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大・出・張!  作者: ひんべぇ
後日談:また会う日まで
195/204

巡礼路:西(1)

続きです、よろしくお願いいたします。

「――なんだこりゃ?」


『ジャグルゴ』でバシリッサを見つけてしまった次の日。俺たちは『ジャグルゴ』の近くに駐車ならぬ駐城させていた『天帝城』を連れて『西の光柱』へと旅立った。


 目指す『西の光柱』は、『ジャグルゴ』からみるとほぼ南西。距離にしてみると、だいたい無強化の馬車で一日半。だいたい徒歩で三日半ほどらしい。


 そして現在は三日目の後半。明日には到着するかなぁ……っとぼんやり考えながら、街道を歩いていたんだが……。


「なにしてんの、あのひとたち……?」


 俺の素っ頓狂な疑問の声に続いて、悠莉もまたゴミを見るような……。訂正――不可解なモノを見るような目で、目の前で繰り広げられている奇行に疑問を示している。


「あら……。旦那さんの得意技(土下座)……どすなぁ」


「ああ……」


 ハオカが言うように。俺たちの前では、なにやら五体投地で地面に頭突きをかましている集団がいる。


 ――街道をふさぐなよ……。ドゲジストの風上にも置けないやつらだ……。


 と、まあ。そんなツッコミを、心のなかで行いつつ。俺は改めてその集団を観察してみる。


 どうやら老若男女を問わず。どのひとも同じ方向を向き、ぺったんこー、ぺったんこ――と擬音を付けてくなるほどになにかを拝んでいるようだった。


「ふむ……。ちょっと話を聞いてくる。ふたりはシロとここで待機」


「はーい」


「ほな、シロちゃん。ここら辺にイスとテーブル、吐いておくれやすな?」


『シロっ』


 ハオカの指示で『天帝城』――もといシロが、天守閣にあたる部分からポンポンとテーブルセットを吐き出していく。


 ――ハオカや悠莉の順応性の高さに、「ツッコんじゃ負けだ」と自分に言い聞かせながら、俺は五体投地の集団へと近付いていく。


「どうも、良い天気ですね?」


「……んだらばぁ――はっ! お、お前さんは?」


「――あ、どうも私、こう言う者です!」


「――っ! え、あ……ど、どうも、これはご丁寧に……。わ、儂は、この行商隊を率いております。商人のギャバンと申します……?」


 不審者ではないよ? さわやかな漢ですよ? ――と、そんなアピールをイメージしつつ。俺は集団のなかでも、位置的に先頭にいる男性――ギャバンさんに声を掛けた。


 ギャバンさんはかなりお祈り――ぽいナニカに集中していたらしく。俺に声を掛けられて、さらに『名刺交換』の効果で勝手に体が動いたことに大層驚いていたが、混乱しているうちに俺がなにをしているのかと尋ねると――


「実は……。このさきにただならぬ存在がいるらしいのです……」


 ――と、答えてくれた。


 ギャバンさんによれば、数日前にこの先の森の奥地に『光の柱』が現れたらしい。


「へ、へぇ……」


 ――らしいって言うかそれ、俺たちの仕業だし……とは言わない。言えない。


 ともかく。『光の柱』が現れて数日間は、やれ「神の降臨だ」、やれ「天からのお導きだ」なんて感じでお祭り騒ぎだったらしいんだが、数日前に状況が一変したんだと。


「突如として、『御柱』から奇妙な音が鳴り始めたのですよ……」


「――奇妙な音?」


 ギャバンさんいわく。数日前から、ほぼ毎日。『光の柱』から奇妙な音が鳴り始めたらしい。


 その奇妙な音は、聞く者が皆、切なくなるような、寂しくなるような。そんな感情を呼び起こさせる音であるらしい。


 そしてそんな感情を呼び起こすモノが、ただ者であるはずがない。――『魔獣』か、もしくは『変異種』か、いやいや『神様』だろう。――そんな憶測が行商隊のなかで飛び交い始め、結果としてこれ以上先に進むことは恐ろしくてできないと言う状態に至ったらしい。


「そして……。その音はいまだに鳴りやまず。儂らはなんとかならないものかと、この街道を通る旅人、行商人でこのように怒りを静めるべく。藁にも縋る思いで拝み倒すことにしたのですよ……」


