刃
続きです、よろしくお願いいたします。
――ヘームストラ王国 ナキワオ南部――
「――なあ……、本当に大丈夫なんか?」
騎士団詰所のソファに横たわるグリヴァとリンキに向けて、サッチーは問い掛ける。
「ええ……、少し……、休めば大丈夫ですから……」
「ああ、オイラ達も後で追い掛けっから……」
「旦那方の事は、俺に任せてくれればいいべ……」
グリヴァとリンキは、騎士団詰所に運ばれた当初よりかは、幾分顔色も良くなっているが、それでも、時折、激しい頭痛に襲われるらしく、苦々しげな表情を浮かべている。
「で、でもよぉ……」
「――ふぅ……、安心して下さい……、周辺の戦闘はほぼ終わっている様ですし、ここで休んでいる分には問題無いでしょう……。――それと……、出来れば誰かと合流して、『治癒師』の方を呼んで欲しいんですよ」
「そうだな……、オイラもその方が助かる……」
「――はぁ……、分かったよ、誰か呼んでくっから、大人しく寝てろよ?」
「はい……、いってらっしゃい」
「ついでに、酒とか持って来てくれっと嬉しいぜ……」
「――ああ、じゃあな? スカっち、後、頼んだぜ?」
「任せるべ、旦那方は一歩も動かさんべ!」
――こうして、サッチーは一人、騎士団詰所を飛び出していった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ヘームストラ王国 ナキワオ近郊北数キロ地点――
「いっくのっ! ――『どっこいしょ』ぉ!」
ペリが棍棒を地面に振り下ろす――。
「――チチっ!」
「うん……、今度は離れているの……」
地面が激しく揺れ、『創伯獣・改』達が割れた地面に飲み込まれ、修復する地面に挟まれ、押し潰され、煙と化していく。しかし――。
「チチチチチチッチキチっ! 『渦虫』ァッ!」
煙は周囲に散らばったかと思えば、再び『創伯獣・改』の形を成していく……。しかも、元よりもその数を増やすと言うおまけ付きで……。
「――チッ、キリがねえ……」
コラキは錫杖を振り回し、群がる『創伯獣・改』を蹴散らしながら、舌打ちをする。『創伯獣・改』は確かに、『創伯獣』よりは強い。――しかし、それは実際には微々たるものであり、一体を倒すのには然程苦労はしなかった――が……。
「何にしても、数が……」
イグルは両脚の爪で、周囲の『創伯獣・改』を切り裂き、煙から増えていく様子を見てウンザリと言った表情を浮かべている。
「動きは単調だし、こいつ等、目線がずっと同じだから、狙いが分かり易過ぎなの……」
ペリに至っては、何故か『創伯獣・改』が一列に並び、そのどれもが、ペリの一か所を目がけて突っ込んで来るため、バッティングセンター状態で棍棒を振り回している。
そんな中――。
「エグッ……、ア、アタシだってぇ、『四伯』とか、そんな称号みたいなんで、呼ばれたかったんだもぉんっ!」
「あらぁ、辛いのねぇ……」
心の折れてしまったロパロは、スプリギティスの胸に飛び込み、盛大に愚痴を漏らしていた。
「アンタばっかずるいぃっ! ア、アタシだって、アタシだって、美少年侍らして、余裕綽々の人生送りだぃいっ!」
「あらぁ……、大丈夫、大丈夫よぉ? ――みぃんな、仲良くよぉ?」
スプリギティスはロパロの頭を撫で、何とか落ち着かせようと必死になっている。
「うぅ、何で……、アタシの部下は紫一色なのよぉ! ――こいつ等、目線エロイし、インテリ気取りでムカつくしぃっ!」
「うんうん、そうねぇ……」
その後も、ロパロの愚痴は延々と続いていた――。
「――なあ……?」
「なんです、コラキ?」
コラキは横目でスプリギティスとロパロの様子を伺っていて、ある事に気付いてしまった。
「何でか知らないけど、ティス様に向かっていく『創伯獣・改』って、増えてないっぽい」
「「――え?」」
コラキに教えられ、ペリとイグルはスプリギティス達の様子を注意して見る。すると――。
「うーん……、あ、消えたですね」
「本当だ……、増えないの……」
その後も周囲の『創伯獣・改』を蹴散らしつつ、観察する。
「――あっ、分かったです。ロパロが泣いたら消えてるっぽいです」
「えっ? ――あ、本当なの……」
「――なんだそりゃ? って、本当だ……」
――三人は漸く見つけた突破口を逃すまいと、泣き崩れるロパロを凝視し始めた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ヘームストラ王国 ナキワオ西部――
「――あ、皆揃ってる」
悠莉は学校まで目と鼻の先――と言う所まで来ていた。遠目に映る、仲間達を見つけ、駆け寄ろうとすると――。
