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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
178/204

好々婆

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――天帝城『緑の間』――。


「……………………いつかの指導では無い……本気を……見せてやる……」


「あたくしに、逆らうおつもりですか……?」


 蛇の様に鎖をうねらせるアクリダを前に、ペタリューダは、若干見下ろす様に、そう告げる。


 アクリダは、ペタリューダの蔑みの視線を受け、不敵にニヤリと笑い、ブルリとその身を震わせる。そして――。


「……………………おぉふ……仕方あるまい……」


「――では……」


 二人はほぼ同時に、動き出した――。


「……………………『炎鎖(ウラミ)』……」


 アクリダがうねる鎖の一本を、炎の蛇へと変化させると、炎の蛇は「キシャァッ!」と鳴きながらペタリューダを目がけて這いずって来る。すると、ペタリューダは柔らかく微笑み、その蛇を睨み付ける。そして、鱗鞭の紐を一本、自らの手元に手繰り寄せ、舌を出すと――。


「ふふ……、『潤滑(お舐め)』?」


 そう呟き、紐を舐める。すると、紐はテラテラとした輝きを帯び、そのまま炎の蛇に絡み始める。


「……………………イイ……」


 アクリダは、快感にその身を震わせるながら、消えていく炎の蛇を見つめ、続く様に黒い鎖をその手に取った。


「――小出しして、後悔はしませんの?」


「……………………フッ……『嵐鎖(ヤリ)』……」


「――っ?」


 訝しげにアクリダを見つめるペタリューダの目の前で、アクリダはその黒い鎖を引き千切る……。


「なに……を……?」


 アクリダは、引き千切った鎖をそのまま、宙に向けてばら撒く。すると、鎖はその一本一本が小さな槍へと姿を変え――。


「……………………舞え……槍の嵐……」


 そのまま、ペタリューダを目がけて襲い掛かって来た。


「――クッ! 『百叩き(コールミークィーン)』!」


 ペタリューダは、幾束にも枝分かれした鱗鞭を振り回し、襲い掛かる槍を叩き落としていく。


 ――しかし……。


「……………………砕いても……嵐は終わらない……」


「――なっ……」


 ペタリューダが砕いた筈の槍は、砕かれた先から更に小さな槍へと形を変え、再び、ペタリューダに襲い掛かる。


 ペタリューダはその小さな槍を、更に鱗鞭で砕くが、やはり、砕かれた槍が更に、更に小さくなり、尚もペタリューダに襲い掛かって来る――。


「……………………止め……『土鎖(マワリ)』!」


 アクリダは、必死で分裂し続ける小さな槍を弾くペタリューダを寂しげに見つめながら、別の鎖を取り出し、鎖で小さな輪っかを作り出す。


 ――そして、小さな輪っかはやがて、大きな輪っかとなり……。


「――っ!」


「……………………君は……素晴らしかった……クィーン……」


 無数の槍で手一杯のペタリューダに襲い掛かった――。


「――な……」


「……………………止めろ……せめて……いさぎ――」


 アクリダは、ペタリューダに向けて、「失望させるな」と言いたげに、首を横に振る。そして、その行動が、スロースターター気味のペタリューダに、火を付けた――。


「――舐めるなぁっ! ビチグソがぁっ! 『豚野郎(ひれ伏せ)』!」


「――おふぅ!」


 その瞬間、アクリダのみでなく、空気までもが固まったかのように、ピシリと音を立てる。


 ――同時に、ペタリューダを取り囲んでいた無数の槍と、迫っていた鎖の輪が地面にゴトリと音を立てて落ちる。


「……………………クィ――」


「――喋るな……」


 その場の空気を全て支配するかの様な佇まいで、ペタリューダはアクリダを見据える。


「……………………」


「――動くな……」


 鎖を動かそうとしたアクリダを、ペタリューダは強く睨み付ける。すると、アクリダは自らの意思とは無関係に、その場から動けなくなる――。


「うふふ……」


「……………………」


 その場に銅像の様に固まり、動かないアクリダの傍に、ペタリューダはゆっくりと歩み寄り、アクリダの顎をゆっくりと、優しく撫でる。


 そして――。


「――舞いなさい? 踊りなさい?」


 ――ペタリューダは、ダンスを踊る様に、クルクルと鱗鞭を振り回す。


「……………………おぅ……おぅっ!」


 鱗鞭に打ち据えられたアクリダは、竹とんぼの様にクルクルと回り、徐々に宙へと舞い上がり、ペタリューダはその頬を紅潮させ――。


「うふふ……ふふふ……跪けっ! 『扇鞭盤靴』!」


 鱗鞭を一つに纏め、アクリダへと叩き付けた――。


「……………………ガッフ……」


 アクリダは、一つに纏められ、ハイヒールの形を取った鱗鞭に踏み付けられ、幸せそうな表情を浮かべ――。


「……………………やはり……お前が……へ……いかに……一番……近い……が……『四連鎖(ゴースト)』!」


 ペタリューダに鎖を投げ付ける。


「――え? ああああああああああっ!」


 鎖を投げ付けられたペタリューダは、アクリダの受けた衝撃、痛みが一瞬にして、その全身を駆け巡り、そのまま、アクリダと共に、意識を失ってしまった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城『赤の間』――


