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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
184/204

Not Smart But Hero

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――天帝城『地下牢』――


 ――椎野が『玉座の間』に現れた頃、天帝城の『地下牢』にもまた、忍び寄る者が居た。


「――ここは?」


「お目覚めですか……、主……」


 目を覚ましたクリスの傍に、ティグリが控えていた――。


「ティグリ……、お前が……これを?」


 クリスは、自分を縛り付けていた、何らかの装置を顎で差し、ティグリに問い掛ける。


 すると、ティグリは静かに頷き、クリスの問いを肯定し、そのまま顔を上げると、クリスの目を見ながら、告げる――。


「――助けに参りました……、主」


「チッ……、俺は囚われのお姫様かよ……」


 クリスは不機嫌そうに、呟くと、そのまま立ち上がり、周囲を見渡す――。


「さてさて……、どうすっか……」


「――主、このままお逃げ下さい……、そして……、生き延びて……下さい……」


 ポリポリと頭を掻き、逃げ道を探るクリスにそう告げると、ティグリは、自身が来た道を指し示し、そう進言する。


「あ? んだよ、てめぇが案内すんだろぉがよ」


「いえ……、主、吾輩は……行けません。――ここまで……です……」


 寂しそうにそう告げると、ティグリの身体は、サラサラと、砂の様に崩れていく。


「――は? ど、どういう事だっ! て、てめぇ……、俺を助ける為に……、命懸けたってのかっ?」


 ――クリスの問いに、ティグリは答えず、フッと笑みを浮かべ……。


「もう一度……、言い……ます……、生き延びて……」


 そして、そのまま風化する様に、消えてしまった……。


 クリスは唖然とし、暫くの間、ティグリが居た場所を眺めていたが……。


「――んだよ……、そりゃ……、んな、敵地のど真ん中で、どぉやって逃げるっつぅんだよっ!」


 クリスは取り乱し、蹲ると、地面を何度も何度も、繰り返し、叩き続ける。


 すると、ティグリが居た場所に、砂状の何かが再び集まり人の形を取り始める――。


「――あ? ティ、ティグリか? やっぱり、お前……」


「あー、ごめん、俺はティグリじゃねぇんだわ……」


 ――そこに現れたのは、『菌伯獣』ボゾア……、栗井博士が、自らの直属として生み出した、最弱の『伯獣』である……。


「……どう言う事だっ、説明しやがれっ!」


 ――詰めよるクリスに、ボゾアは、困った様な表情で、説明を始めた……。


「あんな? ティグリはよう……、裏切り者の、ミクリスとの戦いで相討ちになって、イナックス大陸の端っこで、死んじまったんだわ……」


「――は? なら、さっきのティグリは?」


 訳が分から無いと言った苛立ちを見せながら、クリスは、更にボゾアに詰め寄る。


 すると、ボゾアは観念した様に、バツが悪そうに、語り続ける――。


「――実はよ? 俺ぁ、瀕死の生物を分解して取り込むってぇスキルを持ってんだがよぉ……、あん時、漁夫の利を狙ってよ? 瀕死のミクリスと、ティグリを取込んだまでは良かったんだがよぉ……、ティグリの「主を助けたい」ってぇ意思が強すぎてよぉ……、そんままじゃぁ、俺の意識の方が呑まれかねないってぇ思ってよぉ? 妥協案として、ティグリの望みを叶えて、大人しく去ってもらう事にしたんだわ……」


「――んだよぉ……、そりゃ……」


 ――ブツブツと、誰に対する文句なのか、やり場の無い、モヤモヤとする気持ちを、クリスは呟き続ける。


 ボゾアは、そんなクリスの様子を、気まずそうに眺め、ふと、ある事を思い出し、クリスに告げる。


「――まぁ、そんな訳で、俺ぁ、これから俺の主を助けに、『地球』とやらに行くつもりなんだわ……」


 未だに戸惑いの表情を浮かべるクリスから、視線を逸らさず、ボゾアは話し続ける。


「――んでな? 俺のスキルで、身体を粒子化して、『地球』が迫る時まで隠れる事にするつもりなんだがよぉ、一人位なら便乗できるんだわ……。――ついでだから、アンタも来ないか?」


