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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第九章:ヘームストラ大戦
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オフィスレディは、夢を見る

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――マコス大陸――


 ラヴィラ、リンキ、グリヴァ、アクリダ、ドラコスの五人は、ドラコスのスキルによって、イナックス大陸の北西、ウズウィンド大陸の北に位置する氷の大陸――マコスへと移動していた。


「――暫く見ない間に、随分と……」


 ラヴィラは一面に広がる雪景色を眺め、寂しそうに呟く。


「何せ……、私が知っているだけでも、百年――ですから……」


「あれ? ――グリ婆は、そんな昔の事、覚えてんのか?」


「……………………長寿……」


「オホホっ! 名実共に『婆』です――」


「――黙りなさい?」


 グリヴァは銛をドラコスに突き付け、ニコリと微笑む。その様子を黙って見ていたラヴィラは、ため息を吐くと四人に向かって告げる――。


「――貴様等……、少しはグリヴァを見習え……。百年前から記憶があると言う事は……、グリヴァは『彼女』のスキルから、誰より――私よりも早く、抜け出したと言う事だぞ?」


 ラヴィラが睨むと、グリヴァ以外の三人は気まずそうに俯く。


「まあ良いさ、ここは寒い……、私達はともかくとして、アーニャ王女や、クリス、ビオにとっては、辛いだろう……。さっさと城に戻るぞ?」


「「「「はっ!」」」」


 そして、彼等はマコス大陸奥地、そこにある古代遺跡『オディ・オロダン』を目指す。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ近郊北数キロ地点――


「――なあ……、ホントにやんのか?」


 錫杖を振るい、『創伯獣・改(アークノイド)』を蹴散らしつつ、コラキは苦々しげにペリとイグルに尋ねる。ペリとイグルは、軽くストレッチを行いながら、そんなコラキの質問に答える――。


「言い出しっぺは、コラキですよ?」


「――物は試しなの」


 ――三人は、観察の結果、ロパロがキンキン泣き喚いた時に、『創伯獣・改(アークノイド)』達が霧散し、増殖しない事を発見していた。そこで、話し合った結果――。


「確認するです……。まずは、ペリが『うんとこしょ』で周囲の敵を掻き集めて、ウチが『八爪』で集めた敵をていってやるです。――で、コラキがその間ずっと、『八咫』の出力を調整して、キンキンの音を出す――です」


 イグルは指を一本ずつ立てていき、最後の三本目を立てた後に、ペリとコラキの顔を見て、確認を促す。その確認に、ペリは頷く――が、コラキはやはり、苦々しげな顔を崩そうとはせず――。


「――これって……、俺……、地味じゃね?」


「大丈夫です、ソロコンサート決定です!」


「観客も一杯なのっ!」


「え……、そう……かな?」


 イグルとペリは満更でも無い表情を浮かべ始めたコラキを眺め、二人で目を合わせ「ちょろい」とほくそ笑む。


 そして――。


「いっくのっ!」


「「オーッ!」」


 ペリが棍棒を振りかぶる動作を合図に、イグルが天高く舞い上がり、コラキはペリの後ろに下がり、錫杖をトントンッと地面に突き始め、準備を始める――。


「んー、『うんとこしょ』っ!」


 ペリが地面に棍棒を叩き付けると、地面から黒い球体が飛び出し、ペリの胸元にプカプカと浮かび上がる……。


「「「「「――チッ? か、身体がっ! 引き寄せられる? こ、このままでは、その胸にっ!」」」」」


 ――「ぶつかるぅ」と叫びながら、『創伯獣・改(アークノイド)』達はペリの胸――元に浮かぶ球体に突っ込んで行く……。


「「「「「チキィッ! ――あと、あと一歩ぉぉぉっ!」」」」」


 ペリの前で、団子状態になりながら、『創伯獣・改(アークノイド)』の一匹が手を伸ばすが……、その手はペリの胸元に触れる事は無く――。


「――セイィィィィッ『八爪』!」


 イグルは『創伯獣・改(アークノイド)』団子に向かって、何度も襲い掛かり、その脚の爪で団子になった『創伯獣・改(アークノイド)』を切り刻んでいく――。


創伯獣・改(アークノイド)』達は、切り刻まれ霧になる――と言う所までは変わらないが、そこから新たに分裂する事は無く、次々と霧散していき、球体の中に吸い込まれていく――。


「「「『渦虫(プラナリア)』ァ、クソッ、『渦虫(プラナリア)』ァ、何故だ……、何故……」」」


「――どうやら、ちゃんと効いてるっぽいなっ!」


「コラキィ、黙ってシャンシャン鳴らすです!」


「あぁ……、音が止まったら、一匹増えたの……」


「……ごめんなさい……」


 コラキは項垂れ、再びトントンと、錫杖を地面に突き始める。そして、一匹、また一匹と、『創伯獣・改(アークノイド)』を駆除していき――。


「チキチキ……、まさか……、ここで終わると言うのか……、我等は……、我等はぁっ!」


 ――最後の一匹になった『創伯獣・改(アークノイド)』はそう呟いた後にその姿を霧に変えた。


「うしっ、ウチの仕事は終わりです」


 地面に降り立ったイグルは、脚の爪と、背中の羽をしまい込み、その場に座り込む。


「私はまだなの?」


「んー、一応、完全に消えるまでよろしくです」


「……はぁい」


「俺は? ――いい加減、手が疲れて来たんだけど……」


「コラキもまだです」


 ――そして、三人が球体に飲まれていく霧から目を離した時だった――。


「――貰っていくぜ……?」


「――え? 何か、言ったですか?」


 小さな、小さな声が聞こえた気がして、イグルはペリとコラキに尋ねる。


「え? 私は何も言ってないの」


「――俺にそんな余裕あると思うか……?」


 ペリとコラキはそう言うと、何かに気付いたらしく、ほぼ同時にスキルの発動を止める。


「終った……の?」


「そうみたいです……」


「――腕が……、だるい」


 ペリとコラキは、イグルに続く様にその場に座り込み、未だに話し込んでいるスプリギティスとロパロをチラリと見た後――。


「「「――はぁぁぁぁ……」」」


 同時にため息を吐いた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――マコス大陸 オディ・オロダン――


