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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
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再誕の兆し

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――x県x市 F・P総合病院――


「――どう言う事か、説明して頂けるんですよね……?」


 俺は羽衣パパ――啓二さんから差し出された腕時計と、俺が覚えているよりも僅かに小さくなった『赤い石』をチラリと見てから、啓二さんの顔を覗き込む。


「ボク……、少し席外しましょうか?」


「ああ……、大丈夫ですよ。――そんなに大した話じゃないですから」


 席を立とうとする美空にそう告げると、啓二さんは少し視線を上に向けた後、何から話すべきかと小さく唸った後、ポツリポツリと語り始めた。


「――まず、何故、俺がこれを持っているかと言えば……、まあ、勿論、俺の本名は『ケイシー=サッカリー』……、あの時、五歳の子供だった奴ですよ……」


 啓二さんはそう言って、照れ臭そうに笑う。――こういう時、俺はどう呼べばいいんだろうか? 今まで、『啓二さん』だったからなぁ……、いきなり『ケイシー』に変えるのもおかしいし……。


「――先輩、今は呼び名とかは気にしないで良いですからね? ――ちゃんと話を聞いて下さいよ?」


「――っ! お、おお……、大丈夫だ、問題無い」


 ――危ねえ……、ナイスフォローだ……。そうだな、呼び名はともかくとして。


「――無事だったんだな……、良かった……」


「そりゃ、こっちの台詞ですよ……」


 啓二さんはそう言って、苦笑している。そっか、俺のあの時の行動は無駄じゃなかったんだな……。あれ……、そう言えば――。


「なあ……、親父さん――ジャックは……?」


「――ああ……、親父は二年前に……」


「――っ。そっか……」


 ――って言う事は……、二年前に地球に……あれ?


「――あ、親父は病死なんで、あの時の事は全然関係ないですよ? むしろ、結構な大往生だったんで、心残りは、あの後の、おやっさんの事だけだったんですよ」


 どうやら、その言葉に偽りはないらしい。啓二さんの表情はスッキリとしたものだ……。


「まあ、その心残りも、もう晴れたんで、今頃は羽衣の守護霊(ストーキング)でもしてんじゃないですか?」


 そして、そこから啓二さんの表情は真面目なモノになり、改めて、俺と美空の顔を交互に見てから――。


「――本題に入りますね……。あの時――頭の中に声が響いた後なんですけど……、俺と親父――ジャックは、気が付けば、全く知らない場所に居たんです」


「――もしかして……」


 ――俺が日本に居たのかと聞こうとすると、啓二さんはコクリと頷く。


「ええ……、当時は親父がいなきゃ本当にパニックで死んでたかもしれません……、俺達が辿り着いたのは、約二十年前の地球――ハワイでした……」


「――えぇ……」


 正直、少し羨ましいと思ってしまったのは、俺だけじゃ無い筈だ……。美空だって……。


「――今年の社員旅行……」


 ――どうやら、ヤル気だ……。


「それと、おやっさん達と交流していたのも、今思えば運が良かったのかもしれません……。――スキルを使えない地球で、唯一理解出来た言葉が、日本語でしたから……」


「――へぇ……、そんなスキルがあるんだ……」


 海外進出を狙ってる人とか、喉から手が出る程欲しがりそうだな……。


「俺も、こっち来て初めて気付いたんですけどね? ――多分、向こうの人間はデフォルトで持っているスキルかも知れないですね」


 ――ああ……、そう言えば、もも缶とか、『伯獣』も、意外に理解力高かったっけ?


「まあ、そんな訳で黒髪、黒目の……、恐らくおやっさん達と同郷に違いないって考えて、当時、家族旅行に来ていたとある一家に声を掛けてみたんですが、それが、妻の実家ですね」


「え、何それ……、惚気?」


「――お兄ちゃん……じゃなかった、先輩、見っともないですから、大人しくして下さい」


 その後も、まあ……、出るわ出るわ……、惚気のオンパレード……。あれ、俺達、何を聞いてたんだっけ?


「――と言う感じで、俺も親父も、妻のご両親にはえらくお世話になりまして……。――こうして、なんとか髪も黒く染めて、こっちの生活に慣れて、妻と結婚して、妻が妊娠して……」


 そして、啓二さんはそこで、デレデレだった表情を一変させ、真面目な顔に戻る。


「その時、妻が言ったんです……。「この子の名前は、『羽衣』はどうかしら?」って……。――その時、俺は漸く気付いたんですよ……」


「――気付いた……? 何に?」


 思わず、と言った感じで美空が啓二さんに尋ねると、少し間を置いて、啓二さんは話を続ける――。


「当然……、俺が向こうに居た時の友達――『ウイ』が、これから生まれる我が子だって事、そして、俺は……、我が子の為に、時間を……、世界を越えたんだって事に……」


 啓二さんは、チラリと腕時計、そして『赤い石』を見て、俺に告げる。


「――実は、羽衣が生まれてから、何回か、俺が『スキル』を使えた事があったんですよ……。その何れも、羽衣を助ける為でした。その度に、少しずつ『石』は小さくなっていったんですけど……、何とかこうしておやっさんに返す事が出来ました……」


 ――啓二さんはそう言って、最後に「ありがとうございました」と、静かに頭を下げる。


「――礼を言われる事じゃないよ……、あの時、俺は何が起こるか分から無いまま、行動を起こしたんだ、結果が良かったからと言って、余り褒められる事じゃない……」


「おやっさん……」


 流石に、親子二人をいきなり見知らぬ土地に跳ばすとか……、タチが悪すぎる……。


「――でも、おやっさんがああしなかったら……、羽衣は生まれて来なかったんです。――俺は、そう思ったからこそ……っ!」


「――啓二さん……いや、ケイシー……」


 ――そうか……、そう考えてみれば、少し、いや、かなり気が晴れるな……。うん、羽衣ちゃんが生まれる為にはああするしかなかったよなっ!


