サラリーマンは踊らない
続きです。よろしくお願いします。
『先輩、業務連絡です。社長から「仕事しろ」と伝言を預かってます』
朝の定時連絡を繋げると、後輩がそんな事を言って来た。
あれから、無事皆の家族と連絡を取り付けることが出来た俺は、後輩と定期的に連絡を取りつつ、騎士団の事務仕事をこなす日々を送っていた。
そして、ハオカとタテの事だが彼女たちを呼び出すのはかなり消耗が激しいが、一回呼び出せば、その日一日位は顕現した状態を保てる様だったので、朝一で呼び出してタテは羽衣ちゃんの遊び相手に、ハオカは俺の秘書の様に、事務仕事を手伝ってもらっている。
愛里さん達と一緒に狩りに行ってはどうかと思ったが、どうやら俺達を守護するのが存在理由であるために、ハオカは俺から、タテは羽衣ちゃんから、百メートル以上離れることが出来ず、それ以上離れるとその場から煙の様に消え、再び俺が呼び出さなきゃいけないとの事だった。
それはさておき、仕事……?
「仕事って、俺こうしてちゃんと仕事してんじゃねぇか」
『それは、そちらの騎士団の仕事でしょう? ボクが言ってるのは、うちの会社の仕事の事ですよ!』
「えー、だって、携帯で何とかなる仕事ならこの間片付けたじゃねえか! もしかして、追加?」
何て、会社だ……半ば遭難に近いこの状況で仕事振って来るとか、鬼だろ……
『いえいえ、そうではなくて、そちらの世界……名前なんでしたっけ? ああ、そうだ、『ヘームストラ王国支社』としてのお仕事ですよ』
え、あれ俺に給料払うための方便じゃないのかよ! 俺がそんな事を言うと。
『あっはっは……はぁ……あの社長がそんな粋な計らいするわけないじゃないですか……』
……デスヨネー。うん、ちょっと、予想はしてた。
「んで? 俺は何すればいいの?」
社長からの酷使には俺も慣れたもので、気持ちを切り替えて本題に移る。
『まずは、そちらの世界の調査ですね。例のギルドですか? そこで出される依頼の傾向とかです。後は、機会があれば、そちらの国の代表者と渡りがつけられれば文句なしです』
「つまり……こっちの世界での資源エネルギーとか地球で売れそうなモノの調査と、逆にこっちの世界で需要がありそうなモノの調査って事で良いのか? あぁ、国の代表者ってのとは、もしかしたら接触できるかもしれないぞ、俺達の件は連絡いってる筈だからな」
『……流石先輩、暫く休んでも社長とはツーカーですね』
「はっはっは……何ならドラゴンでも探してきましょうか、とでも言っておけ!」
冗談だけどな……
『まぁ、その辺の判断は任せます。取り敢えず、チーム組んでそっちのサポートしますんで、ギルドの依頼リスト作って送ってくださいね』
「あい、了ー解」
『あ! それと、追加でそちらの世界の『スキル』と呼ばれている技術に関しても調査して下さい』
「何? 地球で使う方法でも探す気かねぇ……」
あの社長ならやりかねないな……
「そんなら旦那さん、こん後はギルドに向かわれますか?」
「そうする。ハオカ、取り敢えず書類整理がひと段落したら、羽衣ちゃん達を迎えに行ってくれ」
「へー、了解どす」
ハオカはそれから、暫くすると詰所を出て行った。そして、俺が事務を切り上げて伸びをしていると。羽衣ちゃんを連れて戻って来た。
俺達は昼飯を食べると、そのままギルドに向かった。
「「「「あ! おやっさん! お嬢! ご苦労様です!」」」」
ギルドに着くと、何か盛大に迎えられた。以前の蜘蛛の件から俺達の事は街全体に知れ渡っているらしく、どこに行っても『おやっさん』で定着してしまった。
「あら、薬屋さん、ハオカさん達も。珍しいですね。騎士団のお使いか何かですか?」
「どうも、ウピールさん、今日は、どんな依頼があるのかな、と見に来たんですよ」
「? もしかして、受けるんですか?」
「まさか! 只の好奇心ですよ」
その後、携帯電話のカメラで依頼リストの写真を撮りながら、ウピールさんや暇してる冒険者さんと雑談していた。
「へぇ……じゃぁ、そろそろ街の学校の入校受付が始まるんですか?」
話が、羽衣ちゃんの話になった時だった。冒険者の一人が、「それならうちの子と同い年じゃねぇか! 学校は行かねぇのか?」と言ったため、こちらの世界の学校の話になった。
この世界、建物は中世って感じなのに、識字率や就学率、生活水準などはそんなに地球の先進国と変わらない。
