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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
167/204

黄色と黒は勇気の印

続きです、よろしくお願いいたします。


※注意※

昨日、投稿できなかったので、今朝、昨日分を投稿しています。

この話は、本日分ですのでご注意ください。

 ――??????――


 俺は……、誰だっけ? ――どうして……、ここに? ここは、どこだ?


 辺りを見渡して見れば、どうやら、ここはどこかの河原みたいだ。――どうでも良いが、殺風景だな……。草木の生えてない河原って、あまり見ない気がするんだけど……、こっちでは普通なのかな……?


「――っ!」


 ――こっち? こっちって……、どっちだ? 何かを思い出そうとすると、胸が痛い……。


『うふふ……、おにいさーん? こっちよぉー?』


 ふと、河原の向こうを見ると、ビキニ姿のお姉ちゃんが、バーベキューセット出して、こっちに手を振っている……。中々のダイナマイツだ……。


「――っ!」


 ――何だ……、今、物凄い、怖気が……。気が付いたら、土下座してしまっていた……。


『えっ? え、えっとぉ……、何してるのぉ? はやくぅ……、おいしいわよぉ?』


 お姉ちゃんが、ビキニをずらして、谷間に串を挟んでいる……。


 ――キュルキュルキュルキュルキュル……。


「――っ?」


 あれ……? 今、何か羨ましげな視線が俺を見ていた気がする……。


『ねぇん? い・ら・な・い・のぉ?』


 ――正直、見たいのは見たい……っ! ――だが……、何故だろう……? 俺の中のナニカが、「アレは違う」と叫んでいる。――確かに、首筋に何か、こう、殺気の様な怖気を感じるせいでもあるんだが……。


 ――そう言えば、声がさっきから出ない。何だろう? 風邪かな? 何にしても、断るにしても、無言って言うのは失礼だろう。


「――っ!」


『えぇー? 聞っこえなぁい、なぁにぃ?』


 ――あ、ちょっと、イラッとしてしまった。そうか、どうやら俺は、ダイナマイツでも、ああ言う派手めな女性は苦手らしい……。出来れば、そうだな……、舞妓さんみたいな感じとか良いなぁ……、こう、チラッと見える素足が……。


『――あら……、嬉しい……』


「――カっ!」


 あれ……? 今、何か聞こえた気がした……。そして……、何かを、誰かの足を思い出しかけた。


「アレは……」


 ――気が付けば、声が出る様になってた。これは……、あれだ……、『御神足(おみあし)』とでも言うべきか?


『そら……、恥ずかしどすから、止めておくれやす』


「――オカ?」


 ――まただ……、また、口が勝手に……。そうだ、誰かが、居る。


『ねぇ……、どぉすんの? 早くこっちおいでよぉ?』


 ああ、そう言えば、あのダイナマイツを待たせたままだった。――良く見れば、ダイナマイツは鬼の生やす様な角を頭に付けてる。――うん、鬼とか……、和風な物は好きだ、ただ――。


「ビキニは……、悪くはないけど、出来れば半纏とかが良いよな……」


『出来れば……、裾はようちびっと短い方が動きやすかったんどすが……』


「そう言うなよ、ハオカ………………。――ハオカッ!」


 思い出したっ! そうだった、俺は……、ラヴィラさんに……。


『そうどす、旦那さん』


「――ハオカ……」


 ――俺の目の前に、ハオカが居た。ハオカは少し、呆れた様な表情で俺を見ていたが、やがて、真面目な表情で、無言で河原の少し先を指差す……。


『――旦那さん、旦那さんは正直、よお頑張ったって……、うちは胸を張って誇れます。――やから、よう、休んでもええと思うんどす……』


 ハオカが示す先には、黄色く光る……小さな扉があった。


『アレは……、旦那さんに分かるよおに言うと、『天国へん扉』どす。――あん先に行かはったら、あっちゃん……ちょい、叩きたくなる胸部ん人達が一杯おって、旦那さんをもてなしてくれますぇ?』


