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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第九章:ヘームストラ大戦
146/204

ジャンキーズ

続きです、よろしくお願いいたします。

「……ぶるぅあぁぁぁ……………………」


 空を見上げ、ラッコ男はニヤリと口角を上げる。その視線の先には、四羽の……巨大な鳥がいた。


 ――ラッコ男は、その巨大な鳥の内、三羽には興味を示さず、先頭をクルクルと回っている、恐らくは、自らと同等の力を持つであろう一際大きな鳥、そして、その背に乗っている、自らが獲物と定めた男に向けられていた……。


「……オヨノメアガワ? ……ナヅオヨネマダスアエラキハホテアモ、イラハヤ」


 ラッコ男は、自らと、自らが獲物と定めた男との間の運命を再確認する様に、テンガロンハットのつばをクイッと持ち上げ、口角を更に上げ、凄惨な笑みを浮かべる――。


「――アヂロムツアクミノコド……?」


 ――暫くの間、鳥達が飛ぶ様子と、方角を見届けた後、ラッコ男はそこに何があるのかを考え、やがて、考える事に意味は無いと結論付け、その足に力を込める。


「ぶぅるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 そして、そのまま、走り始めた――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――小一時間程、鳥達の飛んでいった方角に向けて走っただろうか……。


「――ぬぉっ!」


「――ぶるぁっ!」


 地面が抉れ、ヒビが入る程の衝撃と共に、ラッコ男はナニカにぶつかり、その走りを止める。


 ――ラッコ男は、ナニカにぶつかった事より、そのぶつかったナニカが頭を押さえて少し、ふらつき、自らを睨み付けている事に――生きている事に興味を示した……。


「ぬぅ……、お主……何奴!」


 ぶつかった相手は、ラッコ男を見た瞬間、怪訝な表情を浮かべ、続いて驚愕の表情を浮かべる。


「――馬鹿な……、これ程のモノが……」


 ――そう言いつつ、ぶつかった相手はラッコ男に対して、即座に構えを取り、戦闘態勢に入る。ラッコ男はその様子を、目を細めて眺めていた。


「言葉が通じるか……分からぬが、拙者、流離の戦士――カンタロと申す、其方は……?」


 ラッコ男は目の前の相手――元『兜伯獣』のカンタロを観察する様に見据えた後、懐から煙草を取り出し、火を付ける。そして――。


「イオケッタカカ……」


 ――「かかってこい」……、そう呟くと、人差し指をクイクイっと数回折り曲げ、カンタロを挑発する。


「――っ! 何と……、やはり、喋れるのか……。ただの変異種では無いと言う事か……しかしっ!」


 カンタロは前方に向けて、勢いよく転がり込むと、下方からラッコ男の顎を目がけて拳を振り上げる――。


「アナヅオシラニニスブタミヒイ、イラハヤ……」


 ラッコ男は目の前に迫って来た拳を、顎に当たる寸前でスッと避け、楽しそうに呟く。


「ぬぅ……、拙者相手に「暇つぶし」だと……?」


 カンタロはラッコ男の呟きに、苛立ちを覚え、歯ぎしりと共に、拳を強く握りしめ、ラッコ男を睨み付け、自らの無くなったシンボルを確かめる様に額の上を撫で、口を開く――。


「――角が取れ、心に掛かっていた靄が晴れたが……。今の……角の無い拙者はただのカナブン……、拙者は……拙者は、今からあの小娘と再戦し、自身()を取り戻さなくてはならんっ! その為にも……、もう……、負けられんのだっ!」


 そして、カンタロは自身が今持つ全てをぶつけるべく、叫ぶ――。


「――『鋼体』……、そしてぇ! 『ハーキュリー』!」


 カンタロの背中の翅が大きく広がり、頭部から一本の大きな角が生えてくる。そして――。


「喰らえぇぇ――」


「ウツィアスル……オタヤトガヤトゴ!」


 ――カンタロが黒い矢となり、ラッコ男に突撃した瞬間、ラッコ男の右拳が、カンタロの顔面目がけて、振り下ろされる……。


「――ぶるぁっ!」


 ラッコ男の打ち下ろした拳は、地面に大きなクレーターを作り上げ、カンタロはその中央に頭から突き刺さり……、そのまま意識を手放した……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――ぬぁっ!」


 カンタロが目を覚ました時、既に辺りは暗くなっていた。カンタロは、焚き火の灯りを頼りに、頭、腕、胴、脚と、自身が無事であり、角以上の欠損が無い事を確認すると、ホッとため息を吐く。そして、改めて周囲を見渡し、凍りつく――。


「アカテマサゲメ……」


「――っ! お、お主っ!」


 ラッコ男は飛び掛かろうとするカンタロを一睨みし、その動きを止めると、カンタロに向けて木の実を投げ渡す。


「これは……。拙者に食えと……?」


 カンタロの質問に、ラッコ男は無言で頷き、焚き火に薪を放り込む。


「――どうして……、止めを刺さなかった……?」


 ――カンタロは更なる質問をラッコ男にぶつけるが、ラッコ男は面倒臭そうにカンタロの顔をチラリと見る。そして――。


「ウリグサヲヤ、ダマヘアモ」


 そう呟いた。


「――クッ……クククッ……。まさか……、「弱すぎる」とは……」


「エラヌコユトットマ、ブキソヘチソロコ……」


 ――この翌日、ウズウィンド大陸に、虫の背に乗って空を飛ぶ、茶色い毛皮の魔獣が目撃される事となる……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――x県x市『ファルマ・コピオス』臨時出張所――


「――マズイ……、マズイマズイマズイマズイマズイッ!」


 ――あの馬鹿(栗井博士)……、本当に何考えてんのっ! 信じられないですっ!


