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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第八章:鎖の国と……
141/204

ほわいのぅ

続きです、よろしくお願い致します。

『ふむ、今パッと思いつくのは二つのパターンかな?』


 ――あの後、無事合流した俺達は、ミッチーが連れて来た『チェイナー』部隊にルカナスとバシリッサを引き渡し、そのまま一緒にミミナに戻る事になった。


 その『チェイナー』部隊の隊長さん――カーギーさん(ラッセラ系)によると、カンタロは悠莉が作ったクレーターにはおらず、『創伯獣(アークラフツ)』の様に煙になったのではとの事。


 ジャグルゴの住人は、暫く療養が必要ではあるが、皆、命に別条は無く、徐々に意識を取り戻しているそうだ。


 そして、俺はと言うと両腕が使えないため、羽衣ちゃんに携帯電話を持ってもらいながら衛府博士に『フレックスタイム』の事を相談している。


「二つ……ですか?」


『うん、一つはサラリーマン君の認識加速。つまりは、他の人が一秒を感じる間に、二秒にも三秒にも感じられるって感じかな? ――この場合、サラリーマン君の認識していた様に、敵は少しずつ動くんだろうね? サラリーマン君の視点で見れば、認識しか加速出来て無い訳だから、身体は普通に――通常の速度でしか動けないわけだ』


 ――成程……、何となく分かる様な……。


『――でも、私はこれは少し違うかなと思う』


「え? 何でですか? 俺の感覚的にも合ってそうな……」


 俺がそう言うと、衛府博士は首を横に振り――。


『だとすると、その後の動きが説明できないんだ』


「なら……?」


『まあ、最後まで聞いてくれたまえ。二つ目はサラリーマン君以外の周囲時間の減速……かな?』


 衛府博士は若干、自信が無さそうに告げる。


「それって、認識の加速とどう違うの?」


 ――隣で聞いていた悠莉が不思議そうに告げると、衛府博士はニッコリと笑い、答えてくれる。


『認識の加速は、物凄く大雑把に言ってしまえば、ただ動体視力がスンゴイって感じかな? ――一方、周囲時間の減速はサラリーマン君以外がゆっくり動く、これは相手から見れば、それこそサラリーマン君が加速した様に見えるだろうけど、色んなモノが減速しているせいで、空気とかも鉛の様に固いだろうから、余程の――それこそ、戦闘職でもないと指一つ動かせないだろうね』


 あ、そう言えば何かで固定されたみたいに身動きが取り辛かったっけ……。


「つまり、俺じゃなくてミッチーとかだったら?」


『うん、それでも動けて一歩二歩だろうけど、相手にとっては瞬間移動だろうね、ついでに言えば、その時、空気やらも掻き分けてるから、空気の壁にぶつかって相手を殴る前に自分がミンチかもね』


「――つまり……、俺が使えても……宝の持ち腐れって奴ですか?」


 すると、衛府博士は少し悩んだ後に――。


『そうでもないと思うよ? 聞いた限りだと、動かそうと意識した事は通常の時間に戻った後に持ち越されるみたいだし』


「――あ……、そうか、だから……」


『うん、その減速時間――『フレキシブルタイム』中に出来た行動はそのまま加速動作として、出来なかった動きは通常時間――『コアタイム』に戻った後に纏めて消化される感じだろうね、ただ、どちらにしても身体にかかる負担は凄いだろうから、使う度に骨折は覚悟した方が良いね』


 ――えええええええ……、何そのまさしく『骨折り損』な仕様……。それ、ただの『骨折するデコピン』じゃんっ!


『うんうん、詳しくはまたこちらに戻った時に調べようか!』


 そう言うと、衛府博士は通話を終了した。


「――おじちゃん、泣いてるの? どこかいたい?」


「えっ! ち、父上? 大丈夫ですか?」


 二人の優しさが辛い……。


「ん……、二人供、大丈夫だよ? 後、羽衣ちゃん、電話ありがと、もう離して良いよ?」


 ――携帯電話を俺の耳にグリグリと押し当ててくる羽衣ちゃんに携帯電話を胸ポケットに戻して貰う。


「――相変わらず、何と言っていいか分から無いスキルが増えますのね……」


「まあ……、おじさんだし……」


 ペタリューダが膝にピトちゃんを寝かせ、その頭を撫でながらそう呟くと、それに反応して悠莉がため息を吐き、愛里もそれに同意して頷く……。そして――。


「さて、旦那さん……、お話は終わったようどすし……お説教ん時間どすぇ?」


 それまでジッと話に耳を傾けていたハオカが微笑みながら、俺の隣に腰かけ、俺の耳に優しく語り掛けて来た。


「――え? いや、ハオカさん? せ、説教なら……、悠莉と愛里から十分に……」


 ――耳からのゾクゾクをこらえ、俺はハオカに遠慮の意思を表明する。しかし――。


「何や言い訳でも?」


 ハオカはニコニコとしながら、有無を言わさない圧力を掛けて来ている。――それでも、俺は……、諦めるわけにはいかないんだっ!


