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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
186/204

最強のこれから

続きです、よろしくお願いいたします。

……ノリと勢いの結果、本日、少し文字数多めです。ご容赦願います。

 ――マコス大陸 天帝城前――


 さて……、どうしてこうなったのだろうか……?


 城門前では、俺達二人を囲む様に、羽衣ちゃん、悠莉、ハオカ、気を失ったままの愛里、そして愛里に寄り添うピトちゃん、もも缶、ミッチー、サッチー、タテ、ペタリューダ、ティスさん、ダリー、寺場博士、ラヴィラ一味、アーグニャ、そして、何故かいるコラキ達――。


「さて、じゃあ、時間が無いから、とっととルール、そして、賭ける物を確認するよ?」


 ――俺達二人の間に立つ衛府博士が、何故かレフェリーの様に、両手で俺達を制しながら、指を一本立てる。


「まず、制限時間は十五分、決着は、相手を戦闘不能にするか、制限時間の経過。因みに、制限時間まで逃げ切れば、サラリーマン君の勝利となる。制限時間に関しては、一分前に、ベルが二回、制限時間ジャストで、ベルが三回鳴るからね?」


 衛府博士の言葉が理解出来ているのか、ラッコ男が「それで良い」と言いたげに頷き、ウズウズしている……。どんだけ、俺を殴りたいんだ、コイツ……。


 すると、ルールを聞いていた悠莉が、手を上げる。


「――それだと、おじさん有利過ぎない? 多分、この人、全ッ力で逃げ切るよ?」


「それは、私も同感だが、そもそも、このラッコ君は挑戦者であると言うのと、サラリーマン君にとっては、一撃喰らえば、ほぼ死――じゃない、意識不明になるだろうからね、実際のところ、条件的には互角――と言うか、サラリーマン君、頑張って……って感じかな?」


 衛府博士の言葉に、誰からともなく「あぁ……」と言う声が上がる。


 そして、サッチー……、スキルで俺の墓を作るのは止せっ! ――縁起でもない……。


「まぁ、そんな訳だ、両者、準備は良いかな?」


「ぶるぅぁ……」


「――はぁ……」


 顔を上げ、ウッキウッキのラッコ男とは対照的に、俺は俯き、ため息を吐く。


 ――俺、生きてられるかなぁ?


「おじちゃん、がんばってぇーっ!」


「羽衣ちゃん……」


 そんな、どうやって勝つのか……って、期待の目で見られても……。


「――悠莉、俺、この決闘が終わったら、血痕残すんだ……」


「おじさんっ、それ、言っちゃ駄目……、あれ? 何か納得?」


「そら……、一撃もろたら、血塗れやろなぁ……」


「ん、エサ王、ふぁいっ!」


 悠莉とハオカ、それにもも缶は、どこに持っていたのか、ケーキを食べながら、俺に手を振っている……。うん、完全に見世物扱いだな? お前ら……。


 一方、ミッチーと、サッチーは、何かを紙に書いて、円形状に俺達を囲んだ人達に回覧している……。


「自分は、やっぱ、おやっさんの逃げ切りッスね……」


「オレは、ツチノっちには、悪ぃけど……」


「あたくし……、今、持ち合わせが……」


 ――うん……、これは……、あれだな? てめぇら、賭けてんな?


 ったく……、人の生死を何だと……。


「――はいはい、じゃあ、構えて?」


 俺の背中をポンポンと叩き、憐みの目をしながら、衛府博士は俺とラッコ男に構える様に促す。


 ――目の前のラッコ男は、やはり……、嬉しそうにしている。


 そして、遂に――。


「――始めっ!」


 開始と同時、ラッコ男は、地面を強く蹴り、その拳を振り上げ、俺に迫って来た――。


「ぶぅぅぅるぅぁぁぁぁっ!」


 ――ラッコ男の右拳が、俺の横っ腹に狙いを定め、突き進んでくる。


「――んなくそっ!」


 流石に、初手の一撃で死んで……たまるかぁっ!


