オフィスレディは、夢を見る
続きです、よろしくお願いいたします。
――マコス大陸――
ラヴィラ、リンキ、グリヴァ、アクリダ、ドラコスの五人は、ドラコスのスキルによって、イナックス大陸の北西、ウズウィンド大陸の北に位置する氷の大陸――マコスへと移動していた。
「――暫く見ない間に、随分と……」
ラヴィラは一面に広がる雪景色を眺め、寂しそうに呟く。
「何せ……、私が知っているだけでも、百年――ですから……」
「あれ? ――グリ婆は、そんな昔の事、覚えてんのか?」
「……………………長寿……」
「オホホっ! 名実共に『婆』です――」
「――黙りなさい?」
グリヴァは銛をドラコスに突き付け、ニコリと微笑む。その様子を黙って見ていたラヴィラは、ため息を吐くと四人に向かって告げる――。
「――貴様等……、少しはグリヴァを見習え……。百年前から記憶があると言う事は……、グリヴァは『彼女』のスキルから、誰より――私よりも早く、抜け出したと言う事だぞ?」
ラヴィラが睨むと、グリヴァ以外の三人は気まずそうに俯く。
「まあ良いさ、ここは寒い……、私達はともかくとして、アーニャ王女や、クリス、ビオにとっては、辛いだろう……。さっさと城に戻るぞ?」
「「「「はっ!」」」」
そして、彼等はマコス大陸奥地、そこにある古代遺跡『オディ・オロダン』を目指す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ヘームストラ王国 ナキワオ近郊北数キロ地点――
「――なあ……、ホントにやんのか?」
錫杖を振るい、『創伯獣・改』を蹴散らしつつ、コラキは苦々しげにペリとイグルに尋ねる。ペリとイグルは、軽くストレッチを行いながら、そんなコラキの質問に答える――。
「言い出しっぺは、コラキですよ?」
「――物は試しなの」
――三人は、観察の結果、ロパロがキンキン泣き喚いた時に、『創伯獣・改』達が霧散し、増殖しない事を発見していた。そこで、話し合った結果――。
「確認するです……。まずは、ペリが『うんとこしょ』で周囲の敵を掻き集めて、ウチが『八爪』で集めた敵をていってやるです。――で、コラキがその間ずっと、『八咫』の出力を調整して、キンキンの音を出す――です」
イグルは指を一本ずつ立てていき、最後の三本目を立てた後に、ペリとコラキの顔を見て、確認を促す。その確認に、ペリは頷く――が、コラキはやはり、苦々しげな顔を崩そうとはせず――。
「――これって……、俺……、地味じゃね?」
「大丈夫です、ソロコンサート決定です!」
「観客も一杯なのっ!」
「え……、そう……かな?」
イグルとペリは満更でも無い表情を浮かべ始めたコラキを眺め、二人で目を合わせ「ちょろい」とほくそ笑む。
そして――。
「いっくのっ!」
「「オーッ!」」
ペリが棍棒を振りかぶる動作を合図に、イグルが天高く舞い上がり、コラキはペリの後ろに下がり、錫杖をトントンッと地面に突き始め、準備を始める――。
「んー、『うんとこしょ』っ!」
ペリが地面に棍棒を叩き付けると、地面から黒い球体が飛び出し、ペリの胸元にプカプカと浮かび上がる……。
「「「「「――チッ? か、身体がっ! 引き寄せられる? こ、このままでは、その胸にっ!」」」」」
――「ぶつかるぅ」と叫びながら、『創伯獣・改』達はペリの胸――元に浮かぶ球体に突っ込んで行く……。
「「「「「チキィッ! ――あと、あと一歩ぉぉぉっ!」」」」」
ペリの前で、団子状態になりながら、『創伯獣・改』の一匹が手を伸ばすが……、その手はペリの胸元に触れる事は無く――。
「――セイィィィィッ『八爪』!」
イグルは『創伯獣・改』団子に向かって、何度も襲い掛かり、その脚の爪で団子になった『創伯獣・改』を切り刻んでいく――。
『創伯獣・改』達は、切り刻まれ霧になる――と言う所までは変わらないが、そこから新たに分裂する事は無く、次々と霧散していき、球体の中に吸い込まれていく――。
「「「『渦虫』ァ、クソッ、『渦虫』ァ、何故だ……、何故……」」」
「――どうやら、ちゃんと効いてるっぽいなっ!」
「コラキィ、黙ってシャンシャン鳴らすです!」
「あぁ……、音が止まったら、一匹増えたの……」
「……ごめんなさい……」
コラキは項垂れ、再びトントンと、錫杖を地面に突き始める。そして、一匹、また一匹と、『創伯獣・改』を駆除していき――。
「チキチキ……、まさか……、ここで終わると言うのか……、我等は……、我等はぁっ!」
――最後の一匹になった『創伯獣・改』はそう呟いた後にその姿を霧に変えた。
「うしっ、ウチの仕事は終わりです」
地面に降り立ったイグルは、脚の爪と、背中の羽をしまい込み、その場に座り込む。
「私はまだなの?」
「んー、一応、完全に消えるまでよろしくです」
「……はぁい」
「俺は? ――いい加減、手が疲れて来たんだけど……」
「コラキもまだです」
――そして、三人が球体に飲まれていく霧から目を離した時だった――。
「――貰っていくぜ……?」
「――え? 何か、言ったですか?」
小さな、小さな声が聞こえた気がして、イグルはペリとコラキに尋ねる。
「え? 私は何も言ってないの」
「――俺にそんな余裕あると思うか……?」
ペリとコラキはそう言うと、何かに気付いたらしく、ほぼ同時にスキルの発動を止める。
「終った……の?」
「そうみたいです……」
