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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
174/204

突撃!

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――マコス大陸 天帝城前――


「何なの、この人達っ! 全っ然、倒れてくれないっ! 『一等星(ファースト)』ッ!」


 悠莉が横薙ぎの蹴りを放つと、対峙する冒険者達が十数名ほど纏めて吹き飛ばされる。――しかし、冒険者達は、カクリと、糸の付いた人形の様に起き上がり、再びそれぞれの武器を手に悠莉達目がけて前進してくる――。


 上空に映っていたラヴィラが消えてから既に、一時間以上が経っていたが、悠莉達は未だに天帝城に入る事が出来ず、足止めを喰らっていた。


「ん、もう、食べよ? ね、ゆうり……」


「――駄目だったらっ!」


 苛立ちと空腹で、暴走仕掛けるもも缶を、悠莉が抑える事が出来るのも、既に限界に近付いて来ており、一行は心身共に消耗していく――。


「『イバラ』ッ! ――駄目ッスね……、やっぱり、縛る系のスキルは無効みたいッス……」


「――苛立たしいですわ……、もう、こうなったら、手足の一、二本、削っても宜しいのでは?」


「ペタちゃん……、それは、最後の手段でお願い……」


 愛里は、自信の身体から漏れ出す、毒々しい緑の光を辛うじて抑え、ペタリューダにお願いをする。――しかし、当の愛里自身、内心では「もう良いかな?」と、考えているのもまた、事実である。


「うしっ、じゃあ……、これでどうだっ! 『充電』っ!」


 サッチーが杖を地面に突くと、地面を伝って、弱めの電撃が冒険者達を襲う。


「「「「あぁあぁぁんっ!」」」」


「――ラッセラがいるッス……」


「ミッチー……、その情報は今いらねぇべ?」


 ミッチーとサッチーが真剣な顔つきで、悶える冒険者達の様子を伺うが……。


「「「「――ゴァァァッ!」」」」


「これも、ダメか……、パネェな……」


 若干、衣服や肌を焦がしながらも、尚、前進してくる冒険者達を不気味に感じ、一行は少しずつ後退する事を余儀なくされる。


 ――既に、同じ様なお試しを何回か行ったために、一行は天帝城から大分遠ざかってしまっている。


「ん、試す……」


「こらっ、ダメだってっ!」


「ん、大丈夫、ちょっとだけ」


「ちょっとって、どう言う事よっ――」


 悠莉がもも缶を止めようとするが、時すでに遅く……、もも缶はナイフとフォークで十字を切る様に交差させ、一人の冒険者から、腕を切り離す――が……。


「――キャァって……、あれ?」


「これは……、再生してる?」


 悠莉と愛里は、自分の目に映る光景が信じられず、何度も瞬きし、冒険者の様子を伺う。――しかし、何度見返しても、二人の目に映るのは、切り口からモコモコと新しい腕を生やしていく、冒険者の姿であった……。


 そして、その時、上空に再びラヴィラが姿を現す――。


「い、いや……、正直、君達の覚悟を過小評価していた様だ……、まさか、殺す気で来るとは……、念の為に言っておくが、彼等は、私の指揮下にある限り、死ぬ事は無い、身体が欠損する事も無い、スキルで束縛される事も無い、無駄に消耗して命を失わぬうちに撤退する事を勧めるよ……」