 俺は、左横っ腹全体を覆う様に、ギルドカードを展開し、強く、強くイメージする。


「――『リーマン流 塗り壁:蜜飴』!」


「――っ!」


 ラッコ男の右拳は、ドロッドロの粘性を帯びた、俺の『塗り壁』によって、その勢いを殺され、俺の左横っ腹手前、僅か数センチでピタリと動きを止める――が……。


「寸止めで、コレってぇぇぇぇっ!」


 俺の身体は、拳と横っ腹の隙間に生じた衝撃波の勢いに耐える事が出来ず、その場から四、五メートル程、吹っ飛ばされてしまった。


 痛くはない……、痛くは無いけど、ドヤ顔で技名を叫んだ自分がイタイ……。


 ――ああ……、もうっ! 顔が熱い……。


「――うぉうぇっ!」


 若干、回転も加わったもんだから、気持ちも悪いし……。


「ぶるぅぁ……」


 ラッコ男は、今の一撃で終わると思っていたんだろう……。その顔は心底驚いている様で、また、心底喜んでいる様でもあった。


 ――そして、手足を軽くブラブラとさせると、腰を低く落とし、再び、俺に狙いを定める。


「――ぅるぅぁっ!」


「――今度は、蹴りかよっ!」


 その場から一足飛びに、俺の目前に跳んできたラッコ男は、身体を捻り、回し蹴りの様な動きで、俺の頭を狙ってきやがった――。


「クソッ! ――『リーマン流 塗り壁:なんちゃって貼山靠』!」


 俺とラッコ男の間に、反発係数を限界まで上げた『塗り壁』を配置して、念の為に腕周りに硬度限界のギルドカードを纏い、頭を防御する。


 すると――。


「――ぶらっ? グググググルゥアッ!」


「グォォォォォォっ!」


 今度は、俺とラッコ男の身体が、一見、相討ちになったかの如く、同時に吹き飛ぶ。


 ――まぁ、実際、ラッコ男の攻撃の衝撃が、分散されただけなんだろうけど……。


「――……………………っ!」


 それでも、ラッコ男にとっては、信じられない事態だったらしく、目を大きく見開いて、こっちを見ている。――あ、ちょっと……って言うか、かなり悔しそう……。


 ラッコ男は、今度は無言で俺を睨み付け、腰を再び低く落とすと――。


「ぶぅるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 地面を揺るがすかの様な、凄まじい気迫を込めた雄叫びを上げ、再度、俺を睨み付けた。


 ――その雄叫びは、俺だけでなく、見物している皆に取っても、恐ろしいモノに思えたらしく、悠莉やハオカ達だけでなく、羽衣ちゃん、アーグニャ、ラヴィラ一味までもが、その身を震わせている。


 ――確かに……、この雄叫びだけで、身体は竦み上がり、普段なら、俺も動けなくなり、戦意喪失していただろう……。


 でも……、何故か……、今は、俺も気分が高揚しているのか、何かが……、込み上がって来る。


 よくよく考えてみれば……、こっちは、社会に出てからは、喧嘩なんざ、スッキリ卒業したっつうのに、何が……、「我が欲しければ、我を倒してみろ」だっ! ――んなセリフは、イイ足した姉ちゃんに言われたいっつうのっ!


 そして、段々とイライラが募って来た俺も――。


「――ざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 心からの叫び声を上げる……。こっちは、サービス残業だっつうのっ! 皆を助けたくて、ソレ覚悟で来たっつうのに、何で、こんな毛むくじゃらと、浜辺の鬼ごっこよろしくバトルなんざ、せにゃならんのだっ!


「――っ!」


 俺の叫び声は、結構な声量があったらしく、先程と同様に、皆が震えている……。あれ? 何か、ラッコ男も面食らったみたいで、硬直している。


 ――チーンッ、チーンッ!