「出来れば、貴女にはこちらに来てほしかったのですが……」


「あねさん、そいつぁ――」


 悲痛な表情で立ち塞がるグリヴァの顔を見て、サッチーは「やれやれ」と言った態度で、断りの言葉を告げようとするが、グリヴァはそんなサッチーに対して更に――。


「――あ、いえ……サチ君じゃなくて、ももちゃんの方です……」


 そう言って、もも缶を見つめる。


 ――グリヴァがもも缶を見つめる表情は、まさしく、祖母が孫を見るかの様な眼差しであった――が。


「ん、アイツ、エサ王……いぢめた、もも缶、アイツ、嫌い」


「――そう……ですか……」


 もも缶は勢いよく、首を横に振り、グリヴァの誘いを拒絶する。


「お菓子も……ありますよ?」


 それでも、グリヴァは必死にもも缶を取込もうと、誘い続ける。


「ん、いやっ!」


 もも缶は、ハッキリと、両手をグリヴァに突き出す様に、拒絶し続ける。


「――お肉も……ありますよ?」


 ――諦め半分……、グリヴァは縋るような気持ちで言葉を絞り出す。


「……………………ん、やぁ……」


 すると、もも缶は、キュルキュルキュルキュルキュルと音を立て、もじもじとしながら、グリヴァの誘いを跳ね除ける。――その目は、確実に、「もう一声っ!」と告げていた……。


「――お野菜も、ありますよ?」


「ん、もぉ、こーしょーの余地、無い!」


「――ツチノっち……、苦労してたんだろうな……」


 もも缶は、ナイフとフォークを取り出し、臨戦態勢を整える――二人の戦いが、今、始まる……。


「ふぅ……、お野菜を食べないと、大きくなれません――よっ!」


「――んんっ! 今は、お肉の、気分っ!」


 グリヴァが銛を突き出すと、もも缶は頬を膨らませ、ナイフとフォークを十字に交差させて、迫り来る銛をいなす。


「――もも缶、助太刀すっぜっ! 響け! 『轟雷』!」


「――クッ、敵にすると……、これ程鬱陶しいとはっ!」


 迫り来る雷撃を避けたグリヴァは、小さく舌打ちしてサッチーを睨み付ける。――サッチーは、そんなグリヴァの様子を見て、ニヤリと笑い――。


「――ふ……、何時か、こんな日が来ると思ってた……ぜっ! 凍えろ! 『滴水成氷』!」


「それ……、絶……対っ、嘘……ですよねぇ!」


 サッチーから放たれた吹雪を、銛で切り裂き、グリヴァは苛立ちをぶつける。


 しかし、サッチーは――。


「だからこそ……、オレはっ、『闇黒(ブラック・ダークネス)騎士ライトイエロー・マジシャン』なんだ……ぜっ!」


「――グッ、意味が分かりませんしっ……、それも……自称でしょうがっ!」


 ――叫び、意味不明な事をほざくサッチーに、苛立ちを募らせながら、グリヴァは強まった吹雪に退く事を余儀なくされる。


 そして、数歩後退ったグリヴァの元へ――。


「――『カトラリ・ミート』……」


「グッ! ――『大津波』!」


 もも缶の斬撃が襲い掛かり、グリヴァはそれを四連続の突きで弾き返す。


「ん、妻の夫ばっかり、ズルい、もも缶も!」


「――貴女は……、全く……」


 ――グリヴァは、目を細め、若干嬉しそうにそう呟くと、銛の石突を地面に突き立て、首を左右にコキコキと音を鳴らしながら動かす。


 そして――。


「良いでしょう……、遊んであげます。――『大鱗銛メガリ・クリマカス・カマーキ』!」


 ――グリヴァの身体が、桜色の甲冑が包み込む。


「ん、『フルコース』!」


 同時に、もも缶の身体が、白桃色の甲冑姿へと変化する――。


「ヤバくね……? オレ、ヤバくね……?」


 そして、一人、狼狽えるサッチーを置いてけ堀にして――。


「――フンッ!」


「んっ!」


 銛とフォークがぶつかり合い、火花を散らした――。

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