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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
168/204

北へ

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――天帝城『オディ・オロダン』――


「――陛下……、冒険者達がやって参りました」


 ドラコスがそう告げると、ラヴィラはゆっくりと玉座から立ち上がり、玉座の間に設置されたスキル道具へと手を伸ばす。


「ふむ……、『加護』持ちは僅かに五名か……、不作だな……」


「――それは仕方ないでしょう、『加護』持ちでこんな考え無しの特攻を行う者の方が珍しいのですから……」


 ラヴィラが、失望した様に深くため息を吐くと、そこに、ラヴィラ、ドラコスに続く三人目――グリヴァが、玉座の間に入り、ラヴィラにそう告げる。


「グリヴァか……、あの子供はどうした?」


 ラヴィラはそんなグリヴァをチラリと見ると、『復活の儀式』で、何故か生まれてしまった少女――アーグニャの事を聞いていた。グリヴァは、何と言おうか迷った末に――。


「それが……、アーグニャ様は、先程、目を離した隙に――」


「逃がしたと……? そう、申すのか?」


 険しい表情を浮かべ、ラヴィラは一歩、グリヴァへと近付く。


「誠に申し訳ありま――」


 グリヴァが跪き、ラヴィラに謝罪をしようとした、その時だった……。


「あ、ぐりばぁ、いたっ!」


 ――ピコピコと、頭に生えた『エスカ』を揺らしながら、渦中の人物――アーグニャが、グリヴァに抱き着いた。


「――ア、アーグニャ様っ?」


「うふぇふぇー、あたちが見つけたから、こんどは、ぐりばぁがオニだよ?」


 ラヴィラとドラコスは、自分達がふと目を離した隙に現れ、グリヴァに抱き付いていたアーグニャを、信じられないモノを見ているかの様に見ている。


 アーグニャは、そんな二人の視線を感じたのか、キョロキョロと周りを見渡した後、跪くグリヴァの姿を見つめ、ポソリと呟く――。


「――ねぇ? ぐりばぁ、いぢめられてるの?」


「「――っ」」


 その瞬間、ラヴィラとドラコスの全身から、汗が滝の様に流れていく。


「――へ、陛下……、これは、アグラ様の……」


 ドラコスは、汗を流し、自分の意志とは関係なく、ジリジリとラヴィラに近付いて行く。


「うむ……、マズイな……『納めよ』!」


「――うふぇ?」


 ラヴィラがスキルを発動させると、ドラコスが糸が切れた様にその場に倒れ込み、アーグニャも何かが断ち切られた様で、尻餅をついている。


 そして、ラヴィラは跪いたままのグリヴァと、いつの間にか立ち上がり、再びグリヴァに抱き付いているアーグニャを、険しい表情で見つめる。


「やはり……、この子供は……」


「――いま、おじちゃん、なにかしたの?」


 ――一方のアーグニャは、ラヴィラが何をしたのか、気になる様でピコピコと『エスカ』を揺らしながら、ラヴィラに近付き、その周りをチョロチョロと跳ねまわり始めている。


「――グリヴァ、取り敢えず、外の奴らを何とかして来い、この子――アーグニャに関しては、それからだ……」


「――分かりました……」


 グリヴァはスッと立ち上がると、銛を取り出して城の門前で騒ぐ冒険者達を見据える。そして、そのまま銛を向け、スキルを放とうとする――が。


「ねぇ、あのひとたち、うごけなくしたらいいの?」


 銛に手を添えて、アーグニャがそう尋ねて来た。


「ア、アーグニャ様……、後で遊んであげますから、少し待っていて下さいな?」


 グリヴァが「危ないから」と、銛から引き剥がそうとするものの、アーグニャは首を横に振り――。


「いやっ、はやくあそぶのっ!」


 そう言って、駄々を捏ねた次の瞬間には、冒険者達の前に現れていた――。


「――なっ、アーグニャ様? いつの間に?」


「ふむ……、やはり、私達の勘違いでは無かったのか……」


 驚くグリヴァに、思案顔のラヴィラ、ドラコス。――そんな三人をよそに、アーグニャは冒険者達に手を振り、笑顔を向ける。


「――おい……、あれ、子供だろ?」


「でも……、何か『魔獣』っぽいってか……『変異種』っぽくないか?」


「――でも、手ぇ振ってるぜ?」


 ――冒険者達は混乱し、目の前の少女が何なのかと、ざわつき始める。


「――むっ、あたちをむしするんだ……」


 アーグニャは、そんな冒険者達の戸惑いの様子を見て、自分が無視された様に感じ、頬を膨らませる。そして――。


「じゃあ、いい……、いらない」


「――は?」


 次の瞬間には、冒険者達はその場に倒れてしまった。残されたのは、大勢の影に遮られ、状況が分かっていなかった、数名の冒険者達のみであった。


「え、何だこれ……? 何が……?」


「むぅ……、いっかいじゃだめだった……」


「――え? お嬢ちゃん、一体――」


 そして、全てが終わった三十秒後――。


「――グリヴァ……、リンキに命じて外の奴らを片付けさせろ……、『加護』持ちは、牢を別にせよ……。そして、お前は……、このまま、アーグニャの世話と監視を続けよ……」


「――はっ……」


 ――ラヴィラは、外で両手をぶんぶんと振り回し、グリヴァの名を呼ぶアーグニャをチラリと一瞥すると、そのまま玉座に座り込み、何かを考え始めた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ騎士団詰所――


