向こうにある危機
続きです、よろしくお願い致します。
――ミミナに帰還した翌日、俺達は朝早くパギャさんに捕まり、そのまま、ダンマ様との謁見へと放り込まれた。
今回は、多少難しいお話と言う事で、羽衣ちゃん、タテ、ピトちゃん、もも缶、ティスさんにはご遠慮頂いている。――誰とは言わんが……、トラブルが発生し難いって素晴らしいっ!
「よぉ……、大変だったみてぇだな?」
「――まあ、それなりには……」
ダンマ様は、ある程度の情報を聞いていたらしく、俺の姿を見つけた瞬間、俺の両腕と首をニヤニヤしながら見回して、パギャさんに頬をつねられていた。
「――痛ぅ……。――取り敢えず、報酬金は受け取ったって事で良いか?」
ダンマ様は頬を擦り、涙目になりながら聞いて来た。俺は、「ざまあみろ」と言いたい気持ちを抑え、頭を下げる――。
「はい、わざわざ、ありがとうございます」
すると、ダンマ様の横に立つパギャさんが何とも言えない表情で、俺に頭を下げ返してきた。
「こちらこそ……何とお詫びしたら良いのか……」
――パギャさんとダンマ様の反応を見る限り、やはり別の『伯獣』がいる事は予想していなかったのか……。まあ、そんな事は良いんだが……、気になるのは別の事だ。
「――その事はもう良いんです、どうやら『コミス・シリオ』も内部で何かあるみたいですし……」
「――悪ぃな……っと、すまねえ、立ちっぱなしで、ほれ、座れ座れ!」
――ダンマ様に促され、俺達は椅子に座る。
「あっ、そうだ……、そう言えば、捕まえた奴らはどうなりましたか?」
「あ? それは、あれか? 蜂ババアと虫野郎か?」
――虫野郎は……、ルカナスか……? なら……?
「すいません、蜂……ババアって?」
俺が疑問に思っていた事は、他の皆も疑問に思ったらしく、悠莉が代表してダンマ様に問い掛ける。――すると、ダンマ様は眉間に皺を寄せ――。
「――おめぇらが捕まえたんだろ? やたら、色気づいた服着たババアだよっ」
――どうやら、ダンマ様はその時の事を思い出しているらしく、不快そうな表情をしている。
「――ねぇ……、おじさん……」
「何だ……?」
「ダンマ様って……、その、もしかして、アレ?」
「――何となく言いたい事は分かるが……、アレってなんだよ……」
――俺と悠莉が小声で話していると、そこにミッチーが加わって来る。
「もしかして、ある年齢以上は全てババアだって持論の人ッスか……?」
「おま……、ミッチー! ――折角、俺達がぼかしてんのに……」
「――おめぇら……、ちゃんと聞こえてんぞ? ――俺がそんな奴だったら、パギャに手ぇ出してねえからな? 余計な事言って、パギャを不安にさせたら、不敬罪でしょっ引くぞ……」
――ダンマ様の威圧に押され、俺達は思わず身を縮める。しかし……、どう言う事だ?
「すいません、ちょっと確認したいんですけど」
「あん?」
「――俺達が会った女王蜂は……、結構、ボインでエロイ感じの女性だったんですけど……」
「――ちょっと、待ってろ……」
ダンマ様はパギャさんに何かを指示し、謁見室からどこかに向かわせ、目を閉じてしまった。
――確かに、『チェイナー』部隊に引き渡した時はまだエロかったはずなんだよな……。まあ、それより……。
「――悠莉……、悠莉ちゃん? 今のはただ単に分かり易い説明をしただけだ、呪われそうな目は止めてくれ……」
「……………………ふん」
――悠莉は、親の仇でも見る様に俺を見た後、少し俯いて何かを思い出しているらしく、「あの角ぉ……」と呟いていた。
「椎野さん、ダンマ様が見てます!」
俺の話を聞いたダンマ様は、静かにパギャさんから手渡された書類を読んでいるらしかったが、やがて、大きなため息を吐くと、机に「ゴンッ」と頭を付けた――。
「――どうやら、俺の舎弟が中途半端な報告しやがったみてぇだな、変な勘違いさせちまってすまねえ……。どうやら、捕まえた時はエロイねえちゃんだったらしいんだがよ……、何か終始ガタガタ震えてたらしくてな? ミミナに着いた時には、老婆の様になってたってぇ話しだ」
――えぇ……、何そのオカルト話……、聞かなきゃ良かった。ふと周りを見渡すと、皆一様に青い顔をしている。余りの気味悪さに、愛里なんか、顔を伏せて震えてるし……。
「まあ、きっと栗井博士――いえ、彼女達はビオ博士の子飼いでしたか? ――あの人は、オドオドしながら、目は野獣の様でしたから……、失敗の発覚を恐れて神経をすり減らしたんでしょうね……」
すると、パギャさんがそう言って、俺達を安心? させようと配慮してくれた。――お、愛里もタネが分かって嬉しそうにしている。うん、良かった……。
「――次、良いか? 虫野郎だがよぉ……、椎野……、おめぇ、本当にアレを一人で倒したんか?」
ダンマ様はルカナスの話になった途端、手元の報告書と俺の顔を見比べて、険しい顔をしている。――嘘を付く必要もないし……、俺は取り敢えず、両腕を見せつける様に上げ、その問い掛けに答える――。
「一応、本当です……。まあ、お蔭でこのザマですけど……」
ダンマ様はそれでもなお、俺から険しい視線を逸らさずに睨んでいたが、やがて、隣に立つパギャさんから足を踏みつけられると、涙を浮かべながら、口を開いた。
「――わ、悪ぃな? この虫野郎――ルカナスっつったか? コイツ、今は大人しく檻に入ってんだがよぉ……、そこに入れるまでに、ウチの腕利きの舎弟を数人、再起不能にしてくれてんだよな……」
――うぁ……、俺、両腕だけですんで良かったのか……?
