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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第十章:働く男
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黄色は希望

続きです、よろしくお願いいたします。

「――以上、我々は『幻月』に住まう生命を駆逐する。この世界に住まう、我が民には、二つの選択肢を与えてやろう……」


 空に映るラヴィラは何の表情も浮かべず、人差し指を立てる。


「――一つ、我々に従い、『幻月』へと乗り込み、彼の地に住まう者どもを根絶やしにする。その手伝いを行う兵士となる事……」


 続けて、ラヴィラは人差し指の隣――中指を立てる。


「――二つ、我々に従わない事……、別に従わずとも構わないが、従うのならば、全てが終わった後、それなりの見返りは用意しよう……」


 ――ラヴィラはその二つだけを伝えると、背を向け、通信を終わろうとしていたが、ふと、何かを思い出した様に再び振り返ると、人差し指、中指に続けて薬指を立てて、それまで無表情であった顔を不敵な笑みへと変える。


「そう言えば……、三つ目の選択肢として……、我々に逆らうと言うモノがあったかな? ――別に、構いはしないが……、もし、その選択を選ぶのならば……、それ相応の覚悟をして貰おう、回答については、そうだな……、ヘームストラ、テイラ、ドーバグルーゴ、オーシの国単位で意見を纏めて貰おうかな? ――期限は十日後としよう、それでは……、賢明な判断を期待する――」


 その通信が終わった後、ある者は「冗談」だと判断し、いつも通りの生活に戻り、ある者は「世界の終わり」だと恐慌状態に陥り、ラヴィラを神の使いだと拝み始め、ある者は「上から目線、マジムカつく」として討伐隊を組み、マコス大陸へと進む――。


 ――個々人で受け取り方は違うものの、その日、確実に世界は混乱を迎える事になった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ郊外――


「――主……」


 ティグリは、空に映るラヴィラ――その向こうに、主であるクリスの気配を感じていた。


「? ……アコヌキ」


 ティグリの隣では、茶色い毛皮に、テンガロンハット、煙草を加えたラッコ男が立っている。――ラッコ男は、横目でティグリを見ながら、その顔は、「行くのか?」と尋ねている様であった。


「――主が、あの者に従っているのか、捕えられているのかは知らん……。だが、吾輩は行かねばならん……。――何故ならば、主は我が主であり、親であるのだからな……」


 ラッコ男はティグリの答えを聞き、微かに笑みを浮かべる。すると、ティグリが今度はラッコ男に向かって問い掛ける。


「貴様は、どうするのだ? ――貴様の獲物は……」


「ぶるぅあ……? ……オズリジナキナダミアヘラワ、……コノムレカミノノモニアギエラワ、ゴノメアガワ、……ゲラ」


「……「感じる」? ――何を……だ?」


「――オウィカヤガコニトニ、……オノノメアガヲ、ウィシ、オワラキタニコオ、イロヨ」


 ラッコ男は口が裂けんばかりに凄惨な笑みを浮かべ、空を見上げた――。


「――より大きな力……、意思、命の輝き……か」


「……ウオイソツボサオメドテルズキシネソナ、アヘダメロソ」


 ――ラッコ男はそうティグリに告げると、次の瞬間にはティグリの前から姿を消していた……。ティグリはもうその場に居ないラッコ男に向けて、呆れた様な表情を浮かべ、呟く……。


「――手も足も出ず、負けた相手と「遊ぶ」か……、考え無しなのか、それすら蹴散らすつもりの化物なのか……。いずれにしても……、主の命無しでは二度とお相手したくないな……。アレに狙われた『獲物』とやらも可哀想に……」


 そして、ティグリもまた、自らの主の元に向かい始めた――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ騎士団詰所――