 どうやらこのひとたちのなかでは、すでに『光の柱』はイコール『神様もしくはそれに準ずるもの』であるらしい。


 その『神様』っぽいものの怒りを静めるために、こんな大人数で、街道を目いっぱい占領して、連日拝みまくっているんだと。


「神様……ねぇ……」


 これ、真実をバラしたらどうなるんだろうな……。――面倒臭そうだな……。


「――っ」


 さて、どうしたものかと考えている内に。なんだか周囲が騒がしくなってきた。


「ギャバンさん……。これは?」


「――例の音ですが……。実は鳴る時間が決まっているようなのです……」


 周囲のひと。それからギャバンさんの様子から、その時間がそろそろ迫っているようだ。


「――ぁ」


「しっ……。――来ますっ」


 俺がその時間について、さらに詳しく聞こうとすると、そんな俺の口を、ギャバンさんが手で押さえてきた。――しょっぱい……。


 そしてその場の誰もが口を閉ざし、辺りに静寂が訪れ、その音が響きはじ――


 ――キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル……。


 ――あ、うん……。これ……分かった。


「ギャバンさん、少し仲間のもとに戻ります」


「――え? あ、はいどうぞ?」


 ギャバンさんに頭を下げてから、悠莉たちの元へと戻っていく。


「――三時……だな」


 こちらに気が付いた悠莉とハオカが勢いよく手を振って来る。俺はその手に片手で応えながら、スマフォの画面に目を落とし、現在時刻を確認する。――決まりだ……。


「おじさん、どうだった? それと……いまのって?」


「――ああ、アレ(土下座)の理由も、原因も、分かった。――いまの音……の主だ」


 悠莉とハオカがそろってこめかみを押さえ、「あっちゃぁ……」と言った感じでため息をつく。


 さて、仲間うちでの情報共有は完了した。――あとは、どうやってごまかすか……だ。できれば、ギャバンさんたちにも恩を売――晴れやかな気分になって欲しいしな。


 ――それからしばらくして……。


「ちょっとよろしいですか?」


「おや、クスリヤ殿? どうかしましたかな?」


 今日の土下――礼拝が終わったのだろう。ギャバンさんは、部下のひとたちになんらかの指示を与えていたらしい。集団が一斉に立ち上がって動き始めた。


「はい。実は、俺たちはちょうどあの――『御柱』……ですか? あの辺に用事がある『冒険者』なんですよ。それで、仲間と話し合ったんですが……。もしよろしければ、あの『音』の正体。私たちで調査してきましょうか?」


 俺の提案にギャバンさんは「うぅむ」と悩んでいたが、しばらくして……。


「よろしいの……ですか?」


 と、確認してきた。


 もちろん。俺の答えはイェスなので――


「ええ……。どうせ通り道ですし。私たちとしても、興味がありますから。――そんなわけで、依頼料はこんな感じでどうでしょう?」


 ――と、調査依頼としては相場よりも若干安めで提案してみる。


 ギャバンさんはその金額に多少、いぶかしんだ様子ではあったが。


「よろしくお願いいたします」


 最終的には、このままここで足止めをくらうよりかはましと判断してくれた。――ふぅ……。迂回(うかい)するとか言いださなくて良かった……。


「はい。お任せください」


 こうしてギャバンさんに料金は後払いで。調査中は誰も森のなかに入らないようにと告げて、俺たちは『光の柱』がある森へと進んでいった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――なんか、すっっごい……うしろめたいんだけど……?」


「マッチポンプな感じどすぇ?」


 ちょうど森の入口に差し掛かった所で、俺たちは今日の移動を終了することにした。


 そして『天帝城』のなかで夕食を食べていると、俺とギャバンさんとのやり取りを聞いた悠莉とハオカが、そんなことを言って、俺のことをジトッと見ている。


「まぁ……。お金はいるしな……」


 正直なところ。俺だって、自分で思っていた以上のうしろめたさがある。――だって、調査するって聞いた時の、あの参拝者たちの喜びよう。――なんとも言えない……。


「それに、完全な善意ですって言うよりかはさ? ちゃんと金を取りますよって言った方が安心するひとだっているんだよ……」


「えぇ~……?」


「あのギャバンいうひとが、そないなおひとやったんどすか?」


 悠莉の納得いかないと言う表情と、ハオカの純粋な疑問の視線に耐え切れず。俺はフイッと顔をそらしてつぶやく。


「………………たぶんな」


 ――まあ、商人だし。きっと、タダよりかは信頼してくれたはず……。たぶん……。それに、うまくいけば、バシリッサの問題も、アイツの音の問題も、丸く収まるかもだしな?


 いまだに疑いの視線を向けてくる悠莉にニカッと『イケメンスマイル』を提供し、腹筋にダメージを与えつつ。俺たちは夕食を終える。


「――やっぱ、適当に言い訳考えたでしょ?」


「う……んなことは……ない」


「――旦那さん、目が泳いでますぇ?」


 その後、就寝直前まで。暇つぶしの材料を見つけたふたりにつつかれながら、俺はバシリッサの問題、ギャバンさんの問題、アイツの問題。それぞれの解決策について悪だ――思いをはせながら、ベッドにもぐりこんでいった。


 ――そして次の日……。


 約半日ほど森のなかを歩いた俺たちは、少し開けた場所にそびえ立つ『光の柱』を見上げていた。時間は午後三時くらい。――おやつの時間だ。


 ――キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル……。


 音の発信源が俺の顔を見て、ポカンと口を大きく開けている。俺はその珍しく驚いた表情を見せるヤツに向けて、ひらひらと手を振る。


 するとヤツもハッとして、ブンブンと大きく……。両手を『光の柱』のなかで忙しなく。嬉しそうに動かし始めた。


 悠莉とハオカはそんな俺たちのやり取りを見て、クスクスと笑い合っている。


 そして俺は、ヤツに声を掛ける――


「――よっ。久しぶり。元気……みたいだな」


 ヤツの目が大きく。星のように輝く。そしてひと言、答える。


『……………………んっ!』


 ――こうして。俺たちは『西の光柱』――その『守護者』と無事に対面することとなった。

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