ブレイン・スウィンドラー
続きです、よろしくお願いします。
馬車が街に着いた時、既に朝日が昇り始めていた……
俺達は、出発の準備をしていた討伐隊に蜘蛛を退治した事を伝えると、そのまま宿舎に戻った。
宿舎の食堂に入ると、ずっと待っていたのか、ダリーさんが俺達の姿を見つけ、こちらに駆け寄ってくる……これは! ハグッちゃって良いのか? 良し! 来い!
俺がさりげなく、手を広げようとして待ち構えているとダリーさんはそのまま、こちらに飛び込、ん、で?
「サチ!」
サッチーの腕の中に納まっていた……
「えっ?」
「うそ!」
「マジっすか!」
「……違和感の正体はこれか!」
愛里さん、悠莉ちゃん、ミッチー、そして俺は、目の前のイベントに驚きつつも、「面白いものを見つけた」と言う感じで質問タイムを開始した。
――いつからそう言う仲に?
ダリーさん曰く、「今日、自分の不甲斐なさを悔いてる姿にキュンと来てしまいました」だそうだ。……ダリーさん、もしかしてダメ男好きなの?
――サッチー、『魔法使い』の力、弱まった?
サッチーは、顔を真っ赤にして、「そう言うのは結婚してからだべ?」と言っていた。……サッチー、もう、ナンチャッテチャラ男は卒業だな!
「おじちゃん!」
俺達が騒いでいると、羽衣ちゃんが俺の頭に飛びついて来た。あれ? 何かこの子の身体能力上がってないか?
「買い物いくの! 皆で! お約束!」
あ、忘れるところだった……こんなところに最後のミッションが残ってたか……
俺達は羽衣ちゃんを連れて昼過ぎまでショッピングに出かけた、徹夜戦闘明けの俺達には地味にきつく、羽衣ちゃんと勝手に約束していた俺には、皆からの視線が痛かった……
昼食時には、ミッチーとサッチーが、大蜘蛛との戦闘の様子を身振り手振りで羽衣ちゃんに話してくれていたんだが……
――宿舎に帰って来た俺は、何故か、羽衣ちゃんに正座させられていた。
「えっと、羽衣ちゃん? 何でおじちゃん、正座なの?」
「……ミッチーとサッチーに、昨日の事聞いたの……」
ハッ! もしかして、俺が危険な事をしたのを心配して怒ってくれているのか? 何て……何て優しい子なんだ!
「ういは、おこっています!」
「うん、危ないことしちゃったな……羽衣ちゃん、ごめん? それと、心配してくれて……ありがとう!」
俺が感動していると、愛里さんと、裕理ちゃん、そしてミッチーが俺の肩を叩いて首を横に振る。あれ、何でそんな気まずそうな顔してるの?
「あの……多分ですけど……」
「おじさんの考えてる事と、羽衣が考えてる事……違うと思う……」
「おやっさん……すまねぇッス」
訳が分からず、俺が「えっ? えっ?」と戸惑っていると、羽衣ちゃんが再び口を開いた。
「おじちゃん! わざはお名前を叫ばなきゃダメなんだよ!」
「……えっ?」
「サッチーに聞いたの! サッチーがまじゅーを倒したけど、おじちゃんがいなきゃダメだったって!」
「う、うん……おじちゃん、頑張ったよー?」
「でも、サッチーがわざのお名前を叫んだのに、おじちゃんは叫ばなかったって言ってたもん!」
「えっ! そこなの?」
思わず突っ込んでから、サッチーの方を見る。サッチーは目をそらし、口笛をピューと吹く……コイツ……何て厄介な事を。
そこから、延々と羽衣ちゃんの説教タイムだった……
曰く、技は作ったら名前を付けなきゃダメだ! by羽衣パパ。
曰く、必殺技を使うときは絶叫しなきゃダメだ! by羽衣パパ。
曰く、絶叫しながら使った必殺技は威力が跳ね上がる by羽衣パパ。
――あれ? 俺はどうして、あの時叫ばなかったんだろう?
「くそっ! 俺が叫んでいれば……もっと、楽に時間稼ぎが出来たかもしれないのに!」
何て、馬鹿だったんだ!