「――腕が……、だるい」
ペリとコラキは、イグルに続く様にその場に座り込み、未だに話し込んでいるスプリギティスとロパロをチラリと見た後――。
「「「――はぁぁぁぁ……」」」
同時にため息を吐いた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――マコス大陸 オディ・オロダン――
「――ああ……、我が城、我が船、我が玉座よ……」
遺跡最奥――その広間で、ラヴィラは軽く目前の玉座に積もったホコリを軽く掃い、そのまま座り込む。
ラヴィラの眼下、玉座を見上げる様に、かしずいているのは、四人の従者達――。
「――ドラコス……、例の三人は?」
「オホッ! ビオちゃんは、当初の約束通り、地下書庫にて当時の研究資料を漁っております。そして、アーニャ王女は……、王妃の寝室に封じております」
「――クリスはどうした?」
「それが……その……、どうやら、王妃の『エスカ』を埋め込まれているらしく……」
ドラコスは気まずそうに、ラヴィラの顔を見上げると、そう告げる。その報告を、ラヴィラは黙って聞いていたが……。
「――チッ、取り出せ……、『創獣士』を失う訳にはいかん……」
「――はっ、仰せのままに……」
ドラコスのその言葉に、ラヴィラは満足そうに頷き、玉座から立ち上がる。
「今言った通り、ドラコスはクリスの対応だ。――残りの者は城の損傷状況を調べ、必要ならば修繕っ! 用意が出来次第、城を動かす!」
ラヴィラはそのまま、空を見上げると、その拳を握り締め、話し続ける――。
「――今回は、前回と違い、石が無い……、兎共の様に、無血全滅は難しいだろう……。したがって、速やかにこの世界の生命を征服し、全力を持って『幻月』の生命を滅ぼすっ! 我等の手に、この世界の命運が握られていると思えっ!」
「「「「はっ!」」」」
――そして、それから数日後……、マコス大陸上空に、輝く城が出現したとの情報が、世界の各国に伝えられる事となる……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――x県x市――
「――退避っ! 退避だ!」
――早いっ、早すぎるって……、前回より早いのは分かってたけど、最後の加速は一体、何なんですか、もぉっ!
「えっと、美空ちゃん? ――コーヒーでも飲んで、落ち着いて?」
「うぅ……、ウピールさぁん……」
ここ数日、ウピールさんには、ボクの秘書――と言うか、相談役みたいな事をして貰っている。
――『魔獣対策』については、ウピールさんが『天啓』とか、色々出来るから戦闘職の人が結構増えて、ボクと市長は小躍りしてしまったくらいです……。
因みに、市長曰く「このまま、冒険者ギルド日本支部のギルドマスターになって貰いましょうよぉ」だ、そうです。
「それにしても……、今更ですけど、不思議ですよねぇ……」
ボクが甘めのコーヒーをチビチビと啜っていると、ウピールさんがポツリとそう言った。
「? 何がですか?」
「いえ、あの『接界』……ですか? してるのって、私が住んでいた世界なんですよね? ――その割には小さいなぁって言うか……、見た感じだと、衛府博士達が来た時に見た『地球』と同じ位なんで、面白いなって」
「――ああ……」
――これに関しては、衛府博士も興味を持って調べているみたいだけど、未だに『不思議』としか言えない、先輩に至っては「変な事は取り敢えず、「スキルの仕業かっ」って、悔しがってりゃ良い」って言って、相手にしてくれないし……。少しは、可愛い後輩との会話を楽しんでも良いと思うんだけど……。
「美空ちゃん?」
「っ、ああ、ごめんなさい、少し考え事してました……」
考え込むと、すぐに周囲が見えなくなるのは、先輩とお揃いの悪い癖ですね……。――うん、気が向いたら直さなきゃ……。
「――もうっ、また……、若いうちからあんまり考え込み過ぎると、シワが取れなくなっちゃいますよ?」
ウピールさんはそう言うと、ボクの眉間の前で、人差し指をグリグリと回し始める。
「うぅ、分かりましたからぁ、ウピールさん、止めてぇ!」
――ボク、これ眉間がツーンってなって苦手なんですって。
「美空さぁん、そろそろ終わる感じですよぉ?」
ボクがツーンから解放されると、山内さんが遮光グラスを外して、『接界』地点を指差している。
「あ、はーい、じゃあ、二人供、行きましょうか?」
「うぃーっす」
「はい、あぁ……、美空ちゃん、口拭いて、泡ついてますよ?」
「んんぐぅ……、自分で拭けますよぉ」
そんな感じで、ボク達は『接界』終了後の、地面を採取しに、その中心部まで足を運ぶ――。
そして、そこで、ボクは――。
「あれ? ――誰かいますね? って、栗井博士っ?」
――山内さんが何か言ってる……。
「ん? 美空さん? どうしたんですか?」
――ウピールさんが何か言ってる……。
「美空ちゃん? 何を見……て――」
何だろう? ――ボクは、何を見てるんだろう……。
「お、兄ぃ……ちゃん?」
――ああ……、目を覚まさなきゃ……、ボクはきっと、夢を見て……るんだよね……?
さて、これにて九章終了です。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
次章が、取り敢えず、最終章になります。
最後まで、楽しんで頂ければ、幸いです。