 その時、制限時間終了一分前のベルが鳴り響いた――。


「――今のうちにっ!」


 俺は、ラッコ男から距離を取ろうと、バックステップで一歩、二歩と下がる。


「――ぶるぅぁっ!」


「チッ!」


 しかし、我に返ったラッコ男も、全力疾走で俺を追い掛け、拳を振り上げる。


 そして、その拳が俺の顔面を捉えそうになる――が……。


「――『リーマン流 塗り壁:回転扉』……」


「――ぶらっ?」


 ――拳が俺の顔に当たる直前、ラッコ男と俺の位置関係が逆転する。


 ラッコ男にとっては、俺が突然消えた様に見えたかもしれない……、小さい頃、会社の回転扉で、忍者ごっこをやった経験が……、まさか、今、俺の命を救うとは――。


「おじさん、これで逃げ切れ――」


 悠莉が安堵した顔で、俺が逃げきれそうな事を喜んでいるけど……。


 ――ゴメンッ!


「――っ?」


 ラッコ男は……、そして、見物している皆の驚きの気配を感じる。まぁ、それも仕方ないと思う……。


 だって――。


「――逃げない……のか?」


 ラヴィラが思わずと言った感じで、呟いた。うん、俺の行動を信じられないのも、無理はないと思う……。


 ――だって、今、俺……。


「うううううぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 ラッコ男の後ろから、腰に抱き付いていますから……。


「――っ! ぶ、ぶるぅぁっ!」


 俺の手を振り解こうと、ラッコ男がもがくが、そんな事させるかよっ!


 俺は、ラッコ男の足元に、ギルドカードを出現させ――。


「――『リーマン流 札落とし』!」


 その足元を掬い上げる。


 そして……、コレで……、止めだっ!


「――ったばれっ! ――『リーマン流 岩石落とし(バックドロップ)』!」


「ぶ……、ぶぅるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ラッコ男の身体が、その後頭部から地面に激突する――。


 そして、俺は土煙の中、フラフラと立ち上がり、空をぶち抜かんばかりに拳を突き上げる――。


 ――チーンッ、チーンッ、チーンッ!


 時間終了の鐘が鳴り響き、俺は真っ白に燃え尽き――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――なかった……。


「さて、手順は説明した通りだ……」


 ぐったりと、ハオカに膝枕される俺の前では、『柱』の『守護者』となるべき四人が、その説明を聞いている。――因みに、ラッコ男は、現在、気を失っている。


「――まずは、『接界』の中心が、恐らく、今、私達がいる場所だ、もっと言えば、そこの『長い棒』だね……、ソレを中心に、東西南北に、同じ様な『長い棒』を突き立てている」


 衛府博士は、中心の『長い棒』から、二、三十メートルの間隔で突き立てられている、四つの『長い棒』を指差す。


「まず……、中心は、アンコウちゃん、東は……そうだね、女王様が良いかな? ――うん、その『長い棒』を持って、立ってて? ――で、南は……、鳥頭さんで、西は白桃ちゃん、北は……、ラッコ君なんだが……」


「――ウリエチコ……」


 衛府博士が、横たわった状態のラッコ男を見ると、ラッコ男は、頭を左右に振りながら、ゆっくりと起き上がっていた。


 そして、俺の顔をジッと眺めると――。


「――我の……、負けだ……」


 そう……、言った……。――って……言うか……………………。


「――喋ったぁっ?」


 俺達が驚いていると、ラッコ男は、悪戯が成功した子供の様に笑い――。


「――初めて……、この……言葉で、会話するなら……、貴様と、勝敗を……語る……時と、決めて……いた……」


 まだうまく喋れないのか、途切れ途切れにそう話すと、ラッコ男は、コートを羽織り、テンガロンハットを被ると、煙草に火を付け、口に咥え――。


「――約……束……だ」


 ――そう言って、北の『長い棒』の傍に立ち、『長い棒』を握り締めた。


 俺達は、暫くの間、呆然としていたが……。


「――あ、えっと、じゃあ、あんな感じで……」


 衛府博士のその言葉で我に返り、配置に付いた。


「――再確認だ、まずは、私が装置を起動すると、君達の生命エネルギーが、『長い棒』に流れていく。すると、直ぐに『柱』が構築され始める。その間に、私達は『接界』を利用して、『地球』に帰る……。恐らく、こちらとの行き来は……、もう、出来なくなるだろうからね? ――まあ、『柱』の『守護者』は、行き来出来る筈だが――」


 ――ラッコ男が、ニタリと笑って、こちらを見ている……。つまり……、俺はまだまだ狙われるって事か……?


