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大・出・張!  作者: ひんべぇ
後日談:また会う日まで
197/204

巡礼路:西(3)

続きです、よろしくお願いいたします。

「――やり過ぎた……」


 仁王立ちをする『光柱』のモモ缶。そしてそんなモモ缶を見上げる大量の人間。ついでにその後に続く長蛇の列……。


「「「「あぁーりがぁたやぁぁぁぁ」」」」


『んっ!』


 平伏し、おさい銭箱にはちみつのビンと果物を置いていくひとたち。そしてそれを満足げにながめ、光とともに受け取るモモ缶。


『ん、びみ!』


「「「「――おぉおぉぉお! ら、ラッセェラァァッ!」」」」


 モモ缶がはちみつをペロリ。そして笑顔を浮かべると、パァッと花が咲く。――そう。『華が咲いたような』ではなく。文字通り花が咲くのだ……。しかも、種類がよぉ分からん……。なんで花の匂いが焼き肉のタレなの?


 そして……。目の前の光景にあぜんとし、「やっべぇ……」とうろたえる俺をよそに……。モモ缶にお供えをしたひとたちが興奮マックスでふたたび平伏する――


「おじさん、あたし……知らないからね?」


「こら、なんとも……」


 俺たちは少し離れた場所で様子をうかがっている。そして、俺の隣に立っている悠莉とハオカの表情が引きつって、俺を見ている。――と言うか。なんで徐々に距離を開けていくの……?


「なぁ……。これ、どうしよう?」


 良かれと……。良かれと思ったんだよ……。


「だから知らないってば……」


 うぅ……。悠莉が冷たい。


「そもそも、旦那さん……。なにしたん?」


 そう――これは、俺の軽はずみな言動と、モモ缶の食い意地がパーフェクトハーモニーを奏でてしまった結果である。――どうせ俺なんて……。


「えっとな……」


 それは、俺たちがモモ缶と再会したおとといのことだった――


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――コトリ。


 さい銭箱の受け皿にビン詰を置く。


 ――パァッ。


 するとビン詰は光を放ち、『光柱』のなかへと移動する。


「なぁ……モモ缶……。はちみつ……うまいか?」


『ん、すごい、うまい』


 さい銭箱から受け取ったビン詰めのはちみつを、モモ缶は指ですくってペロペロと。――「お前、ウーパーじゃなくて黄色い熊だろ?」と言いたくなるほどに必死でなめている。


 ――コトリ。


 さい銭箱の受け皿に、今度は缶詰を置く。


 ――パアッ。


 すると缶詰は先ほどのビン詰と同様に。光を放ち、『光柱』のなかへと移動する。


「桃……うまいか?」


『ん、さいきょう!』


 モッキュモッキュと桃を頬張りながら。――「お前、ウーパーじゃなくてメタラーだろ?」と問いたくなるほど必死に頭を振っている。


 なんにしても良い笑顔だ。――これなら俺の計画もうまくいく………………かもしれない。


「うわぁ……。おじさんが悪い顔してる……」


「こらまた……。しょーもないことを考えてそうどすなぁ」


 ふふふ……。おかしいな? この子たち、俺のこと信じている気配がみじんもないぞ……?


「ふ……」


 少しだけ心に傷を負いながら。俺はモモ缶に最後の質問を投げる。


「モモ缶……。もし、その桃とはちみつが定期的に手に入るなら……どうする?」


『ん、ばんなん、はいする』


 そしてそれから俺はまず――


「バシリッサっ!」


「んぁっ? な、なんじゃ?」


 悠莉とハオカにモモ缶の相手を任せたあと。相変わらず森の手前で土下座っているギャバンさんと交渉し、馬車を借りて一日半かけてひとり、ジャグルゴのはちみつ屋『女王様のお・み・つ』へと舞い戻っていた。


 目的はひとつ――はちみつ以外の商品を置くようにと指示するためだ。


「白桃……とな?」


「ああ……。苗はこれなんだが……」


 いつだったか忘れたが、後輩から送ってもらった荷物に『白桃の栽培セット』。――『桃栗三年柿八年』って位だからそのうちで良いかなぁっと思ってた死蔵品だ。


「ん……む。町の知り合いに『園芸士』がおったのぉ。そやつに頼めば、おそらくは短期間で実の採取も可能だの」


「ふふふ……。なら急いで頼む。出来れば缶詰にしてくれるか?」


「んむ? それも可能だの。町の知り合いに『詰士』がおったはずじゃ。全て含めて五日――と言ったところかの?」


 ――早っ……。


「そ、そうか……。じゃあ、頼むぞ?」


「ん……む? 任されよ?」


 そうと決まれば――次!


