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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
176/204

鶏の歌

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――天帝城『黒の間』――


「リンキ……」


「貴方まで……」


 ――悠莉とスプリギティスが、立ちはだかる男を見て、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる……。


「――って……、ティスさん、知り合いだったの?」


「? 違うのかしらぁ? ――失礼があったらいけないかなぁって、そっかそっかぁ、知り合いじゃなかったのねぇ?」


 呆れる悠莉に、スプリギティスはホッとした表情で、「それなら、先に言ってぇ」と悠莉の背中をバンバンと叩いている。


 ――そんな中……。


「はしゃいでる所、悪いんだが……、一瞬で片ぁ付けさせて貰うぜ?」


 リンキは悠莉の顔を見ながら、そう呟くと、両手を交差させ、親指で犬歯に触れる。そして、そのまま、ズリュリと言う音と共に、犬歯を引き抜き、叫ぶ――。


「――『大顎鎌メガリ・サゴニ・ドゥレパニ』!」


 引き抜かれた二つの犬歯が、リンキの手の中で一つとなり、やがて大きな黒い鎌へと姿を変える。――同時に、リンキの全身が黒褐色の甲冑に包まれていく……。


「オイラとしても……、嬢ちゃん達とやり合いたかねぇんだが……『上顎(ダンコーマ)』ッ!」


 リンキは一瞬で、悠莉の目前に移動し、上段から鎌を振り下ろそうとするが……。


「――ゴァッ?」


 ――リンキは、次の瞬間には、鎌を振り上げた状態のまま、部屋の壁に吹き飛ばされていた。


 リンキは、何が起きたのか理解できず、赤くチカチカとした視界で、周囲を見渡す。すると、その目に入って来たのは、拳を真っ直ぐに突き出し、その身に羽衣を纏った悠莉であった。


「――へぇ……、少し、舐めすぎてたみてぇだな……?」


「うん、今……、あたし、機嫌最悪だから、ストレス発散させて……ねっ!」


「――うーん、何だっけぇ……?」


 ――そんな中、スプリギティスは、頭を抱え、唸りながら、何かを思い出そうと、必死に考え込んでいるらしく、悠莉の羽衣の端を摘まんでいた。


「えっと……、取り敢えず、ティスさんは、そこで見てて……?」


 悠莉はそっと、羽衣を摘まむ、スプリギティスの指を開いていく。


「うーん、そうねぇ……、ちょっと、考え事するわねぇ?」


 悠莉とスプリギティスの間で、そんなやり取りが行われた直後、悠莉の身体が輝き、悠莉はその場から駆け出す。


「――うんにゃぁっ! 『三等星(サード)』ォ!」


「チッ、『蛹狩り』!」


「『コケ』……? ――違うぅ……」


 悠莉の拳と、リンキの鎌がぶつかり合い、火花を散らす。


「嬢ちゃん、こんなに強かったか……?」


「――成長期だし……ねっ!」


 悠莉が蹴りを繰り出し、リンキはそれを鎌の柄で受け止め、即座にリンキが、鎌の石突で悠莉の喉を狙えば、悠莉が上体を反らす。


「――『粉砕』ッ!」


「んのぉっ、『下顎(ダンコーマ)』!」


 悠莉の拳がリンキの顔面を捉え、砕こうとするが、リンキは咄嗟にスキルを発動し、鎌を振り上げる事で、その刃を滑り込ませる。


「痛ったぁ……、何よ……、その鎌っ!」


「――そりゃ、こっちの台詞だぜ……? どぉやったら、拳でオイラの鎌を砕けんだよ……」


 互いに驚愕の表情を浮かべながら、それぞれの武器を見つめる。


 そして――。


「『スアレス』! 


