獅子夫妻
続きです、よろしくお願いいたします。
――ヘームストラ王国 西部――
「喰らいよし、『大太鼓』!」
ハオカがバチを振るうと、太い一筋の朱雷が獅子夫妻の妻――レーナに向かっていく。
「はんっ、何だい何だいっ! こんなもんっ、『奮迅』!」
レーナがその爪を振るうと、黄色い風の刃が一閃――朱雷とぶつかり合う。
「――クゥっ!」
「グァッ!」
ぶつかり合う朱雷と黄風は、ハオカとレーナの間で火花を散らし、やがて相殺し、弾け飛ぶ……。
「アンタ……、中々やるじゃないか」
「うふふ……、あんさんも……ね……」
――一方、俺はと言うと……。
「せいぃぃぃいぃやっ!」
「来いー!」
戦闘開始時から一歩も動かず、レーナの相方――レオンと睨み合いを続けていた。
「くっ……『雷電』!」
ハオカはバチを乱打し、その全身から太い朱雷を数本放っている。朱雷は、ウネウネと不規則な動きをしながらレーナに向かって行き――。
「こ、こいつぁ、全部は……無理かね……、『ファング』!」
レーナは襲い来る朱雷をヒラリヒラリと避けていたが、最後の一本だけはどうしても避けられないらしく、スキルを発動させる。――どうする気……だ?
「なっ!」
「――喰らいなっ!」
レーナは一瞬でハオカの目前まで移動すると、そのまま爪を振るう。――しかし……。
「何のっ! 『絢爛舞踏』!」
「と、飛んだ?」
ハオカもまた、スキルを発動し、宙に駆け上る事でレーナの爪を躱す。――あれ、下から見たらどうなるんだろう……?
――一方……。
「せーいっ!」
「――おっと、と、とりゃぁ!」
――俺は横目で、チラリとハオカ達を見ながら、レオンの掛け声に、慌てて掛け声を返す。すると、宙に浮いていたハオカが、何やら無言で俺の傍に降り立って来た……。
「? ハオカ……?」
「ん、レーナァ? どした?」
ふとレオンの様子を見てみれば、レーナもレオンの傍に近付いている。
「「あれ? お前ら……」」
そして、俺とレオンの声が重なり――。
「――旦那さん、なんで動かないんどすか?」
ハオカはニッコリと微笑み、聞いて来た。――いや、どうしてと言われても……なあ……。
「え、いや、よく考えてみ? 俺……、この腕だぜ?」
俺はギプスに包まれた両腕を持ち上げ、気まずそうに答える。ハオカは俺の両腕を見ると、少し小さな声で「ああ」と呟く。――良し、ここが攻め時だ!
「――そうなるとさ……、俺の戦法って、カウンター的な事しか残されてないんだよね……」
例えば、『塗り壁』とか……。
「――『必殺仕様』のカードは……?」
「うん……、あれ使うと、スーツの防御性能とか、身体強化性能落ちるみたいでさ……」
――以前、衛府博士に『切る』、『肩を叩く』は厳禁って言われたし……。
「――はあ……、ほんでも何やあるでしょうに……」
ハオカはこめかみを押さえ、ため息を吐く。――え、いやいやいやっ!
