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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
177/204

逃走劇と蹂躙劇

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――天帝城『封の間』――


「……………………」


 ――先程まで、城の入口らしき部屋に居た筈が、現在は部屋中の壁に、訳の分から無い文字の羅列が刻み込まれている部屋に居る。


 その状況を整理しようと、静かに煙草に火を付け、テンガロンハットのツバを指で挟み込む。


「……アデラダ――」


 ラッコ男は、背後にいきなり現れた、何かの気配に気づき、振り返る事無く、その何かに声を掛ける。すると、背後でビクッと、その何かが反応し――。


「び……、びくりちたぁ……」


 その声に、ラッコ男は漸く背後をふり返り、その何か――真紅の鱗に身を包み、驚きによる心臓の鼓動を現す様に、頭上の触覚をピコピコと揺らす少女を見る……。


「あなた、だぁれ? あたち、アーグニャっ!」


 より一層、触覚の動きを速めながら、少女――アーグニャは、目を輝かせ、ラッコ男に強く興味を示す。


 ラッコ男は、そんなアーグニャの様子を見て、とある少女を思い出し、テンガロンハットをそっと撫で、ゆっくりと口を開いた――。


「? アハマシコ、イェバラウィ、……アナハニ、……シンエソナダタヘラワ」


「? 『せんし』? おなまえ、ないの?」


 アーグニャの問い掛けに、ラッコ男は表情を変えず、コクリと頷く。


「ふーん……、まぁ、いいやっ! ねぇ、アーグニャとあそぼ?」


 次の瞬間には、ラッコ男は吹き飛ばされ、部屋の壁に激突していた――。


「――っ!」


「ふぁっ! すごい、すごいすごいっ!」


「ぶるぁ……?」


 ラッコ男は、即座に自分の手足を見つめる。そして、大した傷が無い事を確認し、次に、アーグニャの顔を見つめる。


「?」


 その顔は、ラッコ男がまだ生きている事になのか、ほぼ無傷な事になのかは分から無いが、ラッコ男の事を素直に称賛し、凄いモノを見た様に、表情を輝かせている。


「――っ!」


「ふぁっ! こんどは、とめたぁっ!」


 咄嗟に左腕を上げ、アーグニャが放ったらしい、水球による攻撃を受け止める。


 ――ほぼ本能のみで身体を動かしたラッコ男であったが、本能でしか対応出来なかった攻撃速度に違和感を覚え、いつの間にか、自らに近付いているアーグニャを睨み付ける。


「ひぐぅっ! に、にらんじゃ、やぁ……」


「うぶるぁ……」


 泣きそうなアーグニャの顔を見て、ラッコ男は慌てて笑顔を作ろうとして、ふと、違和感を覚えた――。


「ぶるぅ……?」


 ――子供に甘い自分がいる事は自覚しているが、今の自分は戦闘中であり、子供とはいえ、敵対している相手に対する自分の行動はおかしい。そして、動作の一つ一つは緩慢で、とても戦士とは言えない、目の前の少女が、自分の目で追えない速度で、移動していると言う事も信じられない……。


「ふふぁっ、へんなかおっ!」


 ラッコ男は、考え込む事を中断し、「キャハハ」と無邪気に笑うアーグニャを注意深く見つめ、そして、その頭上でピコピコと揺れるアーグニャの触覚――『エスカ』が淡く輝いているのに気が付いた。


「? どしたの?」


「――アベラカワゲナト、……ドフラナ」


 ラッコ男は、何かを呟くと、面倒臭そうにアーグニャの頭をポンポンと撫で、自らの視界に、アーグニャの『エスカ』が入らない様にと、テンガロンハットを深めに被り直した。


 その時――。


「ふぁふん……?」


 ――ラッコ男のその仕草を見て、アーグニャの心臓がドクンと弾む。


「ふぁ? ふぇ? なに、これ……?」


 アーグニャの脳裏に、誰かの……、何かのイメージが浮かぶ――。


 ――最初に浮かんだのは、仲睦まじ……かった、一組の男女。その男女――王様と王妃様は、最終的には、喧嘩して、王妃様が拗ねてしまった……。


「ぅあ?」


 その王妃様は、長い間、拗ね続けて遂に、この世界から去る事を、決めてしまった……。去り際に、アーグニャの頭を一撫でしてから、「パパをよろしく」と告げる――。


「だ……れ……?」


 ――次に浮かんだのは、またもや、覚えの無い記憶。――何かに追い掛けられる自分では無い、誰かの視界……。


「え? え?」


 その誰かを颯爽と現れ、ピンチを救っていった茶色い王子様――。


「あ、れ……れ?」


 そして、追い掛けられて居た筈の誰かが、ふと、自分の事を見て、先程の王妃様と同じ様に、アーグニャの頭を一撫ですると、今度は去る事無く、「一緒に射止めましょうっ!」と、ぎらついた目で、アーグニャの中に入り込んでいく――。


