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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第九章:ヘームストラ大戦
159/204

十三階段

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――ヘームストラ王国 ナキワオ北東部――


 ――愛里達は、ナキワオの住民達を連れて、衛府博士の家までやって来ていた。道中、疲れた顔をしたケイシーの父、ジャックを拾ったり、何度か走り回るもも缶と遭遇したりした末に、漸く辿り着いたのだが……。


「――やあ、いらっしゃい、早速で悪いんだがね? サラリーマン君と合流しようか?」


 玄関先で、自宅に到着した愛里達を迎えた衛府博士は、愛里達に向かってそう告げた。その後ろでは、寺場博士が申し訳なさそうに、頭を下げている。


「衛府君っ、君はもう少し、状況説明をだね……」


「いや? いやいや、寺場博士、状況は割と切羽詰っているんじゃないかな? ――皆、空を見てごらんよ?」


 腕を組みながら、衛府博士は指を空に向ける。そこには――。


「――えっ? いつの間に……、あんなに近く……」


 愛里は思わず目を見開く。――空には地球が、ナキワオ上空数十、もしくは数百メートル程に迫っていた。


「――早いとこ皆、合流して退避しないと……、ナキワオの住民は勿論、今ナキワオのあちこちで暴れてる子達も一緒に、地球へ――って事になるかもしれないんだよ……」


「そ、そんなっ! う、嘘ですよねっ?」


 愛里は『伯獣』が溢れる故郷と、父母の顔をを思い、顔を真っ青にして叫ぶ。衛府博士は詰め寄って来る愛里に、驚き、アウアウと狼狽え始める。すると――。


「残念ながら……、衛府博士の言う通りだ。――現在、地球が迫っているせいなのか、別の原因かは分から無いが……、地球との連絡ができ無い状況でもある、向こうの状況が分から無い以上……、余計な荷物を送るわけにはいかん……」


 衛府博士の言葉を受け継ぎ、寺場博士が困ったような顔で告げる。


「――分かりました……。ペタちゃん、皆さん、申し訳ありませんが、このまま引き返すと言う事でよろしいでしょうか?」


「愛里姉様、あたくしは何があっても、ピト姉様とご一緒に、愛里姉様をお守りするだけですわ?」


「ピュイッ、ピトも、ねえちゃを守るよっ!」


 ――ペタリューダとピトは、鼻息を荒くして愛里の手を握る。他の住民達は良く状況が分からずに動揺はしているものの、椎野と合流すると言う事で安心しているのか、幸いにも取り乱す者は出ていない。


「うん、うん……、じゃあ、急ごうかっ!」


 こうして、一行は二人の博士を迎えて、学校に引き返す事になった――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ東部――


「うーにゃっ! 『一等星(ファースト)』!」


「グゥオァッ!」


 悠莉の横薙ぎの蹴りを、カンタロはその腕で受け止め、吹き飛ばされる。


「小娘――悠莉……、以前より、強くなったか?」


「そーお? ――何か、アンタ、ゴキッたせいか、角無いせいか知らないけど……何か、弱くなってない?」


「ゴキッ――……まあいい、確かに角が無いのは弱体化の原因ではある――がっ! 『突き上げ』っ!」


 カンタロは言うが早いか、滑る様に悠莉に近付き、その拳を突き上げる。


「――あっぶなっ!」


 一瞬、反応が遅れた悠莉だが、顎を狙うカンタロの拳を防ぐ様に、チュニックが拳を包み込む。


「なっ、貴様の服は、生きてるのかっ!」


 悠莉の顎先で動きを止めるカンタロの拳、それを見て冷や汗を流す悠莉、互いに服が勝手に動いた事に驚いている様だった――。


「マジで……、ももに感謝だわ……」


 悠莉は苦笑いを浮かべながら、目前のカンタロの腹に手の平を添える。


「そうかっ! 貴様が強くなった気がするのは――」


「――『スアレス』っ!」


 悠莉がスキルを発動した瞬間、チュニックが大きく膨らみ、その背部から空気の様な何かを大量に噴出する――。


「があああああああっ!」


 カンタロの内部に衝撃が走り、背中が大きく裂け、二枚の翅も粉々に砕け散る――。


「ま……だ……だっ!」


「――いや、終わりよ? 『二等星(セカンド)』ォォォ!」


 拳を振り上げ、尚、戦う意思を示したカンタロの頭に、悠莉の額がぶつかる。


「せ……ッしゃは……ゴキって……な……い……」


「――悪かったわよ……、もう、言わないから……」


 地面に倒れるカンタロの手に、一本の角を握らせ、悠莉はその場を後にする。――椎野と合流する為に。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ北部――