『――後輩ちゃん、少しは落ち着きなよ』


「そうは言いますけど……って言うか、衛府博士は逆に何でそんなに落ち着いてるんですか!」


 先程、衛府博士から着信があった……。――内容は、栗井博士達がヘームストラ王国に殴り込んで来たって事らしいです……。


 ――もーっ! 何で、こうなる前に捕まえておかなかったの!


「――先輩の馬鹿っ!」


『いやぁ……、流石にサラリーマン君を攻めるのは可哀想だよ……』


「それでも、お兄ちゃんが悪いのっ!」


 ――あ、しまった……、家以外では『先輩』って呼ぶようにしてたのに……。


『――ダメだよぉ? こういう時こそ、冷静にならないと』


 衛府博士はそう言って、ボクをからかう様にクスクスと笑いながら、話を続ける。


『流石に、今の……、社長が聞いてたらお説教コースだよ?』


「――すいません……、その……」


『うん……、この事は、社長にも、サラリーマン君にも……、そして、JKちゃん達にも内緒にしてあげようじゃないかっ! つきましてはだね――』


「――うぅ……」


 ――ああ……、余計な予算が……。


 衛府博士はこれ幸いにと、研究費の増額をゲットし、ホクホク顔で状況説明を続ける……。


『今のところ、最前線の冒険者達が意外に頑張っているらしくてね? ナキワオはまだ平和なもんさ』


「――寺場博士はどうしてるんですか……?」


 ボクは全身を覆い尽くす疲労感と戦いながら、三バカセの良心の行動を聞いてみる。すると、衛府博士は――。


『ん? んん……? ――何か、「ラッセーラー……」ってひたすらスクワットしてる……』


「何があったんですか……」


 ――働けよっ! と言いたいけど、冷静に……冷静に……。


『まあ、それは三割冗談なんだけどね? ――その寺場博士から、サンプルとして、純度百パーセントの『ギルド鉱石』で作った無記名のギルドカードと、同じ素材で作った携帯電話を預かったんで今からそっちに送るよ』


「ああ、冗談――って七割本気なんですか……? ――って、え? 送る?」


 何だか……、この人は独特のテンポで喋るから……正直、社長を相手にしているみたいで苦手だ……。


「送るって……、確かに『接界』は近いですけど――」


『ん? んん……、大丈夫、大丈夫、『xx実験(ストレンジ・ラブ)』……かぁらぁのぉ……『目押し』!』


 何だか……、携帯の向こうで「ダララララー」ってドラムロールの音が聞こえるんだけど……。――もしかして……。


『――良しっ! 大当たりだ『転送実験』開始!』


 ――そして、電話の向こうから誰かの……、出張所の外から、山内さんの……、ステレオで「ひゃぁぁ」って叫び声が聞こえてくる……。


「衛府博士……、そう言う事は先に言って下さいよ……」


『ん? まあ、良いじゃないか! ――それと、実験ついでにギルドの職員を一人送っておいたからっ! 後は宜しく!』


「――はっ? え、ちょ、ちょっと衛府博士? 宜しくって――」


 もしかして、さっきの電話の向こうの叫び声ってその人の? え、それって、良いの?


『じゃっあねぇ!』


 ――衛府博士はボクの戸惑いを他所に、そのままブッツリと通話を終わらせてしまった……。


「に……、逃げやがったっ!」


 そもそも、人送るならそれこそ……先に言って下さいよ……。


「――み、美空さぁんっ!」


 ボクが頭を抱えていると、山内さんが泣きそうな――いや、泣きながらノックもせずに飛び込んで来た。――うぅ……、もう……、皆嫌い……。


「分かっています。――何かが現れたんでしょう?」


「は、はい、そうですっ! ――ひ、人がっ!」


 ――アワアワしながらも、山内さんはその転送されてきた人物を連れて来てくれたらしく、扉のすぐ傍に向けて手招きしている。


「――あ、すいません……、その……衛府さんに頼まれまして……」


 山内さんが連れて来てくれた女性は、手招きに従ってボクの前に立ち、ペコリと頭を下げる。


「えっと……、すいません……衛府博士に巻き込まれてしまったみたいで……。――ボク……あ、えっと、私、ここの責任者で薬屋美空と言います」


 ――すると、その女性は少し驚いた顔をして、もう一度ペコリと頭を下げる。そして――。


「――もしかして、薬屋さんのご家族の方ですか? あの、わたくし、ナキワオでギルドの職員やってる、ウピールです。――その……、薬屋さんとは親しくさせて頂きまして……」


 ――こうして、ボクの最近の悩みの種の一つでもある、『魔獣対策』を解決に導く救世主は……、衛府博士の好奇心の犠牲となって現れた……。

※2014/08/21

「二割冗談」を「三割冗談」に修正。

ご指摘、ありがとうございます。

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