表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大・出・張!  作者: ひんべぇ
第九章:ヘームストラ大戦
162/204

輝く瞳

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――ヘームストラ王国 ナキワオ西部――


「――旦那さん……」


 ハオカは、椎野が消えた後の――赤く染まった地面を見つめ、立ち尽くしている。


「ああ……、あああああ……」


 愛里はその場に座り込み、虚ろな目でどこかを見つめ、涙をボロボロと零している。


「――っ。ハオカさんっ、姐御っ、立って……、立つっス!」


「愛里姉様っ!」


 ミッチーとペタリューダは、赤い銛の突き、黒い鎌の斬撃、緑の鎖の襲撃を何とか耐えているが、ハオカと愛里の動きが止まってしまってからは、徐々に防ぎきれなくなっていた。


「――安心しな……、オイラ達の役目は、もう、終わったみてえだ……」


 リンキはそう呟き、チラリと背後に立つラヴィラを指差す。


「――っ!」


 その時、ミッチーの目に映ったのは、剣に付いた血を拭うラヴィラだった。


「……………………っ…………」


「――あの出血では、恐らく……もう……、許せとは言いません、それでも……、ごめんなさい……」


 ――椎野の死を悟ったアクリダも、グリヴァも、構えていた武器をその手の中にしまい込み……、ミッチー達に向けて頭を下げる。その時だった――。


「ううぁぁああああああああああああああああっ!」


「――っ! ガぁああああああああああっ!」


 突如、リンキが何かに吹き飛ばされる。


「――リンキッ!」


 突然の出来事に、グリヴァは思わず、吹き飛ばされたリンキに駆け寄ろうとする――が。


「……………………よそ見するなっ!」


「――えっ?」


 いつの間にか、グリヴァの後ろに回り込んでいたアクリダが、恐らくグリヴァを狙ったであろう何かを防ぎ、その勢いを殺しきれずに、吹き飛ばされていく――。


 その様子をポカンと見つめていたミッチーは、その何かを――何か達を見て、呟く――。


「ゆ、悠莉ちゃん……、もも缶……?」


 ――そこに居たのは、二人の桃系色の少女達……。


 二人は怒りを顕わにし、リンキ、グリヴァ、アクリダ……、そして……、ラヴィラを睨み付けている。


「――殺してやるっ!」


「――『フルコース』!」


 悠莉の服は、ウネウネと動き、その面積を少なくすると、やがてピンクゴールドの光を帯びた羽衣へと変化する。そして同時に、もも缶はその身に白桃色の甲冑を纏い、悠莉の隣に立つ。


