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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第九章:ヘームストラ大戦
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開戦花火

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――ヘームストラ王国 ナキワオ――


「――冒険者の諸君……、我が王国の危機によくぞ……、よくぞ集まってくれたっ!」


 数百名規模の冒険者の集団の前に、ヘームストラ王国騎士団が立ち、冒険者と向かい合っている。騎士団の最前列には、少し高めの台が設置され、その中央には騎士団長――ラヴィラ=コルド、その左に騎士団ナキワオ支部長――ジェイソン=ブロッドスキー、右に騎士団副騎士団長となった王女――アーニャ=ファミス=ヘームストラが並び立っている……。


 ラヴィラは冒険者達の顔を見渡すと、一呼吸置き、再び口を開く――。


「――既に知っているとは思うが、敵は変異種の集団、そして、それを操る元冒険者達であるっ! 今も先行した騎士団と冒険者がワナンカ周辺で戦闘中だが……、人数は数人程度との報告が上がっている。――残念だが……、そう長くはもたないだろう……」


 ラヴィラからの報告に、冒険者達の間でざわめきが巻き起こる――。


「――静まれっ! 不安も分かる、恐怖も分かる……、しかし、我々には引く事が許されないっ! ――何故か……、それは、我々の後ろに戦う術の無い民がいるからだ!」


 ラヴィラは更に、両手を広げ、冒険者達を包み込む様に、告げる。


「そして……、我々は先に戦い、散っていったであろう同胞の犠牲を無駄にしてはいけないっ! ――さあ……、覚悟の無い者は帰るがいい、我々はそれを止めはしない、責めはしない……。ただ……、諸君らに守るモノが有るのなら……、共に来いっ! ――相討ち覚悟で敵を蹴散らしてやろうっ!」


 ――そして、冒険者と騎士団は唸り声を上げ、土煙を上げ、進軍を始めた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国 ワナンカ近辺――


「――クソ……クソ……クソがぁっ!」


「「「「「チキチキチキチキチキ――」」」」」


 紫の軍団――『コミス・シリオ』の襲撃を受けた、ワナンカを拠点とする冒険者達の対応は素早かった……、まず初めに戦闘能力の無い一般人を逃がし、戦闘能力の低い戦闘職の冒険者をその避難誘導にあて、戦闘能力の高い戦闘職の冒険者は、敵の戦力を削りつつ、戦線を徐々に下げて行った……。


 しかし……、それでも、一人、二人と脱線していき、残った冒険者達は死を覚悟していた……。


「――ポートのアニキ……ここまで……、何ですかね?」


「ヤース……、チッ……、最後に見る顔が野郎だとはな……」


 ――冒険者達の中でも指折りの実力者であり、辛うじて意識を残しているポートとヤースは、横たわり、声も出ない状態の仲間達を見て顔をしかめる……。


「「「「「チキチキチキチキチキ――」」」」」


 そして、二人を含めた冒険者達を、紫色の波が飲み込もうとしたその時、ソレは起こった――。


「――吹き渡れ! 『風霜高潔』!」


 突如、風が巻き起こり、紫色の波――『創伯獣・改(アークノイド)』を空高く、打ち上げる。――ソレを巻き起こした黒いフードの人物は、空に舞い上がった『創伯獣・改(アークノイド)』を見上げると、その手の平を空高く上げ、大きく息を吸い込む――。


「――凍えろ! 『滴水成氷』!」


 ――手の平から吹雪が巻き起こり、空に打ち上げられた『創伯獣・改(アークノイド)』に襲い掛かる。すると、『創伯獣・改(アークノイド)』達の身体はたちまち凍りつき、地面に落ちて粉々に砕け散る……。


