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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第八章:鎖の国と……
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サラリーマンの腕時計

続きです、よろしくお願い致します。

「――と言う訳でさ……、もも、その服、自前でしょ? あたしの分、何とかなんないかな……?」


 ――もも缶を茂みに引き込み、連れ回す事十五分……。悠莉は地面に落ちていた葉っぱで、その身を包み、もも缶に手を合わせ、懇願していた。


「ん、それ、用? ゆうり、もも缶、食べない?」


「アンタ……、どんな勘違いしてたのよ……。――食べないから……」


 悠莉は「そんなに怖い顔してたかな……?」と思い、自分の頬をつねったり揉んだりしてみる。


「ん、でも、どう、やる?」


「どうって……、あ、この際、ももとお揃いにでもしちゃおうか? ――あ、でも、それだと、蹴る時がなぁ……」


 ――悠莉は頭を捻り、服のデザインをイメージするが、もも缶はキョトンとしながら、悠莉の腕をクイッと引っ張り、告げる。


「――もも缶、やり方、知らない、ゆうり、知ってる?」


「えっ? どうやるって……、もしかして、そう言う意味? えー? もも、自分の服はどうやって作ってるの?」


 もも缶は、右に、左に、と頭を揺らし――。


「んん? んんんん……、ゆうりの、ヒラヒラ、キラキラ、思い出してる」


 やがて、何とか心当たりを思い出したらしく、そう答えた。悠莉は、まさか、参考にしているのが自分の『銅龍の系譜』状態だとは思っておらず、顔を真っ赤にして、恥ずかしさと嬉しさの入り混じった表情でもも缶の頭をグリグリと撫で回した。


「うん、うん……、やっぱ、何かお揃いにしよっか?」


「ん、ん、お揃い……、ん!」


 ――どうやら、『お揃い』が嬉しいらしく、もも缶はコクコクと首を縦に振りながら、悠莉の手を取る。


「――ん、ゆうり、どんな、お揃い?」


「あ、やっぱ出来るの? ――それじゃあ、色は……、うん、もも缶と近い桃系の色が良いかな? それと、出来れば『銅龍の系譜』が使い易くなったら良いけど、あたしもどうしたら良いか分から無いしなぁ……。デザインは、ももに任せるけど、出来たら……その、ね? 足が出た方が……良いかなぁ……なんて……」


 何気にわがままな悠莉の要求に、もも缶は良く分からず、取り敢えず頷き、スキルをイメージする。そして――。


「んん? えっと、『カトラリ・クロス』?」


 もも缶の手の平から、悠莉の羽衣に近いピンクゴールドにも、もも缶のワンピースに近い白桃色にも見える、布状のナニカが飛び出し、悠莉に巻き付いて行く。


「わぁ……、綺麗な色……」


「ん、キラキラ、近い」


 布状のナニカは、悠莉の身体を覆い、ドンドン服の形を取りつつある。すると、傍の茂みがガサガサと音を立てる。


「――何っ?」


「ん? 大丈夫、うい」


 もも缶が茂みにトコトコと近付くと――。


「いたっ、ももねーちゃん、ゆうりちゃん!」


 息を切らして、羽衣が茂みから飛び出し、もも缶をホールドした。


「んぐっ、うい、良い、あたっく」


「――同感だけど……、どうしたの、羽衣?」


 未だ布状のナニカに絡まれつつ、悠莉は羽衣に問い掛ける。すると、羽衣は自身が来た方向を指差し、涙目になりながら告げる……。


「――おじちゃんを助けてっ!」


「「――っ!」」


 まずは、もも缶が羽衣を担いで飛び出し、その後に続く様に、悠莉が絡まれたまま飛び出す。


 ――その時だった……。


「え……、何あれ……。黄色い……柱?」


「ん……、アレも、やっぱり、良い」


 少し離れた空――丁度、椎野がいる方角に、黄色い光の柱が現れていた。


「――もも……、急ぐよ!」


「ん!」


 そして、時間はルカナスが『タランドゥス』を発動した頃まで戻る――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふんんんんぬっ!」


 ――ゴインッ!


