どうやら、あの地獄が終わりそうっス」


 ミッチーが示す方向を見ると、先ほどまでうじゃうじゃといたウーパールーパー達が、今は二匹になっていた。


 片方は黒色で黒目、もう片方は白色で目の赤い、所謂アルビノ種という奴だった。二匹はその口を開けお互いを威嚇していたが、黒い方が突進すると、それに反応したアルビノが黒の速度を超えた速度でその横に回り込む。そして、アルビノが黒を飲み込む……俺達が暫く様子を見ていると、やがてアルビノの身体が小刻みに震えだす。


「旦那さん……今すぐにここを離れまひょ? あれは、非常に危ないどす」


 直後、アルビノウーパーの身体表面がボコボコと崩れ始める。


 確かに、これは危なそうだと感じ、俺達はその場を離れようとするが、その時だった。


「キィヤァァァァ!」


 大気を震わす叫び声と共に、ウーパーが破裂する……そして、その後に残るのは、二本足で立つウーパーっぽいナニカだった。


 アルビノウーパー――ウーパー男はその赤い瞳で俺達の方を見ると、ゆっくりとこちらに向かって歩き出した。


「もしかして……変異種?」


 愛里さんが、そう呟いた次の瞬間、先ほどまで、俺達との距離が百メートルほど離れていたはずのウーパー男が愛里さんの傍に立ち、その腕を剣のように変化させ、振り上げていた……


「――っ! 愛里!」


 俺は咄嗟に前に飛び出し、愛里さんを突き飛ばした。ウーパー男は俺に構わず、その剣を振り下ろしてきたが、俺はギルドカードの壁を作り上げ、ソレを防ぐ。


「っぐぁ!」


「旦那さん!」


 ウーパー男の剣戟を防ぐことには成功したが、余りの衝撃に俺は吹き飛ばされ、その場に倒れ込んでしまった。


 やばいな……足に力が入らねえ。


 立てない俺を、後で喰えると判断したのか、ウーパー男は再び愛里さんを狙う……


「っ! 悠莉、ミッチー、足動かせ! ハオカ! ウパ男の足止め、いけるか?」


「あ、す、スンマンおやっさん!」


「お、おじさん……あたし……」


「旦那さん! 大丈夫です、いけますえ。愛里はん、旦那さんの回復を頼みますえ」


「は、はい!」


 ミッチーとハオカは、俺の言葉に気を持ち直し、ウーパー男に攻撃を仕掛ける。愛里さんは、その隙に俺の所に来て、俺の傷を回復してくれている。悠莉ちゃんは、ウーパー男にちょいちょい攻撃を仕掛けているが、どうにもキレがない。


 さて、どうやって生還しよう……コイツから感じる恐怖感、正直言ってラッコ男以来だ。


「ごめん、愛里さん。今回は俺、本当に役に立ちそうにない……」


「そんな事は良いですから! じっとしていて下さい」


 どうするか……どうやって逃げるか……


 俺はそんな事を考えながら、ハオカ、ミッチー、ウパ男の戦闘を見ていた……ああ、だいぶ楽になって来た。


「やばいな、コイツ強い……」


「ミッチーはん、うちが一瞬だけ、コイツを痺れさせますから、そん隙にあいやを斬っておくれやす!」


 そう言うと、ハオカはバチを手に取り、目の前の空間ごとウーパー男に叩き付ける。その瞬間、辺り一面が朱い光に包まれる。


 ウーパー男は、ハオカの朱雷にやられ、身体を動かせないでいる様だった。


 そして、ミッチーはその隙を逃さず、ウーパー男の足を斬る。ウーパー男はそのまま地面に転がり、モゾモゾと蠢いている。


「よし! 今のうちに逃げるぞ!」


 俺の合図で、愛里さんは皆に肉体強化のスキルを掛ける。


 そして、俺達がその場を数十メートル離れたその時だった。


「マジっすか……」


 ミッチーの呟きに工法を振りむくと、先ほど両足を斬られた筈のウーパー男の足が、新しく生えてきている……


 ウーパー男は、斬られた自分の足をそのまま拾い上げ、自分で喰ってしまった。


「ひっ!」


 悠莉ちゃんは、先ほどから異常なまでにウーパー男を怖がっている……やはり、ラッコ男を思い出しているのだろうか。


「取り敢えず、ミッチー。あいつ吹っ飛ばせるか?」


「……やってみるっス」


 それだけ言うと、ミッチーは近づいて来たウーパー男に向かって、剣から衝撃波を出す……ウーパー男は無表情ではあるが、その衝撃波にはビックリしたのか、耳の当たりのエラをピクピク震わせていた。


「よし、皆! 逃げるぞ!」


 ウーパー男が遠くに吹っ飛ばされるのを確認すると、俺達はその場を離れ、急いで馬車に乗り込む……


 そして、馬車を飛ばし、五分ほど経っただろうか……後方からウーパー男が四つん這いになって、俺達を追って来た。


 そして、いよいよ数メートルの距離まで迫ると。


「キィヤァァァァ!」


 と叫びながら、飛び掛かって来た――

※キラー珍獣シリーズ、第二弾です。

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