 ハオカは、少し口の端をひくつかせながら、ダイナマイツを指差す。――そして、一転、再び真面目な表情に戻ると、黄色い扉の反対側を指差す。そこには、禍々しい、黒い扉があった――。


『アレは……、みんな言わはるとこの『地獄へん扉』どす。――あん先は、今、混乱ん最中どす……。あそこに行かはったら、旦那さんはまた……、戦ったり、怪我どしたり……、踏んやり蹴ったりん日々に逆戻りになると思うて……』


 ハオカは今度は、唇をギュッと噛みしめて、言いたくなさそうに扉の説明をしてくれる。


『うちは……、正直、よう……、旦那さんが死に掛ける様な……、あないな場面を見るんは、二度とかなんどす……、やから、あっちゃん扉をお勧めします……』


 そう言って、ハオカは俺の背中を押して、黄色の扉に連れて行こうとする。


「ハオカも……行くのか?」


『――いえ……、うちは、一部、資格無しって事で、接待要員には採用されまへんどした……』


 ――ハオカさん……、詳しい理由は聞かないけど、ダイナマイツの一部を睨むのは止めなさい……。ダイナマイツが怯えているし……。


 俺は少し、脚に力を入れてその場に踏みとどまる。そして、両方の扉を――その中を見比べてみる……。


 ――黄色い扉の先では……、河原向こうのダイナマイツと同じ様な格好のダイナマイツが、俺に向かってウィンクしたり、投げキッスしたりと、サービスの良さをアピールしている。


「――っ!」


『旦那さん……?』


 ――この殺気……、ハオカじゃないのか? 感覚的には……、向こう……、黒の扉の向こう側か……?


「………………」


 ――意を決して、俺はもう片方――黒の扉を覗き込む。


『――蹴る……』


「――ヒィッ!」


 扉の向こうでは、物凄い笑顔の悠莉が、ボロボロ涙を流しながら、殺気を放っていた。


『旦那さん、さいぜんからどないし――ああ……、悠莉はん……』


 ハオカはクスクスと笑いながら、そう呟いた。――いや、俺にとっちゃ、笑い事じゃ無いのよ? これ……。


 しかし……、悠莉……、目が真っ赤だな……。


『旦那さん? ――そろそろ……』


 ハオカは俺の顔を覗き込んで、俺に選択を迫って来る。その顔は、俺の答えを既に予想しているのか、嬉しそうな、心配そうな、呆れた様な、複雑な表情を浮かべていた。


 俺は再度、両方の扉を見る。


『――いらっしゃぁい?』


 ――ダイナマイツな扉か……。


『ふふふふふふ……』


 ――悠莉……、愛里も……、怖いよ。――な、扉か……。


「――まあ……、考えるまでも無いよな?」


『――ふふ……』


 ハオカは予想していた通りなのか、クスクスと笑っている。そして、俺の決定を後押しする様に、その声が聞えてくる――。


『――だって、おじちゃんだもんっ!』


 ――ああ……、羽衣ちゃん……、ベストタイミングだよ……。


『ええんどすな……? 旦那さん……』


 ハオカは最後の確認をする様にそう言うが……。


「ああ……、だって、あっちの扉には、ハオカも、悠莉も、居ないしな? ――俺、揉みくちゃされるより、足蹴にされる方が良いし……」


『そうどすか……、ほな……』


 俺の照れ隠しの最後の一言で、ハオカは満足した様に、河原向こうのダイナマイツに向かって『ふふんっ』と、誇らしげに足を見せつけている。――あっちの人と何かあったのか? ハオカ……。


『あら……、すんまへん、ほな、どないぞ……』


 ――ッと……、余計な事考えてたら、脚が止まってしまった。ハオカは、そんな俺の手を握って、扉の前まで誘導してくれる。


 そして――。


「――また、あっちでな?」


『――はいなっ!』


 ――俺は、そのまま……、黒い扉に向かってダイブした……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――x県x市――


「今夜が……、ヤマでしょう」


「――っ」


 今夜……? 今夜って、いつまでなんだろう……。朝日が昇るまで? 日付が変わるまで? それとも……、お兄ちゃんが起きるまで……?


