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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第一章:新種誕生
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フォレスト・オブ・ザ……

ちょっと短いですが、続きです。どうぞ、よろしくお願いします。

 今、俺達の目の前には、煙を上げて動かなくなっている大蜘蛛がいる……


「お、お、うぉぉぉ!」


「助かったのか? 俺達!」


 誰からともなく、喜びの声が上がり、慎重に大蜘蛛の生死を確認しようとしたその時だった……


「やったか?」


 ミッチー……それは、言ってはいけない言葉です……


「――あれ?」


 俺は、身構えているが何も動きがない……


 本当にやったのかと思い、力を抜いたその時だった。


「うわぁ! ブ、ブロッドスキーさん」


 叫び声の上がった方を見ると、数人の冒険者が、大蜘蛛の背中を見ていた。


「どうした!」


 ブロッドスキーさんが、その様子を見に行き、同じく背中を見た後、俺達の方に向き直った。


「誰か! まだ、攻撃スキルを使える奴! いるか!」


 冒険者達に戸惑いが広がるが、返ってくるのは、皆力を本当に使い果たして、動くのがやっとと言う答え。


「一体何があったんですか?」


 俺がブロッドスキーさんに尋ねると、彼は蜘蛛の背中を指差しながら「卵が孵る……」と呟いた。


 ――数分後――


 スキルを使えるほど力の残っている人がいないため、俺達は、岩を拾って来て叩き付けたり、剣で斬り付けたりしてみたが、全く卵が割れる気配がない。


「不味いな……今卵が孵れば、スキルの使えない我々なんぞ……ただの餌でしかないぞ……」


 ブロッドスキーさんの顔には明らかに焦りが生じていた……俺も一応、皆を救出した時の様にカードを回転させて切断を試みたが、卵に使っている糸は特別性らしく、傷一つ付かない。


「仕方ない……ここは、俺が卵を抱えて出来るだけ遠くに行く。その間に君らは討伐隊と共に、体制を整えてくれ……」


 ブロッドスキーさんは、そう言うと、背中に卵を抱え、馬に跨ろうとしていた。俺達がもう少し考えようと言うと「なーに、これも騎士の役目だ!」と言って、笑っていた。


 そして、ブロッドスキーさんがいよいよ、去ろうと言うその時。


「おーい! 皆! 無事かー」


 サッチーがやって来た。


「ごめん、遅くなって……討伐隊が、準備にかかりそうだったんで、オレが先発としてやって来た……ツチノっちに丸投げって訳にもいかないしな!」


 そう言うと、サッチーは俺を見てから微笑んだ。あれ? コイツ何か……変わった?


「ツチノっち、ホントに皆を助けてくれたんだな……ありがとう」


 そう言うと、サッチーは頭を下げて俺に礼を言ってきた。何だろう……良い事なんだろうけど……違和感が……


「あっ、そうだった。サッチー丁度良いところに来てくれた! 今スキル使えるか?」


「ああ、威力が高い奴なら後一発、小さいのなら五発くらい撃てるって感じだ」


「十分だ! ちょっと、こっち来てくれ!」


 俺とブロッドスキーさんは、サッチーを近くに呼ぶと、現在の状況を説明した。


「任せてくれよ! 俺は、今日ずっと役立たずだった……だけど、その汚名挽回を果たせるなら、この命! 掛けて見せる!」


「……サッチー、汚名は返上しとけ、あと、命は掛けるな」


 そんなやり取りを経て、俺はサッチーに作戦の概要を説明する。


「出来れば卵ごと消し飛ばすようなスキルが有れば、それ一発で決めて欲しいと思っているんだが?」


「多分、問題ないと思うぜ? ちょっと、力を溜めるのに時間がいるけどよ、精々五分くらいだ。相手が動かない卵なら楽勝だぜ!」


「分かった、じゃぁ、任せた!」


「任された!」


 そう言うと、サッチーは持っていた杖に手をかざし、集中し始めた、すると周辺の空気が張り詰め、じわじわとその熱を上げていくのが分かる。


「……一気に燃やし尽くす……」


 サッチーの周囲に、熱の渦が発生し始める。ブロッドスキーさんは、「あれならば、問題ないだろう……」と言ってサッチーを見直したと言っていた。その時だった!


「おじさん! 卵が孵り始めてる!」


「なに! 不味いぞ! 卵が孵って蜘蛛の子を一匹でも撃ち漏らしてしまえば……」


 俺達が焦る中、卵に亀裂が入っていく……


「くっ、しまった! このままでは、詠唱中のサチが危ない!」


「くそっ! ここからじゃ、遠い!」


 ブロッドスキーさんとミッチーが、焦りを浮かべている。俺やサッチーと少し離れて周囲を警戒していたために、彼らの位置は今から卵を抑えるには少し遠い……あぁ、もう! どうすりゃいいんだよ!