「え? い、いや……でも……さ?」


「何や言い訳でも?」


 あ、これ、逃げられないやつだ……。


「――無いです……」


 ハオカは「ほな」と一言おいて、俺に無茶をするなとか、土壇場で色々試すのは止めろとか、デートしろとか、関係ある事ない事を涙ながらにまくし立てていた……。


 ――説教中に土下座と正座を勘弁して貰えたのは、ハオカの慈悲だったのだろうか……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 馬車はもうすぐミミナに到着する。――俺の骨折は思ったより酷いらしく、愛里のスキルでも、数回に分けて数日様子を見ながらでないといけないらしい……。


「うぅ……、いつもすまないねぇ……」


「――それは言わない約束ですよ、椎野さん」


 愛里は額に汗を浮かべながら、俺の腕にスキルで治療を施してくれている。――正直、軽口叩きつつでないと、絶叫してしまいそうだ……。もう絶対、あのスキルは使わんっ!


「おじちゃん、いたいの?」


「ん、ん……」


 痛みで集中が途切れたせいか、『ポーカーフェイス』の効果が薄れたらしい……。羽衣ちゃんともも缶が泣きそうな顔でオロオロとしている。


「ん? 大丈夫、大丈夫! ――おじちゃん、ちょっとお腹が――」


「んっ! これ、食べる!」


 ――「痛い」と言おうとしたんだが……、もも缶は俺が「減った」と言おうとしたと勘違いし、口に何かの肉を押し付けてくる。


「はいはい、もも、羽衣、おじさん歳なんだから、少し休ませてあげて?」


 俺が怒るに怒れないでいると、悠莉がそう言って二人を引き取ってくれたが……、そんな歳でも……。


「おやっさん、着いたッスよ!」


 ――密かに落ち込んでいた俺の耳に、ミッチーの晴れ晴れとした声が入って来る。こうして、俺達は無事、帝王――ダンマ様からの依頼を完了し、生還したのだった……。そして――。


「取り敢えず、今日はもう遅いし、ギルドは明日にしましょうか?」


 愛里の提案で、俺達はそのまま宿に向かう。俺はそこでふと、思い出した……、思い出してしまった。


「――後輩に連絡しないと……」


 ――労災……、認めてくれるかな?


「う! おしごと、うい、がんばる!」


 羽衣ちゃんに携帯をゴリゴリ押し付けられながら、後輩に電話を掛けてみるんだが……。


「出ない……」


 ――いつもは連絡寄越せってうるさいくせに、こんな時に限って……。狙ってんのか?


「おじちゃん、どうしたの?」


「ああ、後輩が出ないんだ……」


 すると、羽衣ちゃんが何かを思いついたらしく、目をキラキラと輝かせ、鼻をプクッと膨らませると――。


「でんわにでんわだっ! パパが言ってたっ! うい、知ってるよ!」


 ――おし、羽衣パパ……、貴方と良い酒が飲めそうな気がしてきたよ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――x県x市 横丁開発地区――


「――まさか、本気だったとは……」


 あの市長オネエさん……、絶対面白がってますよねっ。


「美空さぁん、移住予定の住民リスト、貰ったッス」


「あ、ありがとうございます、山内さん」


 山内さんから貰ったリストを見て、思わずボクはバインダーごと地面に叩き付ける。


「ど、どしたん?」


 ――山内さんが、ため口になってるけど、今はそれどこrじゃないっ!


「――あの社長(ババア)……っ!」


 ――その住人リストの中ほどに書かれていたのは『薬屋家(笑)』、『世帯主:椎野』、『妻(予定):ハオカ』、『妻(予定):悠莉』、『息子:タテ』、『未定者二名』と言う一戸建ての情報……。


「絶対、ボク達への嫌がらせだ……」


 リストの作成者の名前を見て、ボクの予測が当たっている事を確認する。――主にボクに「兄離れしろ」って事なんだろうけど……。正直、まだそんな時期じゃないと思う……。


「――って違うっ。うん、これは後で考えよう……」


 多分、あの社長(ババア)……、ボクの注意を逸らそうとして、冗談を書いてるんだろうけど……、ここまで読んだら流石にボクでも気付く。


 ――ボクは『薬屋家(笑)』と太字で書かれた冗談の世帯情報のすぐ下、細字で書かれた世帯情報に目を移す……。


「――『素灯家』、『世帯主:啓二』、『妻:凛』、『娘:羽衣』……」


 ――この間、兎の魔獣の件で知ってたから、この一家が『横丁計画』のリストに入っているのは……分かる。でも……。


「『追記、世帯主の父――惹句(享年五十六歳)、ジョブ『筋肉司教(ラッセラー)』』……? ――何で……、二年前に亡くなった人に……『ジョブ』が……」


 ――気が重いけどあの社長(ババア)を捕まえないと……。


 ボクがそう考えてバインダーを見返してた時だった……。


「――美空さんっ!」


 山内さんが、誰か――多分、市長と電話して、何か急を要する事を伝えられたらしく、アワアワと狼狽えている。


「う……、落ち着いて下さい、どうしたんですか? 山内さん」


 ――思わず、「狼狽えるな小僧ども」とか言いそうになっちゃった……、うん、ボクも少し動揺してるみたいです。


「あ、すんません……、今、市長(アニキ)から連絡があって……、向こうがまた接近し始めたらしいッス……」


「――えっ、もう? だ、だって……、前回からまだ……」


 空を見上げてみるけど、曇っててここからじゃ分から無い。


「予定接界時間は?」


「――後、一週間らしいッス」


 ――うう……、ポンポン痛いよぉ……。

※2014/08/22

「衝撃波とかも凄いだろうね」→「空気の壁にぶつかって相手を殴る前に自分がミンチかもね」に変更。

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