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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第八章:鎖の国と……
135/204

イチコロ

続きです、よろしくお願い致します。

 椎野ともも缶が、クワガタ型の『鍬伯獣』――ルカナスと開戦したその頃、ハオカとタテは巨大『創伯獣(アークラフツ)』と睨み合っていた。


「タテ、後ろから雷落としたら、すぐ勝負が付く気がするんやけど……、あかんかいな?」


 ――「チキチキチキチキチキ……」と、二人の前を歩く『創伯獣(アークラフツ)』を見て、ハオカはポツリと呟く。


「――ハオカ姉さん、僕もそれは考えましたけど、何かやっちゃ駄目な気が……、と言うか、父上みたいな事言わないで下さいよ……」


「あら? 旦那さんに似とった? ――そら、本妻としてまた一歩、旦那さんの心に近うなったいう事かいな? いやん、タテもおべんちゃらがあんじょうなったもんやねぇ? ええ子ええ子してあげまひょ」


 そう言うと、ハオカはニマニマと笑みを浮かべながら、タテの髪を洗髪する様にグシャグシャと引っ掻き回す。


「――もうっ! 止めてよ!」


「あら、かんにんどせ? お姉ちゃん、ちょい、ふざけすぎたかいな……? あっちゃの人も、ここら辺に決めたみたいやし、そろそろ始めまひょか?」


 スゥッと目を細めると、ハオカは腰からバチを取り出し、それぞれの手でクルリと一回しし、目の前の『創伯獣(アークラフツ)』を見据えた。


「ハオカ姉さん、切り替え早すぎですよ……」


 ため息を一つ吐くと、タテも腰から横笛を取り出し、ハオカの様にクルリと手の中で回そうとして――。


「――あぁっ!」


 ――落とした。


「――タテ……、後で、お姉ちゃんが練習に付き合ってあげるから、泣いたらあかんよ?」


「――泣きませんよ……」


 頬を膨らませつつ、タテは笛を拾い軽く掃う。そして、改めてハオカ同様に、目の前の『創伯獣(アークラフツ)』を見据える。


「――チキチキチキチキチキッ!」


 すると、そのタイミングを見計らっていたかの様に、『創伯獣(アークラフツ)』はその手に持った斧型のマッチ棒を振りかぶる。


「あらあら……、わざわざ待ってくれとったんどすか? えらい紳士どすなぁ? ――ほいでも、御免よしね? うち、心に決めた人がおるん――でっ! 『絢爛舞踏』!」


 ハオカは、突進してくる『創伯獣(アークラフツ)』を、宙を蹴ってヒラリとかわす。そして、宙返りの姿勢のまま、リズムに乗せて「トトンッ」とバチを振り、大気を叩く。


「――まずは……、『小鉢』!」


 ハオカから、細い一筋の朱雷が『創伯獣(アークラフツ)』に襲いかかる――。


「チチチチチチ――ッチィ!」


「――ハオカ姉さんっ! こいつ、頑丈になってますよ!」


 ――ハオカの朱雷は、確かに『創伯獣(アークラフツ)』の額を打ち抜き、暫しの間、感電を引き起こしていたが、数秒程で『創伯獣(アークラフツ)』は何事も無かったかの様に、今度はタテを目がけて突進して来た。


「え、こっち来たっ? ――んん、『呂音』!」


 タテが笛を吹くと、耳の詰まる様な高い音と共に、『創伯獣(アークラフツ)』に向けて風の弾丸が放たれる。――しかし、『創伯獣(アークラフツ)』は気にせずに突っ込んでくる。