「――我々が去った後、『両世界』の距離を離し、更にその後、数分で『柱』は完成する。――それで、ミッションコンプリート……の予定だ」


 衛府博士の説明を、俺は頭の中でもう一度確認する――。


「ん?」


「どうしたの? おじさん」


「――何や、気になる事でも?」


 ――そう言えば……。


「――衛府博士、『両世界』の距離を離す方法は?」


 すると、衛府博士は「あっ」と言う表情を浮かべる。


 ――忘れてたのか……。


「え、えっとだね、私もそこの手順は分から無いんだ」


「――なっ、それでは……っ!」


 ラヴィラが食って掛かるが、衛府博士は「チッチッチ」と指を振り、そのまま、俺を指差す――。


「『思考実験』でも、ずっとそこが不明瞭だったんだけどね? ――サラリーマン君が、こっちに戻って来た時に、やっと、その部分が埋まったんだ……、どうやら、サラリーマン君の『空出張』と『過労祠』、そして、その小さな『スキル結晶』の力を合わせればギリ……、ギリッギリ、可能になりそうなんだ」


 ――衛府博士の説明によると、『思考実験』では、組合せが提示されるだけで、実際の手順については、スキル所持者である、俺に聞けって事らしい……。


「――多分、『過労祠』を使う前に、どう言う効果になるか、どう言う手順になるかが分かると思うから、今から確認してみてよ?」


「――ったく……、そう言う事は先に言って下さいよ……」


 ――本当に、心臓に悪い……。


「良いじゃん、あんまり気負うよりずっと良いよ?」


 悠莉は、帰れる事が嬉しいらしく、ニコニコとしながら、俺の背中をバンバンと叩いている。


「はぁ……、了解……、じゃあ、確認しますよ……っと……」


 頭の中で、『過労祠』の組合せをイメージする……。――対象は『空出張』……。


 ――お、来た……………………。


「――っ!」


「うん? どうだい? どうなの?」


 衛府博士は、待ちきれないと言った感じで、俺の表情を伺おうとしている。――『ポーカーフェイス』……。


「――うん、分かりました、ただ、結構、タイミングがシビアですね……」


「と、言うと?」


「はい、地面に手帳とギルドカードを設置して、『接界』が終わる瞬間のエネルギーも利用しなきゃらしいんで、取り敢えず、俺はギリギリまで地面に手帳とギルドカードを押さえてなきゃ、駄目らしいです。――なので、手順としては、皆は、『接界』による転移対象範囲内に、最初から居て貰って、俺は、範囲外ギリギリの所で、『接界』が始まったと同時にスキル発動、そして直ぐに範囲内に飛び込むって感じですかね?」


 ――俺の説明を聞くと、衛府博士は、暫く唸っていたが……。


「――そうなると、範囲計算をもう少し正確に行った方が……、でも、時間が……」


「ああ、大丈夫ですよ、俺には『塗り壁』を使った、高速移動も有りますし……」


 そう言って、「大丈夫、大丈夫」と笑い、俺は衛府博士に準備を進める様に告げる。


 そして――。


「我……は、再……戦……、挑む……ぞ……」


「――勘弁してくれ……」


 ラッコ男が口角を吊り上げ、凄惨な笑みを浮かべた瞬間、衛府博士が装置を起動し、ラッコ男の身体を中心とした『柱』が構築され始める――。


「――おじさま……、愛里姉様と……、ピト姉様を……、頼みますわ?」


「さっきも、衛府博士が言ってただろ? ――『柱』の『守護者』は、どちらの『世界』も行き来出来るんだから、向こうでも会いに行けよ」


 ペタリューダは、「そう言う意味では無いのですが……」と、苦笑いしながら、『柱』に囲まれていく――。


「――あらぁ? ここはどこぉ?」


「ティスさん……」


「うふふ……、冗談ですよ? ――貴方に助けて貰った御恩……、ここで返させて頂きますね……? あ、後、コラキちゃん達が、『地球』に行ってみたいらしいんで、お世話になりますね?」