「――話が逸れてしまったね、改めて状況整理といこうか?」


 散々な議論となってしまった『椎野生死』について、一応の決着が付いた後、衛府博士主導の元、改めての状況整理が行われようとしていた。


「まず、これからの目標としては、この『栗井ディスク』が示していた様に、天帝――つまり、ラヴィラの捕獲、その後、ラヴィラが訴えている『接界』による、両世界間での『喰らい合い』を食い止める方法に覚えが無いかを拷――尋問して聞き出す事だ……」


 詰所に用意された黒板に『ラヴィ拷問』の文字が書き出されていく。


「次に、敵地に関して何だが……」


「――それについては、私から説明しよう」


 スッと、手を上げ、頭部を輝かせ、ブロッドスキーが立ち上がる。


「マコス大陸は、氷雪が吹き荒れる大陸だ。――とてもではないが、人が生活できる場所では無い、少なくとも、あそこを攻めるなら、防寒対策はしっかりしていかなくてはな……」


「うん? ああ、それに関しては、私で用意しよう」


 そう言って衛府博士は、懐からあるモノを取り出す――。


「あっ、長い棒だぁっ!」


「――ああっ、こら、園児ちゃんっ! 今は調整中だから、触っちゃ駄目じゃないか」


「う? 駄目なの……?」


 衛府博士は、羽衣の手が届かない様に長い棒を持ち上げる。そして、羽衣が諦めてブロッドスキーの肩に上り始めると、「ふぅっ」と、ため息を吐いて話を続ける。


「ともかく、防寒用の『長い棒』と、スキル封じ用の『長い棒』を用意しておくから、うまく使ってくれたまえ」


「――博士の協力、感謝致します……」


 ブロッドスキーはそう言うと、羽衣が落ちない様に気を付けながら、頭を下げる。


「そうだ……、因みにマコスは地形的には山などは一切ないが、先ほど言った様に、氷雪が吹き荒れているお蔭で、視界は悪い。――敵の牙城に近付くまで、接近に気付かれる事は無いと思っていいだろう」


 そして、黒板に『棒で突っ込む』の文字が書き出されていく……。


「――次に、敵の戦力ッスね?」


「あっ、み、ミッチー? お前、オレを差し置いて、そんな頭良さげなポジションなんか……?」


 ミッチーは、そんな事を呟くサッチーをチラリと見ると、静かにガッツポーズを取り、説明を始める。


「えっと、敵の戦力はラヴィラさん、アクリダさん、リンキさん、グリヴァさん、それと、ドラコスと呼ばれてた奴ッスね……。皆、『獣士』とか言う……、『伯獣』の上位クラスみたいな人達ばっかりッスっ!」


 ミッチーが誇らしげに報告を終えると、羨ましげな視線を送るサッチー以外が微妙な表情になっている……。


「――ええっと……、ミチ……、それだけ……か? ――敵のスキルとかは?」


「? それだけッスよ? スキルはこう……ガガって感じで、キラッて感じっスかね?」


「――そうか……」


 ブロッドスキーは何か、憐れみを込めた表情でミッチーを見つめると、そのままミッチーをサッチーの隣の席に座る様に促す。そして――。


「――ああ……、その、何だ? 誰か、敵の武器や、スキルについて、分析出来たやつはいないか?」


 その後、悠莉や愛里、ペタリューダの発言で、ドラコスとラヴィラ以外の武器やスキルの情報が集まっていく。そして、黒板には『お帰り、ミッチー』の文字……。


「さて、味方の戦力についてだが――」


「――自由に動かせるのは、地球組……と言うか、『ファルマ・コピオス』のメンバーだけだろうね……」


 ――現在、破壊の爪痕が残るナキワオや、ヘームストラ各地の復旧に騎士団が駆り出されており、人手が不足している状況を考慮して、衛府博士がそう告げる。


「具体的には、あたしと、愛姉、もも、ペタ、ミッチー、サッチー……かな?」


「ゆうりちゃん、ういはぁ?」


 ブロッドスキーの頭をペチペチと叩きながら、羽衣が不満気に尋ねる。


「アンタは、ピトちゃんとお留守番っ!」


「――ええっ! ゆうりちゃんのけちんぼぉ! ういも、ゆきやこんこんしたいっ!」


 ――両手でペチペチと鳴らしながら、羽衣はヒートアップし、猛抗議を始める。しかし、悠莉はそんな羽衣を見つめ、深くため息を吐いた後、ポンポンと羽衣の頭を軽く叩き、その目を見つめて告げる。


「――アンタは、ここで……、おじさんを待ってて上げて? 一応、おじさんが帰ってくる前にケリ付けるつもりだけど、もし、あたし達がピンチになってそうだったら……」


「――うっ! わかったっ! おじちゃんをけしかけるっ!」


 悠莉が言わんとする事を、羽衣が理解したのかは分から無いが、『椎野』に関する事は自分の役目だとでも言わんばかりに目を輝かせ、羽衣は元気よく手を上げて、悠莉に応えた。


「――さて……、話が纏まった所で、最後に……、相手は十日後まで待つとの事だが、それはあくまでも国単位での話であって、それを私達個人が律儀に待つ必要はない、サッと行って、サッと戻って来ようっ!」


 衛府博士の言葉に、皆が頷き、そのまま解散となり、各々が旅の準備を始める。――黒板には『ガンガン行こうぜ』の文字……。


「――サッチー、アンタ、後で一人反省会ね? 当然、ダリーさんにも言い付けるから」


 詰所から出る間際、悠莉はサッチーにそう告げ、数枚の『反省文用』と書かれた原稿用紙を突き付ける。


「――えぇっ! な、何でよ、悠莉ちゃん!」


「自分の胸と……、黒板に聞きなさい?」


 そして、翌日、万が一の時の為にと、ブロッドスキーや、衛府博士達はナキワオで待機する事になり、一行はマコスに向けて旅立って行った――。

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