「――あ? 何、言ってんだ……?」


 差し出されたボゾアの手を見た後、クリスは訝しげな表情を浮かべる。


 ボゾアは、そんなクリスに向けた手を、引っ込める事無く――。


「主――栗井博士がよぉ、「地球でなら、こっちでやった事の立証が難しいから罪に問われにくい」って、言ってたからよぉ……。――アンタ、こっちだとお尋ね者だろ? 俺らと一緒によぉ、向こうで一からやり直さないか?」


 ――そう告げた……。


 クリスは、暫くの間、悩んでいたが……。


「………………「生き延びて」……か……」


 そう呟くと、ボゾアの手をガッシリと掴み返し、そして――。


「――ただ……、ビオさんには……、キッチリ、借りを返しときてぇな……」


「おぉっ、良いぜ? あんま時間かけんなよ?」


 ――二人は粒子となり、その場から姿を消した……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城『玉座の間』――


「――いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


『玉座の間』に、消滅するドラコスのの断末魔の叫びが響き渡った――。


「――騒がしいな……」


 そう呟き、ラヴィラは遂に目を開け、眼下で戦闘を繰り広げている、俺達を見下ろしている。


「――ん、『カトラリ・ミート』!」


「グァッ! ――まだ……『大津波』っ!」


 ――おっと、今は目の前のグリヴァだ……。


 俺は、もも缶の前に幾つかの『塗り壁』を配置して、グリヴァが放った四連の突きをいなす。


 すると、グリヴァは、僅かに驚いた様な表情で、俺を見る。


 ――しかし、そのよそ見は……、一対多の状況では、非常にまずいよ?


「――隙……ア……リィィッ! 『二等星(セカンド)』ォッ!」


「――ガッ!」


 ――俺を見たのは、僅かに一瞬……、だけど、その隙を、悠莉が見逃す筈も無く、盛大に頭突きをお見舞いしていた。――あれは、痛いぞ……。


 まぁ、正直、ほぼ六対一でフルボッコ状態なんだが……。


「悪いな、グリヴァ……、こっちも急いでるんだ……」


「――ふ……ふふ……、仕方……無いですよ……、互いの故郷の……為、ですからね……」


 ――その割には、何だろう? グリヴァは、もも缶の成長ぶりを楽しんでいる節があったんだが……。気のせいか?


「じゃあ、取り敢えず、全部終わるまで、眠って居て貰おうかな?」


「――そうは……、問屋がおろしません……よ?」


 グリヴァは、銛を振り回し、俺と向かい合う……。


 ――しかし、スマン、グリヴァ。


「――埋まれ! 『土竜叩き』!」


「――んがっ!」


 背後から忍び寄ったサッチーが、スキルで生み出した土製のハンマーが、勢いよくグリヴァの頭に振り下ろされる。


「勝てば……官軍……。――うん……」


「だ、だよなぁ?」


 悠莉、もも缶、ペタリューダからの、熱い視線を受けて、俺とサッチーは、乾いた笑い声を上げながら、縮こまる。


 ――だって……、ねぇ?


「――おやっさん……」


「旦那さん……、相も変わらずどすなぁ?」


 更にそこに二人が追加され……、俺とサッチーは、何故か、二人して正座する羽目に――。


 すると――。


「――ク……クククッ」


 俺達の頭上、玉座に座ったラヴィラが、突如、笑い声を上げ始めた。


「な、何がおかしいんだよっ!」


 ――あ、サッチー……、それは、まぁ……、仕方ないよ?


