イチコロ
続きです、よろしくお願い致します。
椎野ともも缶が、クワガタ型の『鍬伯獣』――ルカナスと開戦したその頃、ハオカとタテは巨大『創伯獣』と睨み合っていた。
「タテ、後ろから雷落としたら、すぐ勝負が付く気がするんやけど……、あかんかいな?」
――「チキチキチキチキチキ……」と、二人の前を歩く『創伯獣』を見て、ハオカはポツリと呟く。
「――ハオカ姉さん、僕もそれは考えましたけど、何かやっちゃ駄目な気が……、と言うか、父上みたいな事言わないで下さいよ……」
「あら? 旦那さんに似とった? ――そら、本妻としてまた一歩、旦那さんの心に近うなったいう事かいな? いやん、タテもおべんちゃらがあんじょうなったもんやねぇ? ええ子ええ子してあげまひょ」
そう言うと、ハオカはニマニマと笑みを浮かべながら、タテの髪を洗髪する様にグシャグシャと引っ掻き回す。
「――もうっ! 止めてよ!」
「あら、かんにんどせ? お姉ちゃん、ちょい、ふざけすぎたかいな……? あっちゃの人も、ここら辺に決めたみたいやし、そろそろ始めまひょか?」
スゥッと目を細めると、ハオカは腰からバチを取り出し、それぞれの手でクルリと一回しし、目の前の『創伯獣』を見据えた。
「ハオカ姉さん、切り替え早すぎですよ……」
ため息を一つ吐くと、タテも腰から横笛を取り出し、ハオカの様にクルリと手の中で回そうとして――。
「――あぁっ!」
――落とした。
「――タテ……、後で、お姉ちゃんが練習に付き合ってあげるから、泣いたらあかんよ?」
「――泣きませんよ……」
頬を膨らませつつ、タテは笛を拾い軽く掃う。そして、改めてハオカ同様に、目の前の『創伯獣』を見据える。
「――チキチキチキチキチキッ!」
すると、そのタイミングを見計らっていたかの様に、『創伯獣』はその手に持った斧型のマッチ棒を振りかぶる。
「あらあら……、わざわざ待ってくれとったんどすか? えらい紳士どすなぁ? ――ほいでも、御免よしね? うち、心に決めた人がおるん――でっ! 『絢爛舞踏』!」
ハオカは、突進してくる『創伯獣』を、宙を蹴ってヒラリとかわす。そして、宙返りの姿勢のまま、リズムに乗せて「トトンッ」とバチを振り、大気を叩く。
「――まずは……、『小鉢』!」
ハオカから、細い一筋の朱雷が『創伯獣』に襲いかかる――。
「チチチチチチ――ッチィ!」
「――ハオカ姉さんっ! こいつ、頑丈になってますよ!」
――ハオカの朱雷は、確かに『創伯獣』の額を打ち抜き、暫しの間、感電を引き起こしていたが、数秒程で『創伯獣』は何事も無かったかの様に、今度はタテを目がけて突進して来た。
「え、こっち来たっ? ――んん、『呂音』!」
タテが笛を吹くと、耳の詰まる様な高い音と共に、『創伯獣』に向けて風の弾丸が放たれる。――しかし、『創伯獣』は気にせずに突っ込んでくる。
「チキチキッ!」
「タテっ! ――『雷電』!」
ハオカはバチを打ち回し、『創伯獣』の周囲に数本の太い朱雷を落とし、その動きを止め――。
「今やっ!」
「――はいっ、『風壁』!」
タテと『創伯獣』の間に風の壁が発生し、『創伯獣』を弾き飛ばす。そして、その間にハオカとタテは並び立ち、相手の様子を伺う。
「――なんやろ、動きは遅くて単調、やけど頑丈……、負ける気はせんけど、時間は掛けたくあらしまへんね?」
「うん、めんどくさそう」
「タテ……、さいぜんのお返しやおへんけど、そん言い方、旦那さんそっくりどすぇ?」
「うぇ? ――そうかなぁ……」
――ニマニマと笑みを浮かべるタテの頭をそっと撫でると、ハオカは再び、バチを手の平で回し、『創伯獣』に向けて突き出す。
「――と言う訳で、あんさんには申し訳あらしまへんが、一撃で――決めさせて頂きます……」
「うん、ごめんね?」
「――チキチキチキチキチキ……」
――『創伯獣』がそのマッチ棒を振り回し、突進してくる中、ハオカとタテは踊る様に、笛を吹き、バチを振るう。――そして……。