 まさか、悠莉達が冒険者達を殺す気になるとは、全く考えていなかったラヴィラは、内心でかなり焦り、さり気なく悠莉達に撤退を促す。


「――クッ……」


 ――しかし、その言葉は、悠莉達を不安に突き落とすには十分であったらしく、一行は無意識の内に数歩……、また数歩と……、後退っていく。


 ラヴィラはその事に気付き、満足そうに頷くと、足元からスゥッと自身の映像を薄めていく。


 しかし……、それを許さない者達が居た――。


「――何、ヘタレてんだっ! 『八咫』!」


 ラヴィラの映像の更に上――はるか上空から、シャンシャンと音が鳴り響く。


「あれは……、コラキ君?」


「それと、ペリ、イグル……と……」


「ティスさんッスかっ!」


 愛里、悠莉、ミッチーが空を見上げると、一羽の大きな鳥――鶏の上に、三人の少年少女が乗っている。


 その内の一人、褐色の肌をした少年――コラキは、両手で錫杖を持ち、シャンシャンと音を鳴らし続けている――。


「――グォッ! チッ!」


 コラキが鳴らす音の不意打ちに対応し損ねたのか、ラヴィラは一瞬だけ、苦悶の表情を浮かべた後、映像を完全に掻き消した。そして――。


「――あっ、コラキ、その辺にするですっ!」


「ティ、ティス様の背中から、血が出てるのっ!」


「え? あ、やべっ! 地面じゃなかった――」


 三人と一羽は、そんなやり取りをしながら、悠莉達の元へと舞い降りて来た。


「待たせたなっ!」


「お待たせですっ!」


「待ったの?」


「――あらぁ? ここは、どこかしらぁ?」


 コラキ、イグル、ペリがポーズを取り、人型になったスプリギティスは、キョロキョロと辺りを見渡す。――悠莉達一行は、その様子を、ポカンと口を開けてみていたが……。


「――いや、待ってないって言うか、アンタ達、何でここにいるのよ?」


 真っ先に我に返った悠莉がそう尋ねると、きっちりとポーズを保ったまま、コラキがニヤリと笑う。


「勿論、加勢に来たっ!」


「――椎野さんの仕返しですっ!」


「女王様に会いに来たのっ!」


「さぁ?」


「――アンタら……、せめて理由は統一しなさいよ……」


 ガックリと肩を落とす悠莉に向けて「まぁまぁ」と言いながら、コラキはチラリと冒険者達を睨む。


 そして、錫杖をクルクルと何回か回した後、肩にトンっと乗せ――。


「細かい事は良いんだよっ! ――悠莉姉ちゃん達は、先に行きたいんだろ? なら、ここは――」


「「「任せとけっ!」」」


 コラキを中心に、ペリ、イグルが左右に立ち、三人は再びポーズを取る。


「ちょっと、対集団戦と、持久戦の経験は積んだばっかなんだ」


「――だから、悠莉さん達より、ウチ達がこの人達を相手にする方が良いです!」


「だから、行ってなのっ! ――ついでに、ティス様も持ってけなの……」


 コラキは錫杖で肩を叩きながら、イグルは脚の爪を光らせながら、ペリは棍棒を頭上でブンブンと振り回しながら、悠莉達に「先を急げ」と言ってくる。


 悠莉は、愛里、ペタリューダ、もも缶、サッチー、ミッチーの顔を順番に見ていき、全員の顔を見終わった後、示し合せる様にコクリと頷く。


「――じゃ、ティスさん、借りてくね? それと……、後、宜しく……」


「おうっ!」


「はいっ」


「はぁい、ティス様、いってらっしゃいなの!」


「? はぁい?」


 そして、スプリギティスを加えた一行は、冒険者達の横をすり抜けようとする――。


「ごぁっ!」


 しかし、素直に冒険者達が通してくれるはずも無く、冒険者達が悠莉達に武器を向ける――が……。


「――『うんとこしょ』ぉ!」


 ペリが棍棒を地面に叩き付けると、そこから黒い球体が飛び出してくる。そして――。


「「「「!」」」」


 黒い球体が、ペリの胸元辺りで制止すると、冒険者達は皆、黒い球体に引き寄せられる。


「今のうちです、早くっ!」


「――すまねぇッス……」


「ペリさん……、ありがとうございます……」


 ミッチー、ペタリューダが頭を下げると、三人は親指を立て「気にすんな」と言いたげに微笑む。


 そして、悠莉達は天帝城内部へと突入を果たしたのだった――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城 ロビー――


「――これが……、天帝城……」


「何だか……、不思議な感覚ですわ……」


「ん、居心地、良くない」


「昔の城にしちゃあ、綺麗だな?」


「――何かのスキルッスかね?」


「あらぁ? そうだわぁ……、殴り込みだったわぁ……」


「――え、ティスさん?」


 一行は、床以外全てが大理石の様な質感である、天帝城のロビーを見渡す。そして、床だけが違う事に気付いたのは、まさかのスプリギティスであった……。


「あらぁ? 何だか、床だけ違うのねぇ? お金、足りなかったのかしらぁ?」


「――え?」


 悠莉がその言葉に反応し、地面を見た瞬間、地面から白い影が、水飴の様にグニャリと形を変え、悠莉達を飲み込んでいく――。


「しまっ――」


 ――トプン……と言う水音と共に、悠莉達の姿は、天帝城ロビーから消えてしまった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城『黒の間』――


「ったっ! ――あれ……?」


「あらぁ? ――ここは、どこぉ? 私は……、うん、スプリギティスよねぇ?」


 白い影に飲まれたと思った次の瞬間には、悠莉は別の部屋に居た。


「えっと……、ティスさん?」


「はぁい?」


 ――幸いにも、本物らしきスプリギティスがいた事に、ホッとして胸を撫で下ろすと、コツコツと靴音が響いて来る。


「――誰っ!」


「――よぉ……、久し振り……でもねぇか……」


 そこに居たのは、黒褐色の地肌に薄手のカーディガンを羽織った男だった――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城『緑の間』――


 ――一方、悠莉、スプリギティス以外の面子は……。


「…………クィーン……」


「あら? これはこれは……」


「アクリダ……さん……」


 愛里とペタリューダは、緑の少年と対峙し――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城『赤の間』――


「――来てしまったのですね?」


「ん、エサ王の代わりに、「滅っ」ってする」


「――あねさんかよ……」


 もも缶とサッチーは、赤燐の美女と――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城『白の間』――


「――アンタは……?」


「オホッ、中々の良い筋肉()ですね……」


『ミッチーさん、気を付けてっ! ――色々……』


 ミッチーは、白影の老人と向かい合い、そして――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――天帝城 ロビー――


「ぶぅるぁ……」


 ――最後の客を迎え……、天帝城は、まさに今、決戦の時を迎えようとしていた……。

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