「――っ!」


 そして、アーグニャは意識をはっきりと取り戻し、目の前でオロオロとする茶色を見つめる――。


「ぶ……ぶるぅ……あ?」


 ラッコ男は、何時か感じた様な不思議な視線を感じ、思わず、アーグニャから距離を取り、後退る。


「んー? よく、おもいだせない……」


 アーグニャは、先程までのイメージが思い出せないらしく、頭を捻っている。――しかし、そのイメージを見た事で芽生えた感情は、消える事は無く――。


「んー? でも……」


 髪を弄る様に、もじもじと『エスカ』を弄りながら、少しずつ……、ラッコ男と距離を詰めていく――。


「ぶ……、ぶるるぁっ!」


「――うん、ちゅきっ!」


 ラッコ男は、その瞬間、アーグニャの背後に何かの幻影を感じ、駆け出した――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城『緑の間』――。


 ラッコ男が、アーグニャと追いかけっこをしていたその時――。


「――何か……言いたい事は?」


 目の前に佇む緑の少年――アクリダを、冷たい目で見据え、ペタリューダはそう告げる。


「……………………ノホォッ、クィーン……」


 一方のアクリダは、身体を震わせ、恍惚の表情を浮かべながら、自らの身体を抱き寄せる様に、「ノー」と答える。


 ペタリューダは、その様子を見ながら――。


「お仕置き……ですわね?」


 そう呟き、鱗鞭の柄を取り出した。


「――ペタちゃん……、辛いでしょうけど……」


「ああ……、愛里姉様……、お優しい言葉、ありがとうございます……」


 目を潤ませ、ペタリューダは愛里の優しさに感謝の言葉を紡ぐ。そして、その後で小さく「でも」と呟き、ぺろりと舌なめずりをする――。


「躾を行うのは、主の責任ですので、どうか、お気になさらないで下さいな?」


「――え……、えっと……、うん……」


 息を荒くするペタリューダとアクリダに挟まれ、愛里は頬を引き攣らせる。


 ――直後……。


「……………………『大連鎖(メガリ・アリシーダ)』……」


「……『羽化(モルフォ)』!」


 主と僕、両者の身体が光に包まれる。


「――キャッ」


 眩い光に、思わず愛里は目を閉じる。


 やがて、光が収まると――アクリダはその身を継ぎ目の無い、緑色の甲冑に包まれ、一方のペタリューダは、光沢のある青い翅と甲冑を纏っていた。


「……………………ふっ……」


 甲冑を身に纏ったアクリダは、その指から一歩づつ――計十本の鎖を、ペタリューダに向けて、放つ――。


「しゃらくさいですわっ!」


 ペタリューダは、その鎖に合わせる様に、鱗鞭の紐を、柄から十本伸ばし、打ち据える。


「――ペタちゃんっ、受け取ってっ! 『パゥワ』!」


 ――拮抗し、ぶつかり合う鎖と鞭、そこに愛里が強化スキルをペタリューダに向けて発動する。すると、徐々に、鞭は鎖を打ち砕き、アクリダに迫っていく……。


「……………………邪魔を……するなぁっ!」


「――っ! 愛里姉様っ!」


「――えっ?」


 ペタリューダとの対峙を邪魔されたのが気に喰わなかったらしいアクリダが、地中に鎖を潜らせ、遠く離れた愛里の足元からその鎖を出現させた――。


「――間に合わないっ!」


「クッ……、『ピン・ヨァレ』、『ピン・ヨァレ』、『ピン・ヨァレ』、『ピン・ヨァレ』、『ピン・ヨァレ』、『ピン・ヨァレ』、『ピン・ヨァレ』っ!」


 愛里は、目の前に迫る鎖の勢いを、弱体化スキルで的確に弱めていくが、それでもその勢いは止まる事は無く――。


「――グッ」


「……………………クィーンとの時間を……邪魔……するな……」


「――姉様っ!」


 ――アクリダの鎖は、愛里の腹を貫き、そのまま地中を伝って、アクリダの手元に戻っていく。


「――姉様っ、姉様っ!」


「わ、私は……大丈夫……だから……」


 愛里はそう言うと、赤く染まった自らの腹に手を当てながら、ガクリと意識を手放した――。


「……………………さぁ、クィーン……続けよう……」


 ペタリューダは、はぁはぁと息を荒げるアクリダを無視して、愛里の胸に耳を当てる。――幸いにも、まだ、心臓は活動を止めていなかったが……。


「……………………救いたければ……分かるな……?」


「――ええ……、躾をとっとと終わらせませんと……でしょう?」


 そして、ペタリューダは鱗鞭の柄をギュッと強く握りしめ、先程より数倍冷たい目で、アクリダを睨み付ける。


 アクリダは、更に息を荒くし……、ブルブルとその全身を震わせる――。


「……………………やはり……、イイッ……ッ!」


 そう言い放ち、ビクンッと、一際強く震えると、アクリダは、その全身から様々な色をした鎖を出現させ、ペタリューダに告げる――。


「……………………来い……」


「――お望み通り……、蹂躙して差し上げますわ?」


 そう告げると、ペタリューダは、鱗鞭の紐をパシンッと引っ張り、再度、舌なめずりをするのだった……。

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