開戦花火
続きです、よろしくお願いいたします。
――ヘームストラ王国 ナキワオ――
「――冒険者の諸君……、我が王国の危機によくぞ……、よくぞ集まってくれたっ!」
数百名規模の冒険者の集団の前に、ヘームストラ王国騎士団が立ち、冒険者と向かい合っている。騎士団の最前列には、少し高めの台が設置され、その中央には騎士団長――ラヴィラ=コルド、その左に騎士団ナキワオ支部長――ジェイソン=ブロッドスキー、右に騎士団副騎士団長となった王女――アーニャ=ファミス=ヘームストラが並び立っている……。
ラヴィラは冒険者達の顔を見渡すと、一呼吸置き、再び口を開く――。
「――既に知っているとは思うが、敵は変異種の集団、そして、それを操る元冒険者達であるっ! 今も先行した騎士団と冒険者がワナンカ周辺で戦闘中だが……、人数は数人程度との報告が上がっている。――残念だが……、そう長くはもたないだろう……」
ラヴィラからの報告に、冒険者達の間でざわめきが巻き起こる――。
「――静まれっ! 不安も分かる、恐怖も分かる……、しかし、我々には引く事が許されないっ! ――何故か……、それは、我々の後ろに戦う術の無い民がいるからだ!」
ラヴィラは更に、両手を広げ、冒険者達を包み込む様に、告げる。
「そして……、我々は先に戦い、散っていったであろう同胞の犠牲を無駄にしてはいけないっ! ――さあ……、覚悟の無い者は帰るがいい、我々はそれを止めはしない、責めはしない……。ただ……、諸君らに守るモノが有るのなら……、共に来いっ! ――相討ち覚悟で敵を蹴散らしてやろうっ!」
――そして、冒険者と騎士団は唸り声を上げ、土煙を上げ、進軍を始めた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ヘームストラ王国 ワナンカ近辺――
「――クソ……クソ……クソがぁっ!」
「「「「「チキチキチキチキチキ――」」」」」
紫の軍団――『コミス・シリオ』の襲撃を受けた、ワナンカを拠点とする冒険者達の対応は素早かった……、まず初めに戦闘能力の無い一般人を逃がし、戦闘能力の低い戦闘職の冒険者をその避難誘導にあて、戦闘能力の高い戦闘職の冒険者は、敵の戦力を削りつつ、戦線を徐々に下げて行った……。
しかし……、それでも、一人、二人と脱線していき、残った冒険者達は死を覚悟していた……。
「――ポートのアニキ……ここまで……、何ですかね?」
「ヤース……、チッ……、最後に見る顔が野郎だとはな……」
――冒険者達の中でも指折りの実力者であり、辛うじて意識を残しているポートとヤースは、横たわり、声も出ない状態の仲間達を見て顔をしかめる……。
「「「「「チキチキチキチキチキ――」」」」」
そして、二人を含めた冒険者達を、紫色の波が飲み込もうとしたその時、ソレは起こった――。
「――吹き渡れ! 『風霜高潔』!」
突如、風が巻き起こり、紫色の波――『創伯獣・改』を空高く、打ち上げる。――ソレを巻き起こした黒いフードの人物は、空に舞い上がった『創伯獣・改』を見上げると、その手の平を空高く上げ、大きく息を吸い込む――。
「――凍えろ! 『滴水成氷』!」
――手の平から吹雪が巻き起こり、空に打ち上げられた『創伯獣・改』に襲い掛かる。すると、『創伯獣・改』達の身体はたちまち凍りつき、地面に落ちて粉々に砕け散る……。
「――な……」
「あ……、アンタ……、一体……?」
一連の現象を引き起こした張本人は、フードを被り、ポート達に背を向けたまま、呟く様にその問いに答える――。
「――オレは……、人呼んで『闇黒の騎士』……。身重の妻と、生まれ来るベイベーの為に……ゴミ掃除に来た男だっ!」
「――おい……、ヤース……聞いたこと有るか?」
「――いや、無いです……」
――ポートとヤースは、互いの無事を喜ぶべきか、この怪しい男を信じるべきか迷いつつ……、顔を見合わせる。その時、男が現れた場所の反対側から、別の声が上がる……。
「――おぃっ! ぼおっとすんなっ! オイラだけ働かすつもりか?」
大鎌を持った全身甲冑の男が、フードの男を怒鳴り付ける。すると、その後を追い掛けて来る様に、両手両足を銀色に光らせる小太りの男が走って来る。
「――だ、旦那……、もう少し、声、抑えるべ……。――ヒァっ! こっち来たべ! こ、この数、俺には無理だべ!」
「はぁ……、大の男共が情けない……、皆、後でお説教ですね……」
――最後に、トコトコと大きな銛を持った美女がその銛で、三人の男達の頭を小突き、ポートとヤースを見る。そして、優しい声で、二人に語り掛ける。