「美空ちゃん……」


 ウピールさんが、ギュッとボクの頭を締め付けてくる……。ああ……、あんまりギュッとされたら、これが……、こんな状態になってるのが、お兄ちゃんだって……、現実だって分かっちゃうから、今は止めて欲しいなぁ……。


「ウピールさん……、何で……、こんな事になったんですかね?」


「…………」


 何でだろう……、最初は向こうで無事って分かったから……、それだけで嬉しかったのに、無事って分かったら、仕事して貰おうなんて……、栗井なんてほっといて帰還して貰えば良かったんですかね……?


「――お嬢……、それと、これを」


 ――そう言って、馴染みのお医者様から差し出されたのは、真っ二つになった金属プレートと、壊れた携帯電話……。


「――何ですか、これ? どう言うつもり……ですか?」


「我々としては……、出来る限りの事はしました……。しかし、本当ならもう……、今は、まだ生きているのが不思議な位です。――ですから、誤解を恐れずに申し上げますと……、これを……、遺品として……」


 ――あれ……? この役立たずは何を言っているんでしょうか……。ボクにはちょっと、理解できないです。


「つまり……、匙を投げさせてくれ――って事ですか?」


「い、いえっ! お嬢、決してそう言う事では……」


「――じゃあっ!」


 ボクが、「一体どう言う事ですか?」と聞こうとした時だった――。


「――っ? 美空ちゃん、これ、何でしょう?」


「ちょっと、待っててっ、ウピールさんっ! 今、この役立たず……を……?」


 ――その場に居た誰もが……、その光景に目を奪われてしまいました……。


「な、何だこれはっ! ――数値が……?」


 役立たず――じゃなかった、お医者様は、お兄ちゃんに繋いであった何かの機械――その数値やら、グラフやらを見て、頭を抱え始めています。


 そして、肝心のお兄ちゃんは……、不思議な――この先、何か良い事がありそうで、安心する気分になって来る黄色い光と、この先、将来が不安になって来る様な不安な気分になって来る黒い光の渦に全身を包まれて、浮き上がっていました……。


「――これは……、祝福のっ!」


 ウピールさんが驚いたと思ったら、光の渦はドンドンその勢いを増していって、遂には眩しくて目が開けられなくなってしまいました……。


「――っ!」


 ――辛うじて薄目で見てみると、光の渦はその形を、平面的な渦から、立体的な竜巻の様に変えて、お兄ちゃんの胸の上で回っています……。


「お兄ちゃんっ! ――行っちゃやだっ! もう、わがまま言わないからっ、お兄ちゃんのお宝本捨てたり、しないからっ!」


 光の竜巻が、ドンドン……ドンドン……、お兄ちゃんの中に入って――って……。


「――あれ……?」


 気が付けば、光の竜巻は動きを止めて、徐々にその光を薄めていき……。遂には――。


「消え……た?」


 ――そして……、ボクの、見間違いでなければ……。


「美空ちゃん、大丈夫? 怪我は無い?」


 ――フラフラと、お兄ちゃんが横たわるベッドに近付いて行くと、我に返ったウピールさんが、ボクの身体をあちこち触ってきて、無事を確かめてくれるんだけど……。それは……、その気持ちは、ありがたいんですけど……。


「んもぉっ! ペタペタ、ペタペタとっ! 嫌味ですかっ! ボクは大丈夫です!」


「――ふふッ……、そう……、良かったですね?」


 ウピールさんは、横目でチラリとベッドを見ると、ボクの頭を優しく撫でて、そう言ってくれます……。


「うん……、良かった……、良かったよぉ……」


 ――頭を抱えて、機械とベッドを見比べる、元・役立たずを見て、少し、申し訳無い気持ちになりながら……、ボクはボロボロと、その場にへたり込んでしまいました……。


 あ……、そうだ……、これは、今のうちに、始業時間前に言っておかなきゃ……。


「――お帰り……、お兄ちゃん……」

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