「――え? こ、孤児院は?」


「あら? ――……………………………………ぁっ、……えっと、私が居るから、大丈夫ですよぉっ!」


 手を振りながら、ティスさんは『柱』に囲まれていく。


 ――正直、その命の危機は、もも缶によるものだったんだが……、まあ、黙っていよう……。そして、孤児院は……、行く末と経営が心配だから、俺が見守るとしよう……。


「――ちゅちのちゃん……………………ありがとう……ございました……」


「うぉぅっ! ――ア、アンさん……?」


 いきなり変わるとか……、ビックリしたぁ……。


 アンさんは、それからまた、アーグニャに変わると、キャッキャッと笑いながら、『柱』に囲まれていった――。


「ん……、ゆうり、エサ王……」


「――もも……」


「もも缶……」


 少しだけ不安そうに、もも缶は、俺達二人の名前を呼んだ。


「これ終わったら……、向こうの甘味屋、一杯、行こうね?」


「ん、桃缶一杯が良い……」


 少し、不安が晴れたのか、もも缶が柔らかく微笑む。


 そして、もも缶は、俺を見ると――。


「ん、エサ王、大好き、ゆうりと同じ位、大好き」


「――おう、嬉しいねぇ……」


 頭を差し出して来たもも缶を、俺と悠莉の二人がかりで、撫で回す――。


「ん、満足……、じゃあ、行ってくる」


「「また後で……」」


 そして、もも缶がコクコクと頷きながら、『柱』に囲まれ――。


「――皆、『接界』が始まる!」


 衛府博士の声が響き、俺を除いた皆が、『接界』の中心――アーグニャの『柱』周辺に集まる。


「おじちゃん、さきにいって、まってるねっ!」


「うごぉっ! お、おう……、羽衣ちゃん、足元、転ばない様にね?」


 羽衣ちゃんは、俺に飛び付き、満足気な表情を浮かべると、「ハーイ」と、元気良く、手を振りながら、今度は、『柱』に飛び付いて行った。


「あぁっ、姫ぇ、す、すいません父上、お先に失礼しますっ!」


「――ああ……、タテ、元――羽衣ちゃんを守るんだぞ?」


 タテは「ハイッ」と、どこで覚えたのか――多分、サッチー――綺麗に敬礼しながら、羽衣ちゃんの元へと駆け出して行く。


「おやっさん」


「お、コラキか?」


 ――声に振り向くと、コラキ、ペリ、イグルの三人が、遠足前の子供の様に――実際、見た目は子供だが――ウキウキとした表情で立っていた。


「――お世話になるの」


「ふ、不束者ですが、よろしくですっ!」


「三食昼寝付きって、ホントか?」


「――え? はぁ?」


「「「じゃ、またねっ!」」」


 どうやら、ティスさんは一回、叱らないといけない様だ……。


 ――俺は、スキップしながら中央に向かう三兄妹を見送り、決意を新たにする。


「おやっさん、先行ってるっスよ?」


「――あんまり、遅れんなよ?」


「ミッチー……、サッチーも、お疲れさん……」


 ――戦友ってのは、こういう物なんだろうか? 何となく、目だけで大体分かる気がして、俺達三人は、誰からともなく、手を高く上げ、パチンっと、手を合わせる。


「ダリーも……、やっぱりサッチーについて行くのか?」


「――あの人……、不安ですし、まあ、両親には、ももちゃんとかにお願いして、連絡を取りますよ」


 ――母は強しって奴なのか、カラカラと笑うダリーは、優しく手を伸ばして来たサッチーの手を取り、ゆっくりと歩いて行った。


「ピュイッ、帰ったら……、そこで……、寝て良いか?」


「――あんまり、毟るなよ?」


 ピトちゃんは、最後まで俺と目を合わさず……、その視線は、俺の頭部をロックオンしていた……。


 ――まあ……、了解を出した時の、フニャッとした笑顔を見れただけ良いか……。


「サラリーマン君……」


「薬屋君、お疲れ様……」


 衛府博士と寺場博士は、肩の荷が下りたと言った感じのスッキリとした表情で、俺に近付いて来た。


「――まだ、物足りない気はするが……、良いモノ、良い知識、良い土産が出来た、コレで……、私の研究は、前人未到のモノとなるだろう……」