「ん、逃げられた……」


 もも缶はギルド前で、途方に暮れていた――。


「んん……、ずるい……」


 その身を細かい粒子に変え、もも缶の目の前から消えた『菌伯獣』――ボアゾ……、彼は暫くの間、粒子化してもなお、自分を追い掛けてくるもも缶に戦慄を覚えていたが、分散していると言う事を存分に活かし、一か所に逃げるでなく、四方に分散して逃げる事でもも缶の追跡から逃れる事に成功していた。


「ん、お腹、すいた……、エサ王……」


 もも缶もまた……、学校を目指す。――椎野と合流する為に。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ南部――


「――これは……、うぅっ」


 サッチー、グリヴァ、リンキ、スカサリの四人は、ナキワオの入り口に居た。――そしてグリヴァは、街に入り、空を――地球を見た途端に頭を押さえ、地面に蹲ってしまった。


「グリ婆っ! どうし――グゥッ!」


 少し遅れて、リンキも同様に空を見て、地面に蹲る。


「え、え? ど、どしたん? 二人供……」


「か、顔が真っ青だべっ、アンタ、ここ、詳しいんだべ? どっか、休めるとこ無いべかっ?」


「え、ああ……、なら、そこの騎士団の詰所に――」


「――取り敢えず、そこ、運ぶべっ!」


 ――駒達は集う。椎野の元へ、そして――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ西部――


「――椎野様っ!」


「ふぁっ?」


 ――俺がハオカの膝枕でウトウトしていると、泣きそうな顔のアンさんが飛び込んで来た。


「あれ? アンさん? どうし――」


「それが椎野様っ、ラヴィラがっ、追手がっ、茶毛の王子様がっ!」


 アンさんは、ボロボロと涙を零し、ラヴィラさんの名前以外、訳の分から無い事を喚いている。


「と、取り敢えず、落ち着いて下さい。――ハオカ、手貸してくれないか? ――皆と合流しよう?」


「へー、うちもそれがええと思います。急ぎまひょ……」


「そう言う訳ですから、アンさん――」


「――その必要は無いですよ? 薬屋さん……」


「ひ、久しぶり……です、は、はい……」


「――栗井博士、ビオさん……」


 立ち上がった俺達の前に、一連の事件の発端である人物――栗井博士、ビオさんの両名が現れた……。


「直接会うのは、何時振りですかね? ――ああ……、発表会の時以来ですよね? 当然ですね」


 栗井博士は、ニタニタと笑いながら、俺達を見ている。――しかし、二人以外にはいないし……、何でこんな余裕たっぷりなんだ?


「――久しぶりですし、ゆっくりと語りたい所なんですけど、取り敢えず、それはお縄に付いてからにしましょうか?」


「あはっ? 見れば、薬屋さん、結構な怪我じゃないですか? そんなんで、私達に勝てると思っていますか?」


 ――やっぱり……、余裕たっぷりだな。って事は、どっかに『伯獣』の一人や二人、隠れてるって思った方が良いかな?


「一応、俺はともかく、こっちのハオカは戦闘職なんで、逃げられるとは思わない方が良いですよ?」


「――ふふ……、まさか、薬屋さんも、私達が二人だけで来たなんて……、思っていないですよね?」


 俺はそれに答えず、無言で栗井博士を見つめる。――どうでも良いけど、後ろでビオさんが「聞いて無い」って顔してんだけど……。


「それでは……、私の切り札をお見せ致しましょうっ! ――ボアゾっ! 居るんでしょう? 出て来なさいっ!」


 ――やっぱりかっ!


