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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第九章:ヘームストラ大戦
151/204

羽化

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――ヘームストラ王国 ナキワオ南部――


「――『闇討ち』!」


 ペタリューダの背後にニフィッツァが現れ、首元に苦無を当てる。ペタリューダは、首筋に金属のヒヤッとしたした感触を感じ、慌てて、前に転がる。


「先程から、後ろばかり……何と卑怯なっ!」


「ふふ……、私の瞬間移動スキルについて来られない負け惜しみか?」


 ――事実、ペタリューダは先程からニフィッツァの姿を追えずにいる。


「くっ……、この!」


「――『雲隠れ』」


 ペタリューダが鱗鞭を振るうが、鱗鞭の紐は虚しく空を切り、ペタリューダはまたニフィッツァの姿を見失う。


「……………………はぁ……」


 アクリダはそんなペタリューダを見て、ため息を吐く。アクリダには――傍から見ている者には、ニフィッツァがどう移動しているのかが、かなりはっきりと見えていた……。


「ふふふ……、こっちだ!」


 ペタリューダの背後――その足元に穴が空き、そこからヒョッコリとニフィッツァが顔を出す。


「――なっ! またっ!」


「ほれ、どしたぁ! ――こっちだぞ!」


「くっ!」


「……………………はぁ……」


 本人――特にペタリューダにとっては、命懸けでは有るのだろうが……。アクリダにとっては、ただのおふざけ――もぐら叩きにしか見えていなかった。


「うぅぅぅうぅっ!」


「はっはっは!」


「……………………………………ちっ」


 ――総合的な能力だけを見れば、ペタリューダはニフィッツァを圧倒している。しかし、ペタリューダはそれでも尚、ニフィッツァに手こずっている、もどかしさで、アクリダは、段々と苛立ちを隠せなくなってきていた。


「――喰らえっ! 『穴熊』!」


 地面の中からニフィッツァの声が響くと同時に、地面から爆炎が上がる。――咄嗟の判断でペタリューダは空に舞い上がる。


「――っ! そう、でしたか……地中っ!」


 空から見下ろして、初めてペタリューダは気付く。地面から上半身のみを出すニフィッツァとその少し先の地中から舞い上がる爆炎に――。


「でも……でしたら……!」


「――クッ! しまった!」


 ペタリューダは上空からニフィッツァを見下ろし、ニフィッツァの攻撃が空中には届かないと考え、その隙に鎧の構築に意識を集中させようとする――が……。


「――なんてな? 『穴熊』!」


「――えっ?」


 ペタリューダのすぐ隣で爆発が起こる。――ペタリューダは突然の衝撃にポカンとした表情を浮かべ、吹き飛ばされる。そして、吹き飛ばされた先の空間に連続して爆発が起こり、ペタリューダはピンボールの様に空のあちこちに跳ね飛ばされていく。


「……………………マズイ……」


 ――アクリダはかなり焦っていた……。


「アハハハハ! ――気ん持ちいいいいいいいいい!」


 ニフィッツァは先程、アクリダから受けた屈辱を晴らすべく、ペタリューダに止めを刺さず、弄んでいた。――やがて、ペタリューダは爆発に流され、アクリダの足元に転がる。


「う……」


 そんなペタリューダにアクリダはソッと近付く。――ニフィッツァはアクリダに手も足も出ない事を身に染みて分かっており、このままペタリューダに止めを刺すべきかどうか、戸惑い、その場から動けずにいる。そして、アクリダはそんなニフィッツァを横目で見つつ、ペタリューダに問い掛ける。


「……………………お前は……、何故……、ジョブと向き合わない?」


「……ジョブと……向き……合う?」


 ――ペタリューダはそんなアクリダを見つめ、若干、苛立ちを覚えつつ、問い返す。


「……………………俺は感じる……、お前は、お前のジョブ(本能)は……もっと…………理不尽(ドエス的な)なモノだ……、何故、相手の攻撃を許す……、何故、相手の出方を伺う……、ジョブ(本能)と向き合え、向き合った上で従うか、逆らうか決めろ……出来れば……いや……、ソレは後にしよう……」


 アクリダのフワッとした回答に、ペタリューダの苛立ちは更に増す。――「何故、もっと分かり易く言わないのか」と……。


 ――アクリダはペタリューダの傍から離れると、再び観戦体制に戻る。ニフィッツァはソレを、アクリダが戦闘には参加しないと判断し、狂喜乱舞する。


「ふ……ふふふふふふ……はっはっは! ――見捨てられたか! 女ぁ!」


 ――ニフィッツァの笑い声は、ペタリューダの苛立ちを更に、更に加速させる。――「誰の許しを得て、不快に笑うのか」と……。


「クククッ! イイザマだな?」


 ニフィッツァは、地面に倒れたままのペタリューダに近づくと、その頭を踏み付け、ニタニタと笑う。そして――。


「――雑魚は雑魚らしく、泣いて許しを請うて、犬の如く、私の前にひれ伏してれば良かったんだよぉ!」


 ニフィッツァは、スイッチを押した……。


「――た……た……、……さい……」


「――あ?」


 ――ペタリューダはフラフラと立ち上がり、溜まりに溜まった苛立ちを爆発させた。


「ごたごたと……うるさいですわ! ――こぉのぉ……、ビチグソ共がぁ!」


「――ヒッ!」


「……………………オォフ……」


 ペタリューダの叫び声は、ニフィッツァとアクリダの本能を刺激し、片方には恐怖を、片方には快感をもたらす……。


「――やれば良いんでしょう……やれば……『羽化モルフォ』!」


 ――浮かんで来るスキルを、ペタリューダは心のままに叫ぶ。すると、ペタリューダの周りが、鮮やかな青い光に包まれる……。


「――これは……?」


 やがて、光が収まるとそこには、鮮やかな光沢のある青い翅を広げ、その翅と同色の全身甲冑を身に纏うペタリューダが居た。


「――な、な……」


 ――先程のアクリダと同じ、そして、自身の上官でもあるティグリと同様の存在感……、ニフィッツァの頭は、既に戦う事は考えられず、どうやって逃げるかと言う事で一杯になっていた。しかし――。