「流石にそれは、俺を過大評価し過ぎだって! ――って言うか、多分、普通の戦闘職でも、こんな腕だったら攻めあぐねるでしょ? 今、俺のバトルコマンドは『逃げる、逃げる、逃げる、塗り壁』ってラインナップだぜ?」
――俺がハオカを必死に説得している間、向こうは向こうでまた、修羅場の様だった。聞こえてくるのは――。
「――アンタっ! 何サボってんだい!」
「えぇ……、いや、仕方ないじゃん……、向こうが来ないんだから……」
「なら、アンタから動けばいいだけの話だろ? ――その爪は飾りかい!」
おお……、良く見れば確かに立派な爪だ……。
「あっはっはっ! ――爪は飾るもんじゃないぜ? ハニー」
「――はあ……、なら使いなよ……その爪をさあ!」
レーナはハオカと同じ様に、こめかみを押さえると、ため息を吐いている。――あ、ハオカがちょっと、「分かる分かる」みたいに頷いている……。
「いやぁ、そうしたいのは山々なんだがよぉ、アイツ、動かねえんだぜ? 仕方ねえじゃん、俺のバトルコマンドは『寝る、寝る、寝る、起きる』だぜ?」
「アンタっ、それ最初っから『戦う』がないじゃないのさっ! ――この、ごく潰しがっ!」
――気が付けば、レオンは何故か俺の顔を見て、ニカッと白い歯を見せている……。あれ? 俺、もしかして……。
「――旦那さん、お仲間と見られとるみたいどすぇ……?」
「え、俺……アレと一緒なの……?」
思わずハオカの顔を見ると、サッと視線を逸らされる……。――え、嘘……。
「え、え? 俺、カウンター狙ってただけだって! ほ、本当だからっ! そんな、怠けて動かなかったわけじゃないんだって!」
俺の必死の訴えは、どうやら通じたらしい……レオンに……。――レオンは、「その手があったか」みたいな顔をして、俺に親指を立てて、白い歯を見せてくる。そして――。
「――いやぁ……、実はカウンター狙ってたんだけどさぁ、相手も同じ狙いみたいでよぉ、睨み合いになっちまったよぉ」
――お前っ! すぐ傍に奥さんいんだろ! 聞こえてるって!
「――アンタっ! 何時の間に、そんな高度な戦いが出来る様に……っ!」
「「――えっ!」」
今度は俺とハオカの声が重なる……。え、何? あの人、俺達の声が聞えてなかったの? ――それにしても、騙されやすすぎないか?
「んもぉ、それならそれで最初に言ってくれりゃ、良かったのに……。――うん、なら、アタイはとっとと、女を仕留めてあの子を頂いて来るよっ!」
「おぉう、愛してるぜ、ハニー」
――何故か、獅子共はイチャイチャし始めている……。
「だ、旦那さん、うちらも負けてられまへんよっ!」
そう言うと、ハオカは顔を真っ赤にして……、俺の手を握ろうとして――。
「――あ……」
ギプスを見て寂しそうに呟く……。――え、何、俺が悪いの?
「おじちゃん、ハオカちゃん泣かせちゃだめなのっ!」
「おやっさん、ヒューヒューって言った方が良いか?」
気が付けば、羽衣ちゃんとケイシーが近くまで来ていた――って!
「危ないからっ! ――タテ、ターテー、この二人連れてって!」
俺は、避難した住民達と一緒に少し離れた所にいるタテを呼びつける。――どうやら、タテもいきなり居なくなった羽衣ちゃん達を探していたらしく、涙目で駆け寄って来た。
「ひ、姫っ! ケイシーもっ! ――父上の邪魔しちゃ、駄目ですよ!」
「う? ――だってぇ……」
「まあ、良いじゃんかっ! 俺だって、羽衣が言うおやっさんの活躍見たかったんだよ。――後、黙ってみてるのは性に合わないんだ、何か手伝えないかなってさ!」
――頭が痛くなって来た……。子供の好奇心って言うか……、冒険心ってすげえな……。
「なあなあ、おやっさん、俺にもなんか手伝わせてくれよぉ!」
「あ、ういもー!」
「――え、な、なら、僕も!」
手伝わせてくれって言われてもな……。――どうするか……? 幸い、獅子共はまだイチャイチャしてる……。うん、教育上よろしくないな……。
「――あ、そや、旦那さん、そんなら他ん住民達を誘導して、衛府博士ん所に行って貰ったらどうえ? ――例の『赤い石』ん件も有るんやし……」