「うわぁ……、悪い笑顔……」


「スマンな……、これでも、この子なりに感謝をしているんだよ……」


 悪役っぽい笑みを浮かべる衛府博士に、俺がドン引きしていると、寺場博士が、愛おしい者を見る様に、頭を下げ、そして――。


「――ありがとう……」


「いえ……、こちらこそ……」


 握手を交わし、寺場博士は、衛府博士を引きずりながら、中央に向かって行った……。――結局、あの二人は……、どう言う関係だったんだろうか……?


 俺が、若干、下衆りそうになっていると――。


「――うわっぷっ!」


 ――突発的な砂嵐で、目を塞がれてしまった。


「――ビックリしたぁ……」


 やがて、目が慣れ、ゆっくりと目を開けると、そこには――。


「――悠莉、ハオカ……、それと……愛里か……」


 俺の前には、悠莉とハオカ、そして、ハオカに背負われ、気を失ったままの愛里が居た……。


 どうやら、愛里は傷こそ塞がったものの、血を流し過ぎて貧血状態に陥っているらしい……。今のところ、衛府博士の何らかの処置で、小康状態らしいが……。


「――愛里の事……、頼んだぞ?」


「――うん……」


 悠莉が答え、ハオカは無言で頷く。


 そして、俺は、二人と、眠る愛里の頭を、クシャクシャと撫でると……。


「また後でな?」


「うん……」


「はいな……」


 そう言って、二人を中央に向かって押し進めた――。


 やがて、『地球』が徐々に、地面との距離を近づけ、周囲が光に包まれていく。


「――また……な?」


 久々に『地球』に帰れるとあって、はしゃぐ皆を見ながら、俺はスマホを取り出し、その光景を写真に写し撮り、そのまま、スマホのメーラーを起動する――。


「お……、行ったか……」


 その間に、周囲を包み込む光が一際強くなり、一人……、二人と……、人影が消えていく――。


「さて……と……」


 引き続き、メーラーで新規メールを作成し始める。――宛名は……。


「――美空に、悠莉に、愛里に、それと――」


 ポチポチと、それぞれ宛にメールを入力して送信前に、保存していく……。ああ……、美空には、コラキ達の事もお願いしておかなきゃなぁ……。


「後は、件名は……どうすっかなぁ?」


 本文自体は、それぞれ宛に出来るけど……、件名が浮かばないんだよなぁ――と、俺が頭を抱えたと同時……。


「――全件「嘘ついてゴメンなさい」……で、良いんじゃない?」


「――は?」


 ――グニッ!


「そうどすなぁ、よおもまあ……、あないな嘘をペラペラと……」


「――え、ちょ?」


 ――グニグニッ!


 心地良い感触が……、俺の顔面一杯に広がる――って……。


「――なっ、何で……、お前ら……」


 俺の前に立つ、二人の少女……。


「――何でって……、あたし、おじさんの『嘘』……、見抜けるし……?」


 ――一人は、アーモンド形のツリ目を少し細め、悪戯が成功したかの様に、ニッパリと笑いながら、腰に両手を当て、ふんぞり返っている……。


「うちは、どないな時でも……、もう二度と、旦那さんから離れへんって、決めてたんやし?」


 ――もう一人は、緋色の瞳を見開き、サイドアップにした髪を揺らして、頭を傾け、キョトンとした顔で俺の顔をジッと見つめている……。


「お前ら……、馬鹿だなあ……」


 俺の驚いた顔に満足したのか、二人はクスクスと笑いながら、小さなハイタッチを交わすと、再び、俺の顔を覗き込む――。


「いつかの、おじさんとの勝負の約束……、まだ、決着ついてないんだからねっ」


「うちは、ずっと……、貴方の傍に居ますぇ? ――それと悠莉はん、女の戦いは……、ここからが決勝戦……どすぇ?」


「………………」


 開いた口が塞がらない……とは、こういう事か? ――多分、今、俺は呆然としながら、にやけているんだろう……、火花を散らす二人の顔が、俺の顔を見ると、ニヤリと満足そうな表情に変わっていく……。