「いや、失敬……、色々思う所があってね? まさか、私の部下が、こうも遊ばれるとは、思ってもいなかったよ……」


 ラヴィラは、床に転がっているアクリダ、リンキ、グリヴァ、そして、消滅してしまったドラコスが居た辺りを見渡すと、徐々に、浮かべていた笑みを消していく。


 やがて、完全に無表情――いや、不機嫌な表情を浮かべ、玉座に座ったまま、頬杖を突き、俺達を、冷たい目で見下ろし、口を開いた――。


「――役立たず共め……、アーグニャにしろ、ドラコスにしろ、グリヴァにしろ、どいつもこいつも……」


「ふふふ……、残るは、アンタだけだぜ? 降参すんなら、今のうち……だぜ?」


 ――サッチー、暫く見ない間に、(口は)立派になって……。


「ん、グリヴァ、悪く言うの、ダメ」


「――そうよね、自分の為に尽くす人を悪く言うのって……、男としても、王様としても、最低よね?」


 ――もも缶と、悠莉は、グリヴァへの扱いに対して怒っている様だ。


 まぁ……、それは、俺も同感だけどな。


「んふふ……? 偉い人を打ち据える快感……、もう一度、味あわせて頂きますわ?」


「そうどすなぁ、おいたしたら、お仕置きをあげな……ねぇ?」


 ペタリューダは、鱗鞭をペシペシと振り回し、ハオカはバチをクルクルと手の中で回転させ、ラヴィラを冷たい目で見ている。


「――ランららーん」


 ――ティスさんは……まぁ……、良いか。


「――まぁ、そう言う訳だから……、ラヴィラさん、覚悟してくれ……」


「フン……、良いだろう、かかって来るがいい……。――出来るものならな?」


 玉座から立つ事も無く、ラヴィラはそう言い放った。


 そして、その言葉を合図に、まず飛び出したのは――。


「――『ノコギリソウ』ッ!」


 ――ミッチーだった。


 ミッチーは、勢いよく飛び出すと、ラヴィラが座る玉座を目指し、階段を駆け上がって行く。


 そして、そのまま、ミッチーが、階段の中程まで上った、その時、遂に、ラヴィラが立ち上がリ――。


「――頭が高い……『控えよ』」


 ラヴィラは、小さな声で、そう呟いた。


「「「「「「「――っ!」」」」」」」


 その瞬間、階段を駆け上がっていたミッチーと、他の皆の動きがピタリと止まる。


 そして、ミッチーは、動きを止めたまま、階段から転げ落ちてしまった。


「――フン……、戦士である限り……、私に逆らう事は出来ん」


 ラヴィラは、玉座から立ち上がったままの姿勢で、俺達を見下ろしている。


 ――逆らう事は出来ない? どう言う事だ?


「私は、人でありながら……『獣士』へと至った者、人の頂点、獣の頂点、そして……、戦士の頂点なんだよ……。我がスキルは、戦士の身体を支配し、動きを封じ、また、戦士のスキルを支配し、無効化する……、もう一度言うぞ? ――貴様等は、私に逆らう事は出来ん、つまり、倒す事など、絶対に出来んっ!」


 そして、ラヴィラは、勝ち誇り、余裕に満ちた表情で、その場から一歩を踏み出し――。


「――ぬぉっ?」


 ――俺が仕込んでいた『札落とし』に引っ掛かり、先程のミッチーと同様に、バランスを崩し、階段を転げ落ちてしまった……。


「「「「「「「……………………」」」」」」」


 動きを封じられた皆は、笑い声すら上げる事が出来ないんだろう……。しかし、その表情は、今にでも腹を抱えて笑いだしそうな程に、プルプルと震えている……。


「なっ、なななな……」


 どうやら、ラヴィラは、何が起こったのか、一瞬、理解出来なかった様で、キョロキョロと首を動かし、やがて、(犯人)の姿をその視界に捉え、顔を真っ赤にすると――。


「キ、貴様かっ! ――本当に……、本当に最後まで小賢しいっ!」


 そう言って、俺の顔を見ながら舌打ちし、その腰に下げた剣に手を掛ける。


「まぁ良いだろう……、長い人生の中で、ここまで虚仮にされたのは初めてだ……。――お礼に、素晴らしいショーを見せてあげよう……」


 ラヴィラは、剣を振り上げ、構えると、動けずにいる悠莉を目がけて、駆けだした――。


 そうか……、ソレが……お前の、やり方か……。――ならっ!


