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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
182/204

満を持して

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――さて……、少しだけ――小一時間程前の事だ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ『衛府博士(寺場博士)の研究室』――


「――な、なな何だっ!」


 衛府博士と寺場博士が、顔を真っ青にして驚いている。


 ――まぁ、そりゃあ……、天井にいきなり穴が空けば驚くのも無理はないよな……。


「――意外と衝撃が無いのがビックリだ」


 天井にぶつかる寸前位から、俺自身に来る衝撃も、それなりのモノと覚悟してたんだが、終わってみれば、ちょっと軽トラに小突かれた程度のモンだった……ハハッ……。――何で、『加護』絡みのスキルは俺に厳しいんだろう……。


「サ、サラリーマン君……? ――え、君……さっき……、え?」


「――薬屋君っ? ははっ……、やはり……、いや、でも……、どうやって?」


「あ、どうも……、只今帰って参り――「おじちゃんっ!」――グェッ!」


 俺が両博士に、帰還の挨拶と、事情説明を始めようとした時、俺の意識が一瞬だけ、ブラックアウトした――そう……、奴だっ!


「――羽衣ちゃん、ギブ……、苦……しい」


「やぁっ!」


 羽衣ちゃんは、俺の肩に飛び乗り、俺の頭(指定席)をガッシリとホールドしていたんだが……、ホールドし過ぎで、心臓から脳に送られるはずの赤い液体が……回っていかない……。


「ちょ、ちょっとだけ、緩めて……?」


 俺のクールな提案に、羽衣ちゃんは渋々と言った感じではあったが……。


「――もぉ、おじちゃんはしかたないなぁ!」


 ――満面の笑顔で、ホールド対象を俺の長い友だけに絞り込み、首のホールドを緩めてくれた……。ああ……、ブチブチって音が、今は懐かしい……。


「――で? 色々、説明してくれるんだよね? ね?」


「そうだな……、手短に頼むよ? 薬屋君……」


「あ、そうでした――」


 ――命の危機にうっかりと忘れていたが、両博士の興味津々と言った表情で我に返り、俺は頭上で暴れる羽衣ちゃんを押さえながら、両博士に病室からここに至るまでの経緯を一通り説明した。


「何と言うか……、悪意なのか、善意なのか……」


「うん、うん……、遊ばれてるねぇ?」


 寺場博士、衛府博士の感想は、こんな感じだったなぁ……。


「それで、ですね……、今からサクッとマコス大陸とやらに行きたいんですけど……」


「――ん? んん? サラリーマン君のその新しいスキルは?」


「それがですね……、今のところ充電期間と言うか……」


 ――地球に意識を向けると発動できそうなんだが……、マコス大陸に意識を向けると発動出来る気がしないんだよなぁ……。


「――って事です……」


「ウム……、何ともまぁ、使い勝手の悪い……」


「うんうん……、って事は、私の出番かな?」


 同情の視線を向けてくれた寺場博士の隣で、衛府博士がとても……、とても悪い顔をして、そう言った。


 ――どうしよう……、今からでも別の伝手を辿るか?


「――さて、じゃあ、早速『実験』に移ろうか? ――臨時助手君っ!」


 俺が衛府博士の邪悪な笑みに、嫌な予感がしてさり気なくその場から立ち去ろうとした、その時――。


「――『聖壁』。これで、良いんですか……って、ツチノさん?」


「ピュイッ? お前、生きてたっ!」


「――え、ピトちゃんと……、ダリー?」


 清浄っぽい盾に囲まれ、動きを封じられた俺の前に現れたのは、若干大きくなった様な気がするお腹を抱えた女性――ダリーと、その肩に乗る小鳥――ピトちゃんだった……。


 ――そんな訳で……。


「――ねぇ……、これ、どういう事ですか?」


「試してみたかったんだ……『飛行実験』!」


 俺はあの後、はぁはぁと息を荒くするダリーによって、俺の頭(指定席)に座す羽衣ちゃんを引き剥がされ、そのまま、ここ――巨大な大砲の中に入れられていた……。


「――え? まさか、これで……? 冗談……ですよね? て、『転送実験』は? アレがあるでしょっ!」


 俺の悲痛な訴えを、衛府博士は、俯き「クククッ」と笑い声を堪えながら――。


「――『報連相』の件もそうだがね……、どうやらマコス大陸には何かの妨害が働いているらしくてね……。今のままでは、『転送実験』が上手く出来ないんだ。――そこで、誰かに、マコス大陸に向かって貰って、コレでマーキングしようって話になってたんだ……」


 そう言って、衛府博士が取り出したのは――。


「また……、『長い棒』ですか……」


 ――衛府博士……、どんだけ『長い棒』が好きなんだよ……?