「えへへ……、じゃあ、取り敢えず、今後の話をする為にも……」


「お仕事……ですやろ?」


「――ああ……、そう……だなっ!」


 俺が立ち上がると、それまで、俺達の事をジッと見ていたらしい、ラヴィラが、口を開いた――。


「――お取込み中スマン……」


「「「――っ!」」」


 その瞬間、悠莉とハオカの表情が真っ赤に染まり、俺の顔が熱くなる。――お前ら、そう言えば居たのかっ!


「いや、冷やかすつもりではないんだが……、どうやら、私達も……、心残りが無くなったお蔭か……」


「――ソレは……?」


 気が付けば、ラヴィラ達四人の身体は、淡い光を放ちながら、崩れかけていた。


 ――その顔は、どこかスッキリしていて……。


「最後に……、君達に……、君達のその覚悟に、感謝を……」


「――っ?」


 ラヴィラ達が放つ、淡い光が、俺の身体を囲む様に、纏わりついて来る――。


「――僅かですが……」


「……………………命の力……」


「貸してやるよ……」


「――『スキル結晶』が必要なのだろう? 少しだけだが……、力を注いで逝く……、これで、『ギリギリ』が、『ギリ』位には、なるだろう? どうか、役に立ててくれ……、だから……」


 ――俺は、その場にしゃがみ、ラヴィラと視線を合わせ、コクリと頷き、告げる――。


「ああ……、この『世界』も、あっちの『地球』も、どっちも、絶対に消させはしない……。――だから、安心して……、心置きなく……、『世界(ここ)』は俺に……、俺達に任せて……、先に逝け……」


 俺の言葉が、最後まで聞こえたのかどうかは、正直、分から無いが……、ラヴィラ、グリヴァ、リンキ、アクリダは、最後に顔が皺くちゃになる程の笑顔を見せると――。


「…………」


 ――何かを呟き、そっと消えて行った……。


 すると――。


「――おじさんっ、ソレ……」


「こらまた……綺麗どすなぁ……」


『赤い石』――『スキル結晶』が光を放ち、俺の懐から飛び出して来た。


「そうか……、始めろって事か……」


 俺の呟きに、二人の喉が小さく鳴る。


 ――俺はそのまま、地面に手帳を広げ、そこに大きく『空出張』と書き記す。そして、そのページに、ギルドカードを挟み込むと、手帳を地面に押さえつけたまま、大きく息を吸い込む。


「――よっと」


「失礼しますぇ?」


「おぉ……?」


 すると、二人が、俺の手の上に、そっと、自分の手を重ねて来た。


「まぁ……、何となく……」


「同じく……」


「――ありがとうな?」


 そして、俺は改めて、意識を手帳に挟んだギルドカードに集中させる――。


 それに呼応する様に、『スキル結晶』が俺の目の前で輝きを増し、クルクルと回り始める。


「――『過労祠:空出張』……」


 ――黄色と黒の光が、俺達三人を中心に、暴れ始める……。


 光が徐々に強くなると、手帳に挟んでいたギルドカードが、俺の目の前に浮かび上がり、キラキラと輝いている。


「――きゃぁッ!」


「こら……あかん」


 やがて、ギルドカードを中心とした光の奔流が、俺達三人を吹き飛ばしそうになる程強まった時、俺の頭の中に……、声が響いた――。


 そして、俺は……、ギルドカードに僅かに反射して映る、金色の瞳を見つめながら、羽衣ちゃんや、愛里や、皆の事を考え、最後に目の前にいる二人を思い、強く抱き寄せ、『世界』に告げる――。


「――『(メガリ・)(ィパンギルマティコ・)(タクシディ)』!」

次回、ラストです。

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