緑赤黒
続きです、よろしくお願いいたします。
――ヘームストラ王国 ナキワオ南部――
「――確かこの辺だったかと……」
ペタリューダは、周辺をキョロキョロと見渡し、爆炎が上がったでろう場所を探す。そんなペタリューダを緑の服を着た少年――アクリダが呆れた様な表情を浮かべ、見つめている。そして――。
「……………………お前、もう少し周りを見ないと……」
「あら? ――心外ですわね、だからこうして――」
「……………………死ぬぞ?」
「――え?」
次の瞬間、ペタリューダの背後で金属のぶつかり合う音がする。――突然の音に驚き、後ろを振り返ると、そこには……。
「まさか、気付かれてしまうとは……不覚っ!」
黒い布地の服で全身を包まれた小男が居た。
「――っ! 貴方、いつの間にっ!」
ペタリューダは慌てて小男から距離を取り、鱗鞭の柄を取り出し、構える。――小男は、その手に持つ小さな刃物――苦無でペタリューダを狙っていたらしいが、アクリダが放った鎖に苦無を巻き取られており、アクリダと綱引き状態になっている。
「……………………何、ボケっと突っ立ってんだ……やれ……」
「――あっ! コ……『百叩き』!」
――ペタリューダが持つ鱗鞭の柄から、ペタリューダの鱗粉が溢れだし、無数に枝分かれした鞭の紐となり、小男に襲い掛かる。
「むっ! ――これはマズイっ! 『変わり身』!」
――小男がスキルを発動させると、ボワンッと小男の周囲に煙が立ち上る。そして、煙が晴れるとそこには――。
「え? ま、丸太……ですの?」
「――隙アリッ! 『闇討ち』!」
唖然とするペタリューダの背後から、またもや小男が現れ、苦無で無防備なペタリューダの首を狩ろうとする――が。
「……………………『三連鎖』……」
「ググゥッ! ――ガァッ!」
またもや、アクリダの鎖に弾かれ、吹き飛ばされる。――アクリダの鎖は、グルグルと渦を巻き、丸盾の様な形を取っており、その中心部には先程から小男が使用していた苦無が刺さっている。
「あ、貴方……、お強いのですね……」
「……………………お前がボケなだけだ……」
ペタリューダは驚きを隠せず、アクリダを見るが、アクリダはそんなペタリューダの視線からフイッと逃げる様に目を逸らし、ボソボソと呟く。すると、アクリダの鎖に吹き飛ばされた小男が、ふらりと立ち上がり、ペタリューダを……、そしてアクリダを睨み付ける。
「むむむ……、まさか、こうもやられっ放しになるとは、どうやら少しばかり本気を出さねばならんようだな……」
そう呟くと、小男は頭巾を破り捨て、その顔をペタリューダとアクリダに晒す。
「――私は『鼬伯獣』ニフィッツァ! そこの女っ! 貴様の名は?」
「え? あたくしですか……? ペタリューダですけれど……」
「むっ、ならば貴様に用はない!」
――そう言うが早いか、ニフィッツァは苦無をペタリューダに向けて投げ放つ。
「――今度こそっ! コール――」
「……………………馬鹿か……?」
「あ痛っ! ――な、何ですのっ?」
ペタリューダが鱗鞭を振るい、苦無を叩き落とそうとすると、そんなペタリューダの頭をアクリダがチョップする。――アクリダはそのまま、飛んできた苦無を鎖で弾く。
「……………………ただの投擲にスキルなんざ使うな……」
「――なっ! さ、先程から何なんですの? あたくしの戦い方にケチばかり……、何なんですのっ! もぅっ!」
ペタリューダは顔を真っ赤にして怒るが、アクリダはその様子を面倒臭そうにため息を吐いて聞き流す。そして――。
「……………………良いから、見てろ……俺の……『獣士』のやり方を……、お前にも……出来る筈だ」
「もうっ! もうっ! も………………え?」
「――むっ! 私を……無視……するなぁっ!」
――激昂したニフィッツァが苦無を出鱈目に投げつけてくるが、アクリダはそれらを全て、見る事無く叩き落とす――。
「……………………まずは『魔獣』形態、次に『人獣』形態、最後に、お前や、毒鳥の子、そこの苦無坊やみたいな……、魔獣と人獣の中間――『鎧獣』形態…………。――まあ、お前らの中には、今一つよく分からん存在がいたが……」
アクリダは飛んで来る苦無を鎖で弾きながら、ペタリューダに向かって諭す様に囁く。
「……………………ともかく……『鎧獣』形態を取れる様になった者は、そのまま進化を繰り返すと、あるスキルを使える様になる……」
「――あるスキル……?」
「ふぎぃぃぃぃぃぃっ!」
ニフィッツァが涙目になり、苦無を手に持ちアクリダに飛び掛かるが、アクリダは尚もペタリューダに意識を向けたまま、話を続ける。
「……………………そう、つまり……」
「ふげぇっ!」
――瞬間、アクリダの身体が緑の光に包まれる。やがて、光が収まると、そこには、緑色の身体に、茶と白が混じったまだら模様の翅、大きな黒い眼をしたナニカがそこにいた。
「……………………こんな……生々しい……成り立ての『鎧獣』から進化し、俺達は鎧を手に入れる……」
「……鎧……?」
ペタリューダが呟き、復唱すると、アクリダは小さくコクリと頷く。そして――。