「――グゥ……、厄介なのが……」


 リンキは装甲の剥がれた腹部を押さえ、フラフラと立ち上がると、悠莉、もも缶を睨み付ける。


「もも缶さ――」


「――ふっ!」


 何かを言い掛けるグリヴァに対し、もも缶は無言でその手のナイフを振るう。


「くっ!」


 グリヴァは、その斬撃を銛で受け止めるが、もも缶は、すかさず、もう片方の手に握ったフォークで、銛を絡め取り、グリヴァの手から弾き飛ばす。


「グリ婆っ!」


「――『スアレス』……」


 グリヴァに気を取られたリンキの横っ腹に、いつの間にかリンキの傍に立っていた悠莉の手の平が添えられる――。


「――んぐぅ!」


 リンキの全身に、衝撃が伝わっていき、その甲冑全体に細かなヒビが入っていく。そして――。


「……………………見逃す気は……?」


「ある筈が……、無いでしょう?」


 アクリダは、グリヴァとリンキを助ける為に放とうとした鎖を、ペタリューダの鱗鞭に絡め取られ、身動きを封じられていた。


 そして、そんな好機を見逃す筈も無く――。


「――アクリダさんっ!」


「……………………ミチ……か……」


「――『腐剣漸(マスキュラー)』……」


 ミッチーの剣から伸びた霧の様な触手が、アクリダの全身に絡みつき、その緑の甲冑を剥ぎ取っていく。


「大人しくするッス……、遅かったッスけど……、間に合わなかったッスけど……、アンタらはもう……」


 ――「終わりッス」と、言おうとした時……、ミッチーは背後から聞こえてくる笑い声に、気が付いた……。


「あは……、もう……、良いです……、どうでも……、良いですよね……? ――『パンデミック・ヤンメ』」


 愛里を中心に、毒々しく、暗い、緑の闇が広がっていく――。


「な……んだ……、ありゃ……」


 悠莉の前で膝をついているリンキは、その光景を見て、思わず身震いする。


「あ、い……ね、え?」


「あいり……?」


 また……、リンキの前に立つ悠莉、グリヴァの前に立つもも缶、アクリダを縛るペタリューダ、ミッチーも、その尋常でない様子を見て、動きを止めていた。


「あれは……、大地が死んで……いるの……ですか?」


 グリヴァは愛里の周囲の地面が、黒く染まり、そこに生えている草や、そこを歩く小さな虫達が腐っていく様を見て、絶句する。


 愛里のそんな行動を見て戸惑うのはグリヴァ達だけでは無く――。


「愛里姉様っ! お気を確かにっ!」


「――っ! あ、姐御っ! 止めるッス! ナキワオの人まで……、殺す気ッスか!」


 ペタリューダと、ミッチーの叫びも、愛里には届いていない様子で、愛里は何も答えず、只々、にこやかに微笑むばかり――。


 しかし――。


「愛里はん……、かんにんえ?」


 ――パシンッ、と言う乾いた音と共に、ハオカが愛里の頬を打ち、次の瞬間、愛里の身体から放たれていた毒が消えていく――。


「――あは……、え? ――ハオカ……さん?」


「――ようやっと気が付かれはった? 愛里はん、憎いんも、悔しいんも、悲しいんも、分かりますぇ? ――うちかてそうどす……。やて、そないな気持ちに呑まれて、旦那さんが守った人達まで、傷付ける事は、止めておくれやす」


 ハオカは淋しそうに、愛里に語り掛ける。


「でも……、ハオカさんっ!」


「――うちからも、たのんます……。旦那さんが、ほんで、うちらが守ったモンを……、どないか、ベッチャコまで……、守って、おくれやす……」


 ――そして、ハオカの身体が徐々に薄く、透明になっていく……。


「えッ……? ハオカさん?」


「うちは、旦那さんの式神どすから……、旦那さんの傍に行って、踏んできますぇ……。――申し訳あらしまへんが、後ん事を……頼みます」


 ハオカが、そう言って頭を下げたその直後、ガラスが割れる様な音と共に、その姿は崩れてしまった。


「――ハオカさんっ!」


 愛里は、ハオカが居た場所に残る真っ二つになったギルドカードを拾い上げ、そのまま蹲ってしまった……。


 そして、その時――。


「――ねえ……、タテちゃん……、おじちゃんは?」


「………………」


 目を真っ赤にした羽衣を見て、タテもまた、泣きそうになる。


「――父上は…………」


 ――タテは、自分の中から消えていくナニカを感じ取り、そう呟く……。


「うい……、知らない、パパからこんなの、聞いてないもんっ! ――うい、知らないもん!」


「――姫……」


 タテは、泣きじゃくる羽衣の肩を押さえ、そのまま羽衣の前に跪くと、諭す様に、優しく、告げる。


「――姫……、僕も……、いえ、僕が……、ちょっと、父上を迎えに……行ってきます。ですから、もう、泣かないで?」


「タテ……ちゃん?」


 キョトンとした顔の羽衣を見て、タテは少し困った様な表情を浮かべた後……。


「――じゃあ、行ってきます……。泣いちゃ、ダメ……ですよ……?」


 ――ハオカと同じく、その場に割れたギルドカードを残し、消えてしまった……。


 その場に居た誰もが、消えていく二人を、呆然と見送っていた。――ただ一人を除いて……。


「――ククッ……、一石二鳥どころでは無いな……」


「――ラヴィラ……さん……」


 パチパチと手を叩きながら、その人物――ラヴィラは、ミッチーの声を無視し、ゆっくりと、グリヴァ達の元に向かって歩いている。そして――。


「足止めご苦労だった……、石の奪取には失敗したが、『サラリーマン』と言う不確定要素は取り除く事が出来た、まあ……、良しとしよう……」


 ラヴィラの隣には、全身真っ白な人物が立っている。その人物は、自らの影に手を突っ込むと、その中から三つの人影――縛られた状態のビオ、クリス、そして、気を失っている様子のアーニャを取り出した。


