表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
166/204

黒は絶望

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――イナックス大陸 西端――


 ティグリは崖の上から海を……、その先にある筈のマコス大陸を眺めていた。


「――主……、今、行きます」


 そして、ティグリは海に飛び込む前にと、背後をふり返る。


「いつまでこそこそと隠れているつもりだ……?」


 すると、茂みの中からガサゴソと何かが蠢く気配がする。そして、暫く茂みに潜む何者かと、ティグリがにらみ合いを続け、やがて――。


「――あーあー、やっぱり、ティグリさんは誤魔化せませんかぁ……」


「貴様……っ! ミクリス……なのか……?」


 茂みから現れたミクリスを見て、ティグリは目を鋭く細め、その全身を信じられないと言いたげに見つめる。


「はぁい、その通りです……、ミクリスです。――ティグリさんにはお世話になったから、余り不快な思いをさせたくは無かったのですが……」


「ミクリス……、貴様、その身体は一体……」


 ティグリの瞳には、辛うじてその顔に元の面影を残す、ミクリス――らしきモノが居た……。その顔は半分がサブラのモノ、もう半分がミクリス、そして、右腕に緑の鎌、左足に茶色の太い脚――その他にも、全身がちぐはぐであり、バランスも何も無い、モザイクの様な身体になっていた。


 ――ミクリスは、ティグリの視線に気が付くと、ヘラヘラと笑いながら、口を開く。


「やっぱり、驚きますよね? 不快ですよねぇ? えぇ、えぇ、そうです、そうディスよぉ? ――私、色々頑張り過ぎちゃいましてねぇ……、カンクーロ、リュージー、エチオピクス、プレンドン、サブラ、ボイディ、ニフィッツァ、変な事になってたゲリフォス、その他諸々っ! 美味しかったですよぉ? あれ? 不味かったディスよぉ? ――うーん……、まあ、ミクリスはどちらでも良いんだ。えぇ……、お蔭でこのザマディスよ?」


 ヘラヘラ、ケタケタと笑いながら、ミクリスはティグリに一歩づつ近付いていく。ティグリは、近付いて来るミクリスに、寂しげな、優しい目を向け、告げる――。


「――自らの器を考えず……、鍛錬する事無く……、只々、目の前の餌に喰らい付いた結果がこれか……。ミクリス……、哀れな獣よ……、不様な貴様の旅路……、吾輩がここで終わらせてやろう……『白虎』!」


 ティグリの身体を、白地に黒線を刻んだ甲冑が包み込んでいく。


「ああっ! そう、そうだよ、そうディスよ! うん、そうだよっ! ソレが欲しいんだっ! その力があれば、私の、ミクリスの、俺の、この身体を包み込める、この身体の良い繋ぎになるはずだっ! ――だから……、ソレを……、お前を寄越せっ! お前が欲しいっ!」


「――サブラ……、貴様に、安らぎをくれてやるっ!」


 ――その身に甲冑を着込んだティグリと、その身に他者を取込んだミクリス、過程こそ違うものの、『伯獣』の頂点に近付いた二人の対決が始まった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――マコス大陸 天帝城『オディ・オロダン』――


「陛下、クリスとアーニャ王女に対する処置について、準備が出来ました……」


 玉座に座るラヴィラの前に、ドラコスが現れ、そう告げる。ラヴィラは、少し、何かを考えた後、静かに「そうか……」と呟き、立ち上がった――。


 ラヴィラとドラコスが、地下牢に繋がれたクリスの前に立つと、クリスは僅かにラヴィラの顔を見た後、唾を吐きかけ、叫ぶ。


「――てめぇ……、今更、何しに来やがったっ! まさか、栗井の野郎が探してたのが、まさか、ヘームストラの騎士団長さまだとはな……、ちっ、見事に欺いたもんだぜ……」


「ふむ……、中々元気ではないか、これならば、これからの調整にも耐えられるだろう……」


「オホホっ! 何とか『エスカ』の摘出も成功しましたので、これで『創獣士』の枷も外れるでしょう」


 クリスの様子を見て、ラヴィラとドラコスは満足そうに頷く。そして、牢の扉を開き、その中に座り込むクリスを担ぎ上げると、そのまま――。


「――おぃっ! 何、しやがるっ! 離せっ、ックョウが、離しやがれ、どこ連れてく気だっ!」


「オホッ! 心配しなくても大丈夫、これから、私が、君――『創獣士』が……、『獣士』を創る者が、何故存在するか、誰に従うべきかをたっぷりと教えて下さりますからね……?」