「――だからこそ、物心付く前から、羽衣に『サラリーマン神話』を聞かせて来たんです!」


「お前っ! やっぱ、確信犯かっ!」


 通りで、羽衣ちゃんの、俺に――と言うか、『サラリーマン』に対する期待が……、ハードルが高いと思ったよっ!


「お蔭で……、俺が、どんだけっ!」


 ――ええ……、もう、かなり無理してたよっ!


「い、いえ……、元は、小さい頃、羽衣に聞いた武勇伝が元ですからっ! ――あんまり、間違ってない筈ですよっ」


 俺は、ケイシーの肩をガクガクと揺さぶりながら、今までの怨みとばかりに、内心、どんだけテンパってたかを愚痴る――。


「――はい、先輩、そこまでです」


「痛っ!」


 ――暫くケイシーを揺さぶってたら、美空が俺の脳天目がけて手刀を放って来た。


「――何すんのさ……?」


「先輩、啓二さんも、この話は多分、決着つかないでしょうから、これでお終いです。――お互い、生きてて良かった、それで良いじゃないですか?」


 有無を言わさない笑顔で、美空がそう言ってくる……。――まあ、そうだな、お互い生きてて、お蔭で羽衣ちゃんが生まれて……、よく考えてみれば、良い事尽くしじゃないか……。


「スマン……、ちょっと混乱してた……」


「いえ、俺も、いきなり色々言い過ぎましたね……、すいません、それと、やっぱり、ありがとうございます……」


 俺はケイシーが差し出して来た右手を握り、握手を交わす。――うん、生きてて良かった……。


「――ところで……」


 と、思っていたら、ケイシーが俺の手を掴んだまま、ニッコリと微笑む。


「ん?」


「その……、羽衣は?」


 ――やっぱり、そうだよな……。


「俺……、この後の事は何も知らないんで……、羽衣が無事かどうかだけでも……」


 多分、俺の『報連相』の事を聞きたいんだろう。しかし、今、俺は――。


「――啓二さん……、実はその事なんですが……」


「――はい?」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――失礼しました……」


 ――あれから、美空がケイシーに、携帯が壊れたせいで『報連相』が使えない事、向こうのメンバーからも連絡が無い為、向こうの状況が確認でき無い事を聞くと、魂が抜けた様に病室から出ていってしまった……。


「………………」


「――何、お兄ちゃん?」


 俺が少し考え込んでいると、不意に、美空が声を掛けて来た。


「いや、何にも言ってないけど?」


「顔が何か言いたそうですよ?」


 ――まあ、長い付き合いだし……、家族だし、分かるか……。俺は、ため息を吐いた後に、美空を見つめて聞いてみる。


「――次の『接界』はいつだっけ?」


「多分、十日から二十日って所ですかね? ――で?」


 そうか……、結構、間が空くな……、でも――。


「俺――「ダメ」……、まだ、何も言ってないけど?」


 ――人の話は最後まで聞こうって、社長から言われなかったか?


「どうせ、次の『接界』で、また向こうに行こうって考えてるんでしょうけど、ダメ、どうせ、事務職だと、役に立たないんでしょ? なら、怪我しない様に、こっちにいたら?」


「そうだけどさ……、でも、それでも、ここでじっとしてるのは……」


 美空は尚も険しい表情で、俺を見ている。


「――それに、お兄ちゃん、携帯電話も、武器も無くなったでしょ? ――向こうに行って、本当に何するつもり? それに、スーツもボロボロだったんだよ? あれが無いと、お兄ちゃん、本当に只の事務員でしょ?」


「――あ……」


 そう言えば、そうだった……。――でも……。


「で、でもさ……、お前は……、俺がそんな、ヘタレた所――は、いつも通りか……。――じゃあ、情けない――所もそうか……」


 ――上手い説得が見当たらない……。どうしたものかと、俺が、ウンウンと唸っていると――。


「――ぷっ……、もう、良いですよ……。どうせ、ボクの意見なんか、聞くないんでしょ? 分かりましたよ……、好きにすれば? ただ……、せめてもの選別に、代替品位は用意してあげますよ」


 そう言って、クスクスと笑いながら、美空が誰かに電話を掛け始めた。


 ――そして、数分後……。


「美空ちゃん? 入りますよ?」


 俺の病室に入って来たのは……。


「――ウピールさん……?」


「あ、椎野さん、お久し振りです、元気そうで良かったですね?」


 ――懐かしのギルド嬢、ウピールさんだった……。

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