突撃!
続きです、よろしくお願いいたします。
――マコス大陸 天帝城前――
「何なの、この人達っ! 全っ然、倒れてくれないっ! 『一等星』ッ!」
悠莉が横薙ぎの蹴りを放つと、対峙する冒険者達が十数名ほど纏めて吹き飛ばされる。――しかし、冒険者達は、カクリと、糸の付いた人形の様に起き上がり、再びそれぞれの武器を手に悠莉達目がけて前進してくる――。
上空に映っていたラヴィラが消えてから既に、一時間以上が経っていたが、悠莉達は未だに天帝城に入る事が出来ず、足止めを喰らっていた。
「ん、もう、食べよ? ね、ゆうり……」
「――駄目だったらっ!」
苛立ちと空腹で、暴走仕掛けるもも缶を、悠莉が抑える事が出来るのも、既に限界に近付いて来ており、一行は心身共に消耗していく――。
「『イバラ』ッ! ――駄目ッスね……、やっぱり、縛る系のスキルは無効みたいッス……」
「――苛立たしいですわ……、もう、こうなったら、手足の一、二本、削っても宜しいのでは?」
「ペタちゃん……、それは、最後の手段でお願い……」
愛里は、自信の身体から漏れ出す、毒々しい緑の光を辛うじて抑え、ペタリューダにお願いをする。――しかし、当の愛里自身、内心では「もう良いかな?」と、考えているのもまた、事実である。
「うしっ、じゃあ……、これでどうだっ! 『充電』っ!」
サッチーが杖を地面に突くと、地面を伝って、弱めの電撃が冒険者達を襲う。
「「「「あぁあぁぁんっ!」」」」
「――ラッセラがいるッス……」
「ミッチー……、その情報は今いらねぇべ?」
ミッチーとサッチーが真剣な顔つきで、悶える冒険者達の様子を伺うが……。
「「「「――ゴァァァッ!」」」」
「これも、ダメか……、パネェな……」
若干、衣服や肌を焦がしながらも、尚、前進してくる冒険者達を不気味に感じ、一行は少しずつ後退する事を余儀なくされる。
――既に、同じ様なお試しを何回か行ったために、一行は天帝城から大分遠ざかってしまっている。
「ん、試す……」
「こらっ、ダメだってっ!」
「ん、大丈夫、ちょっとだけ」
「ちょっとって、どう言う事よっ――」
悠莉がもも缶を止めようとするが、時すでに遅く……、もも缶はナイフとフォークで十字を切る様に交差させ、一人の冒険者から、腕を切り離す――が……。
「――キャァって……、あれ?」
「これは……、再生してる?」
悠莉と愛里は、自分の目に映る光景が信じられず、何度も瞬きし、冒険者の様子を伺う。――しかし、何度見返しても、二人の目に映るのは、切り口からモコモコと新しい腕を生やしていく、冒険者の姿であった……。
そして、その時、上空に再びラヴィラが姿を現す――。
「い、いや……、正直、君達の覚悟を過小評価していた様だ……、まさか、殺す気で来るとは……、念の為に言っておくが、彼等は、私の指揮下にある限り、死ぬ事は無い、身体が欠損する事も無い、スキルで束縛される事も無い、無駄に消耗して命を失わぬうちに撤退する事を勧めるよ……」
まさか、悠莉達が冒険者達を殺す気になるとは、全く考えていなかったラヴィラは、内心でかなり焦り、さり気なく悠莉達に撤退を促す。
「――クッ……」
――しかし、その言葉は、悠莉達を不安に突き落とすには十分であったらしく、一行は無意識の内に数歩……、また数歩と……、後退っていく。
ラヴィラはその事に気付き、満足そうに頷くと、足元からスゥッと自身の映像を薄めていく。
しかし……、それを許さない者達が居た――。
「――何、ヘタレてんだっ! 『八咫』!」
ラヴィラの映像の更に上――はるか上空から、シャンシャンと音が鳴り響く。
「あれは……、コラキ君?」
「それと、ペリ、イグル……と……」
「ティスさんッスかっ!」
愛里、悠莉、ミッチーが空を見上げると、一羽の大きな鳥――鶏の上に、三人の少年少女が乗っている。
その内の一人、褐色の肌をした少年――コラキは、両手で錫杖を持ち、シャンシャンと音を鳴らし続けている――。
「――グォッ! チッ!」
コラキが鳴らす音の不意打ちに対応し損ねたのか、ラヴィラは一瞬だけ、苦悶の表情を浮かべた後、映像を完全に掻き消した。そして――。
「――あっ、コラキ、その辺にするですっ!」
「ティ、ティス様の背中から、血が出てるのっ!」
「え? あ、やべっ! 地面じゃなかった――」
三人と一羽は、そんなやり取りをしながら、悠莉達の元へと舞い降りて来た。
「待たせたなっ!」
「お待たせですっ!」
「待ったの?」
「――あらぁ? ここは、どこかしらぁ?」
コラキ、イグル、ペリがポーズを取り、人型になったスプリギティスは、キョロキョロと辺りを見渡す。――悠莉達一行は、その様子を、ポカンと口を開けてみていたが……。
「――いや、待ってないって言うか、アンタ達、何でここにいるのよ?」
真っ先に我に返った悠莉がそう尋ねると、きっちりとポーズを保ったまま、コラキがニヤリと笑う。
「勿論、加勢に来たっ!」
「――椎野さんの仕返しですっ!」
「女王様に会いに来たのっ!」