「見え見えだっつうのっ!」


 悠莉は掌底をリンキの顎目がけて放つが、リンキはそれをスレスレで躱し、悠莉の真横に移動し、鎌を振り上げる。


「――もういっちょ、『スアレス』!」


「――グブッ! ガァッ『(ピグーニ)』!」


 そこで、悠莉は更に回転し、掌底を見事にリンキの顎に叩き込むが、リンキの鎌もまた、悠莉の腹に一筋の切り傷を残す――。


「あっぶな……、アンタ、乙女の柔肌に何してくれんのっ!」


「人の顎砕いておいて、良く言うぜ……、しかも、その服でちゃっかり致命傷は防いでやがるし……」


 フワフワと、悠莉の腹に付いた傷を、もも缶製の服が覆い隠していく。


「――あぁ、ももへの借りが増えてくなぁ……」


 苦笑いを浮かべながら、悠莉は再び、リンキに拳を向ける。そのまま、深呼吸し、そして――。


「――全っ力……だっ!」


「――っ!」


 ――高く跳び上がると、空中で制止し、リンキに向けて狙いを付ける。


「へぇ? ケリつけようってか? ――良いぜ……」


 リンキは、悠莉を見上げると、クルクルと鎌を回転させ、肩で担ぐ様に構える。


「行くよ……、『ミーティア・ストライク』!」


「――さぁ……、来いっ! 『(ピグーニ)』!」


 ――悠莉がリンキに向けて、ピンクゴールドの光を纏った蹴りを放ち、リンキは悠莉を迎え撃つ様に、黒褐色の光を纏った横一閃の斬撃を放つ――。


「うぅにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「――あらぁ? ――ハッ!」


 ぶつかり合う光は、爆風を生み出し、ボーっと立っているスプリギティスまでをも吹き飛ばしていく。


 そして――。


「――ガフッ!」


 リンキが全身に纏っていた鎧は、ほぼ全てが砕け散っており、右腕も、悠莉の『ミーティア・ストライク』によって砕かれ、力無くだらりとぶら下がっていた。


 一方、悠莉は――。


「はぁ……、はぁ……」


「――チッ、だから、やり合いたくなかったんだ……」


 ――負った傷こそ少ないものの、悠莉の体力消耗は激しく、その脚はガクガクと震えていた。


 リンキはそんな悠莉の様子を、悔しそうに、憐れむ様に見つめながら、一歩づつ、悠莉に近付いて行く。


 そして、その場から動けずにいる悠莉の首筋に、リンキの鎌が当てられる……。


「じゃあな……、せめて最後は……、苦しまずに……、逝かせてやるよ……」


「――っ!」


「――最後に言い残す事は……?」


 ゆっくりと、鎌を振り上げ、リンキは悠莉に尋ねる。


「――ばぁかっ!」


 悠莉は、プルプルと震えながらも、片目を瞑り、舌を出し、ニパッと笑う。リンキは、そんな悠莉を困った様な表情で見つめ、鎌を振り下ろす――。


「あばよ……」


「――おじさんっ!」


 ――ガキンッ!


 そんな音が、室内に響き渡る……。


「――っ……………………? あれ?」


 悠莉は、自分が生きている事を不思議に思い、そぉっと目を開ける。


「て、めぇ……」


 ――そこには、驚愕の表情を浮かべるリンキと、その視線の先で、右頬に右手を添えて、微笑むスプリギティスの姿があった……。


「ティス……さん?」


 悠莉は、リンキとの戦闘に集中し過ぎたお蔭で、スプリギティスの存在をすっかり忘れていた事を思い出し、少しだけ安堵する……。


「うふふぅ……、私、思い出しましたよぉ?」


「――あん?」


「えっと……?」


 リンキと悠莉が、訝しげにスプリギティスを見つめると、スプリギティスはグッと胸を突き出し、ドヤ顔で――。


「――変身……『朱雀』!」


「「――え?」」


 スプリギティスが叫んだ瞬間、彼女の身体を炎の渦が取り囲む。


「ふっふふんふーん」


 調子はずれのスプリギティスの鼻歌が、リンキと悠莉の鼓膜に襲い掛かり、二人が苦痛に顔を歪めたその時――。


「完成ーっ!」


 スプリギティスは、紅を基調とし、所々に白線で縁取られた、和風の大鎧を身に纏っていた。


「――お前も……か? いや、それにしては……」


 リンキは、自らの甲冑との違いを不思議に感じながらも、悠莉に向けていた鎌を、今度はスプリギティスに向ける。そして、スプリギティスの動きに注視し、何が来ても反応出来る様にと、身構える。


「うふふ……、スッキリ……」


 スプリギティスは、兜の中で、恍惚の表情を浮かべると、「うんっ」と力み、その大鎧の背中から大きな羽を出現させる。


 そして――。


「ランららーん!」


「――っ!」


 そのまま、羽をはばたかせ、リンキの目前に移動する。


 リンキは、スプリギティスの動きを追えなかった事に驚くが、直ぐに気を取り直し、鎌を振り上げようとして、その動きをピタリと止めた……。


「――え、今、オイラ……あれ?」


 リンキは自分の手を、身体を、足を見つめ、考える――。


「オ、オイラ……は?」


「――ま、まさか……」


 リンキのその様子を見て、悠莉は既視感を覚え、スプリギティスを見る。すると、そこでは――。


「あらぁ? ――何しようとしたんだっけぇ?」


 リンキと同じく、頭を傾げ、キョロキョロと辺りを見渡す、スプリギティスが居た……。


「………………」


 遂には、部屋の中をウロウロと徘徊し始めたリンキを見て、悠莉は静かに息を呑む。そして、スプリギティスが何を行ったのかを……推測する。


「――リンキ……?」


「――え、リンキ……? オイラ……?」


 そして、確信する……。スプリギティスが行ったのは、「相手の物忘れを激しくする様なスキルである」と……。


「え、何これ……、怖い……」


 一気に老け込んだようなリンキの顔を見て、悠莉は心底、震え上がる。――何故ならば……。


「――これ、下手したらあたしも、巻き込まれてたよね……?」


「うふふ?」


 ――いつも通りに、何かを忘れた様なスプリギティスを見つめ、悠莉は再度、震えがる。すると、そんな悠莉の表情を見て、スプリギティスが「ハッ」とした表情になる。


「――思い出したぁ……、止めだっ!」


「え? ちょ、ちょっと、ティス……さん?」


 バッサバッサと羽を広げるスプリギティスの傍から、悠莉は涙目になりながらも、全速で逃げ出す。


「いっけぇ、『鳥葬』!」


 舞い上がった羽根が、炎を纏い始める。


「――綺麗……」


 ――やがて、全ての羽根が炎を纏うと、スプリギティスは静かに人差し指で、リンキを指し示す。


 すると、羽根は渦を描く様にリンキを取り囲み、ドンドンと突き刺さり、その身体を宙に打ち上げ、最終的に――。


「――あっ、そうだ……、陛下……」


 何かを思い出し、スッキリとした表情を浮かべたリンキを地面に叩き落としたのだった……。

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