「――な……」


「あ……、アンタ……、一体……?」


 一連の現象を引き起こした張本人は、フードを被り、ポート達に背を向けたまま、呟く様にその問いに答える――。


「――オレは……、人呼んで『闇黒(ブラック・ダークネス)騎士・ライトイエロー・マジシャン』……。身重の妻と、生まれ来るベイベーの為に……ゴミ掃除に来た男だっ!」


「――おい……、ヤース……聞いたこと有るか?」


「――いや、無いです……」


 ――ポートとヤースは、互いの無事を喜ぶべきか、この怪しい男を信じるべきか迷いつつ……、顔を見合わせる。その時、男が現れた場所の反対側から、別の声が上がる……。


「――おぃっ! ぼおっとすんなっ! オイラだけ働かすつもりか?」


 大鎌を持った全身甲冑の男が、フードの男を怒鳴り付ける。すると、その後を追い掛けて来る様に、両手両足を銀色に光らせる小太りの男が走って来る。


「――だ、旦那……、もう少し、声、抑えるべ……。――ヒァっ! こっち来たべ! こ、この数、俺には無理だべ!」


「はぁ……、大の男共が情けない……、皆、後でお説教ですね……」


 ――最後に、トコトコと大きな銛を持った美女がその銛で、三人の男達の頭を小突き、ポートとヤースを見る。そして、優しい声で、二人に語り掛ける。


「――もうすぐ、ここに先程の半端者達が再びやってきます……。貴方達は、倒れているお仲間達を連れて、コール平野辺りまで避難して下さい、援軍と合流できるはずです」


 ポートとヤースは、暫し、口を開けポカンとしていたが、やがて、その美女の無言の気迫に圧され、何度も首を縦に振り、横たわる仲間達を回収していく……。


「――さて、では開幕の……と言っても、第二幕ですけど……、大きな狼煙をお願いしますね?」


「――う、うぃーっス!」


 ――フードの男は目を閉じ、集中する。その百メートル程向こうには、マッチ棒を振り上げ迫って来る『創伯獣・改(アークノイド)』……。


 そして、フードの男から迸るライトイエローの光は、輝きを増し、彼の手の平に集まり、小さな玉に変化する。


「――ふぅ……、喰らいやがれ! 必殺! 『天地開闢』!」


 ――手の平にある光の玉が握り潰されると、光は空に向かって伸びていく……。


 やがて空高く舞い上がって行った光はそのまま、『創伯獣・改(アークノイド)』の群れに向かって、極大の光となって降り注ぐ……。


「「「「「チキチキチキチキチキ――っ!」」」」」


 ――光の柱は、戦いの始まりをイナックス大陸全土に告げる事となった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ドーバグルーゴ帝国 ミミナ孤児院前――


「――そうか……、おめぇらは『天使様』に……か……」


 俺達は、あの後――ティスさん達にヘームストラまで運んで貰える事になった翌日、朝早くからダンマ様にその事を伝え、まさに今、飛び立とうとしていた……。


「色々とお世話になりました、今度は観光でゆっくり来ますよ……」


「まあそんときゃ、イロイロ……用意しておくぜ?」


 ――おおぉ……、そう言う事は、二人の時に言って欲しい……。


「――あら、おおきに……」


 俺の右腕をハオカがガッシリと掴み――。


「今度も、皆で、お世話になりますね?」


 左腕を愛里が掴み――。


「じゃ、お世話になりました!」


 顔面を悠莉が鷲掴む――。


「――お、おお……、何か悪ぃな……」


「――気にしないで良いッスよ? いつもの事なんで……。それじゃ、今度こそ行くッス……」


 ――口を開けば、殺られそうな俺に変わり、ミッチーがダンマ様とパギャさんに頭を下げる。そして、俺はハオカ、愛里のロックから解放された途端、悠莉に顔面を掴まれたまま、大鳥姿のティスさんの背中に引きずられる……、その後に羽衣ちゃんが乗って来る。


 ハオカとタテはイグルの背に、ミッチーともも缶はコラキの背に、愛里とペタリューダとピトちゃんはペリの背に乗り、いざ出発――となった時だった――。


「――お、間にあったか……、おめぇら、ちょっと待てっ!」


 ダンマ様が俺達を止め、誰かに向けて手招きをする。――そこにいたのは、少し太めの眉が特徴的な、緑の服の少年だった……。


「おめぇら、コイツ――アクリダっつってな? ――ウチの『チェイナー』部隊のエースって奴だ……、きっと役に立つから連れてけ!」


「………………アクリダだ、よろしく頼む」


 ――アクリダと呼ばれた少年は、ペコリと頭を下げると、そのまま、ミッチーの背中にピトリと張り付く様に、コラキの背に飛び乗った。


「――えと、それじゃあ、改めてっ! お世話になりました!」


「おぅっ! ――死ぬなよ……?」


 ――こうして、ダンマ様とパギャさんに見送られながら、俺達は飛び立とうと……したが……。


「――ティス様っ! 羽根動かすのっ! 飛ぶのっ!」


「う! はやいはやーいっ!」


 ――ティスさんは、羽ばたきを忘れていた……。


「あらぁ? こうかしら?」


「――あ、ティス様! 向き、逆ですって!」


「あ、あれ、ラッコちゃんだっ!」


 ――ティスさんは、見当違いの方向に飛ぼうとする……。


「あらあら? ――そうなの?」


「――ティス様、それ……上下逆です、オヤジさんが落ちるです!」


「きゃぁ! ジェットコースターだぁ!」


 ――ティスさんは、ティスさんはっ! 誰か、助けて……!


「――あらっ! 背中に誰かいるぅ?」


 ――俺達は生きて辿りつけるのだろうか……。そして、羽衣ちゃん……、おじちゃんは正直、ちびりそうです……宙返り怖いっ!


「――ふぅ……、悠莉……」


 ゲラゲラと笑うダンマ様を見下ろし、俺は悠莉に囁きかける……。


「な、何……?」


 ――ティスさんの背中をギュッと握り締め、落ちない様にビクビクとしながら、悠莉が返事をする。俺はそれを確認して、続ける――。


「俺、ヘームストラに帰ったら――」


「――あ、それ言っちゃダメ!」


 ――こうして、多少のスリルと共に、俺達は空の旅を開始した……。

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