俺がその事を不思議だなと後輩に言ったら、『先輩、先輩は馬鹿ですか? 基本的に人間は楽をしたいと考える生き物です。昨日今日、そちらの人類が生まれたならともかく、地球人類と同じ位の間、そちらの人類が存在しているなら、楽な生活のために文明が発達するのは当たり前の事ですよ?』と、馬鹿にされてしまった。
まぁ、それはともかくとして……
「羽衣ちゃん、タテ、学校行きたい?」
「僕は、姫が行きたいのなら、どこまでもついて行きます」
「羽衣行ってみたい!」
「そっか、じゃあ、今日帰ったら皆に相談してみるかな……」
そんなやり取りをしてから、ギルドを後にする。取り敢えずは、皆に学費とか相談するかな。
――夜。
羽衣ちゃんとタテの入学については、皆からオッケーがでた。皆は流石に、羽衣ちゃんとタテが二人だけで遊んでいるのは淋しいかもと思っていたらしく、これを機会に街の子供達と仲良くなれたらと言ってくれた。
そして、食後にギルド依頼のリストを後輩に送信し、話は俺の会社について……
「しっかし、おじさんの会社も酷いわよね……この状況で仕事しろとか」
「私、地球に帰った後の就職活動が怖くなってきました……」
「ツチノっち、ふぁいと!」
「まぁな……うちの社長、人使い荒いから……」
『先輩、入社式の後に海外出張行かされたんでしたっけ?』
「ああ、ほぼとんぼ返りの滞在八時間だった……」
『しかも、その後三日間徹夜で仕事したんでしたっけ?』
皆のこっちを見る目が優しい……あ、やっぱり、あれ異常だったんだな。
「ま、まあその話は良いじゃないか、問題は依頼の件だよ、うん」
『ああ、そうでしたね。じゃあ、明日にでも会議にかけておきますよ。それじゃあ、皆さんお休みなさい』
そう言うと、後輩は通信を切った。
俺達はその後、こんな依頼があったとか、依頼でこんな事があったとかの話になった。
「しかし、こうして見るとやっぱり、魔獣退治の依頼って多いんだな?」
「それはそうよ。魔獣って基本的に凶暴なうえに、どの個体も厄介なスキルばっかり使ってくるんだから……」
「おまけに、生存年数で強さが変わってくるッス」
「へぇ、って事は、あの蜘蛛とかラッコ男とかがゾロゾロ出てくる可能性もあるんだ、俺にはやっぱりキツイな……」
「いや、ツチノさん……流石にあの変異種レベルは本当にここ数年間、目撃報告すら上がってないですよ」
悠莉ちゃん達が話す魔獣狩りの恐ろしさに、俺が震えていると、ダリーさんがそう言って来た。
どうやら、基本的に魔獣は本能のみで突進してくるような奴ばかりで、あのラッコ男の様に知性が垣間見えるのはダリーさんも初めて遭遇したとの事だ。
因みに、何故か羽衣ちゃんは、あのラッコ男に恐怖を抱いていない様で、以前「ラッコちゃんまた会いたいね」と言っていた。
「俺も魔獣狩り出来たら良かったんだけど……済まんね手伝えなくて」
「いえ、そんな……椎野さんはそれ以外で働き過ぎですから、丁度良いんですよ?」
「そうそう、ツチノっちのスキルのお蔭で俺達皆、家族と連絡取れたんだからさ……戦闘は俺達に任せておけって!」
サッチーは自分の胸を力強く叩きながら、俺を励ましてくれる。
そうだな、じゃあ俺は皆がもっと電話出来る様に訓練に励むか。
俺がそう決意していると、ハオカが羽衣ちゃんとタテを寝かしつけたらしくリビングにやって来た。
「あら? 旦那さんは魔獣狩りに行きたいんどすか? うちが連れて行って差し上げまひょか?」
「いや、行ってみたいとは思うけど、流石に俺を護りながらはきつくないか?」
「そないに行きたいんどしたら、言うてくれれば良かったんに。皆で行けばそこまで危なくないでしょうし、なんよりうちん力は旦那さんと相性がええどすから問題あらしまへん」
との事だった。
そこまで言うなら、一回行ってみるかと言う話になったが、流石にぶっつけ本番で、と言うのも危険なので、明日の訓練がてらに試してみることになった。
「ほな、うちは今日はこれで失礼します」
そう言うと、ハオカは皆に一礼し、その後俺の顔面を踏みつけて、その姿を消した。
「あいつ……不意打ちで俺を足蹴にしやがる……」
「「「「…………」」」」
何か、愛里さん、ミッチー、サッチー、ダリーさんの視線が凄い痛いんだけど……
――グリッ!
