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大・出・張!  作者: ひんべぇ
後日談:また会う日まで
199/204

巡礼路:西(完)

続きです、よろしくお願いいたします。

『エサ王、これから、どうする?』


 スイスイと気持ち良さそうに『光柱』内を泳ぎ回りながら、モモ缶が聞いてきた。


「そうだなぁ……。ギャバンさんからもまんま――ちゃんと依頼の報酬金をもらったことだし……。そろそろ移動しようと思う」


「――えっ、おじさん? ここでしばらく生活するんじゃなかったの?」


 現在、俺、悠莉、シロは、群がる筋肉教団(ラッセラ)たちから見えないようにと注意して『光柱』の裏でくつろいている。そして寝転がる俺の腰を踏み踏みとマッサージしながら、悠莉が意外そうに、そしてチラリとモモ缶を見て寂しそうに聞いてきた。


 ちなみにハオカには『ジャグルゴ』までバシリッサを迎えに行ってもらっている。


 なぜかと言えば、数日前に俺が様子を見に行ったところ、どうやら店も軌道に乗ったらしく人を数名雇っていた。そしてその時に、モモ缶にお礼をしたいと言っていた。


 ってことで、俺たちがいる内にその機会を設けようと、ハオカにお願いした次第である。もうすでに出発して三日ほどたっているから、そろそろ戻って来るはずだ。


「まあ、俺ももうしばらくは、ここにいる……つもりだったんだがなぁ……」


 背中にグニグニグニと。心地良い圧力と感触を味わいながら、俺は手のひらでもてあそんていたギルドカードを……、そこにいつの間にか追記されていた文字を確認して――


「はぁ……」


 面倒なことになったと……思わずため息をついてしまった。出来ることなら、このままグニグニグニと……。夢にまで見た『ふみふみパラダイス』生活に突入したかったんだが……。


 ――『天帝(手続き中)』。


 これがギャバンさんの依頼を終えたあと、気まぐれに更新した俺のギルドカードに現れていた称号である。


「確かめなきゃ……だよな」


 人差し指でギルドカードの角を支え、クルクルと回す。


『んっ! エサ王、それ、もいっかい!』


「はいよー」


 先ほどまでの愁いを帯びた表情などとうに忘れたと言わんばかりに、モモ缶は俺の指先で回るギルドカードに夢中になり、自身でも挑戦し始めている。


「ほんと、子供の扱い方はうまくなったよね」


 クスクスと笑いながら、悠莉は俺の腰の上で絶妙なバランス感覚を発揮している。


「だろ?」


 今回、頑張りに頑張った俺への『ご褒美(おしおき)』はまだまだ――具体的にはハオカと交代で、もうしばらく続くらしい。うつぶせになっているせいで、はっきりとくるぶしなどを見ることができないのが残念ではあるが、この感触だけでも味わい尽くそうと思う。


 それにしても……だ。『天帝(ラヴィラ)』が作り上げたはずの称号やら、神の加護やらのシステムがいまだに止まっていないことには正直……かなり驚いた。


 つまり、そもそもシステムはラヴィラがいなくても動く、そしてそのシステムを動かしているナニカはまだどこかに存在している――と言うことだと思う。俺のギルドカードに記されていた『天帝(手続き中)』と言う称号が良い例である。


 そこまで考えてから、俺はふと、そびえる天帝城を見上げる。


『シロン?』


 そう――この『天帝城』……『シロ』がそうであるように。もしかしたらなんらかの意志を持ち、こうしてギルドカードのシステムを動かし続けているのかもしれない。


 ――まあ、正直なところ。俺もこのことに気がつくまでは、ギルドがいまだにギルドカードをそのまま使っている……ってことに違和感を覚えなかったし、その辺も変な仕組みがないか確認する必要があると思う。


「ん? いや、今日はいい天気だよな?」


『シッロ!』


 ガガガガガ……っと、屋根を振り乱しながらシロは俺の意見に賛同する意を示す。――まあ、そのナニカがシロみたいに良いやつだったらいいんだけどな……。


 確か、天帝は……ラヴィラは、自分にとって有益そうな『冒険者』を選定するとかなんとか言っていたらしい。


「――さ――?」


 ってことは、当時、ヘームストラ王国の騎士団長だったあいつが気軽に、ちょくちょく行ける範囲内に、そのナニカがある可能性が高い。


「――んなさ~ん?」


 そう考えると、俺たちはますますヘームストラ王国に急ぎ帰還する必要があると思う。そしてそこからそう、この足のうらの絶妙な感覚を味わい尽くし――


「って、なにしてんの(ありがとうございます)?」


 うっかり深く考え込んでいた俺の精神が、天国(ふみふみ)へと引き上げられる。


「だってぇ……。せっかく帰ってきたんに、旦那さんの反応がつれへんのがあかんのどすぇ?」


 見上げてみれば、頬っぺたをぷくっと膨らませ、いじけた様子のハオカが、一本歯の下駄を脱ぎ捨て、いじいじと俺の顔面を踏み付けてくれていた。


「あ、ああ、そうか……。それは悪かったな? ちょっと考え込んでたからさ、ごめんな、ハオカ? あ、もうちょっと押し付ける感じでよろしく」


「おじさん……。羽衣たちがいないからって……」


 そう言って引きつつ、悠莉はそれでも踏むのを止めてくれないでいる。


 俺は背中と顔面に感じる感触――『天触』にもまれつつ、次の目的地を決める。もちろん、最終的にはヘームストラ王国に向かうのは当然だが、まずは――


「よし、以前来た道を逆に回ろふ」


「んゃ? そら次に『ドーバグルーゴ』の首都に行って、それから『オーシ』、『テイラ』、終いに『ヘームストラ』ということどすか?」


 勢い余って俺の口につま先を突っ込んでしまったハオカが、わずかに身震いをしながら聞いてくる。俺は当然、言葉を発することができず、口に異物を含んだまま、コクコクとうなずく。


