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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第九章:ヘームストラ大戦
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再会前夜

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――ウズウィンド大陸、イナックス大陸の中間地点海上――


「――うぅぅうぅぅ……」


 ――悠莉が俺の背中に抱きつき……、いや、肉を鷲掴みにして、ガチガチと震えている。


「悠莉……、痛い……」


「だ……、だって、寒いっ! ――何これ……、信じらんない……」


 ――まあ、そりゃ、そんな薄着ならな……。


「ゆうりちゃん、さむい? ティスちゃんのお背中ぎゅぅってすると、あったかいよ?」


「うぅぅぅ……? ――あ、ふかふか……」


「え……、本当? ――じゃあ、俺も……」


 ――羽衣ちゃんと悠莉を見習い、俺もティスさんの背中に抱き着き、その羽毛に身を委ねる……。


「――あ……、うん……ふか…………」


 おお……、何と言う、ふかふ感……何だか眠くなって来た。――このまま……、少しだけ……。


「――あっ! つ、椎野さん? 悠莉ちゃん? 落ちちゃいますよ? あの……、聞いてますかっ?」


 ――ああ……、何だか、愛里の声が子守唄の様に心地良い……。


「――あたくし、あんなにも幸せそうな顔は見た事ありませんわ……。愛里姉様……、このままそっと眠らせて差し上げては……?」


「ピュイー、羽衣も、サラリも、ユウリも気持ち良さそう、ねえちゃ、ピトも寝て良い?」


「え……、でも……、良いのかしら……。――ピトちゃんは取り敢えず、ここに入って?」


 ――まどろみの中でも……、いや、まどろみの中だからこそ、俺はその瞬間を……、ピトちゃんが悠莉の胸元に潜り込む瞬間を見逃さなかった……っ! ――うん、目が覚めた。


「ふ、ふわぁあ……、あぶないあぶないねむるところだったぁ」


 ――『ポーカーフェイス』……フルバーストッ!


「――あたしもめがさめたあ」


 俺が横目で状況確認をしようとした瞬間……、俺の頭蓋内にミシリと言う音が鳴り響く……。ああ、そうか……、俺はきっとまだ夢の中――。


「――って痛い痛いっ! 何だか知らないけどごめんなさいっ!」


 ――悠莉は無言で俺の頭から手を離すと、そのままティスさんに埋もれていく……。どうやら、寝惚けていたらしい……、何と心臓に悪い……。


「おじちゃん? おきた?」


「うん、お陰様で……って、羽衣ちゃん、危ないから今は登っちゃ駄目だぞ?」


 もぞもぞと、俺の背中から頭に向けて、登頂を始めた羽衣ちゃんに注意して、大人しく座らせる。――俺がこんな腕でなければ、抱っこ位は出来たんだが……。取り敢えず、首のコルセットだけでも外してしまいたい……。


「――んん……、おじさん、駄目だからね? むち打ち症とか、後が怖いって言うし……」


 ――悠莉は、俺のギプスをコツコツと叩きながら、不安そうに言ってくる。しかしなぁ……。


「分かってるんだけどさぁ……、こう、両腕がこんなんだし、ムズムズするんだよな……」


「椎野さん、次の休憩の時にでも診ますから、今は我慢して下さいね?」


 愛里はそう言うと、手で何か――この場合、俺の腕だろう――を抑える様な仕草をすると、俺の顔をジッと見て俺が両腕を下ろすのを待っている。仕方なしに、両腕を下ろすとその様子を見ていたハオカが、クスクスと笑っている。そして――。


「旦那さん、何どしたらそちらに行って、かいて上げまひょか?」


 そう言って、俺の胸ポケットにしまってあるギルドカードを指差す。――呼べってか? 残念だけど、両腕が塞がってんだっつうの!


「――ふぃっ! は、ハオカ姉さん? ぼ、僕を置いて行くつもりですかっ?」


 どうやら、タテはイグルの飛行速度が怖いらしく、ハオカの半纏をギュッと握り締め、涙目になっている。――自分で飛ぶのは平気なんだろうに、不思議なもんだ……。


「――フフ……、タテもマダマダッスネ……、コンナンハヒコウキトオモエバイインスヨ……」


「にく……、汗、くさい、わき腹、痛い、掴む、ダメ」


 ――ミッチーは白い歯をタテに見せつけながら、ガチガチと震え、もも缶のワンピースをその肉ごと掴んでいるらしく、もも缶が必死に引き剥がそうとしている。


「ん、ほんと、痛い、エサ王、たすけて」


 そう言われてもな……、俺、今役立たず中ですし……。――仕方ないからもも缶に、ウィンクだけ送ってみる。


「ん、おぼえてろ……」


 ――やっぱり駄目か……。


「――チッ……、騒がしい奴らだ………………『四連鎖(ゴースト)』!」


 俺がもも缶と顔芸大会に勤しんでいると、ミミナを飛び立ってからずっと目を瞑り、黙っていた『チェイナー』――アクリダがぱちりと目を開き、全身に巻き付いた鎖を、俺、タテ、ミッチー、もも缶目がけて投げつけて来た。


