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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
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コールバック

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――天帝城『玉座の間』――


「ん? どうやら、また誰か来たようだな……」


 水晶に映し出された侵入者を見ながら、ラヴィラがため息を吐く。そして、少し上を向いて、一人、話し始める――。


「――ドラコス……、追加でもう一人だ……、そうだな……、私が――」


「あいっ! あたち、いくっ!」


 ラヴィラの足元に、白い影が現れ、ラヴィラが玉座から立ち上がって、その影を踏もうとしたしたその時、退屈そうに室内をでんぐり返っていたアーグニャが、元気良く手を上げた。


「む、アーグニャか……、しかし、これは遊びでは「いくのっ!」――はぁ……良かろう、ドラコスッ!」


 すると、白い影がアーグニャの足元に移動し、グニャグニャとその身を包み込んでいく。


「いってきまぁす!」


 ――その頃……。


「ぶるぁぁっ!」


 天帝城の『ロビー』から、次の部屋へと続くであろう扉をラッコ男が殴りつけようとしていたが、悠莉達同様に、白い影に飲み込まれ掛けていた……。


 ――やがて……、トプンと言う音と共に、白い影に飲み込まれていき、天帝城『ロビー』は再び、静寂を取り戻したのであった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――x県x市 F・P総合病院――


 黄色と黒の光が収まり、微かに何らかの――恐らく祝福のメロディが流れ、そして今、俺の目の前には、宙に浮かぶ二つの物体があった。


「――少し、色が派手になったか……?」


 浮かぶ物体の片方――ギルドカードには、俺の名前、ジョブ、称号、装備、スキル……、うん、見慣れた項目が刻まれている。


「やっぱり、『フレックスタイム』はロスト……なのかな?」


 俺の持ち物に憑いているであろう、加護系のスキルは、相変わらずギルドカードには記載されないみたいだが、それでも、何か、喪失感があるから、多分、そうなんだろう……。


「先輩、どうですか? ――不具合とか、ありませんか? あるなら、もう少し様子見で入院した方が良いんじゃないですか?」


「――美空ちゃん……」


「ん、大丈夫っぽい」


 後輩と、ウピールさんに問題無い事を告げると、俺はギルドカードに意識を集中させる……。


「――うわぁ……」


 俺が集中すると、ギルドカードは、一枚が二枚に、二枚が四枚に、四枚が八枚に――と言う風に、ドンドンその数を増やしていく。――そう言えば、後輩は直で見るのは初めてだったっけ? ――よし、問題無さそうだな。


「わたくしも、この仕事長いですから、失敗なんてしませんよっ!」


「恨みますよぉ? ウピールさん……」


「コラッ! ――感謝しますよ、ウピールさん」


 何気に失礼な後輩の頭を軽く小突き、俺はもう一つの物体――携帯電話に注目するが……。


「――これ……は」


 ――何たる事だ……。これじゃあ……。


「――あ、それ、衛府博士が、向こうの技術とかに触発されて、作り上げてしまった試作品で、余っていた物なんですけど……」


「ああ……、何だか、以前の椎野さんのケータイデンワと大分形が違いますよねぇ?」


 後輩は、どう言う事なのか把握しているのだろう……、非常に気まずそうな顔が、「ニューデザインですか?」と笑顔のウピールさんと対照的で、物悲しい……。


 だって……、これ――。


「スマフォじゃねぇか……」


 ――俺は手元に残された、先代携帯電話(ガラケー)のICカードを見る……。


「規格が違ぇよ……」


 折角……、折角、無事だったカードを移し替えれば、機種変更で使えると思ってたのに……。


「え、えっと、先輩? 今から、どこか行って、機種変更手続きして来ようか?」


「――うん……、そうだな……」


 ――さっきまで、割と頑張って真面目な空気だったのに……、台無しだぁ……。


「? でも……、それ、衛府さんが作ったんですよね? ――こっちで取り扱ってくれますか?」


 ウピールさんは、僅かに輝くスマフォを指差して、気まずそうにしている。どうやら、ウピールさんもこちらの生活に慣れた様で、正規品以外はお取り扱い出来ない事を知っているらしい……。


「――終わった……?」


 ――僅かでも、光っていると言う事は……、『加護』はこのスマフォに移った可能性が高い事で……。


「えと……、お――先輩、ドンマイッ!」


「え? わ、わたくし、何か変な事言いましたか……?」


「いえ……、大丈夫……、大丈夫です……」


 こうなると、向こうで誰かの携帯借りるしかないかな? 


「――あれ? 先輩、何だか、ICカードも光ってませんか?」


 ――俺がもう駄目かな、と諦めかけた時、後輩が俺の手に握られているICカードを指差す。


「ん?」


 指摘されて始めて気が付いた……。確かに、ICカードが光っている。


 もしかしたらと、ICカードとスマフォを近づけてみると――。


「「「――っ!」」」


 突然、祝福のメロディと共に、ICカードとスマフォが浮かび上がる。


 そして、次の瞬間、二つの物体が――。


「え……、カードが、吸い……込まれて?」


「そんな……、ズップシとっ?」


「――え、何、何が起きてるの? 見えないんだけどっ?」


 モロに光の直撃を喰らった俺には、何が起きているのか分から無い……。どうやら、後輩とウピールさんはその様子を見て、実況中継してくれているらしいんだが……。


「――ふぁっ!」


「色がっ?」


「――目が、目がぁっ!」


 ――この光、ちょっとおかしくないかっ? 今、明らかに両目を塞ぐ、俺の指の隙間を縫って、狙って来たぞっ?


