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大・出・張!  作者: ひんべぇ
後日談:また会う日まで
192/204

受難の始まりと渡橋

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――マコス大陸最北端……『光の柱』前。


『魔獣』――それはこの異世界において、人類の天敵とも、獲物ともされる異形となった獣たち……。


『魔獣』には、その強さに段階がある。


 ――いまとなっては失われてしまった情報であり、正確なことを知る者は誰もいなくなってしまった『魔獣』の生態。


『魔獣』の強さ。そして存在は、多少の違いはあれど四段階ある。


 第一段階:『魔獣』――歳経た、もしくはなんらかの要因で獣から変化したモノ。


 第二段階:『鎧獣』、『変異種』――『魔獣』が知識、自我を得て半人半獣となったモノ。


 ――ここまでが、現在異世界において、存在を確認されている『魔獣』の情報である。


 第三段階:『呼び名なし』――『人獣』……つまり、人の姿を取れるようになったモノ。大抵の『魔獣』は、この時点ですぐに『獣士』へと至る。


 第四段階:『獣士』――『魔獣』、『鎧獣』、『人獣』の三形態を自由自在に取れるようになり、同時にそれぞれの個性に合わせた武装――多くが鎧――を獲得出来たモノ。


 ――決して全てがこの通りではないが、大まかにはこの四段階である。


 そして先日、世界に現れた『光の柱』には、それぞれひとりずつ。『獣士』たる者が『守護獣』もしくは『神獣』として存在している。


「ぶ……ぶるぁ……」


「うふふ……。見ぃつけたっ」


「だぁぶっ!」


 そんな『守護獣』たちのなか。ただひとつの例外――規格外が存在している。


 半人半獣の『鎧獣』――『変異種』の状態で『獣士』すら凌駕りょうがし、『光の柱』に収まることで、全ての段階をすっ飛ばし、半人半獣のまま『神獣』へと至った者。


「――あら? この光は……。どうやら私はこの先には進めそうもありません……」


「だぁ……」


「ぶるぁ……」


 そんな規格外の『神獣』――ラッコ男はいま、ある意味では人生最大のピンチを迎えていた……。


 ラッコ男は現在、『光の柱』との融和性を高め、安定稼働するまで『光の柱』から外へ出ることが出来ずにいる。――また、その逆も同じく。外から『光の柱』内部へ入ることも、いまは出来ない状態である。


「ぶぶるぁ……」


 椎野との再戦を楽しみにしているラッコ男であったが、この時ばかりはこの身動きが取れない状態に感謝していた。


 突如押し掛けてきた『ヒトのメス』と、『ヒトの赤子』。


 その存在はラッコ男にはるか昔、まだラッコ男がただの『魔獣』であった頃の、群れのメスから受ける求愛行動――と言う名の搾取を思い出させていた。


「そうだわっ! ここに村を移してしまいましょうっ! ねっ? それが良いわ! 良いわよねっ? ダーリンっ」


「だぁっ!」


「………………」


 朗らかに笑う『ヒトのメス』。そして同時に、はるか彼方かなたから感じる、自らと同等の存在が放っているらしい怨念めいた気配。


 ――ラッコ男の受難の日々が、――ある男(サラリーマン)思惑(嫌がらせ)で――始まりつつあった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――マコス大陸最南端。


「ふぇっきゅぅっ」


 俺、悠莉、ハオカ、そして天帝城の四人(?)はいま、この大陸の端っこにいる。目指すはお隣の『ウズウィンド大陸』。


「旦那さん?」


「――やだ……。もしかして、風邪?」


『シロっ?』


「あぁ……。大丈夫……。誰か俺のうわさしてんのかもな……」


 ――パタ……パタ……パタ……。


 徐々に遠くなっていく音を聞きながら、俺は悠莉たちに向けて手をヒラヒラとあおぐ。――もしかして、地球(向こう)で文句でも言われてんのかな……。


 ――パタ……パタ……パタ……。


 おっと……。集中、集中っ!


「しっかし……。思ったより、遠いんだね」


「そうどすなぁ……」


 俺たちの視界のはるか先。かろうじて、かすむ景色に浮かんでいるのが『ウズウィンド大陸』らしい……。


 思っていたよりも『マコス大陸』――『ウズウィンド大陸』の距離が離れていたため、移動手段をどうしようかと迷った結果。


「――手応え……ねぇなぁ……」


 こうして俺のギルドカードで、久々にして長距離の『高架橋』を展開しているわけだ。


 当初は泳いで行こうかと――


『よしっ。泳ごうっ! つきましては悠莉さん、ハオカさん? こちらにたまったま。こんなこともあろうかとっ! 『オーシ』で入手していたきわどい水――』


『――やっ!』


 ――グニッ!