「――ああ……、我が城、我が船、我が玉座よ……」


 遺跡最奥――その広間で、ラヴィラは軽く目前の玉座に積もったホコリを軽く掃い、そのまま座り込む。


 ラヴィラの眼下、玉座を見上げる様に、かしずいているのは、四人の従者達――。


「――ドラコス……、例の三人は?」


「オホッ! ビオちゃんは、当初の約束通り、地下書庫にて当時の研究資料を漁っております。そして、アーニャ王女は……、王妃の寝室に封じております」


「――クリスはどうした?」


「それが……その……、どうやら、王妃の『エスカ』を埋め込まれているらしく……」


 ドラコスは気まずそうに、ラヴィラの顔を見上げると、そう告げる。その報告を、ラヴィラは黙って聞いていたが……。


「――チッ、取り出せ……、『創獣士』を失う訳にはいかん……」


「――はっ、仰せのままに……」


 ドラコスのその言葉に、ラヴィラは満足そうに頷き、玉座から立ち上がる。


「今言った通り、ドラコスはクリスの対応だ。――残りの者は城の損傷状況を調べ、必要ならば修繕っ! 用意が出来次第、城を動かす!」


 ラヴィラはそのまま、空を見上げると、その拳を握り締め、話し続ける――。


「――今回は、前回と違い、石が無い……、兎共の様に、無血全滅は難しいだろう……。したがって、速やかにこの世界の生命を征服し、全力を持って『幻月』の生命を滅ぼすっ! 我等の手に、この世界の命運が握られていると思えっ!」


「「「「はっ!」」」」


 ――そして、それから数日後……、マコス大陸上空に、輝く城が出現したとの情報が、世界の各国に伝えられる事となる……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――x県x市――


「――退避っ! 退避だ!」


 ――早いっ、早すぎるって……、前回より早いのは分かってたけど、最後の加速は一体、何なんですか、もぉっ!


「えっと、美空ちゃん? ――コーヒーでも飲んで、落ち着いて?」


「うぅ……、ウピールさぁん……」


 ここ数日、ウピールさんには、ボクの秘書――と言うか、相談役みたいな事をして貰っている。


 ――『魔獣対策』については、ウピールさんが『天啓』とか、色々出来るから戦闘職の人が結構増えて、ボクと市長は小躍りしてしまったくらいです……。


 因みに、市長曰く「このまま、冒険者ギルド日本支部のギルドマスターになって貰いましょうよぉ」だ、そうです。


「それにしても……、今更ですけど、不思議ですよねぇ……」


 ボクが甘めのコーヒーをチビチビと啜っていると、ウピールさんがポツリとそう言った。


「? 何がですか?」


「いえ、あの『接界』……ですか? してるのって、私が住んでいた世界なんですよね? ――その割には小さいなぁって言うか……、見た感じだと、衛府博士達が来た時に見た『地球』と同じ位なんで、面白いなって」


「――ああ……」


 ――これに関しては、衛府博士も興味を持って調べているみたいだけど、未だに『不思議』としか言えない、先輩に至っては「変な事は取り敢えず、「スキルの仕業かっ」って、悔しがってりゃ良い」って言って、相手にしてくれないし……。少しは、可愛い後輩との会話を楽しんでも良いと思うんだけど……。


「美空ちゃん?」


「っ、ああ、ごめんなさい、少し考え事してました……」


 考え込むと、すぐに周囲が見えなくなるのは、先輩とお揃いの悪い癖ですね……。――うん、気が向いたら直さなきゃ……。


「――もうっ、また……、若いうちからあんまり考え込み過ぎると、シワが取れなくなっちゃいますよ?」


 ウピールさんはそう言うと、ボクの眉間の前で、人差し指をグリグリと回し始める。


「うぅ、分かりましたからぁ、ウピールさん、止めてぇ!」


 ――ボク、これ眉間がツーンってなって苦手なんですって。


「美空さぁん、そろそろ終わる感じですよぉ?」


 ボクがツーンから解放されると、山内さんが遮光グラスを外して、『接界』地点を指差している。


「あ、はーい、じゃあ、二人供、行きましょうか?」


「うぃーっす」


「はい、あぁ……、美空ちゃん、口拭いて、泡ついてますよ?」


「んんぐぅ……、自分で拭けますよぉ」


 そんな感じで、ボク達は『接界』終了後の、地面を採取しに、その中心部まで足を運ぶ――。


 そして、そこで、ボクは――。


「あれ? ――誰かいますね? って、栗井博士っ?」


 ――山内さんが何か言ってる……。


「ん? 美空さん? どうしたんですか?」


 ――ウピールさんが何か言ってる……。


「美空ちゃん? 何を見……て――」


 何だろう? ――ボクは、何を見てるんだろう……。


「お、兄ぃ……ちゃん?」


 ――ああ……、目を覚まさなきゃ……、ボクはきっと、夢を見て……るんだよね……?

さて、これにて九章終了です。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

次章が、取り敢えず、最終章になります。

最後まで、楽しんで頂ければ、幸いです。

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