「椎野さん! 卵が……!」


 愛里さんの悲鳴を聞き、俺は咄嗟に卵の前に駆け出していた。やべぇ、何も考えてなかった……


 そして、卵は孵り、中からうじゃうじゃと子蜘蛛が出てくる……


「あと少しで、詠唱が終わるのに!」


 あと少し、あと少し……あぁ、もう! どうにでもなれ! 俺の手持ちはもう、これしかねぇ!


 そして、俺は最後の力でスキルを発動する……


 ――身体が強張る……背筋が引っ張られるようだ、そして俺は、手に意識を集中しギルドカードを蜘蛛の卵に良く見える様に両手で持ち、上体を心持ち前傾にしながら……


「どうも。薬屋 椎野です。よろしくお願いします」


 ……使ってしまった、どうする……


「おじさん! 何やってんの!」


 悠莉ちゃんが、目に涙を溜め、顔を真っ赤にしながら俺に飛びついて来た……


 その衝撃で、強制的にスキルの発動姿勢を解除された俺は、地面に転がる中で見てしまった……


 卵から出てきた蜘蛛の子供達が、プルプルと四本ほどの脚を利用して直立しているのを……


 蜘蛛に挨拶が出来ないから固まっているのか、悠莉ちゃんのお蔭でスキルが中途半端に解除されたからフリーズされたのかは分からないが……稼ぐ時間としては十分だった。


「ははっ! すげぇ! 羽衣にしっかり教えてやんねぇとな! お前のおじちゃんはやっぱり、最強だったってな! 喰らえ、蜘蛛野郎共! 開け! 『地獄の窯』!」


 炎の渦が、卵を中心として展開される……蜘蛛の子供達は、断末魔の叫びを上げながら、その姿を消していく……


「って言うか、サッチー! 近いわよ! あたし達まで燃やす気!」


「あっつ、これ、シャレにならんて!」


 俺達は、慌てて炎の渦から距離を取り、そのまま、サッチーの所まで近づきその頭を叩いた。ちょっと前まで、サッチーかっけぇとか思った自分も殴りたい。


 ――五分後、俺達は今度こそ本当に、力尽きてその場に突っ伏していたが、動けるようになったものからポツポツとサッチーが用意してきた馬車に乗り込んでいった。


「……あたし達、帰れるんだよね?」


「今回は、幸さんと椎野さんに感謝です……」


 悠莉ちゃんと愛里さんはそう言うと、緊張からの解放と疲れのせいか、ウトウトと船を漕ぎ始めた……


「お疲れ様……街まで寝てな?」


「……はい」

「うん……」


「ツチノもサチも、ゆっくりと休め……」


 ブロッドスキーさんのその言葉に甘え、俺達はそのまま横になった。


 あー、疲れたー……


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 椎野達が去った森の中、もぞもぞと動き出す影があった……


 その影――大蜘蛛は、生存本能から一時仮死状態に陥っていたが、今、目を覚ました……


 蜘蛛は怒っていた、折角産卵に備えて、大量の餌を確保したにもかかわらず、その餌が逃げてしまった……しかも、その餌どもは自分の大事な子供(遺伝子)までも燃やしてしまったのだ……


 蜘蛛は、餌どもの去って行った方角を見据えながら、傷付いたその体を脱皮する事で回復させた。そして、本能で理解する……あの餌どもが逃げた方には、たくさんの餌が有ると……


 蜘蛛は、その身を起こしゆっくりと、餌の後を追いかけはじめた……


 ――その時だった。


「アヌサドウェチノノメオネラワ……アギコトガレキスム!」


 蜘蛛の頭上の木から、声が聞えた……


「オレニスキサノトアハィシアハ……」


 声の主は、木から降りると、改めてそう言い、そして蜘蛛に向けて凄惨な笑みを浮かべ、その手で蜘蛛の頭を掴んだ……


「アコノムライェテルキニスマヌオヨナマシキ、オリソモアヘラ!」


 蜘蛛は直感した……コレは、自分とは生物としての次元が違う事を……コレが自らに与える、逃れられない消滅を……


 夜の森に一つの雄叫びが上がり、その後、蜘蛛は脚一つ残さず消滅した……


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――るぅぁぁ――


 森のどこかで、何かが叫んでるような音が聞こえる……あぁ、まぁ、どうでも良いや……今は、とに、か、くねむ……これ、やたらと何か……気持ち良、いし……


 そこで、俺の意識は完全に夢の世界へと旅立ち、次に気付いたのは街に着いてからだった……

後、二話で第一章終了です。

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