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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
173/204

ステークホルダー

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――マコス大陸 天帝城前――


「――何なのよっ、あんたらっ!」


 悠莉達六人の前に敵が立ちはだかる。その敵は、虚ろな目で黙々と剣を振り、斧を振り、拳を振り上げ、スキルを発動し、悠莉達に襲い掛かってきている。


「ん、弱い、ゆうり、食べちゃう?」


「――い……、駄目駄目っ、一応、あの人達、人間……って言うか、見た事ある人がいる気が……」


 思わず「いっちゃえ」と、言い掛けた口を手で塞いで、敵の集団を観察してみればその大半は、人間――それも、恐らく冒険者達であろう事が分かる。


 彼等は、虚ろな目をしてはいるが、そのスキルのキレは以前と変わらず、状況を飲み込めない悠莉達は戸惑いで、攻撃する事が出来ず、足止めを喰らっていた。


「では、あたくしのスキル()で従わせますか?」


「んー、それが一番手っ取り早いのかなぁ……?」


 ペタリューダは鱗鞭の柄を取り出し、首をコテンと倒すと「打つ? 打って良い?」と、愛里の指示を待っている。愛里も、それが一番効率が良いと判断し、自分とペタリューダ以外の反応をチラリと伺う。すると――。


「あたしも、それが良いかなぁ……」


「――ん」


「インじゃね?」


「自分も、それで良いッス」


 そうして、取り敢えず、冒険者達の足止めをしつつ、ペタリューダのスキルで従わせる方針となったのだが……。


「――こういう時、オレ、どうすりゃいんかな? 吹っ飛ばす?」


 目の前の冒険者集団を見て、サッチーは杖をユラユラと動かしながら、隣に立つミッチーに尋ねる。


 すると、ミッチーは目の前に迫って来る、遠距離攻撃系のスキルを見ながら、剣をヒュンヒュンっと振り回し、地面に剣を突き立てる。


『――キャッ』


「サッチーのスキルは、殲滅力高過ぎてダメッスよ……、取り敢えず、自分が――『腐剣漸(マスキュラー)』!」


 ミッチーが剣を地面に突き刺すと、剣から驚いた様な声がしたと同時に、霧状の触手がウゾウゾと迫るスキルを覆っていく――。


「――ス、スキルが消えていく?」


 驚くサッチーに気を良くしたのか、剣が幾分、その刀身を膨らませ、更に触手の数を増やしていく。


「あら……、これは、あたくしの出番は無いのではありませんか?」


「そうね、ペタちゃん……」


 触手がほぼ全ての冒険者達を絡め取ってしまった様子を見て、ペタリューダと愛里はそう呟く。しかし――。


「――クク……、『解け』」


「「「「「「――っ!」」」」」」


 空から声が響くと同時に、冒険者達を絡め取っていた触手が霧散してしまった。冒険者達は、その出来事に驚くでもなく、再び、虚ろな目で立ち上がると、悠莉達を目がけてスキルを放ち始める。


「――チッ、『クルミ』ッ!」


 ミッチーが迫り来る斬撃を防ぐと、空から今度は拍手の音がパチパチと鳴り始める。


「あんた……、ラヴィラ……」


 悠莉が空を見上げて呟くと、空に映し出されたラヴィラはニコリと微笑み、前進する冒険者達をその手で制し、動きを止めると、ため息を吐き、悠莉達を見下ろす。


「――君達はもう少し、彼の死を嘆いていると思ったんだがな……」


「おあいにくさまっ! ――死んでない人を嘆く趣味は、あたし達には無いんですよーだっ!」


「ゆ、悠莉ちゃん、はしたないわよ?」


 ベェっと舌を出す悠莉の肩を、愛里が慌てて掴み、一歩下がらせると、それと入れ替わる様に、サッチーが前に出る。


「まぁ、そういう事だ、諦めて、オレらにボコられてくれや?」


「サチ君か……、悪いがそう言うわけにはいかん……。今の話を聞いたら、尚更……だな」


 ラヴィラが指をパチンと鳴らすと、動きを止めていた冒険者達が再び動き出す。そして、ラヴィラは、憐れむ様に冒険者達をチラリと見る。


「――彼等は皆、『加護』持ちの冒険者達だ、そもそも、『加護』持ちとは、私が、強力なスキルを持つ冒険者達を管理する為に、ギルド創設時に、ギルドカードに仕組んだ『マーキング』なのだよ……」