「ッキショォっ! 離せっ、離せよぉぉぉぉぉ!」


 そして、ドラコスはクリスを連れ、どこかへと引っ込んで行ってしまった。ラヴィラは、二人を見送ると、その足で、今度は城内の一室――王妃の寝室へと足を運ぶ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――っ。これは、陛下っ!」


 グリヴァは、廊下の端にラヴィラの姿を見つけると、すぐさま跪き、頭を下げる。


「グリヴァ……、ご苦労……、面を上げよ」


「――はっ!」


 そして、グリヴァは頭を上げ、立ち上がると、寝室の扉を開き、ラヴィラをその中へと招き入れる。


「――ほぉ……、これは……」


「今のところ……、意識を失ったままの方が良いと思いまして……」


 王妃の寝室――その中央では、生まれたままの姿で、アーニャ王女が水晶の中に入っていた。ラヴィラは、その水晶を見て、昔の王妃を思い出したのか、目を細め、水晶に触れる。


「――ならば、儀式は?」


「――いつでも……、行えます……」


 グリヴァは少し苦々しげな表情を浮かべ、そう告げる。


「ふむ……、お前は正直だな? ――何も、アーニャ王女は死ぬわけではないのだ……、そう気に病む必要もあるまい?」


「しかし……、陛下、彼女の――アーニャ王女の意識が戻るのは……」


「そう……、復活した彼女――アグラが……、アグラの精神が死んだ時だ。――それまでは、肉体も老いる事は無い、女性にとっては嬉しいのではないかな?」


 ラヴィラはカラカラと笑いながら、グリヴァに「心配するな」と告げる。


「――っ。陛下……、貴方は……」


「ん? どうした? グリヴァ」


「――いえ……、何でもございません……」


 悲しげな表情を浮かべ、グリヴァは俯き、そう答える。その内心で、少女に――アーニャ王女に詫びながら……。


「――さて、それでは始めるか……」


 ラヴィラはそう言うと、懐から小さな箱を取り出し、その中から触覚――『アグラのエスカ』を取り出し、水晶に囚われ、項垂れ、意識の無いアーニャへと歩み寄る。


「陛下……」


「良い……、グリヴァはそこで見ていると良い。――我が妻の……、アグラの再誕だ……」


 そして、ラヴィラは項垂れるアーニャの額に、グイッと『エスカ』を押し付ける――。


「ん……、あぁ……っ! あぁあああああああああああああっ!」


『エスカ』は、アーニャの額に触れると、そこから細い糸の様な触手をアーニャの額の中にめり込ませていく――。


「ああ……、アグラよ……、早く……、早くっ!」


「い、やぁ……」


 ――ドクンドクンと、血管が浮き出ているかの様に、『エスカ』はその触手でアーニャを包み込んでいく。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 グリヴァは俯き、その様子から目を逸らす。やがて――。


「ああああああああああああああああああああああああああ……」


 ――黒い光が室内を包み込んでいき、アーニャの絶叫が小さくなっていく。


「――おおっ! アグラ……、我が妻よっ!」


 ラヴィラとグリヴァの前には、既にアーニャは居らず、そこに居たのは――。


「――あなたたち、だぁれ?」


 その全身を真紅の鱗で包まれ、頭に『エスカ』を生やした十歳に届かないであろう程の少女であった……。


「む……、これは……? グリヴァ、どう言う事だっ!」


 ラヴィラは思わず激昂し、グリヴァを睨み付ける。


「いえ……、私にも、どう言う事かは……」


「ねぇ? あなたたち、だぁれ? あたち、アーグニャ?」


「――何故……聞く……」


 ラヴィラは頭を抱え小さく「失敗……?」と呟き、そのまま部屋を出ていってしまった。――残されたグリヴァとアーグニャと名乗った少女は暫し見つめ合う。


「ねぇ? あなた、だぁれ?」


 少女――アーグニャは、グリヴァの服の裾をちょいちょいっと引っ張り、「ねぇ、ねぇ?」と聞いてくる。


「――私は……、グリヴァ……です」


 グリヴァは戸惑いながらも、そう答える。すると、少女は――。


「ぐりばぁ? うん、おぼえた、ぐりばぁ、ここ、どこ?」


「え……? あ、えっと――」


 ――その時浮かべた笑顔の中に、ほんの僅かではあるが、自らが慕っていたアグラの面影を見出したグリヴァは、戸惑いを深めながら、その後も、延々とアーグニャの質問に答えていった……。

毎日投稿、潰えたorz

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