「ん、ゆうり、だっこ」
「――重っ! って、もも? アンタも今、帰り……ってのは、何か変か……」
背後からいきなり飛びついて来たもも缶に、驚き、思わず立ち止まる。
「あぁもう……、折角、人が珍しく大感謝してるってのに……」
――キュルキュルキュルキュルキュル……。
「ん、ゆうり、もも缶、お腹、空いた」
「――はあ……、はいはい、良いわよ、おぶってあげるから、その泣きそうな顔止めて? ――物凄く、ドキッとするから……」
「ん、おんぶ、げっと」
そして、悠莉はもも缶を背負い、何やら一段落した雰囲気の学校に近付き、そして――。
「――え……? おじ……さん?」
その光景を目にする事になる――。
――時は遡る、悠莉が見た、その光景の数分前まで……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――こんだけ縛れば良いかな?」
俺は、愛里に頼んで、レオンとレーナに応急処置を施してもらい、その上で二人を縛り上げていた。どうやら、ミッチーの剣――ミトさんが、遠くでも別の『伯獣』を縛り上げているらしく、そちらに集中する為に、この二人を長い間縛っておけないらしい。
「あっ、そうだ、サラリーマン君、どうせなら――」
そんな俺に、衛府博士は例の『長い棒』を差し出して来た。どうやら、色々『開発実験』を行った結果、スキルを封じる布を作り上げてしまったらしく、この際だから試してみたいとの事。
「――アタイ達は敗者だ……、好きにしな?」
「だぁりぃ……、三食飯付きでよろしくぅ……」
「――どんだけ食う気なんだよ……」
――こんな感じで、二人も協力的なので縛り上げた上から更に布を巻き付けてみる。
「それで、衛府博士、お話って言うのは?」
「ん、ああ、そうだった、取り敢えず、縛り上げたなら、その二人も含めてこの校庭から離れよう。――もうじき、接界する」
――寝耳に水とは、この事だな……、何か、前回よりかなり早くないかな……。
「うん、うん? まあ、驚くのは無理もないけど、それは後で頼むよ、今は急ごう」
こうして、俺達は学校の校庭から離れる為に、再びナキワオの住民を連れて、移動を始めた――のだが……。
「――あっ、そうだ、どうせなら、栗井博士を送っちゃいましょうか?」
この人は、これ以上、こっちに居させちゃ駄目だ――と、思う。
「ん? んん? ――どうだろう? 時間は結構ギリギリだけど……」
「まあ、パッと校庭の中央にでも置いて来ればいいんですし、ちょっぱやで行ってきますって!」
「――あっ、コラッ!」
衛府博士は止めようとしていたけど、俺としては、これ以上、この人に振り回されたくないってのが本音です。――個人的な感情で申し訳無い……。
「じゃあ、行きましょうか? 栗井博士……」
「――ええ、大人しく従いますよ? 引き際は潔く……ですよね?」
――うわぁ……、どの口がって言いたいけど、まあ、暴れないならこっちとしても助かるしな……。
そして――。
「――大体、この辺かな?」
「そうですね、うん、良い位置じゃないですか?」
――縛った相手にアドバイスして貰うってのも変な感じだな……。
「――じゃあ、栗井博士……、何でこんな馬鹿な真似したんだか知らないですけど……、地球でちゃんと白状して下さいよ?」
「ふふ……、だから、私は「地球のため」に動いていたつもりなんですけどね? ――あれ? どうだっけ? ――あれ?」
うん、やっぱりまだ錯乱気味だな……。携帯が繋がったら、後輩経由で色々聞いてみようかな?
「まあ、少し向こうで休んでください、俺も少し休むんで」
――しかし、栗井博士って、何かの罪に問われるんだろうか?
「――薬屋殿……」
「うぉあっ! って、え? ――ああ、ラヴィラさん、どうしたんですか?」
正直、かなりビックリした……。――いきなり声掛けてくるんだから、心臓飛び出るかと思った……。
「いや、先程、小耳に挟んだのだが、何でも『赤い石』なる物を調べようとしていると……」
ん? ――ああ、そうか、アンさん辺りに聞いたのかな?
「――ええ、ちょっと、得体が知れないんで、衛府博士に分析して貰おうかと思って」
「そうか……、薬屋殿が持っているのか……」
「はい、とは言って――も?」
――ズブリ……。そんな音が聞こえた気がした……。
「――ならば、ここで返してもらおうか……、アレは、私の、モノだ……」
「え……? あれ……?」
――目が、チカチカする……。あ……れ? 俺、の腹って……、こんな……、刃、物、生え……て、たっ……け……?