 戸惑い気味のバシリッサを放置して、俺は『ジャグルゴ』の街なかを走り回る。


 ――目指すは……。と言うか、探すべきは奴らだ……。


 ナキワオの鉱山……。ナキワオの学校……。村のギルド……。船の船医……。浮遊議会のお偉いさん……。チェイナー部隊の隊長さん……。


 どの町にも必ずいた――あいつらだ。


「――ふんぬぁっ!」


「いた……。マジでいた……」


 そう――『筋肉教徒(ラッセラ)』ども。


 周囲の空気がゆがむほどに。大量の汗を蒸発させ、湯気を出しているソイツは……。陽光を反射している頭部を持つソイツは……。なぜかひとり――大胸筋をうっとりと眺めている。――顔つきも悪いし、左目と大きく十字に交差する傷がすっげぇ怖い。出来れば一生涯関わりたくはないが、仕方がない。


 俺はこのあふれそうな悪寒を『ポーカーフェイス』で抑えつけ、ソイツに。見た感じ『スカーフェイス』と言った男に近付いていく。


「――ラッセェラァァッ!」


「――っ! ラッセラァァ!」


 普通のひとが聞けば「このひと、変なんです」と通報されてしまいそうなあいさつを、大胸筋の男は間髪入れずに返してくる。――ああ、間違いない。


 ゴリゴリと精神が削られていくがそれでも。これで――このひと言で、俺の用事は終わる。


「して……。そなたは?」


 ゆらゆらと汗の蒸気をまといながら。スカーフェイスは俺の足から頭まで。ねっとりとなめるように見上げていく……。なんだ……? 筋肉チェックか?


 ――視線も、なぜかフローラル系の汗の匂いも、ともに不快だが……。がまんして、次の言葉を解き放つ!


「――ここから南西に行った森の奥で『筋肉の(ラッセラ)神』が降臨しました……」


 我ながらなにを言ってんだ……って気がするけども……。


「なん……だと?」


 コイツ……信じやがった……。


 その後、「案内(あない)いたせ!」とわめくスカーフェイスさんを引き連れて。俺はふたたび街道を馬車でひた走る。


 それからさらに一日半――


「っん~……。あ、お帰りおじさん…………って、それだれ?」


「なんや、また……」


『ん、エサ王、おひさ』


『シッロゥン?』


 モモ缶の『光柱』まで戻ってきた俺は、ゴロゴロダラダラと『光柱』周りに転がっている悠莉、ハオカ、いつの間にか『光柱』の背後にそびえるシロ――ふたりと一城を無視してモモ缶のそばへと歩み寄る。


 そしていぶかしげに俺とスカーフェイスをにらむ悠莉たちの視線を浴びながら。俺はスカーフェイスにはちみつのビンを手渡す。


「これを……捧げよと?」


「――はい……」


 スカーフェイスはしばらくモモ缶を観察し、そのしなやかな筋肉に見とれていたが……。俺に促されて、手渡されたはちみつのビンをさい銭箱にコトリと置く。


 ――パァッ。


 するとビン詰は光を放ち、『光柱』のなかへと移動する。


『ん、たべて、よい?』


「――おぅ!」


 数日前と同様に。俺の許可を得たモモ缶ははちみつをなめとり、笑顔を浮かべる。


 そして次の瞬間訪れる光の波と、清浄な空気。


「ぬ……ぬぉぉぉぉ! こ、これが……『神』!」


 ――あれ? なんか、範囲とか広がってないか、これ?


 よく分からない一抹の不安を感じながら。その不安と共に流れる冷や汗を隠しながら。俺は「ふぉぉぉぉぉぉ」と、感涙にむせぶスカーフェイスをチラリと見る。


「あ、あのぅ……?」


「ラ……ラッセェラァァ」


「うっわ……。アレ(ラッセラ)関係なんだ……」


「なんとなぁく。そないな気はしていましたが……」


 全身の穴と言う穴から汁を流してペコペコしているスカーフェイスに、悠莉とハオカが「ひぃ」と言いながら距離を取っていく。――まあ、かなりキッツイビジュアルだよな……。