 やばい……。


「ぬ、またも避けるかっ! 『螺角剣』!」


 ルカナスが逆手に持った角――であった短剣をクルクルと回して、フリスビーの様に投げてくる……。


 ――ゴゴゴインッ!


 やばいやばい……。


「ぐぬぬ……。ならば、『怒震剣改』!」


 ルカナスが角短剣を地面に突き立てる。すると、耳障りな音と共に、地面と大気がビリビリと震える――。


 ――ゴゴゴゴゴゴッゴゴゴゴイン!


「――だぁっ! 全部かよっ!」


 余りの理不尽さに、思わず叫んでしまったが、やばい……、仕掛けたギルドカードが全滅しちまった……。


「ぬ? その様子では、どうやら使用制限のあるスキルであったか?」


 ――勝利を確信したかの様に、ルカナスはニヤリと笑う。実際、ほぼ確信しているが……。


「しかし……、某、ここで油断などするつもりは……ないっ!」


 ルカナスはそう告げると、一瞬で姿を消す。そして――。


「――グァッ!」


 ――ふと、足元の小石につまずいた瞬間、俺の腕に鋭い切り傷が出来上がる。


「ぬぬぅ……、まだ避けるか」


「――ふふんっ……」


 マジで今の……、一生分の運を使い切ったんじゃないだろうか……?


「ならば……、目一杯かく乱し、隙を突いて見せようぞ!」


 ――訂正、どうやら不運が途切れただけだったらしい……。


「――ふんっ! ふんっ! ふんっ! ――どうだっ! 見えまい!」


 四方八方からルカナスの声が響いて来る。――これは……、あれか? もし、こっちから攻撃したら「残像だっ」って奴か?


「ぬははははははっはぁっ!」


 ルカナスの高速移動で、風が物凄い吹き荒れている……。これ、どう対処しろと――って、風……か……。


「――やってみるか……」


「ぬ? まだ、諦めぬか? ――その意気やよしっ!」


 ――ルカナスは更に速度を上げ、縦横無尽に飛び回っているようだ。俺は、ギルドカードを出来る限りペラペラにして、俺の周囲、半径三メートル程にばら撒いてみる。


「ぬ? 防御の壁など、屁とも感じぬわ!」


「――さて、どうかな?」


 どうか、上手く行きます様に!


 ――俺は注意して、ギルドカードを見る。空中に、真ん中だけ固定したギルドカードは、クルクルと周囲の風を受けて回っている。そして、ある部分のギルドカードがその場からグッと、大きく、横に動いた。


「――この辺かっ!」


 俺は、その部分からの突撃を予想し、最高硬度の『塗り壁』を何重にも配置する。


 ――ゴゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッゴゴゴゴインッ!


「――ぬぉぉぉぉぉ……」


 すると、俺のすぐ目の前に、むさ苦――ルカナスの顔が現れた。――どうやら、一矢報いる事は出来た様だ。


「ふんっ! 屁とも感じないんじゃなかったっけ?」


 ――ざまあみろっ! っと、いかんいかん……。ここからが勝負……だ?


「――がはぁ……っ!」


「ぬふぅ……。――ここまで、だな?」


 俺の腹に、ルカナスの拳がめり込んでいる。――あ、これ……、骨、折れた?


「――最後は、近距離の殴り合い……いや、斬り合いか……。これはこれで、燃えるものがあるな」


 ――いや、俺……、そんな性癖無いから……。


「――楽しい時間であった……。名残惜しいが……さらばだっ!」


 ルカナスが逆手に持った角短剣で俺を狙っている。――もしかして……、死ぬ?