「――もうすぐ、ここに先程の半端者達が再びやってきます……。貴方達は、倒れているお仲間達を連れて、コール平野辺りまで避難して下さい、援軍と合流できるはずです」
ポートとヤースは、暫し、口を開けポカンとしていたが、やがて、その美女の無言の気迫に圧され、何度も首を縦に振り、横たわる仲間達を回収していく……。
「――さて、では開幕の……と言っても、第二幕ですけど……、大きな狼煙をお願いしますね?」
「――う、うぃーっス!」
――フードの男は目を閉じ、集中する。その百メートル程向こうには、マッチ棒を振り上げ迫って来る『創伯獣・改』……。
そして、フードの男から迸るライトイエローの光は、輝きを増し、彼の手の平に集まり、小さな玉に変化する。
「――ふぅ……、喰らいやがれ! 必殺! 『天地開闢』!」
――手の平にある光の玉が握り潰されると、光は空に向かって伸びていく……。
やがて空高く舞い上がって行った光はそのまま、『創伯獣・改』の群れに向かって、極大の光となって降り注ぐ……。
「「「「「チキチキチキチキチキ――っ!」」」」」
――光の柱は、戦いの始まりをイナックス大陸全土に告げる事となった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ドーバグルーゴ帝国 ミミナ孤児院前――
「――そうか……、おめぇらは『天使様』に……か……」
俺達は、あの後――ティスさん達にヘームストラまで運んで貰える事になった翌日、朝早くからダンマ様にその事を伝え、まさに今、飛び立とうとしていた……。
「色々とお世話になりました、今度は観光でゆっくり来ますよ……」
「まあそんときゃ、イロイロ……用意しておくぜ?」
――おおぉ……、そう言う事は、二人の時に言って欲しい……。
「――あら、おおきに……」
俺の右腕をハオカがガッシリと掴み――。
「今度も、皆で、お世話になりますね?」
左腕を愛里が掴み――。
「じゃ、お世話になりました!」
顔面を悠莉が鷲掴む――。
「――お、おお……、何か悪ぃな……」
「――気にしないで良いッスよ? いつもの事なんで……。それじゃ、今度こそ行くッス……」
――口を開けば、殺られそうな俺に変わり、ミッチーがダンマ様とパギャさんに頭を下げる。そして、俺はハオカ、愛里のロックから解放された途端、悠莉に顔面を掴まれたまま、大鳥姿のティスさんの背中に引きずられる……、その後に羽衣ちゃんが乗って来る。
ハオカとタテはイグルの背に、ミッチーともも缶はコラキの背に、愛里とペタリューダとピトちゃんはペリの背に乗り、いざ出発――となった時だった――。
「――お、間にあったか……、おめぇら、ちょっと待てっ!」
ダンマ様が俺達を止め、誰かに向けて手招きをする。――そこにいたのは、少し太めの眉が特徴的な、緑の服の少年だった……。
「おめぇら、コイツ――アクリダっつってな? ――ウチの『チェイナー』部隊のエースって奴だ……、きっと役に立つから連れてけ!」
「………………アクリダだ、よろしく頼む」
――アクリダと呼ばれた少年は、ペコリと頭を下げると、そのまま、ミッチーの背中にピトリと張り付く様に、コラキの背に飛び乗った。
「――えと、それじゃあ、改めてっ! お世話になりました!」
「おぅっ! ――死ぬなよ……?」
――こうして、ダンマ様とパギャさんに見送られながら、俺達は飛び立とうと……したが……。
「――ティス様っ! 羽根動かすのっ! 飛ぶのっ!」
「う! はやいはやーいっ!」
――ティスさんは、羽ばたきを忘れていた……。
「あらぁ? こうかしら?」
「――あ、ティス様! 向き、逆ですって!」
「あ、あれ、ラッコちゃんだっ!」
――ティスさんは、見当違いの方向に飛ぼうとする……。
「あらあら? ――そうなの?」
「――ティス様、それ……上下逆です、オヤジさんが落ちるです!」
「きゃぁ! ジェットコースターだぁ!」
――ティスさんは、ティスさんはっ! 誰か、助けて……!
「――あらっ! 背中に誰かいるぅ?」
――俺達は生きて辿りつけるのだろうか……。そして、羽衣ちゃん……、おじちゃんは正直、ちびりそうです……宙返り怖いっ!
「――ふぅ……、悠莉……」
ゲラゲラと笑うダンマ様を見下ろし、俺は悠莉に囁きかける……。
「な、何……?」
――ティスさんの背中をギュッと握り締め、落ちない様にビクビクとしながら、悠莉が返事をする。俺はそれを確認して、続ける――。
「俺、ヘームストラに帰ったら――」
「――あ、それ言っちゃダメ!」
――こうして、多少のスリルと共に、俺達は空の旅を開始した……。