「――仲間が無残に切り刻まれる様をっ! そこで、指をくわえる事すら出来ずに、私にたてついた事を、後悔しながら、見届けるが良いっ!」


 ――そして、勢いよく走るラヴィラの剣が、悠莉に届くまで、あと一歩――と言う所で……。


 ――ゴインッ!


 馴染み深い、衝突音が、俺達の耳に響き渡る――。


「――っ。が、な、き……?」


 鼻を真っ赤に染めながら、ラヴィラは顔面を押さえ、一歩、二歩と、後退って行く――。


「キ、貴様……、まだ仕込ん――ブゲェッ!」


 顔を真っ赤にして、憤慨し、俺を睨み付けて来たラヴィラを……、俺はギルドカードを丸めて作り上げた『親父の拳』でぶん殴るっ!


「「「「「「「「………………」」」」」」」」


 悠莉達に加えて、意識を取り戻し、事の成り行きを見守っているらしきグリヴァまでもが、呆気に取られている。


「――な、何故……、今のは……?」


 ――さて、畳み掛けるなら、この辺かな? 今なら、動揺してるっぽいし……。


 俺は、その場から一歩、二歩、三歩と、殴られ、蹲るラヴィラに向かって、歩き出す――。


「――っ! ば、馬鹿なっ! 何故……、何故動けるっ! 何故、スキルが使えるっ! ――有り得んっ、こんな事は、有り得んっ!」


「有り得ん――って言われてもなぁ……」


「――グヴァッ!」


 もう一丁、『親父の拳』を叩き込み、ラヴィラを仰向けに転がす。


 ――正直、俺もよく分から無いんだよな……。ミッチーが転げ落ちた時も、皆が固まった時も、「ん? 何やってんの?」って感じだったし……。


「有り得ん、有り得ん……、有り得んっ! 全ての戦士は、この私に逆らう事は出来ん筈だっ! ――例え、同じ『獣士』であっても……、それは絶対だッ! ――『大戦王メガリ・ポリミスティス』!」


 ラヴィラの全身が黄金の輝きに包まれる――。


 そして、光が収まると、そこには、黄金の甲冑に身を包んだラヴィラが、立っていた。


「――どんなインチキだか知らんが……、これで、終わりだッ! ――『控えよ』!」


 ラヴィラの全身から、黄金の光が放たれ、悠莉達だけでなく、グリヴァや、気を失っている筈のリンキ達までもが、跪く格好で、ラヴィラに頭を垂れている――。


 しかし――。


「――『リーマン流 親父の拳』!」


 ――今度は、下から突き上げる様に。ラヴィラの顎を目がけて、振り抜いてみる。


「なっ、グボァッ!」


 相変わらず……、俺にはラヴィラがどうしたいのかが分からん……、いや、跪かせたいんだろうなぁとは思うんだが……。


「何故だ……、何故だぁっ! 貴様、一体……、何なんだっ!」


 ――いや……、何なんだ……って、只のサラリーマンなんですが……って……。


「――あぁっ!」


「――っ!」


 成程……、何て……馬鹿馬鹿しい……。


 ――タネが分かってしまうと……、俺の一挙手一投足をビクビクしながら伺っているラヴィラが、少し、哀れに感じるな……。


「――『控えよ』、『控えよ』、『控えよ』、『控えよ』! ――っ! 有り得ん、何故だっ!」


「「「「「「「「………………っ!」」」」」」」」


 ――乱発は、どうやら、悠莉達にかかる負担が大きいみたいだな……、手っ取り早くタネバラして、止めさせるか……。


「だって……、お忘れかもしれませんが……、俺――って言うか、『サラリーマン』って、戦士――つまり、戦闘職じゃなくて、事務――非戦闘職ですよ?」


 その瞬間の、ラヴィラや、先程のラヴィラのスキルで気が付いたらしき、グリヴァを始めとした、ラヴィラ一味、俺の仲間達の顔は……、是非とも写真で撮っておきたい程、面白かった――。


 ラヴィラを除いた、ラヴィラ一味は、「――えぇ……」って感じで、俺の仲間達は、「あ、そっか、でもバラしちゃダメじゃんっ!」って感じで、俺の顔を眺めている。


 そして、余りの衝撃に、思わずスキルの威力を弱めてしまったらしき、ラヴィラは――。


「――ぁ……」


 口を大きく開けて、呆然としていた――。


 あ、これ、チャンスじゃない?