「――何故、勝手に動くんですの? 『豚野郎(ひれ伏せ)』!」


「――な、ピ、ピギィ!」


 ――ペタリューダはそんなニフィッツァに向けて優しく、聞き分けのない子供を諭す様に呟き、スキルを発動し、ニフィッツァを地面に這いつくばらせる。


「あら、『魔犬(ドッグプレイ)』が変化したんですの……?」


 本能のままに発動させたスキルの効果を確認する様に、足元のニフィッツァを見つめ、ペロリと舌なめずりをする。


「……………………オォウ……」


「ぴ、ピギ?」


 そして、地面から何かを懇願する様に、ペタリューダを見上げるニフィッツァに向けて、もう一度、ペロリと舌なめずりをした後に、優しい声で――。


「――お仕置きの時間ですわ?」


 そう呟いた――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ナキワオ中央部――


「ガッ!」


「――三知さんっ!」


 ――愛里の目の前で、ミッチーの身体が吹き飛ばされる。


「うん、こんなもんかな?」


 ミッチーを吹き飛ばした――正確には、蹴り飛ばした張本人は、分厚い眼鏡のブリッジをクイッと人差し指で持ち上げると、ミッチー、そして、愛里をチラリと見る。


「うん、君――愛里さんだっけ? ――主は、未だに君にご執心だ……、悪いんだけど……、ボイディの恋路の為に……死んで?」


 そして、その女性――ボイディは、コツコツと靴音を響かせて、愛里に近付くが……。


「――さ、せ……ないッス!」


「――っ!」


 全身血塗れのミッチーに立ち塞がれ、ひらりと後ろに飛び退く。


「――はあ……、君も懲りないね?」


 ――時は愛里とミッチーが、学校から離れ、家と学校の中間地点程を歩いている時まで遡る……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「姐御、今更っスけど……、良かったんスかね?」


「――え? 何がですか?」


「いや、あんま焦るのもどうかと思うんスけど……、非常時に帰宅して食事……会? とか……」


 ――住人が避難し、静かになった街を見渡し、ミッチーは愛里に問い掛ける。


「んー、でも良く言うじゃないですか、『腹が減っては戦が出来ぬ』って。――皆、不安そうでしたし……、こう言う時こそ日常の空気を少しでも取り戻して、笑顔を――って、私は思うんです……」


「――そんなもんなんスかね……」


「そんなもんです!」


 そして、二人がナキワオ中央通りに差し掛かった時、二人に対して声が掛けられた――。


「――ねえ、そこの君達……」


「――え?」


「――っ!」


 ――二人の前に居たのは、ピシッと執事服を着込み、顔に少し分厚い眼鏡を掛けた女性だった。


「ちょっと、人を探しているんだけど……良いかな?」


 その女性は、とても友好的で、実に自然な雰囲気であった――その頭に、二本の竪琴の形をした角さえなければ……。


「――『伯獣』! 『ホウセンカ』!」


 ミッチーの斬撃は、その女性を的確に捉えた――筈だった。


「――酷いなぁ……、乙女にいきなり刃物を突き付けるなんて……『羚羊』!」


「――なっ、『クルミ』!」


 斬撃をすり抜ける様に迫って来た女性は、そのままミッチーに向けて前蹴りを放つ。――ミッチーは慌てて半円状の斬撃で、その前蹴りの威力を相殺する。


「あれ? ――ちょっと、弱かったかな?」


「強いッスね……」


「――三知さん! 『ヤッセ』……」


 女性はキョトンとした顔でミッチーを見つめている。そして、それまで二人の攻防についていけてなかった愛里がミッチーの傍に駆け寄り、治療スキルを掛ける。


「うん、まあ良いか………………って、あれ? ――治療スキルに、ロングヘアー、腹立たしい胸部……、もしかして、君、主が言ってた『愛里さん』かな?」


 女性はにこやかに、愛里を見つめている。――愛里は、未だに栗井博士が何か言っているのかと、怖気を覚えるが、そんな愛里の様子を察する事無く、女性は話し続ける。


「うん、探しているのは『アン王女』って人だったんだけどな……、まさか、ここで怨敵に会えるとはね……」


 ――コツコツと女性は近付いて来る……。


「うん……、初めまして恋敵さん。――ボイディは、『蹄伯獣』ボイディです。――以後は……、無いから……サヨナラ? 『羚羊』!」


 そう呟くと同時、執事服の女性――『蹄伯獣』ボイディは、前蹴りで愛里の頭を蹴り付けようとする。


「――姐御っ!」


「――うん?」


 ――ミッチーは咄嗟に愛里を横に突き倒し、ボイディの前蹴りを剣の腹で受け止める。その時――。


「――キャッ」


「――っ!」


「うん、始まったみたいだね?」


 突如、街の四方で爆炎が上がる。


「――本当は、命令違反なんだけど……、ボイディは……、恋敵を潰せるこんなチャンスは……見逃したくないんだ、悪いけど……死んでね?」


 ――あくまでもにこやかに、微笑みながら……しかし、決して笑っていない目で、ボイディは愛里を睨み付け、そう呟いた……。

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