「それは……、何と言うか、ご愁傷様です……」
「まあ、それは良いんだが……、椎野、おめぇ……、ウチの国に来る気はねえか? ――今なら、地位も名誉も良い足の女も付けるぞ?」
――っ! お……おお……、こっちに来て、久々のヘッドハントとは……。しかも、俺の食い付きたい条件をちゃんと、入れてる。でも――。
「――何で、急に?」
「そら……、おめぇ、机仕事も戦闘も出来る人材はこっちとしちゃあ、喉から手が出る程欲しいもんなんだよ……。――どうだ?」
――んんんん、正直……最後の条件に引かれる……がっ!
「――おじさん?」
さっきから、隣で俺の腕をへし折ろうとしている奴がいるんだよな……。
「旦那さん……、分かったはるやろ?」
――しかも、両サイド……。
「何なら、そこの嬢ちゃん二人も一緒で良いんだぜ? ――良い地位やるから、重婚も出来るぞ?」
「「……………………」」
あ、ちょっと拘束が緩んだ……。――ゲンキンな奴らめ……、どっちにしろ、この話を受けるつもりは無いっつうの。
「すいません、折角の話ですが――」
――俺の表情から、良い返事が聞けそうにないと判断したのか、ダンマ様は小さなため息を吐いて、俺の次の言葉を押し止める。
「――まあ良い、時間はまだあるしな? それより、捕まえた奴らの――」
「――帝王っ! 失礼しやすっ!」
――突然、全身を鎖で固めた兵士――『チェイナー』部隊の隊長、カーギーさんが部屋に飛び込んで来た。
「――んだぁ? 今は大事な話してんだよっ!」
「すいません、罰は後で如何様にでもっ! ――それより、お耳を……」
それから、ダンマ様とカーギーさんはひそひそ話を始めてしまった……。
「何かあったんでしょうか? ――もしかして、バシリッサさん達が逃げたとか……?」
愛里は不安気に俺を見つめ、そう言ってきた。――すると、俺の隣にいたハオカが少し、悩む様にして、告げる――。
「多分、どもないと思うてよ? ――二つ程、こん城ん地下に感じますさかい」
すると、今度はペタリューダが俺の頭から愛里の肩に移り、囁く様に告げる。
「――あたくし、バシリッサの気配は覚えておりますけど、ハオカさんの仰る様に、地下にいらっしゃるみたいですわ?」
――あれ? ペタリューダ、いつの間に……?
「んー、なら何だろう? おじさん、予想できる?」
「――悠莉、お前は俺を予言者か何かと勘違いしてないか?」
「え? だって、サラリーマンって株とか予知するんでしょ?」
――ははっ……、それが出来てたら、とっくにサラリーマン止めてるっつうの……。
「――あー、すまねえな?」
ダンマ様は頬をポリポリとかきながら、俺達の反応を待ってくれている。
「あ、こちらこそ……」
――何だか、今日は謝罪合戦だな……。すると、ダンマ様は呆れ顔から一転、真面目な顔つきになり、口を開く――。
「誤魔化しても意味ねぇから、単刀直入に言うぞ? ヘームストラに変異種の――恐らく『伯獣』の群れが現れたらしい……」
――その瞬間、俺達の時間と意識が、ピタリと止まった……。今、何て……?
「――ちっ……。もう一度言うぞ? ヘームストラが侵攻されてやがる、敵は『コミス・シリオ』、現在は国境沿いのワナンカを越えた辺りらしい……、ヘームストラの奴らは、じわじわと戦線を下げながら凌いでいるらしいが……」
ダンマ様は「ヤバイ」と言いたげな表情で、俺達の反応を伺っている。
――どうする……?
「取り敢えず、ウチの国からも援軍を送るが……、正直、間に合うかどうか……って感じだな……」
その瞬間、栗井博士がドヤ顔で笑っている光景が目に浮かんで来る……。――そうか……、ティスさんはやはり囮か……。同時に行動を起こさず、俺達の動きに合わせる様にしていたのは……、万が一にもヘームストラへの助太刀が間に合わない様にか? それとも、何かを準備する為の時間を稼ぐためか……?
「――ああっもうっ! 考えても分からんっ!」
俺が突然叫んだせいか、仲間も、ダンマ様もキョトンとした顔で俺を見ている。――いかん、冷静に……、冷静に……。
「――ふぅ……、取り乱してすいません、ちょっと、今日はこのまま宿に戻らせて貰っても良いですか?」
「お……、おお、色々あったからな……、ゆっくり考えろ? ――ただ、ウチの『チェイナー』部隊と『ターザン』部隊は、早急に準備を整えて、明日の昼には出る……。――それまでには、どう動くか、考えておけ……」
――こうして、俺達はそのまま宿に戻る事になった。そして、夕食が終わるまで、誰も、何の打開策を出せないまま、その夜を終えようとしていた……。