「えいっ!」


 ――『札落とし』っ!


「――グァッ!」


 後頭部から、地面に激突したラヴィラは、地面に寝っ転がったまま、暫く茫然としていたが……。


「ふ……、ふふ……、ふははははっ!」


 ゆっくりと立ち上がると、その手で顔を覆い隠して、狂った様に笑い出し、黄金の甲冑姿から、いつもの姿に戻ってしまった。


 ――もしかして、頭を強く打ち過ぎたか? 階段から落ちたし、今も転んだし……、ちょっとやり過ぎた?


「そうかそうか、まさか、私のスキルに……、よもや、そんな落とし穴があるとはな……。――はぁ……、しかし、それならば……、(コレ)で斬り伏せるだけよっ! ――所詮、非戦闘職っ! 純粋な戦闘力では、まともに立ち回る事も出来――ま……い……?」


「――いやぁ……、それは、その通りだから……、アンタが呆けている間にさ……」


 ラヴィラは、本日何度目か、と言いたくなる程、呆気に取られた表情を浮かべている。


 その視線は、俺と、剣の刀身――があった辺りを見比べている。


「何を……した……」


「うん、切っちゃった!」


『旋盤牢』……、久々に使ったけど、相変わらず良い切れ味してんなぁ……。


 俺は、内心で自分の繰り出した技に、惚れ惚れしながら、軽く体をほぐし、固まって俺を見ているラヴィラを睨み返して告げる。


「って事でさ、そろそろ……決着付けようぜ?」


 俺は、拳を構え、ラヴィラを手招きすると、なるべく不敵に見える様に、自信あり気に微笑む自分をイメージする――。


 ラヴィラは、またもや呆然としていたが、やがて、口角を上げ、ラッコ男には及ばないものの、微凄惨な笑みを浮かべる。


 そして――。


「――ククク……、良いだろう、面白いっ!」


 ラヴィラはそう叫ぶと、剣を捨て、俺の傍に来て、俺同様に拳を構える。


「――さぁっ! 遠慮はいらんっ! 来いっ!」


 ――じゃぁ、遠慮なく……。


「私、こういう者でございます――」


「――はっ?」


 慣れた仕草、慣れた手順で、俺は名刺(ギルドカード)をラヴィラに向かって差し出す――。


「「――っ!」」


 ――ガゴンッ!


 羽衣ちゃんを始めとした多くの人に、さんっざん鍛えられた俺の頭と、凝り固まったラヴィラの頭が激突する。――痛え……、思ったより固いぞ……。


「ア……? ガァ?」


 ――ラヴィラは、何が起きたのか分から無いと言った感じで、ポカンと俺の顔を見つめていたが……。


「――セイッ!」


「ガァ――」


 そこに、もう一度、今度は『名刺交換』の効果でなく、俺自信による頭突きを喰らわせる――。


「貴……様……、戦士として……恥ずかしく……無い……のかぁっ!」


 ラヴィラは悔しそうに、そう叫ぶが――。


「だから……、俺、戦士じゃないっつうのっ! ――それに……、『礼儀作法』は、サラリーマンの立派な武器だっつうの」


「――ゴァッ!」


 ――スーツの襟を正し、止めに『親父の拳』を叩き込む。


「「「「「「「「――うわぁ……」」」」」」」」


 気を失ったラヴィラに、同情の視線を向ける仲間達――。


「うっ♪」


「父上っ!」


 ――まぁ……、羽衣ちゃんと、タテが喜んでくれているみたいだし……、これで良いんだ……。別に、悲しくなんてないっ! ないよ……?

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