「――っ! そんなの……お断りだっ!」


 ――その瞬間、俺の左腕――そこに付けている腕時計が、眩い、黄色の光を放ち始めた……。


「――ぬぅぅぅぅぅ?」


 ルカナスは突然の閃光に思わず手で目を塞ぎ、数歩後退する。


「――まさか……」


 ――腕時計の光はやがて小さくなり、淡く腕時計を包み込む様になった。それと同時に、俺の頭の中に、一つのスキル名が浮かんで来る。


「き、貴様……、今の光は……?」


「ふ……、ふふ……、ふははははははっ!」


「ぬ? 気でも狂ったか?」


 ――いや、これ……笑わずにはいられん。腕時計だから、もしかして、とは思ったけど……。これで、漸く俺も「せこい」だの、「うわぁ」だの言われない力がっ!


「――いや……、こんな時に、俺の相手をするお前が哀れでな?」


 ――ふふふ……、羽衣ちゃん……、おじちゃん、漸くイイ感じで勝利できそうよ?


「ぬぅ……、何を――」


 ルカナスが角短剣を構え地面を蹴るが、俺はそれを構わず、万感の思いを込めてスキルを叫ぶ……。


「――『フレックスタイム』!」


 そして、俺の頭の中に『フレキシブルタイム』と謎の声が響き、次の瞬間、世界が灰色に染まった……。


「……………………」


 思った通り、ルカナスの動きは止まっている様だ……。と言うか、あの一瞬で、喉元まで刃が来てるって怖すぎる……。


 ――まあ、それはともかく……。今のうちに、背後に回って「残像だ」の準備でもしようかね?


 まずは喉元の角短剣を払ってからかな? ――何か心臓に悪い……し……?


「………………?」


 ――あれ? ――払えない……? と言うか、あれ? 俺も動けない?


「――――――っ!」


 そう言えば、声も出せない……。あれ? 何で? こういう時って、時間止めて俺だけ動けるとかじゃないの?


「――――――――――――――っ!」


 腕を目一杯、上下左右前後に動かしてみる。――あっ、これ無理、折れる! 骨が折れちゃう! 後、何か息苦しいし、良く見ればルカナスの角短剣が少しずつ迫って来てるし……。これ……もしかして……。


「――――――――っ!」


 ――あ、やっぱ、動いてるっ! 徐々に刃が迫って来てる! 嘘っ! え? 何、これ、新手の拷問?


 首を左右に動かそうとしても、やっぱり、動かないし!


「――――――――――――――っ!」


 ――もう一度、腕を動かそうとするが……無理……、刃を避けようと首に力を入れる……無理……。あ、もう……、息が続かない……。


 そして、そこに再び声が響いて来た……。


『コアタイム』


 ――世界に色が付き始める。


「――をほざくかっ!」


「――っ!」


 さっき見た通りなら、右手の角短剣が俺の喉を突き刺す所だった。――俺は思わず目を瞑り……、覚悟を決める。


「――ごめん、悠莉、ハオカ……」


 ――ゴキンッ!


「……………………………………っ!」


「ぬぉ!」


「………………………………………………………………あれ?」


 ――何だろう? 打撲的な痛みは来たけど、いつまでたっても刺される痛みが無い……。不思議に思った俺はそおっと目を開けてみる。すると――。


「グホァ……」


「――え?」


 ――ルカナスが、その場で蹲り腹を押さえていた。その左腕は肘の辺りで関節と逆方向に折れ、右腕は同じく、肘の辺りで外側に向けて折れ、二つの角短剣を地面に落としていた。腹に関しては、いつの間にか拳大の穴が開いている……。


「ぬぬ……、まさか……、自らの身を犠牲に……敵にダメージを与えるスキルとは……な?」


 そう言うと、ルカナスはガクリと崩れ落ちた。どうやら、痛みに耐えきれず気絶してしまったらしい……。


「――何だ? 何を訳の分から無い……事……を……?」


 気絶したルカナスを不審に思いつつ、俺は自分の身体を見る。――すると、俺の両腕は見事に、ポッキリと折れていた……。


「――えぇ……?」


 そして、俺にとって地獄の時間がやって来る……。――まずは、腕、次に首、続く様に腕、腕、首と、痛みが纏めて襲い掛かって来た。


「――っ! ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!」


 ――余りの痛みに思わず叫び、目の前が真っ赤に染まる。俺の意識はそこで途切れてしまった……。

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