 そんなスカーフェイスを放置して、俺はコッソリとモモ缶に話しかける。


「モモ缶……」


『ん、なぁに?』


 はちみつを平らげてご満悦なモモ缶は笑顔のまま。『光柱』の壁にビタッと張り付く。


「お、ぉお……。近いな……」


 なんだかショーケースにぶつかる子犬を思い起こしながら。俺はモモ缶に指示を出す。


「モモ缶……。いまみたいに、はちみつか、白桃を食べた時には……。っと言うか、その時だけ、『光』を出せるか?」


 モモ缶はしばらく『ん、ん~?』とうなったあと――


『ん、ぐもん。らくしょー』


 と、答えた。どうやらそのくらいは朝飯前ってことらしい。


「すごい……。これが『神』! 『神』は……存在した!」


 ――ちなみに……。


 本っ当にどうでも良いことだが……。この異世界ではいま――宗教と言うモノが廃れつつある。


 一応これまでは『ギルドカード』とか、『天啓』とかで『神』の存在は信じられていたらしいんだが……。それでも「へぇ~」って位の扱いみたいだった。――そして最近。その『神』も実際は『天帝(ラヴィラ)』さんがチマチマやってたってことがばらされちゃったらしくて……。


「真の……。『真なる神(ラッセラ)』は……いたっ!」


 そんなわけで……。いまやこの世界では、『神はいない』――が、常識となってしまっている。わずかに存在していた宗教は、同じく『天帝』のアレコレが原因でただ一つ――『筋肉教団(ラッセラ)』以外は消えてしまったんだとか……。


「ふふふ……。どうやら『西の女神(ラッセリーヌ)』は『ジャグルゴ』産のはちみつと、白桃がお気に召したようですぞ?」


 俺はそんな状況を利用できないかなぁと思っている。『神』が降臨して、その『神』がかわいらしい少女で、その『少女神』がおなかを空かせていたら、きっと誰だって――よっぽどの悪人でもない限り、お供え物を貢ぐ――もといささげるだろう?


「おぉぉ……」


 ――ってわけでさり気なく。あくまでもさり気なく。バシリッサのはちみつと、真なるモモ缶の好物である白桃の存在を教えてあげる。


 そのままスカーフェイスを見送――ったのがおとといのことだった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そして――


「「「「――おぉおぉぉお! ら、ラッセェラァァッ!」」」」


 この状況に至ってしまいました……。


 俺の想像以上に『筋肉教徒(ラッセラ)』は多かったらしい。


 当初の思惑としては、スカーフェイスからうわさが広まって、それからギャバンさんに報告して、うわさがゆっくりと広がれば――って思ってたんだが……。


「ルァッセェェェイルァ!」


 そんなことをするまでもなく。ギャバンさんたちの行商隊も『筋肉教徒(ラッセラ)』でした。


『ん……。んっま!』


 いまもギャバンさんは、モモ缶が起こしてしまう『奇跡』にむせび泣き、ペコペコしている。――その手には大量の『女王様のお・み・つ』とラベリングされたビン。


 ――これでたぶん……。バシリッサの店も客でにぎわうと思うんだが……。


「やり過ぎ……よね?」


「良かれと……。良かれと思ったんです……」


 ――グンニィ……。


 戦々恐々とする俺の顔にぷにっとした衝撃が訪れる。――予想だにしないほどのヒットに、ばれた時のことを考えた悠莉が、俺を「やり過ぎ」だと叱っているのだろう……。――クッ……(いやん)いっそ(逝っち)殺せ(まいそう)


「まあ、悪気はあらへんようどすし……。モモはんも喜んでいますし……。ギャバンはんたちも、喜んでいますし……。今回は、お叱りはなし……どすなぁ」


 ――グニグニッ!


「――え、マジで?」


 ハオカの言葉に驚いた俺は、思わず悠莉の足指越しに。悠莉とハオカの顔を見る。


 悠莉は多少は言いたいことがあるのかむすっと。ハオカは子供のいたずらを目の当たりにした時のように苦笑しながら。俺を踏む足にひねりを入れてくる。――どうやら、これは頑張った俺への『ごほうび』であるらしい……。


「………………」


 ――しかしなぜだろう……。『ごほうび』であるはずのコレ(グニグニ)がなぜか……満たされぬ。


「旦那さん?」


「――ふっ……。なんでも……ないよ」


 もしや新たな扉を開きかけているのかと。自分に問い掛け、いや違うと否定し、頭を振る。そして『光柱』に群がる『筋肉教徒(ラッセラ)』たちを見下ろしながら。俺たちは『天帝城(シロ)』のなかへと戻っていった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ちなみに――さらに二日後。


『エサ王、ここ、聖地、らしい?』


「――ぇ?」


 ――モモ缶を含めた五カ所の『光柱』は、『筋肉教徒(ラッセラ)』の聖地と認定され。この二日の間に、世界に話が広まってしまったようだ……。


「おじさん……。やっぱ、やり過ぎよ」


「ん~……? 今回は、ウチたちも認識が甘かったどすなぁ……」


 そして結局。そのことで認識を変えた悠莉とハオカの足によって――俺は『ごほうび』ではなく。改めて『おしおき』をいただく羽目になってしまった……。――ちっくしょうっ(いーやっほう)

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