「さぁ?」
「――アンタら……、せめて理由は統一しなさいよ……」
ガックリと肩を落とす悠莉に向けて「まぁまぁ」と言いながら、コラキはチラリと冒険者達を睨む。
そして、錫杖をクルクルと何回か回した後、肩にトンっと乗せ――。
「細かい事は良いんだよっ! ――悠莉姉ちゃん達は、先に行きたいんだろ? なら、ここは――」
「「「任せとけっ!」」」
コラキを中心に、ペリ、イグルが左右に立ち、三人は再びポーズを取る。
「ちょっと、対集団戦と、持久戦の経験は積んだばっかなんだ」
「――だから、悠莉さん達より、ウチ達がこの人達を相手にする方が良いです!」
「だから、行ってなのっ! ――ついでに、ティス様も持ってけなの……」
コラキは錫杖で肩を叩きながら、イグルは脚の爪を光らせながら、ペリは棍棒を頭上でブンブンと振り回しながら、悠莉達に「先を急げ」と言ってくる。
悠莉は、愛里、ペタリューダ、もも缶、サッチー、ミッチーの顔を順番に見ていき、全員の顔を見終わった後、示し合せる様にコクリと頷く。
「――じゃ、ティスさん、借りてくね? それと……、後、宜しく……」
「おうっ!」
「はいっ」
「はぁい、ティス様、いってらっしゃいなの!」
「? はぁい?」
そして、スプリギティスを加えた一行は、冒険者達の横をすり抜けようとする――。
「ごぁっ!」
しかし、素直に冒険者達が通してくれるはずも無く、冒険者達が悠莉達に武器を向ける――が……。
「――『うんとこしょ』ぉ!」
ペリが棍棒を地面に叩き付けると、そこから黒い球体が飛び出してくる。そして――。
「「「「!」」」」
黒い球体が、ペリの胸元辺りで制止すると、冒険者達は皆、黒い球体に引き寄せられる。
「今のうちです、早くっ!」
「――すまねぇッス……」
「ペリさん……、ありがとうございます……」
ミッチー、ペタリューダが頭を下げると、三人は親指を立て「気にすんな」と言いたげに微笑む。
そして、悠莉達は天帝城内部へと突入を果たしたのだった――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――天帝城 ロビー――
「――これが……、天帝城……」
「何だか……、不思議な感覚ですわ……」
「ん、居心地、良くない」
「昔の城にしちゃあ、綺麗だな?」
「――何かのスキルッスかね?」
「あらぁ? そうだわぁ……、殴り込みだったわぁ……」
「――え、ティスさん?」
一行は、床以外全てが大理石の様な質感である、天帝城のロビーを見渡す。そして、床だけが違う事に気付いたのは、まさかのスプリギティスであった……。
「あらぁ? 何だか、床だけ違うのねぇ? お金、足りなかったのかしらぁ?」
「――え?」
悠莉がその言葉に反応し、地面を見た瞬間、地面から白い影が、水飴の様にグニャリと形を変え、悠莉達を飲み込んでいく――。
「しまっ――」
――トプン……と言う水音と共に、悠莉達の姿は、天帝城ロビーから消えてしまった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――天帝城『黒の間』――
「ったっ! ――あれ……?」
「あらぁ? ――ここは、どこぉ? 私は……、うん、スプリギティスよねぇ?」
白い影に飲まれたと思った次の瞬間には、悠莉は別の部屋に居た。
「えっと……、ティスさん?」
「はぁい?」
――幸いにも、本物らしきスプリギティスがいた事に、ホッとして胸を撫で下ろすと、コツコツと靴音が響いて来る。
「――誰っ!」
「――よぉ……、久し振り……でもねぇか……」
そこに居たのは、黒褐色の地肌に薄手のカーディガンを羽織った男だった――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――天帝城『緑の間』――
――一方、悠莉、スプリギティス以外の面子は……。
「…………クィーン……」
「あら? これはこれは……」
「アクリダ……さん……」
愛里とペタリューダは、緑の少年と対峙し――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――天帝城『赤の間』――
「――来てしまったのですね?」
「ん、エサ王の代わりに、「滅っ」ってする」
「――あねさんかよ……」
もも缶とサッチーは、赤燐の美女と――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――天帝城『白の間』――
「――アンタは……?」
「オホッ、中々の良い筋肉ですね……」
『ミッチーさん、気を付けてっ! ――色々……』
ミッチーは、白影の老人と向かい合い、そして――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――天帝城 ロビー――
「ぶぅるぁ……」
――最後の客を迎え……、天帝城は、まさに今、決戦の時を迎えようとしていた……。