「――そうか……、ツチノっちが……」


 詰所の一室では、サッチーと合流し八名となった『ファルマ・コピオス』メンバーと、衛府博士、寺場博士、ブロッドスキー、スカサリが集まり、状況整理を行っていた。


「すまんべ……、気が付いたら、旦那達はもう……」


 スカサリの話から、リンキ、グリヴァは詰所の医務室ベッドからいきなり立ち上がると、スカサリの意識を刈り取り、そのまま学校に現れたのだろうと推測されていた。


「しかし、マズイ事になったね……うん……」


 衛府博士はそう言うと、机の上に携帯電話をコトリと置く。


「――衛府博士……?」


「うん、使えないんだ……、『接界』が終わったからどうだろうと試してみたんだが……」


 寺場博士の問い掛けに、衛府博士は真面目な顔で答える。


「そうか……、やはり……」


 寺場博士は、衛府博士の答えに納得した様に、しかし、歯を食いしばり呟く。すると、それまで黙っていた愛里が、いつの間にか二人の前にゆらりと立っていた――。


「ねえ……、何が言いたいの?」


 愛里の身体からは、毒々しい緑の闇が漏れだしている。しかし、衛府博士はその様子に怯む事も無く、愛里の目を見つめて話す――。


「――『報連相』を地球と通信可能にしているのは、サラリーマン君だ……、その『報連相』が、地球と通信できないと言う事は……、つまり……、彼が――」


「――姐御っ!」


 いつの間にか、愛里はその全身を霧の様な触手に絡め取られ、宙に張り付けられていた。その手には毒々しい緑の闇が凝縮され、衛府博士に放たれようとしていた……。


「離して下さい……、三知さん」


「――駄目ッス……、姐御、ソレは……やっちゃ駄目ッス……」


 ミッチーに絡め取られながらも、愛里はモゾモゾと動き続け、その目は憎々しげに衛府博士に向けられている。


 そんな殺伐とした空気の中――。


「――愛里ちゃん、話が進まねえから……、ワリィ……」


 サッチーが愛里の首筋を、その手の平で掴む。そして――。


「え……? さ、ちさ――」


「――『充電』……」


 ――バチリと言う乾いた音がした後、愛里は全身の力を失い、その場に崩れ落ちる。


「え……? サッチー?」


 容赦なく、愛里の意識を刈り取ったサッチーの姿を、意外そうに悠莉が見つめる。悠莉自身、心情的には、愛里に加勢したい気持ちで一杯だった為、同じ気持ちだと……、仲間だと思っていたサッチーの行動を信じられずに見ていた――。


「悠莉ちゃん、ツチノっちが生きてるか、死んでるかなんて……、くだらない議論だぜ?」


 ――サッチーのその発言に、悠莉だけでは無く、ミッチーや、もも缶、ペタリューダ、ピトからも、椎野の死を断定した筈の衛府博士までもが、殺意の籠った視線を向ける。しかし、サッチーはその視線に怯む事無く、ただ一人、サッチーが言わんとしている事の理解者と視線を合わせ、頷き、ニヤリと笑う。


「サッチー……、アンタ……、それ、本気で言ってんの?」


「――本気になる必要すらねえよ……、だって――」


 サッチーの隣に小さな影が駆け寄り、飛び付く。そして、サッチーはその影――羽衣を肩に担ぎ上げると、もう一度、羽衣と頷き合い、声を合わせて悠莉に答える。


「「死んでない(もん)!」」


 そして、二人は「イェーイ」と、ハイタッチをして、はしゃぎ出す。悠莉達は、そんな二人をポカンと見つめていたが――。


「ね、ねぇ……、何でそう……思うの……? ――何で、そう信じられる……の?」


 縋る様な目で見つめてくる悠莉を、今度はサッチーと羽衣が不思議そうに見つめ、答える。


「――だって、おじちゃんだもんっ!」


 羽衣は即座にそう答える。そして、背負っていたリュックサックから、タテの核だったモノ――二つに割れたギルドカードを取り出して、悠莉に見せる。


「これね、悠莉ちゃんとか、あいねーちゃんに近付くと黄色く光るのっ!」


 そして、僅かに黄色く光る……、ギルドカードの片割れを悠莉に手渡す。すると、黄色い光が消えてしまう――。


「――っ。ほら……、やっぱり……」


「えー、嘘だよっ!」


 再び、羽衣が持つと光り出す。――そんなやり取りを繰り返す事数回……。


「――ああ……、オレ、やっぱ、確信したわ……」


「悔しいッスけど……、自分もそう思える様になっちまったッス……」


 サッチーとミッチーは、目の前で上下するギルドカードを見つめ、乾いた笑いを浮かべ始める――。


「――どう言う事ですの……?」


「ピトは分から無い……」


 ペタリューダとピトは、二人に回答を求め、聞いてくる。すると、サッチーは「ああ……」と面倒臭そうに、ギルドカードをやり取りしている二人に囁く……。


「あれ……、羽衣が持った時じゃなくてさ……、ギルドカードが下に、地面に、足元に近付いた時に……、光ってんだよ……」


「――っ! ああ……、そう言う事ですの……?」


「ピトは……、まだ、分から無い……」


 ペタリューダは呆れた様な表情で納得し、ピトは未だに分からず頭を傾げている。そして、四人の話を、更に聞いていた衛府博士と、もも缶が近付いて来る――。


「エサ王……、死んでない?」


「ええ……」


「ああ……」


「そうッスね……」


 もも缶の問い掛けに、ペタリューダ、サッチー、ミッチーが頷く。


「ん、そっか……」


 もも缶はそう言うと、ギルドカードのやり取りを続ける二人を見て、もう一度「そっか」と呟き、微笑んだ。


「――光ったよっ!」


「――消えたじゃん……」


 そのやり取りは……、愛里が目を覚ますまで続けられていた――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後……、光る理由を教えて貰った悠莉と、目を覚ました愛里は――。


「――蹴る……」


「――そっか、なら……、次あったら、二度と私の目の前から消えない様に……、監視しなくちゃですね?」


 そう言って、ボロボロと涙をこぼしながら、誰もが見惚れる様な笑顔で微笑んでいた――。

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