「アン? それが、どうしたっつうんだべ?」


 突如、ギルド創設時の話を始めたラヴィラを、サッチーだけでなく、他の五人も不思議そうに見上げる。


 ラヴィラは、「まあ聞け」と言いたげに、手の平をサッチー達に突き出し、冒険者達の動きを再び止めると、話を続ける。


「『加護』を持つ冒険者は皆、私の管理下にあると同時に……、暴走した時や、その戦力が必要な時の為に、私が操る事が可能なのだよ……、こんな風にね?」


 ラヴィラは何度か指を鳴らし、冒険者を動かし、止め、動かしと、サッチー達に見せ付けると、それまで浮かべていた微笑を消し、真顔になる。


 サッチーは未だに「ソレがどうしたべ?」と言っていたが、他の五人は、ラヴィラが何を言っているのかを理解し、その顔を真っ青に染める。


「ああ……、心配しなくても、君達には『加護』は無い……」


 その言葉に安堵した悠莉達を見ると、ラヴィラは小さく舌打ちをして、話を更に続ける――。


「――私は、有力そうな冒険者には全て……、全てに『加護』を与えて来た。しかし……、君達には『加護』を与える事が出来なかった……、そして……『サラリーマンの神様の加護』などと言うモノは、与えた覚えが無いんだよ……」


「――え? じゃあ、アレは?」


「――知らない……、私が知らない……、そんな事は初めてでね……、だから、彼には早めに消えて貰いたかったんだが、そうか……、生きているのか……、ならば、もう少し急ごうか……」


 ラヴィラは若干焦った様な表情を見せると、再び指を鳴らす。


「次に世界同士が触れ合った時が、決着の時だ」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――x県x市 F・P総合病院――


「さて……、それじゃあ始めましょうか?」


「始めるって……何を?」


 俺がそう尋ねると、ウピールさんは何も答えずに、俺の目の前にゴトリと水晶を置いた。


「水晶……って事は?」


「はい……、ギルドカードの再発行しましょうか?」


 そして、最後にウピールさんが取り出したのは――。


「これは……、ギルドカードのプレートと、携帯電話ですか?」


「はい、詳しくは……」


「――ボクが説明しますよ。えっとですね、衛府博士がサンプルとして送って来たんですけど、社長が「ユー、使っちゃいなよ」って……」


 ――後輩曰く、解析は終了している為、既に標本以上の使い道はないらしい。


 因みに、携帯電話に関しては……。


「――どうやったのか、接合部が無くて、分解出来ないんですよ。それでやっぱり、スキャンするだけした後は、使い道が無くて……、社長が「椎野(ボンクラ)にくれてやれ」って……」


 うん……、普通にくれれば「ありがとう」って言えるのに……、あの人は素直に感謝させてくれないなぁ……。


「――と言う訳です、やってしまいましょう?」


「そう……ですね、お願いします」


 早く、皆に無事を伝えたいしな……。


 ――俺の了承を得たウピールさんは、水晶に手を当てると何やら「角度は……」とか呟いている。あれ? 以前、そんなの気にしてたっけ……?


「はーい、先輩も良い顔して下さいね?」


「――み……後輩よ、何をしてんの?」


 俺がウピールさんの奇行を不思議に思っていると、後輩がデジカメ片手にこっちを見ていた。うん……、どうやら撮影中ってのは分かるんだが……。


「いえね? 日本にギルド創るにあたって『天啓』とか、色々マニュアル作ろうと思いまして……、その為の参考資料ですよ?」


「――うん……、分かった……」


 それで、ウピールさんがオシャレさんな感じなんですね?


「さてさて、ウピールさんの用意も、先輩の用意も出来たみたいですし、やっちゃって下さいっ!」


 ――そうして、俺の人生二回目の『天啓』が始まった……。


「では椎野さん、貴方のお仕事――ジョブを強くイメージして下さい……」


「はい……」


 俺はギルドカードを握り締める。すると、後輩が真面目な顔をして、レンズをこちらに向けながら、俺に近付いて来た。


「――先輩、どんな事をイメージしてるんですか?」


 ――ああ……、これも資料用って事か?


「俺のジョブ――『サラリーマン』の事だなぁ……」


 おっ、何か、水晶から光が漏れだしている。――やっぱり、イメージを口に出すってのは、何かしらの影響があるのか?


「へぇ……、『サラリーマン』って、強いんですか?」


「――いや、そもそも事務職――非戦闘職だから、強い、弱いじゃないからな?」


 俺がそう答えると、後輩は少し、不安そうに、不満そうに頬を膨らませる。そして――。


「――どうせなら、戦闘職ってやつになれる様に、イメージ出来ないんですか? 今から、危ない所に行くんでしょ?」


「うーん……、戦闘職に……ねぇ……」


 ――確かに、そうなれば生存率が上がるんだろうけど……なぁ……。


「先輩……?」


「うん、やっぱり、無理だ……。俺にとって――『サラリーマン』にとっての戦いってのは、敵を倒すって事よりもさ……、利益出して、仲間や、家族を守るって事が最優先なんだよなぁ……、勿論、その為に戦闘力がいるって考えもあるんだろうけどさ……」


 水晶の光が、俺の答えを急かす様にチカチカと点滅している……。


「どうせなら、皆巻き込んで(敵味方関係なく)、関係者全員に利益の出る様に動いた方が面白いよなぁ……」


 ――その瞬間、俺の答えを受け止めてくれた様に、水晶の光が強く……、強く光り輝いた……。

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