――ふむ……、ハオカの提案は良いかもしれない……。誘導って名目で役を与えて、その実、他の住民に子供の避難を誘導させるか……。子供達も、住民も改めて避難できるし、『赤い石』の件も手間が省けるし……。
「うん、良いかも……。――ハオカ、お主も悪よのぉ?」
「え、えっと、お、お代官様こそ……? で、よろしおすか?」
俺はハオカに「うん」と頷き、頭を撫でる。そして、チラリと獅子共を見ると……。
「良いよ? アタイ達も、ラヴリーな子供が傷付く可能性は排除したいしね……、明らかに無関係そうなら、アタイ達の仲間も襲いやしないよ。――コウモリ女は別として……」
――若干、不安な事を言っているが、どうやら、見逃してくれるらしい。どうせなら、俺達の事も見逃してくれないかな……。
「――そこのベイビーちゃんは、後で迎えに行くけどねっ!」
その目は未だに羽衣ちゃんを諦めていないみたいだ……。――うん、俺はやっぱり逃げるわけにはいかない……。
「――うん、そんな訳だから、羽衣ちゃん、タテ、ケイシー君、あそこの人達を衛府博士の家――って、分かるかな?」
「――んー、衛府って人は知らないかな……」
「う! うい、知ってるよっ!」
「あ、僕も知ってます」
――三人供元気で宜しい! 俺は獅子共から見えない様に、三人を引き寄せ、『赤い石』を取り出す。
「――良いか? 君達に任務を与える。この石を衛府博士に渡すんだ……。「分析よろしく」って言えば、分かると思うから」
俺は目を輝かせているケイシーの手に、『赤い石』をポンッと置く。――一応、獅子共からは見えていない筈だけど……。
「――後、一時間しても俺達が衛府博士の家に現れなかったら、誰か大人に言って、街からの脱出をしてくれ」
三人はふんふんと頷きながら、俺の言葉を復唱し、呟いている。――大丈夫かな……?
「はいっ! ――おやっさん、一時間ってどのくらい?」
ああ、そっか……、まだ時計見られない子もいるか……。――どうすっかな……? ――あっ、そうだ!
「取り敢えず、これ貸しておくよ、この短い針が『三』の所を指したら、大体一時間だ」
俺は三人に説明すると、腕時計をケイシーの腕に巻き付けてやる。――多分、俺以外には使えない筈だから、大丈夫だろう……。
「――どっちにしても、俺も使えないしな……」
「旦那さん……」
俺とハオカはギプスを同時に見て、ため息を吐く。そして――。
「良し、じゃあ任務開始だっ! ――それ行け!」
「「「はーい!」」」
三人は、トコトコと歩いて行き、もう一人心細そうにしていた女の子――カズンちゃんだっけ? ――と合流すると、何かを住民達に説明し始める。
「――もう、良いのかい?」
レーナは、少し涎の付いた口を拭うと、俺達にそう聞いて来た。――子供達から見えない様にしてて、本当に良かった……。一応、戦闘中なのに、何してんのさ……?
「――ああ、待たせたな……」
チラリと住民達を見ると、任せろって感じに手を振ってくれている。どうやら、俺達の意図は伝わったみたいだな……。
「じゃ、やろうか……、子供達もいないし……、今度は本気でやれるだろ?」
――レーナはニヤリと笑い、俺達を睨み付ける。
「――ええ、うちん旦那さんを舐めたら、本っ当に痛い目を見ますぇ……、覚悟しておくれやすね?」
――ハオカもそれに応える様にニヤリと笑う。
「そいつぁ、うちのごく潰しも一緒だよ……」
――奥様……、後ろでご主人が「えっ?」って顔して驚いてますが……。
「じゃあ……、やろうかねぇ!」
「はいなっ!」
何だか、女性同士で盛り上がってますが……。――レオンは、「え、マジで本気でやんの?」みたいな視線を俺に送ってきている。
「――えっと、俺らもやるか?」
「え、マジで本気でやんの?」
――うん……、やるんだよ……。
「ハオカ、カード取って? ――連携するぞ?」
「――っ! 旦那さんっ!」
ハオカは嬉しそうに、俺の胸ポケットからギルドカードを取り出して、俺の口に挟んでくれる。
「ひゃあ、ひょうひゅひゃ!」
――ああ……、締まらないな……。