俺が居心地の悪さを感じていると、悠莉ちゃんが無言で俺の顔面を踏みつけてくれる……
「えっ? 何? 悠莉ちゃん?」
「んー、いや、ちょっと試してみたかったから……うん、分かった」
「えっ? えっ? 何なの?」
「ちょっと、良い気分かも……」
何か、悠莉ちゃんが恐ろしい事を言ってる気がする……そんな不穏な空気を漂わせながらもその日は、皆床についた……
――次の日
俺達は訓練所にいた。昨日のハオカの言葉が本当なら、俺も狩りについて行けるかもしれない。後輩にそう伝えると、『じゃあ、暫くは訓練に専念して下さい。こっちは、ちょっと会議が難航しそうなので、二日……いや、三日後にまた連絡ください』と言って早々に通信を終わらせてくれた。
「オン・サラ・リー!」
俺は、ハオカとタテを呼び出すと、早速昨日の話の続きを聞きたいと言った。
「簡単な事どす。うち達の攻撃スキルは旦那さんの補助によって、そん効果を高めることが出来ます。実際に試してみた方が早いでっしゃろ?」
そう言うとハオカと俺は、訓練所にある木人に相対する。
「じゃあ、いくぞ!」
事前の打ち合わせ通りに、俺はギルドカードの反射率を調整して木人の周囲に展開する……
「ほな旦那さん、行きますぇ? 『大太鼓』!」
俺がカードの結界を展開するのに合わせて、ハオカがスキルを発動する。その瞬間、乾いた音と共に、一筋の朱い光がギルドカードの一枚に当たったかと思うと、三方向に反射し、更にその先にあるカードに反射してと繰り返し、カードの結界内部は朱い光に包まれて見えなくなってしまった。
「うわぁ……」
朱い光が消えた後には、塵一つ残っていなかった……
「これ、どうなったの? 木人の燃えカスも残ってないんだけど?」
「……さあ? うちも攻撃に使えるんは感覚的に分かるんやけど、仕組みとかはよう知りまへん」
……どうやら、本能で動いている様だ。
うわっ、よく見たら木人周辺の地面にガラスが出来上がってんだけど……何これ! 怖い……
「ま、まあ、ともかく、おやっさんも狩りに行けそうじゃないっすか! 良かったスね」
「……うーん、ギルドカード闘法? 何か違うな」
先ほどから、サッチーが一人ブツブツ言ってる。何かと思って聞いてみれば「折角だから、何か技名つけねーと」だそうだ……コイツはホントに……
そんなサッチーをおいて、俺達は更に別のスキルも確認していった。
その結果、ハオカが持つスキルと、俺の武器の補助の組み合わせで出来る事は、広範囲化、マルチロック、対象への誘導追尾と、かなり相性が良い事が分かった。
因みに、スキル的に他の皆との連携も出来るのでは無いか? という話が上がったが。
「そら、出来るでしょうけど、かなりの訓練が必要になると思うてよ? あくまでも、うちが旦那さんの意図を組めるように産まれたから、なんも示し合せ無くても出来ると言うだけどす。目と目で通じ合う、ちゅうやつや」
皆は、その言葉にカチンと来たらしく、その日は一日、皆との連携訓練となってしまった。何故か、途中でブロッドスキーさんやダリーさん、騎士団に冒険者と、何かのお祭りの様な状況になってしまった。
「いや、これが上手くいけば今まで非戦闘職だったものも、将来の選択肢が広がるかもしれんからな!」
とは、ブロッドスキーさんの言。
最終的に、「たまには、騎士団と冒険者の合同訓練も良いな」と言う事で、これから三日間はこのまま合同訓練する事になった。
……台詞文が多めになってしまいました。