「な、どうしてっ!」


 ミッチーは思わず後ろを振り返る。そして、そこに居た筈の三人がやはり居ない事を確認し、再びラヴィラを睨み付ける。


「悪いが、彼等は――特に、アーニャ王女と、クリスはまだ必要でね? 持っていく……。リンキ、グリヴァ、アクリダ、ドラコス、行くぞっ!」


 ラヴィラはやはり、ミッチーを無視し、白い人物――ドラコスと、ダメージを負って膝をつく三人に向かって指示を出す。


「「「「――ハッ!」」」」


 四人は、ラヴィラに従う意思を見せる。そして、グリヴァはフラフラとその手に持つ銛を高く掲げ――。


「――これで許せとは言いませんが……、『禍福』……」


 スキルを発動させると、その場に居た者、敵味方関係なく、全ての者の傷を癒していく。


「――グリヴァ……」


「申し訳ありません、陛下……」


「まあいい、行くぞ……」


 そして、ドラコスが足元に白い影を展開し、ラヴィラ達はその中に潜り込み、立ち去ろうとする。しかし、悠莉達がそれを黙って見逃す筈も無く――。


「――逃がす……もんかっ!」


「せめて、アンさんだけでもっ! 『腐剣漸(マスキュラー)』!」


「止まりなさいっ! 『豚野郎(ひれ伏せ)』!」


「――『カトラリ・ミート』……」


 ――示し合せた訳でも無く、彼等はラヴィラを……、ラヴィラのみを狙い、スキルを放つ。


「――陛下っ!」


 リンキが咄嗟に反応し、ラヴィラの前に立つ――が……。


「――良い……、私があしらってやろう……」


 ――そして、ラヴィラは不敵に笑い、呟く……。


「頭が高い……『控えよ』」


「「「「――っ!」」」」


 その瞬間、ラヴィラに向かっていたスキルは掻き消え、四人はその場に、ラヴィラの臣下の如く膝をつき、動けなくなってしまった。


 ラヴィラはそれをニヤニヤと見つめながら……。


「ほぉ……? わざわざ見送りか? ご苦労な事だ……」


 そう言い残し、ドラコスが展開した白い影の中に潜っていった――。


「「「「――ぷはぁっ!」」」」


 その場で動けずにいた四人は、ラヴィラ達が姿を消した後、漸く自由を取り戻したが、戦闘の緊張から解き放たれたミッチー達は……。


「何なんっスか……、一体っ!」


「おじさま……、ハオカさん……、タテ君……」


 ミッチーとペタリューダは、その場に座り込み、処理しきれない感情を持て余し――。


「エサ王……、やだ……、おいてっちゃ、やだ……」


「もも……、ももぉ……」


 もも缶と悠莉は抱き合いながら、ひたすらに泣き――。


「椎野さん……、私、どうしたら……」


 愛里は途方に暮れ、その場に居ない椎野を求め、キョロキョロと辺りを見渡している。


 そんな中――。


「――うんっ!」


 ただ一人……、一人の幼女だけが、涙を拭い、上を向き、立ち上がっていた――。


「――うい、きいたもん……。――タテちゃん、おじちゃんを迎えに行くって、言ってたもん……。さらりーまんは――おじちゃんは、さいきょーだって……、うい、知ってるもん……。――だから、うい、もーなかないもんっ! ――だから、みんなも、ないちゃだめっ!」


 ――その小さな瞳は、微かに、確かに、輝いていた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