「――と言う訳で、これを持って行ってくれたまえ」


 衛府博士が、大砲の中に『長い棒』を突っ込む。


 ――そして……。


「向こうに着いたら、そうだな……、出来れば城の中に、その棒を突き立ててくれ。そうすれば、その瞬間に、私が気付ける様になっている」


「――薬屋君、頼んだぞ?」


「ダーリンに、そろそろ行きますと、伝えて下さいね?」


「――う? おじちゃん、ういも、その中、入ってみたい……」


「ピュイッ! 空を飛んで、ピトの偉大さを知ると良いっ!」


 大砲に突っ込まれた俺に向けて、それぞれが、手向けの言葉を贈ってくれているが……。


「――ちょ、ちょっと、トイ――「ゴーッ!」レェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!」


 ――せめて、カウントダウン位、欲しかった……。今思えば、『加護』はまだ、俺に優しかった気が……する……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――マコス大陸 天帝城前――


「――『ほいしょぉ』!」


 ペリが棍棒を地面に叩き付けると、地面に、底の見えない、大きな穴が空く――。


「ナイスだ、ペリっ! ――『八咫』!」


「止めのプレゼントですっ! ――『集爪』!」


 コラキが錫杖を鳴らし、その音で怯んだ冒険者達を、イグルが四方八方から蹴り転がし、ペリが開けた大穴に落としていく――。


「――もいっちょなの、『ほいしょぉ』!」


 そして、ペリが再び棍棒で地面を叩くと、その穴が、僅かな隙間だけを残して埋まっていく。そして――。


「「「しゅーりょーっ!」」」


 三人は、「ヘーイ」と頭上で手を叩き合わせ、一仕事終えた事を確認した。


「――ま、空気穴はあるし、死にゃしないだろ」


「コラキは、足止め位しかしてないです……」


「――一番頑張ったの、私なの……」


「う……、ま、まぁ、良いじゃん――って……、何だ、ありゃ?」


 このままでは、兄貴的立場がヤバイと感じたコラキが、ふと、二人の視線から顔を背け、空を見上げた時だった――。


「? 鳥……なの?」


「――魔獣じゃ……ねぇな……」


「あれは……、おやっさんです!」


「「――へ?」」


 目を輝かせるイグルを見て、コラキとペリは一瞬、「大丈夫か?」と言いそうになったが――。


「――いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 叫び声を上げ、城に墜ちる姿を暫くの間、眺め続け――。


「――おやっさんだ……」


 ――そう、呟いた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城 ロビー――


「――こ、腰が抜け……てないな……」


 ――取り敢えず……、『長い棒』を、俺が抉ってしまった城の床に突き立てる。


 すると、直ぐに……。


「――お、着いたね?」


「早っ!」


 衛府博士達が、毒々しい輝きと共に、俺の前に現れた――。


「って言うか……」


 何で、羽衣ちゃんに、ピトちゃんまでいるんだ? ――危なくないか?


「ん? んん、取り敢えず、色々計測に人手が居るからねぇ。――園児ちゃん達は、正直、申し訳無い……、ついて来ちゃった……」


「うっ! ついてきちゃったっ!」


「ピュイッ!」


 ――そうかぁ……、ついて来ちゃったかぁ……。


「――あふっ!」


「――はぁ、仕方ないなぁ……、羽衣ちゃん、ちゃんと、ダリーの傍に居るんだよ?」


 俺は、ダリーに鼻血を拭く様に伝えた後、(別の不安はあるが)ダリーに、羽衣ちゃん達の護衛をして貰う為に、羽衣ちゃんに向かって、ダリーから離れない様に、言い聞かせようとしたんだが――。


「やっ! ういは、しばらく、ここにいるのっ!」


 ――サッサカと、俺をよじ登って来てしまった……。


「――はぁ……、仕方がないなぁ……」


 それから、危なくない限りは――と、羽衣ちゃんをそのまま担ぎ、何故か壁に空いていた穴を辿って、城の中を探っていたんだが……。


「誰かいるっぽい……」


 ――とある部屋の中から、何やら人の叫び声や、争う音が聞こえてくる。


 ちょっと用心して、隙間から中の様子を伺って見れば……。


「――あっ! もしかしなくても、ピンチ?」


 気が付けば、倒れているらしき愛里達や、他の仲間達の周囲に、『塗り壁』を置きまくっていた……。


 ――そして、何とか、最悪の事態は回避できたみたいだが……。


「わぁっ、わぁっ!」


 何故か、羽衣ちゃんが大興奮で――。


「サッラサッラ、サッラサッラ、サッラリーマーン~♪」


 歌いだしてしまった……。


「――羽衣ちゃん、ちょっとシーッね?」


「う……? ――っ! わかったっ!」


 羽衣ちゃんは、俺が「静かに」と訴えかけると、目を輝かせて、何度も頷き……。


「――とーじょーしーんでしょ? うい、知ってる!」


 ――何を思ったか……、勢いよく、扉を開けてしまった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――その後は、皆さん見た通りです……」


