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大・出・張!  作者: ひんべぇ
後日談:また会う日まで
198/204

聖〇〇伝説(3)

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――イナックス大陸中央部。ナキワオの町とジーウの森を結ぶ街道の中間点。


「うぉぉぉぉぉぉぉ! 『免罪斧』!」


 元・ヘームストラ王国騎士団。ナキワオ支部長にして、現・騎士団長。ジェイソン・ブロッドスキーの斧が、光を発しながら地面へと振り下ろされていく。


 地面とぶつかった斧は、そのまま大きく地面を爆ぜさせる。そして周囲一帯に土煙が舞い上がり、その場にいる者すべての視界を奪う。


「ブロッドスキー団長!」


「――来るなっ! やつは……まだいる!」


 ブロッドスキーが部下の動きを制すと同時。土煙を切り裂き、なにかがブロッドスキーへと飛来する。


「ふんっ」


 そのなにかは、ブロッドスキーの斧によって、べチャッと音を立てて地面にたたき落とされる。


「うふふ……。不意打ちのつもりでしたのに……。さすがは騎士団長……ですね」


「――不意を打つなら……。まず、その殺気と、動く際の音。そして……香水の匂いをなんとかするんだな」


 ブロッドスキーは斧を横に振り、土煙を払う。そして先ほどなにかを飛ばしてきた相手――虚ろな目をした『冒険者』らしき男をにらみ付ける。


「なるほどなるほど……。殺気に音……ですか。それらは努力します。――けど、香水は無理ですね……。だって……。この体……汗臭いんですもの……」


 ひゅんひゅんと、手のひらで棒状のなにかを回しながら。男は肩をすくめる。


「ふむ。『この体』――と言うことは、お前はその男を操っている……と言うことか?」


 ブロッドスキーからの質問に、男は答えない。代わりに、「それで正解」とでも言うように、口の両端をつり上げ、クハァっと白い吐息を漏らす。


「………………答えないか……。仕方がないな。ならば――『断罪』!」


 男の嘲笑に、ブロッドスキーもまた肩をすくめ、次の瞬間――地面を蹴り、前へと飛び出す。


「――ふっ」


 ブロッドスキーの斧と、男が手にしていた棒状の武器が激突し、かん高い音が鳴り響く。


「き、騎士団長っ」


「――来るなっ! 逃がさないように、周囲を取り囲め!」


 ギッギッと。つばぜり合いの音が響くなか。ブロッドスキーは目の前の男から視線を外さずに、部下の騎士たちへと指示を出す。


 周囲の騎士たちは、ブロッドスキーの指示を聞くなりすぐに。ブロッドスキーと男をグルリと取り囲む。


 そして包囲網が完成したことを合図に。――キィンッと。ひと際高い音を立てて、ブロッドスキーと男が距離を取る。


「そんな小さな武器で……よく受けるものだな……」


「うふっ。――ありがとうございます」


 両者はそのままわずかににらみ合う。そして同時にフゥッと息を吐いたあと――


「――ふんっ」


「せいっ!」


 一気に前進し、互いの武器をふたたびぶつけ合う。


「はあっ!」


 キンキンキンッと。先ほどとは違い、今度はつばぜり合うことはなく。激しく、何度も。斧と棒がぶつかり合う。


 両者がぶつかり合う音は、徐々に激しく、大きく、間隔が短くなっていく。


「ハハッ……。これほどとはな……。俺とここまで打ち合えるのは、正道では先代騎士団長(ラヴィラ)と、ミチくらいなものだぞ!」


 ブロッドスキーは、自らの身長と同じほどの大きさを持つ斧を片手で縦横無尽に振り回しながら、楽しそうにそう告げる。


「あら? では、邪道では?」


 対する男もまた楽しそうに。クスクスと笑いながら。いかにも『男性冒険者』らしいその身なりには似つかわしくない、りんとした女性の声で尋ねる。


 ふたりを取り囲む騎士たちは、すでに自らの目では追えない攻防と。それを行いながらも会話を続けているふたりを見て、息をのんでいた。


「ん? ああ、いまはもういないが、『ツチノ=クスリヤ』と言う男がいてな……」


「――へぇ……?」