「椎野さん! しっかりして下さい!」
「おじさん? 何か目の色がおかしいよ?」
「おやっさん……自分があの時に気付けていれば……」
「三知さん! あなたもしっかりして下さい!」
「はっ! 自分は何を……姐御、すいやせん……」
その後、大混乱の末、俺とミッチーは正気を取り戻した……しかし、サッチーとダリーさんは残念ながら、あっちの世界に取り込まれてしまった……
結局、技の名前を今度皆で考えて、羽衣ちゃんにその候補の中から選んでもらうと言う事で、機嫌を直してもらった。……必ず羽衣パパに報いを!
結局夕飯を食べる頃には、皆の疲れはピークに達し、そのまま、食堂で眠りこけていた……いや、誰か起こしてよ……
そして朝、俺達は食堂の扉が勢いよく開く音で目を覚ました。
「失礼する! おぉ! ツチノ、トール達も丁度良い所にいてくれた、早起きで結構なことだ!」
俺達が扉の開く音に驚き、まだ瞼の重い目を擦っていると、来訪者――ブロッドスキーさんが声を掛けてきた。って言うか、この人も昨日、あのままギルドで報告会とか言ってなかったっけ……何で朝からこんな元気いいんだよ、やっぱり俺ももうちょっと体力つけようかな……
「ん? どうした、皆元気がない様だが? もしかして、蜘蛛にどこかやられていたのか!」
「いや、違いますよ……単純に、昨日の疲れがまだ取れてないだけですよ……」
「うん? そうだったのか……それは、悪かった。まあ、しかし折角集まっているのだから、一緒に話を聞いて行ってくれ」
ブロッドスキーさんの話によると、蜘蛛討伐に関して、ギルドと騎士団の報告会と調査が先ほど終了し、蜘蛛の生き残りが無い事を確認したとの事だった。同時に、今回の調査及び討伐の報酬計算が終了したとの事だった。……えー、この人、本当に寝てないのかよ。
参加者達には今から報酬の配布が開始されるとの事で、その連絡をするために俺達と、作戦に参加した騎士団のメンバーを探していたそうだ。
「場所は、ギルドですか?」
「あぁ、だが、混雑が予想されるからな……朝一番で行くか、夜遅くに行くか様子を見て行くことを勧めるぞ」
折角、こんな朝早く起きてるんだこのまま行くかと、俺の提案に皆賛成し、今からギルドに行く事になった。
「あ、そうだ。椎野さん、ギルドカードは持ってきていますか?」
「ん? あれ? どうだっけ? あー、部屋に置いて来てるみたいだな、こりゃ……で、それがどうかしたの?」
宿舎を出てから、暫く歩いていると、愛里さんがそんな事を聞いて来た。どうやら、俺はギルドカードを部屋か食堂かに置いて来てしまったらしい。ポケットに無いや……
「ギルドの依頼報酬は受け取り確認とかで、ギルドカードがいるんスよ」
「って言うかおじさん……報酬受け取りとかの前に、ギルドカードは身分証明なんだから、手元から無くしちゃダメに決まってるじゃない」
「はは、悪い、ちょっと取ってくるから先に行っててくれ」
そして、皆から遅れること十分、ギルドに着いた俺は、皆の姿を探す……
「あ、おじちゃーん! こっちこっち!」
一番奥の受付の列で、裕理ちゃんと手を繋いだ羽衣ちゃんが手を振っている。
「おじさん、遅ーい! 列の後ろ並ばれちゃったじゃん!」
悠莉ちゃんはそう言うと、俺に列の一番後ろに並べと言う。念の為と、俺が空いてる列を探す……お、向こうの愛里さんが並んでる列か、ミッチーが並んでる列が空いてるかな、サッチーのとこもそこそこ空いてるけど……何か、ダリーさんとイチャついてる……ちっ! 禿げろ!
「はぁ、あたしも一緒に並んであげるから、大人しく後ろに並びなさいよ……」
「おじちゃんはしょーがないなー」
「ねぇー?」
俺の怨嗟の声が聞えたのか、悠莉ちゃんと、羽衣ちゃんが列から外れ、俺の所までやってくる……
気のせいかなぁ、最近うちの娘達からの扱いが、悪い気がするんですが……
周りの冒険者たちは、俺達のそんなやり取りを見ながら、クスクスと笑っていた。
――その時だった。
「おい! ア、アンタ!」
俺達に声を掛けて来る冒険者がいた……