「――え? ちょ、騒がしかったなら言ってくれれば――」


「黙ってろ………………うぐぅ!」


 ――その瞬間、俺の首からムズムズが消え去る……。


「――えっ」


 周りを見ると、俺以外にも鎖を投げつけられた、タテ、ミッチー、もも缶が驚いた顔をしている。


 ――アクリダは左腕を捻って、手の平を右目の横にペタリと張り付け、右腕でその左腕の肘を支える様なポーズをバッチリと決め、左目を瞑ると、ボソリと呟き始める――。


「………………お前らの不快感……、鎖を通して俺が受け取った。――これで……、お、おま……」


 どうやら、先程の鎖のスキルで俺のムズムズやタテ、ミッチーの恐怖感、もも缶の痛みを引き受けてくれたらしい……。


 ――ただ……、引き受けただけで、消してないと言う事は……当然……。


「……………………ああああああっ、痒い痒い怖い怖い怖痛い痛い痛いぃぃぃぃぃっ!」


 ――まあ、四人分だし、そうなるよなぁ……。


「――コラキィ……、取り敢えず、イナックス大陸に差し掛かったら一回休憩させてくれ……」


「――ん、分かった!」


 何だか、俺……、コイツ(アクリダ)とはサッチー並みに仲良くなれそうな気がするっ! 


 ――そんな期待を抱きながら、空の旅は終盤に差し掛かっていた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 コール平野――


「ぶぇっくしょいっ!」


「どした? ――風邪でも引いたか……よっと!」


「チチキキッキィッ!」


 ――踊る様にクルクルと大鎌が振るわれる……。


「――健康には気を使わないと駄目ですよ? 一家の大黒柱になるんですよ……ねっと!」


「「チキィッ!」」


 ――大きな銛は『創伯獣・改(アークノイド)』二体を軽々と貫き、霧散させる……。


「うーん……、誰か噂でもしてんのか? ――穿て! 『鉄槍』!」


「チキッ!」


 ――叫び声と共に、二本の槍が空から現れ、『創伯獣・改(アークノイド)』を串刺しにする……。


「何にしても、こら数が多すぎだろ……」


「『創伯獣(アークラフツ)』は量産しやすいのが売りだべ」


「――俺が知ってる『創伯獣(アークラフツ)』とはかなり違うんだけどなぁ……」


 ――井戸端会議でもしているかの様な四人の雰囲気に、周りの冒険者、騎士団達は口をポカンと開き、立ち止まっている。ワナンカでの開戦から、戦線自体はコール平野まで下がったものの、致命的な犠牲者は今のところ出ていない。何故なら――。


「――『(ピグーニ)』!」


 黒褐色の甲冑を着た戦士――リンキが頭上高く大鎌を掲げ、そのままクルクルと大きく回転させ、横一閃に振り抜くと、数メートル先まで迫っていた『創伯獣・改(アークノイド)』達が上下のパーツに分かれ、霧散していく……。


「アレが……、『牙鎌の貴公子(ザ・ファング)』……!」


 ――誰ともなくそう呟くと、リンキは膝から崩れ落ち、恥ずかしそうに蹲る。すると、そんなリンキの様子を見て、面白そうに笑いながら銛使いの美女――グリヴァがリンキの背中をバンバン叩く。


「うふふ……、中々良い二つ名じゃないですか? ――坊やだった、リンキがこんなに大きくなって……、お姉さんは嬉しいですよ?」


「――うっせぇよ……婆――グボァッ」


 ――銛の柄で鳩尾を小突かれ、リンキは更に蹲る……。


「オレは良いと思うんだけどなぁ……」


 三人はその間にも、迫りくる『創伯獣・改(アークノイド)』を一匹、また一匹と消していく。――すると、グリヴァがピタリと銛の動きを止め、何かを考え始める。


「――何だか……遊ばれている気がしますね……」


「んぁ? 何の事だべ?」


 グリヴァの呟きに、手足が銀色の義手義足となった小太りの男――スカサリが問い掛ける。


「いえ……、さっきから雑魚ばかりです。――隊長どころか、副隊長、現場指揮の者すら出て来ない……」


「それって、あれだべ? オレらのぱない強さにマジビビってんだろ?」


「違ぇよっ! ――多分アレだ……、囮って奴だろ?」


 ――リンキが正解と言わんばかりに、グリヴァは頷く。そして、クルリと後ろに控える冒険者と騎士団に告げる。


「――皆さん……、どうやら、私達はまんまと敵の囮に引っかかってしまった様です。今から、この辺りの雑魚を一掃しますので、急いでナキワオまで戻って下さいっ!」


 そして、グリヴァは空を見上げ、丁度ナキワオ上空に浮かぶ幻月(地球)を見上げる。


「――胸がざわつきますね……。まさか……、あの方がいらっしゃる……?」


 ――その呟きは、今度は誰に聞こえるでも無く、戦場の音に掻き消されていった……。

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