 ――やがて、光が収まると……。


「――何故だ……、電話帳データまで復元されてる……」


「その技術……、衛府博士のなんでしょうか? それとも、『加護』? どっちにしても、欲しいなぁ……」


「えっと、取り敢えず、これで元通り……ですか?」


 俺と後輩が、「商品化出来ないか?」と、スマフォをいじくっていると、見かねたウピールさんが、俺達を現実に引き戻してくれた。


 因みに、スマフォは地球にいる人に関しては、問題無く使用出来るみたいだが、向こうの世界に居る筈の悠莉に電話しても、「只今――」のアナウンスが流れてしまい、俺の無事は、今のところ伝えられていない……。そうこうしている内に、充電が切れてしまった為、今は充電中である……。


「あ、そうですねっ! ――ありがとうございます、ウピールさん……」


「後で、何か奢りますねぇ!」


「はい、それでは……」


 ウピールさんは、そう言うと、病室から出ていってしまった……。そうか、気が付けば、もう定時だ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「えぇ……、ボクも有給取るから、お兄ちゃんも有給取って下さいよ……」


「でもなぁ……」


 ――ウピールさんが去っていった後、俺達は今後のスケジュール――つまり、次の『接界』までをどうするか、話し合っていた。


 そんな時――。


「ちぃっす、入りますよぉ?」


 ――とか言いながら、若い男がいきなり病室に入り込んできやがった。


「――あ、お兄さん、目を覚ましたんスね? おめっざっす!」


 ふむ……。どうやら、この男は美空の知り合いであるらしい、取り敢えず、只の知り合いとは言え、妹の知り合いに失礼があってはいかん、挨拶をせねば……。


「――てめぇにお兄さんと言われる覚えはねぇっ!」


「ふぁ?」


「――え? お兄ちゃん?」


 ――おっと、いかんいかん、ちゃっかり本音が出てしまった……。


 よし、ここはスキル発動の確認をしなければ……『ポーカーフェイス』発動っ!


「いや、すまない、まだ少し、混乱しているみたいだ……」


「ふぇ? あ、ああ、そっすよね? なんか、スンマセン」


「………………」


 

 どうよ……、この完璧なすまし顔っ! と、思っていたんだが……。どうにもいかんな、美空が疑いの目で見ている……。


 こ、ここは、和やかに会話を進めなければ……。


「それで? 貴様は、何しにここへ?」


「え……? あ、はい……、その、ちょっと、美空さんに――」


「あぁん?」


 ――おいおい……、人の妹を勝手に下の名前で呼んでんじゃねぇぞ?


「貴様は――あ痛っ!」


 折角、調子が出て来たのに、美空から思いっ切り頭を叩かれてしまった……。


「何すんのさ……」


「――はぁ……、山内さん、ご用件をどうぞ……」


 美空は、俺の顔面に、鉄の爪を掛けなが……ら……。


「――痛い、痛いっ!」


「え、はぁ……、その、社長から「ユー、これも持ってけ」って――」


「あ、これは……?」


「ウィっス、工事中の『商店街』に現れた、芋虫型の魔獣から採れた糸で作ったスーツッスね」


「いたい……、み、美空ちゃん……、お兄ちゃん……、少し、ふざけ過ぎたから、謝るから……、もう……、勘弁してぇ……」


 ――俺が解放されたのは、その男――山内が帰ってから、更に一時間後だった……。


「じゃ、試着してみて下さい?」


「――はい……」


 どうやら、先程の野郎が持って来たのは、試験的に地球の魔獣から採れた素材で作った『スーツ』らしい、従来の素材より、通気性、耐久性が高そうって事で、試しに一着作ってみたらしい。


「――へぇ……、軽いな……」


「手触りも良いですねぇ……」


 これは、中々売れそうな気がする……。


「――って、お兄ちゃん、また何か光ってますっ!」


「えぇ……」


 ――光は、ギルドカードから出ていた。その光は、スーツに向かって吸い込まれていき……。


「――きゃっ!」


「うぉ、またかっ!」


 スーツに光が吸い込まれた途端、スーツが眩い光を放ち始めた――。


「目が、目がぁっ!」


「お兄ちゃーんっ!」


 ――やがて、光が収まると先程までも軽かったスーツが、更に軽く感じる――と言うより、この感覚は……。


「――多分、『加護』が憑いた……」


「嘘っ?」


 試しに数回だけ、屈伸運動を行ってみる。――やはり、膝が痛くないっ!


「間違いない……」


「え? 今ので……ですか?」


 ――美空よ……、兄の膝は年々弱っているのだよ……。


「――お兄ちゃん、こっち帰って来たら、ウォーキングでも始めた方が良いですよ……」


「うん、これぞ、デスクワークの罠……だな」


 ――「絶対違う……」と呟く美空を無視して、俺はスマフォの充電が終わっている事に気が付いた。おぉ……、流石、衛府博士の発明品、充電速度がおかしい……。


「さて、さっきは悠莉、通じなかったしな……」


 折角だ……、コレの作成者にでも電話してみるか……。


 ――プルルルル……。


 数回ほど、コールが続いた後だった――。


『――サラリーマン君?』


「あ、ども……」

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