「旦那さんっ! 下がってっ!」


「ああ……、気を付けろ、ハオカ……」


 俺とハオカは、間にアンさんを挟む様にして、周囲を警戒する。


「……」


「…………」


「………………」


「――あれ? ボアゾ? ボアゾさん? おーい……」


 しかし……、幾ら警戒しても、待っても、誰も出て来ない。――もしかして……。


「――誰か……、倒しちゃったとか?」


「――っ! バ、馬鹿なっ!」


「え、え? く、栗井さんっ?」


 どうやら、その可能性は考えていなかったらしい、栗井博士も、ビオさんも、見ていて可哀想になる位に狼狽えている……。


「――良しっ、捕まえよう……」


「あ……、び、ビオさん、逃げますよっ!」


「え、え? 栗井さん? ちょ、ちょっと待って――」


「へー、まず一人……どすなぁ?」


 ビオさんは、恐らく切り札の事も、何も聞いていなかったのだろう。突然の事態に何も対処できず、あっさりとハオカに捕まってしまった。そして、栗井博士は――。


「すみません、ビオさんっ! 貴方の犠牲はっっしゃ!」


「えっと……、どう言う状況っスか?」


「……………………どう、でも……良い……」


 丁度戻って来たミッチーと、顔色の悪いアクリダによって取り押さえられてしまった……。――あれ? 何でこの二人? 愛里は?


 ――そして……。


「――何つうか……、案外決着ってあっさりとしたもんだな?」


「そうッスね……、でも、これで漸く……」


 俺とミッチーは、ミッチーの剣から漏れ出ている霧の様な触手に縛られた栗井博士とビオさんを見ながら、しんみりとしていた。――思えば、この人の暴走のせいで、えらい苦労させられたもんだよ……。


「――って、そうだ! アンさん!」


 俺はアンさんの事を思い出し、ジッと栗井博士達を見下ろすアンさんに声を掛けた。すると――。


「あ、そうですっ! ラ、ラヴィラ騎士団長が、わ、妾を逃がすために、犠牲にっ!」


「なっ、ど、どこですか? 今すぐ助けに――」


 ――と、俺とミッチーが動こうとした、その時だった……。


「いえ、人を勝手に殺さないで下さい……」


「ラ、ラヴィラさんっ!」


「無事だったんですか?」


 呆れた様な表情を浮かべて、ラヴィラさんが声を掛けて来た。――そして、その手には……。


「もしかして……、クリス……だっけ?」


 以前、学校襲撃時に見ただけだったけど……、間違いない……と、思う。


「――何だか、例の『ジーウの変異種』を見たら、怯えちゃってね? 結構簡単に捕まえられたんだよ」


「――ゲ……」


 ――何で、アイツが此処に?


「そんな顔をしないでくれよ? ――一応、奴がティグリとか言うのを相手にしてくれたお蔭で、私はこっちに向かえたんだから……」


 俺は思いっ切り嫌そうな顔をしていたらしく、ラヴィラさんは苦笑しながらそう言った。


「それで……、アイツは?」


「――さあ? 私がこのクリスを捕まえた時には、まだまだ元気に戦ってたよ?」


「「「うわぁ……」」」


 俺とミッチー、ハオカの声が重なる。――嬉しそうにティグリと戦う姿が容易に想像できてしまう……。


「――ところで……、彼は?」


「彼って言うと……、ああ、アクリダさんですか?」


「ああ……、具合が悪いみたいだが?」


「いや、何か頭が痛いらしくって、少し、そっとしておいてやって欲しいッス」


 ラヴィラさんはミッチーの答えに納得してくれたらしく、ナキワオの住民が、この場に残していってくれた毛布を優しくかけて上げていた。


「ああ……、何はともあれ、これで一段落だなあ……」


「そうッスねぇ」


 ――取り敢えず、残党狩りとかはラヴィラさんとか、騎士団の人に任せてゆっくりと休もう。


「――あ、旦那さん、皆さん、来たんやよ?」


 ハオカが指す方向には、羽衣ちゃん達が居る。――やっぱ、心配になって見に来てしまったのかな?


「――ああ……、これでゆっくり休めるかな……?」


 羽衣ちゃん達に手を振りながら、俺はしんみりと呟く。すると――。


「――ああ……、ゆっくりと休めるさ……」


 ラヴィラさんがそう言いながら、微笑んでいた……。


 ――偉い人のお墨付きも貰ったし、暫くは依頼も受けないでダラダラと過ごすとするか……。

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