 ブロッドスキーが答えた瞬間。男の表情が、楽しそうだったそれまでとは打って変わって。――なにかを見つけたかのような。狂喜する寸前のようなモノへと変わる。


「むっ」


 そして男はブロッドスキーから大きく距離を取ると、棒状の武器をクルリと手のひらで回し、そのまま胸ポケットへとしまい込む。


「――あなた方全員にも『刻印(『肉』か『金』)』を刻んであげようと思っていましたが……気が変わりました。この場は見逃して上げましょう……」


「逃がすと……思うのか?」


 ブロッドスキーは男を強くにらみ付ける。それを合図に、周囲の騎士たちがじりじりと男に迫る。


「ふふ。当然ですよ――『墨巣(MIB)』!」


 男が叫んだ瞬間。男の胸もとの武器から、黒い液体が空へと広がっていく。


「――しまった!」


 ブロッドスキーがソレに気が付き、駆け出したが時すでに遅く。黒い液体は空の上で、クモの巣状に広がっていた。そしてその中心からは、一本の黒い糸が垂れ下がり、男の武器とつながっている。


 それでも、ブロッドスキーは男に向けて詰め寄り、斧を振り下ろす。


「うふふ……。怖いですね。最後に――私は『イヤ』。八番目にして三人目……。闇に囚われた(社畜となった)人々を救いたければ、私の前にあのひとを……。愛しいわが主を連れてきなさい!」


 ひらりと飛び上がり、斧をかわした男はブロッドスキーたち騎士団にそう告げると、『ビヨンッ』と言う音を残し、はるか彼方へと飛んでいった。


「――騎士団長! ご無事ですか!」


 男がいなくなり、空に浮かんでいた『巣』がパラパラと消えていくと、騎士のひとりがブロッドスキーの元へと駆け付けてくる。


「ああ……。だがしかし……『主』? それに、あの声は……まさか?」


 ブロッドスキーはそんな騎士に向けて手のひらを突き出し、自分は無事であると告げる。そして先ほどまで目の前にいた男が何者であるかと思案する。


 その後。ブロッドスキーは、騎士たちに『ナキワオ』へ帰還する旨を指示すると、男が飛んで行った東の空を見上げると、誰に告げるでもなくつぶやく。


「やはり……いるのか? ――ツチノよ……」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ブロッドスキーたちは『ナキワオ』へ帰還すると、その足で騎士団の詰所へと入っていた。


「――今回の負傷者は?」


「はいっ。『通り魔』征伐隊三十名のうち。死者はゼロ。重傷者は……二十五人――うち、五名は『刻印』とやらにやられてしまいました……」


 ブロッドスキーはその報告を聞くと、「動けるものが……」とつぶやく。


「はい……。いなくなってしまいました……。軽傷者も戦闘まではとても……」


「――仕方がない。『王都(ルセク)』から増援を呼ぶか……」


 深くため息をつくブロッドスキー。


「それと……。例の『通り魔』が向かった先ですが、『光の柱』がある場所だと思われます」


「『光の柱』か……」


 報告者からの話を聞き、ブロッドスキーはあごに手を当てて「ふむ」と目を閉じる。


「――現れた時期としても、ツチノが絡んでいるのは間違いない……か」


 つぶやくブロッドスキーに対して、報告者はなおも報告を続ける。


「それと――これは『ドーバグルーゴ』から流れてきたうわさで、本件とは無関係に思われるのですが……」


 言い辛そうな報告者に、ブロッドスキーは「続けろ」とうながす。


「その……。五本ある『光の柱』のなかには、『本当の神』がいると……」


「……………………」


 薄目を開けて報告者をにらむブロッドスキーは、しばし無言になる。


「――あ、す、すみません。『光の柱』と聞いて、つい……」


 報告者はそう言うと、『通り魔』の話題に戻そうとする。


 しかし、ブロッドスキーはその動きを制して、あごに梅干を作りながら告げる。


「――無関係……ではないかもしれん。一週間後、東にある『光の柱』に向かうぞ……」


「え、はぁ……」


 こうして『ヘームストラ王国 騎士団』は、『通り魔』を追い掛けて動きだした。

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