 あの後、ギルドカードを駆使して、ほぼ強引に、皆を部屋の入り口近くに集めた、働き者の俺に待っていたのは――。


 ――グニグニグニグニグニ……。


「で? 言いたい事は?」


 悠莉とハオカ(二人の鬼)による、理不尽(素晴らしい)仕打ち(ご褒美)であった……。


「――悠莉、ハオカ……、人は……空なんて飛ぶもんじゃない……、地に足付けて生きるべきだよ……」


「――ほして? 他に何や、言いたい事は?」


 ――ああ……、悠莉はともかくとして……、何故、ハオカに踏まれているのかは分からんが……、まあ、これはこれで……。


「おじちゃん、しんぱいかけたら、ごめんなさい、しなきゃなんだよ?」


 うぐ……、そう言えば、そうでした……。


「――心配かけて、ごめんなさい……」


「はぁ……、良いわよ、もぉ……、生きててくれたし……」


「うちは、ようちびっと早う呼んで欲しかったんやけどね?」


 成程、ハオカがお怒りの理由はソレか……。


「――ごめん、本当……、色々とごめん。お詫びと、その他は後で幾らでも聞くから……、取り敢えず、今は……」


「――あいつ等ッスね?」


 ミッチーは鬼気迫る表情で、何か白いのを見つめている。


 ――何か、これは一人にしちゃマズイかな?


「オッケー、じゃあ、ミッチーとハオカは、あの白い奴、悠莉とティスさんは、引き続き、グリヴァの相手、俺は両チームのサポート、タテは主に羽衣ちゃんの護衛をしながら、調査で別行動を取る衛府博士のサポート……で、良いか?」


「「「「「「「「ハイッ」」」」」」」」」


 俺の提案に、ミッチーが若干、一人でやりたそうだったが、頷いてくれた。


「じゃあ、行動開「――やぁっ!」――羽衣ちゃん?」


 ――と、思ったが、羽衣ちゃんは、俺の提案が気に入らないらしく、腕を組み、頬を膨らませて、そっぽを向いている。


「えっと、羽衣ちゃん?」


「ういは、おじちゃんをけしかけて、みまもるおしごとがあるのっ! ――おいそがしいから、ほらこちゃんのおてつだいは、できませんっ!」


 ――成程……、いつの間にか、羽衣ちゃんは『椎野係』とやらに就任していたらしい……。


 どういう事だろうと、皆の顔を見渡すと――。


「――っ!」


 一人、顔を背けた奴が居た。――悠莉……、犯人はお前か……。


「ういは、おしごとが終わるまで、ペコでもここをうごかないのっ!」


 今日の羽衣ちゃんは、中々に手強い……って言うか、悠莉、何とかしてくれよ……。と、悠莉に視線を送ってみるが……。


「――おじさん、後、よろしくっ!」


 悠莉はそう言うが早いか、「あらあらあらぁ?」と微笑むティスさんを連れて、グリヴァに向かっていった……。


「――え?」


「うちらも行きまひょか? ミッチーはんっ!」


「――ふっ……、そうッスね……」


 え、ちょっとハオカさん? ――ミッチーも、さっきまでの殺気はどうしたの?


「じゃ、サラリーマン君、そう言う事でっ!」


「――口惜しいですが……、ツチノさん、羽衣ちゃんを頼みますっ!」


 衛府博士は……まぁ、平常通りだけど、ダリー、貴方のダーリンはそこに転がっているよ? ――ソレは頼まなくていいの?


「――う!」


「ち、父上、僕はちゃんと、いますよ?」


 誇らしげな羽衣ちゃんと、焦るタテ、眠たげなピトちゃんと、羽衣ちゃんへの説得を諦めかけた俺を残して、皆、それぞれの役目に向かって――逃げやがったっ!


 ――途方にくれた俺は……。


「はぁ……、降参降参……」


「むふぅ――」


 結局、羽衣ちゃんに逆らう事は出来ず、タテの傍から離れ無い事を条件に、『椎野係』の続行を許可したのだった……。


 そして、こうなったからには――。


「格好悪い所は………………………………………………あんまり見せられないな……」


「――おじちゃん、がんばってっ!」


「父上、ご武運を……」


「――ピュイ、ねえちゃは、ピトが守る!」


 ――さて、取り敢えずは……、『塗り壁』と、何か眠ってるっぽいラヴィラの足元に『札落とし』でも置いておこうかな?

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