「チキチキッ!」


「タテっ! ――『雷電』!」


 ハオカはバチを打ち回し、『創伯獣(アークラフツ)』の周囲に数本の太い朱雷を落とし、その動きを止め――。


「今やっ!」


「――はいっ、『風壁』!」


 タテと『創伯獣(アークラフツ)』の間に風の壁が発生し、『創伯獣(アークラフツ)』を弾き飛ばす。そして、その間にハオカとタテは並び立ち、相手の様子を伺う。


「――なんやろ、動きは遅くて単調、やけど頑丈……、負ける気はせんけど、時間は掛けたくあらしまへんね?」


「うん、めんどくさそう」


「タテ……、さいぜんのお返しやおへんけど、そん言い方、旦那さんそっくりどすぇ?」


「うぇ? ――そうかなぁ……」


 ――ニマニマと笑みを浮かべるタテの頭をそっと撫でると、ハオカは再び、バチを手の平で回し、『創伯獣(アークラフツ)』に向けて突き出す。


「――と言う訳で、あんさんには申し訳あらしまへんが、一撃で――決めさせて頂きます……」


「うん、ごめんね?」


「――チキチキチキチキチキ……」


 ――『創伯獣(アークラフツ)』がそのマッチ棒を振り回し、突進してくる中、ハオカとタテは踊る様に、笛を吹き、バチを振るう。――そして……。


「「『獅子神楽』!」」


 風と雷が絡み合い、周囲の地面を抉りながら『創伯獣(アークラフツ)』を巻き込み、切り刻み、焦がしていく――。


「チチチチチチキキキキキキキキキ――」


 ――そうして、巨大な『創伯獣(アークラフツ)』は跡形も残さず、この世から消え去ってしまった……。


「――タテ……、なんやかんや言うても、やっぱり雑魚は雑魚……やろ?」


「ハオカ姉さん、それ言っちゃ可哀想だよ……」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――一方その頃。


「チキ……チキ……」


 ミッチーとピトは、マッチ棒をユラユラと振り、何か始めようとしている『創伯獣(アークラフツ)』と対峙していた。


「ピュイッ、あれは……」


「むぅ? ピト、知ってるっスか?」


「ピュや? 知らない」


「――そうッスか……、あ、動きそうッス!」


 二人の前では相変わらず、『創伯獣(アークラフツ)』がマッチ棒をユラユラと振り回していたが、やがて、その動きをピタリと止めると――。


「チチチ……チキィ!」


 ――マッチ棒から火球が現れた。


「――なっ! コイツ、サッチーと同じ……?」


「ピュイ、撃ち落すよ! 『口弾』!」


 マッチ棒から放たれた火球は、ピトが放った毒弾によって相殺される。しかし、『創伯獣(アークラフツ)』もそれは予想していたのか、次の弾を出すべく、マッチ棒を再びユラユラと動かしていた――。


「――まさか、こんな奴まで……。栗井博士は、本当に何を考えているんスか……?」


「ミッチ、来るよ!」


「む、すまないっスね、今度は水球ッスか?」


「――チッキ!」


 ――ミッチーは、目の前に迫って来た水球を剣で斬り捨てると、そのまま『創伯獣(アークラフツ)』の懐に潜り込む。


「遅いッス!」


「チキィっ」


 しかし……、その刃は『創伯獣(アークラフツ)』をすり抜けてしまった。


「なん……」


「ミッチ、上!」


 ――その瞬間、二人の上空から大量の土と石が降り注いでくる。


「――っ! 『クルミ』! ピト、離れるんじゃ無いッスよ!」


「ピュイッ!」


 およそ五分間、土と石は二人に向けて降り注がれた。――『創伯獣(アークラフツ)』はスウッと地面に降り立つと、降り積もった土石を見つめ、笑う様に「チキチキッ」と鳴いた。


「――チチチ……」


 そして、その場から離れようとした時……。


「チッ……?」


 ――自分が倒れた事に気が付いた。ガクガクと痙攣する『創伯獣(アークラフツ)』……、その肩には、まるで色が抜けた様に真っ白な鳥の羽根が突き刺さっていた。


「――『ホウセンカ』!」


「チ……チ……?」


 何が起きているのか分から無い……、そう言いたげな声で鳴くと、『創伯獣(アークラフツ)』は瓦礫を吹き飛ばしたモノ――ミッチーとピトを睨み付ける。


「――ピト、上手くいったんスか?」


「ピュイッ、『毒――」


 ――そこまで聞いて、『創伯獣(アークラフツ)』は静かに煙となっていった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「一応、褒めるッスけど……」


「ピュイ? ――ガンガン褒めて?」


 何故「一応」が付くのか分からず、ピトは首を傾げてミッチーを見つめる。すると、ミッチーは大きくため息を吐き――。


「この『毒翼』って……、以前、おやっさんに使ったスキルッスよね? 流石にやり過ぎッス。――後でちゃんと謝るんスよ?」


 ――ピトは、「しまった」と言いたげな表情を見せた後に俯くと、蚊の鳴くような声で「うん……」と答えた。


「まあ、何はともあれ、よく頑張ったッス?」


「ピュイ……」


 ミッチーは、ピトが反省している様子を見て、改めてガシガシとその頭を撫でまわした。


 そして――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うーにゃっ!」


「ほぁたぁっ!」


 ――拳と拳がぶつかり合い、互いの身体が弾かれる……。


「はぁ……はぁ……」


「……小娘ぇ」


 悠莉は、カンタロと互角の戦いを繰り広げていた……。

※2014/08/11

 「嫁としてまた一歩、距離が」を「本妻としてまた一歩、旦那さんの心に」に修正。

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