 とりあえず、現状を見るかぎりではそこまで緊急性、危険性はないと思うんだが……。一応、そのシステムがどんなものかは確認しておかないとな。悪用されたら大変だ……と思う。大変……だよね? あれ、どうなんだろ? あれって、悪用法あるの? まあ、うん、確認だ。


「ふーん。なら! いつでも合流ができるように、モモの連絡手段も用意しないと――ねっ!」


「うごっ! ゆ、悠莉? ちょっと、強い……って、お前、何座り込んでんの?」


「え~……? だって疲れちゃったんだもん……。ハオカも帰ってきたし、もう良いでしょ?」


 あろうことか悠莉は、俺の背中を椅子代わりにして座り込んでいた。これはこれで――などと言うほど、俺は甘くは――


「ふむ? ハオカどの、そろそろよいかの?」


 と、思い、立ち上がろうとする――が、ふとハオカの後ろから聞こえてきた声の()に、意識を奪われる。


 ほう……? ここしばらくは店のカウンター越しにしか拝見する機会がなかったが、こうして見上げてみるとやはり、素晴らしいおみ足である。まさにクイーン! ハオカ、悠莉、愛里に匹敵すると言っても過言ではない……。


「おじさん……?」


 ――っ。いかんいかん……。背中に座る悠莉が濃密な殺気を放っている。まずは冷静に、悠莉がなにを誤解しているのかは知らんが、ともかく冷静に……そう、クールに話し合わなくては。


「――違うんです……」


「な・に・が?」


 ミシミシと音を立てる腰! そうだ……負けるな俺! き然とした態度で、年長者として! 悠莉にもの申さなくては!


「――こう、たまたま声がした方を見ただけなんです……。不可抗力……そう! 不可抗力なんだよっ! だから――助けてください?」


 ――結果? もちろん、俺の大勝利だよ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「それでは……お主らは、首都(ミミナ)へ向かうのかの?」


「そう……だね。おじさんが言うには、『なる早、でもあいさつ大事!』だそうだから、お世話になったひとたちに顔見せるくらいはする感じかな?」


「あら、それやったらパルカちゃんにも会えますね?」


 俺から器用に目をそらしつつ。ハオカとバシリッサは悠莉と会話を楽しんでいる。内容としては、先ほどまで俺と話していた今後の予定である。


 かつて戦った相手であるバシリッサに、悠莉はまだ少しだけ、どう対応したものか迷っているらしいが、それも徐々になくなりつつある。


『ん……むぅ……。も少し、待って、くれたら、一緒、なのに……』


 モモ缶は『光柱』のなかから、そんな悠莉たちをうらやましげにながめて、クルクルと回転している。どうやらまだ少しだけ『光柱』が掌握できていないらしく、いまは腕だけが外に出せるって感じだ。


「まあ、大丈夫だよ。衛府博士が言うには、しばらくすれば自由に出歩けるらしいし。そうなれば、お前の足ならすぐ追いつくだろう? ――もし、俺たちの用事が先に終わればこっちからまた迎えに来るし……な?」


 そうして、また少しいじけはじめたモモ缶をなだめながら、俺は『光柱』へと手を伸ばし、その表面をなで――ようとして、手が届かないことに気がついた。


「あの……悠莉さん? そろそろ降りていただけませんか?」


 恐ろしいことに、この少女……。先ほどまでのキャッキャウフフな感じのガールズトークの間中、ずっと俺をホールドし続けていたのである。当然、エビぞりになっている俺の体が動くはずもなく、はたから見れば、俺がモモ缶に助けを求めているように見えるかもしれない。


『ん、エサ王、がんば』


「だってさ?」


 しかし、助けを求めた相手は、俺がこの状態から立ち上がれると信じているらしい。――クッ、詰んだ……。


 それから小一時間ほど、俺たちはその場で雑談に花を咲かせていたんだが――


「お、おぉ! そういえば、主らへの感謝の気持ちを持ってきたのじゃ。儂の店で次に出そうと思っておる品でな? まあ、はちみつ酒じゃ」


 どこかエビぞりになっている俺をうらやましげにながめていたバシリッサなんだが……。彼女はそんな自分をごまかすかのようにそう言って、数本のビンを取り出してきた。そして俺たちは「じゃあ」と、宴会を始めることにしたんだが……。


 ――俺はそこから先をよく覚えていない……。


 ただ、目が覚めた時に広がっていた光景を見て、覚えていないのが救いなんだろうと……思った。


「う……ん。もっと……お姫さま扱いぃ……」


 下着姿で、うなされながら宙に手を伸ばす悠莉。


「……クッ、殺せぇ」


 なぜか荒縄で昨日の俺みたいにエビぞりに縛り上げられ、悔しげな寝言をつぶやき、はぁはぁと息を荒げて、どこか恍惚とした表情で眠るバシリッサ……。


「旦那さんのいけず……」


 そして俺よりも早く目が覚めたのか、それとも寝ていないのか、もじもじとしながらこちらを見つめてくるハオカ……。


『ん、ごはん……?』


 最後に……。キュルキュルキュルキュルキュルと、いつも通りのモモ缶。


 そんなよく分からない状況を前に俺は――


「さ、皆起きろ! 出発だぞ?」


 なにも見なかったことにした。


 さあ、次は『ドーバグルーゴ帝国』の首都『ミミナ』だ!

ダメだ、移動させないと椎野がただの変態になる……。

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