「……………………そう……、カギとなるスキルを……創るんだ……こんな風に………………『大連鎖』!」
アクリダが叫ぶと、緑の光と共に、鎖がアクリダの全身に巻き付き、融ける様にその形を崩していく。
「……………………これが……『獣士』の……鎧だ……」
――やがて光が収まると、そこには継ぎ目が無く、滑らかなラインの緑色の全身甲冑に身を纏ったアクリダが居た。
「――あ、あたくしにも……、出来るのですか?」
アクリダの様子を見ていたペタリューダは、喉を大きく鳴らしそう問い掛ける。
「んググ……、離せぇ!」
そんな二人を他所に、涙目のニフィッツァは、いつの間にかアクリダの鎖で縛られ、逃げる事も、戦う事も出来なくなっていた。そんなニフィッツァをチラリと見ると、アクリダはペタリューダに向かって呟く――。
「……………………出来るから、言っている……」
そして、ペタリューダは意を決した様に頷いた……。
「……………………良し、やってみろ……」
そう言うと、アクリダは人の姿に戻り、ニフィッツァの束縛を解く。ニフィッツァはそんなアクリダを不思議そうに見つめていたが、やがてニヤリと口角を上げ始めた。
「クククッ……、俺を練習台にでもする気か? ――舐め……るなぁ!」
「――っ!」
一瞬の間に、ニフィッツァはペタリューダとの距離を詰める。ペタリューダはそれを紙一重で避けると、そのまま鱗鞭を振るい、ニフィッツァを下がらせる。
「……………………もう少し、削っておくべきだったか……?」
人知れず冷や汗を垂らすアクリダであった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ヘームストラ王国 コール平野――
「ふぉふぉふぉふぉふぉっふぉふぉふぉっ! ――絶好調じゃあっ!」
「――ああ、もうっ! ――穿て! 『鉄槍』! 『鉄槍』! 『鉄槍』! 『鉄槍』! てっちゃり! あ……噛んだ」
ゲリフォスが放つ甲羅をサッチーは槍で撃ち落としていく。
「どうしたどうした? ――ろれつが回っとらんぞぉ?」
二人の撃ち合いは既に十分以上続いている。――その様子を、グリヴァはリンキの手当てをしながら見ている……。
「――良くやりますね……」
「あ? どっちの事だ?」
すっかり意識を取り戻しているリンキは、グリヴァに膝枕されながらそう呟いた。
「もちろん……、サチ君です」
「――まあ、生きるって意思は……凄まじいな……」
リンキの意見に、グリヴァは同意し、再びサッチーとゲリフォスの戦いに目を向ける。そして、一つため息を吐くとリンキの頭をペシっと叩く。
「もう大丈夫なんでしょう? ――さっさと終わらせますよ?」
「――あいよ!」
リンキは膝枕された状態から、一息に飛び起きると口に手を突っ込み、左右の犬歯を引っこ抜く。そして――。
「――『大顎鎌』!」
犬歯はリンキの手の中で、大きな黒い鎌に姿を変え、同時にリンキもその全身を黒褐色の甲冑姿に変える。
「私も失礼して……」
グリヴァがパチンと指を鳴らすと、その姿を半魚人の様な姿へと変える。――しかし、リンキはその姿を見ると、大きくため息を吐き、グリヴァに向かって呟く。
「――その姿で戦う気かよ……」
「ゲギョ? ゲゲゲギョ!」
「いや、戦えるのは分かってんだけど……、こう、締りが悪ィんだよ……」
すると、グリヴァは哀愁を漂わせ――。
「分かりましたよ……『大鱗銛』!」
その身を桜色の甲冑姿へと変えた。
――一方。
「ほれ、ほれほれ、ほれほれほれ、『ゲリフォス・ドリル』!」
「やべぇ、マジパネェ! ――流れろ! 『落花流水』!」
迫り来る甲羅をサッチーの水が押し返す。
「――続いて、凍えろ! 『滴水成氷』!」
「ぬっ! やりおるっ! だが無駄じゃ! 『ゲリフォス・ビーム』」
サッチーが続けて吹雪を巻き起こすが、ゲリフォスが追加した甲羅で相殺されていく。
「ぬぅ……」
「――このジジイ……」
完全なこう着状態の二人であった――が。
「よく頑張りましたね……」
「イイとこ、貰うぜ?」
「――旦那と……?」
サッチーが声に振り向くと、そこには黒と赤の甲冑を着こんだリンキ、グリヴァが居た。
「ふぉ? ――お主らは……」
「『大津波』!」
「『上顎』!」
――ゲリフォスが何かを言おうとした次の瞬間、ゲリフォスの身体はグリヴァが放った四連続の突きで宙に縫い付けられ、続くリンキの振り下ろしによる一撃で縦真っ二つに分かれる。
「「――え?」」
いきなりの出来事にサッチーとゲリフォスの声が重なり、そして――。
「――ワ、ワレ……はっ!」
――それっきり、ゲリフォスは動かなくなってしまった。
「――さ、行きますよ?」
「スカサリの事、頼むぜ?」
「…………オレの……頑張り……」
甲冑姿を解除したグリヴァの微笑みに、有無を言わさないモノを感じたサッチーは、白目を剥いたスカサリをその背に負い、トボトボと二人の後について行くのであった……。
ちょっと難産、思いついたら書き直すかもです。