『うちは着てもええどすけれど……。とりあえず――えぃ』


 ――グニグニッ!


 ――こんな理不尽(ひゃっほい)なやり取りがあったのだが……。


 さすがに氷が浮かぶ海へダイブッ! ってのは危ないだろうと言うことで、仕方なく。こうして橋を作ることにした。


「ふぅ……。キツイなぁ……」


「………………おじさん、にやけてるわよ……?」


「なんやか、あいや()に踏まれたいがために、あないなモンをこしらえとった気がしますぇ……」


 俺の顔にクッキリと残る聖痕スティグマをなぞりながら、悠莉とハオカがあきれ混じりに『高架橋』を見ている。――断じて俺は、そんな不純な目的であれを用意したわけではない。純粋な気持ちである。


 まぁ……。本当なら、俺の『空出張』が使えれば良かったんだろうけど。アレは『過労嗣』にささげた結果、当然のように『ロストスキル』になっちゃったしなぁ……。使おうと思っても、なんだか使えないんだよ……。


「――『暖房』……。思ったより使えなかったね?」


 パタパタとつながっていく『高架橋』を見ながら、悠莉がポツリとつぶやく。


「あれ使って、この海に入ったら即死亡……だよな……」


せえだい(せいぜい)が、冬んさぶい(寒い)日とか、水仕事で使えるくらいどすか?」


「そうだよなぁ……」


 つい先日。北の村『ソーイ』で習得したスキル『暖房』……。


 最初は、この極寒の海を泳ぐのに、このスキルが役立つんじゃないかと、その辺の氷をハオカに解かしてもらって、『暖房』を使用した腕をその冷たい水に突っ込んでみたんだが……。


「まさか、『寒い』と『あったか~い』がせめぎ合って、二秒ごとに切り替わるとは……」


 あれは心臓に悪かった……。海で使ったら、たぶん普通に飛び込むよりも高い確率で心臓発作を起こしてたかもしれない……。


 そうこうしているうちに、手元のギルドカードに手ごたえが……。


「おっ。到着したかな?」


「あれ? 思ったより早かったね?」


「こら、ふたりがかりで踏んや甲斐がおましたか?」


 思ったよりも早い、『高架橋』の完成に、悠莉とハオカがクスクスと笑いながら立ち上がる。


「んじゃ、行くか?」


「うんっ」


「はいなっ」


『シローンッ』


 こうして、俺たちはようやく……。


「まずは俺が……。――うん、乗れる」


「あ、じゃあ、次あたしっ!」


「――あぁ、悠莉はん、ズルい」


 短い引きこも――休養期間を終えて、『マコス大陸』から飛び立つのであった。


 そして、それから数歩歩いたところで……。


「――あ、そう言えばさ?」


「ん、どうした?」


「シロちゃん、どうするの?」


 ――あぁ……。そう言えば、この『高架橋』。俺たち三人が歩くことを前提にしてたっけ?


「まあ、泳いで? 来るだろう?」


「そうなんどすか? ちょい、かくに………………ん?」


 最後尾のハオカが、俺の言葉を受けて後ろをふり返ったらしい。


「? どうしたの、ハオ……カ……」


 続けて、無言になってしまったハオカを気にした悠莉が……。


「?」


 ふたりして無言になってしまったので、俺もふり返る……。


『シロン?』


 ――いったい、どんなバランス感覚をしているのだろうか……。


 ふり返った先では、天帝城が見事なバランスを取りながら、プルプル――いや、ゴゴゴ……っと言った感じで、人の肩幅ほどの『高架橋』上に建っていた。


「――ふたりとも……」


 そしてそれを見てしまった瞬間から。


「……なぁに?」


「かなん予感がしますけど……。なんどすか?」


 俺にはビンビンと感じるモノがある。


 ――それは……つまり……。


「――走れっ!」


 さすがに城なんか、支えられるかっ! ってことですよっ!


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――あれから数時間……。


「はぁ……はぁ……」


「あ、あたし……。いまならオリンピック出られるわ……」


「足がパンパンどす……」


『シローン……』


 崩れ落ちていく『高架橋』のギルドカード。


 それに巻き込まれないようにと、命がけで走っていく俺たちと天帝城。


「――どうやって走ったんだよ……」


『シロっ?』


 こんなお約束なピンチを、俺たちはともかくとして。巨大な城がどうやって……。


 そんな疑問が、次から次へと浮かんでくるなか……。


「――あ、おじさん、町があるよ?」


「おぉ……。良かった……休憩しようぜ……」


「そうどすなぁ。ちびぃっと、皆でご休憩と参りまひょか?」


 ――俺たちは『ウズウィンド大陸』へと上陸したのだった……。

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