「「『獅子神楽』!」」
風と雷が絡み合い、周囲の地面を抉りながら『創伯獣』を巻き込み、切り刻み、焦がしていく――。
「チチチチチチキキキキキキキキキ――」
――そうして、巨大な『創伯獣』は跡形も残さず、この世から消え去ってしまった……。
「――タテ……、なんやかんや言うても、やっぱり雑魚は雑魚……やろ?」
「ハオカ姉さん、それ言っちゃ可哀想だよ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――一方その頃。
「チキ……チキ……」
ミッチーとピトは、マッチ棒をユラユラと振り、何か始めようとしている『創伯獣』と対峙していた。
「ピュイッ、あれは……」
「むぅ? ピト、知ってるっスか?」
「ピュや? 知らない」
「――そうッスか……、あ、動きそうッス!」
二人の前では相変わらず、『創伯獣』がマッチ棒をユラユラと振り回していたが、やがて、その動きをピタリと止めると――。
「チチチ……チキィ!」
――マッチ棒から火球が現れた。
「――なっ! コイツ、サッチーと同じ……?」
「ピュイ、撃ち落すよ! 『口弾』!」
マッチ棒から放たれた火球は、ピトが放った毒弾によって相殺される。しかし、『創伯獣』もそれは予想していたのか、次の弾を出すべく、マッチ棒を再びユラユラと動かしていた――。
「――まさか、こんな奴まで……。栗井博士は、本当に何を考えているんスか……?」
「ミッチ、来るよ!」
「む、すまないっスね、今度は水球ッスか?」
「――チッキ!」
――ミッチーは、目の前に迫って来た水球を剣で斬り捨てると、そのまま『創伯獣』の懐に潜り込む。
「遅いッス!」
「チキィっ」
しかし……、その刃は『創伯獣』をすり抜けてしまった。
「なん……」
「ミッチ、上!」
――その瞬間、二人の上空から大量の土と石が降り注いでくる。
「――っ! 『クルミ』! ピト、離れるんじゃ無いッスよ!」
「ピュイッ!」
およそ五分間、土と石は二人に向けて降り注がれた。――『創伯獣』はスウッと地面に降り立つと、降り積もった土石を見つめ、笑う様に「チキチキッ」と鳴いた。
「――チチチ……」
そして、その場から離れようとした時……。
「チッ……?」
――自分が倒れた事に気が付いた。ガクガクと痙攣する『創伯獣』……、その肩には、まるで色が抜けた様に真っ白な鳥の羽根が突き刺さっていた。
「――『ホウセンカ』!」
「チ……チ……?」
何が起きているのか分から無い……、そう言いたげな声で鳴くと、『創伯獣』は瓦礫を吹き飛ばしたモノ――ミッチーとピトを睨み付ける。
「――ピト、上手くいったんスか?」
「ピュイッ、『毒――」
――そこまで聞いて、『創伯獣』は静かに煙となっていった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「一応、褒めるッスけど……」
「ピュイ? ――ガンガン褒めて?」
何故「一応」が付くのか分からず、ピトは首を傾げてミッチーを見つめる。すると、ミッチーは大きくため息を吐き――。
「この『毒翼』って……、以前、おやっさんに使ったスキルッスよね? 流石にやり過ぎッス。――後でちゃんと謝るんスよ?」
――ピトは、「しまった」と言いたげな表情を見せた後に俯くと、蚊の鳴くような声で「うん……」と答えた。
「まあ、何はともあれ、よく頑張ったッス?」
「ピュイ……」
ミッチーは、ピトが反省している様子を見て、改めてガシガシとその頭を撫でまわした。
そして――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うーにゃっ!」
「ほぁたぁっ!」
――拳と拳がぶつかり合い、互いの身体が弾かれる……。
「はぁ……はぁ……」
「……小娘ぇ」
悠莉は、カンタロと互角の戦いを繰り広げていた……。
※2014/08/11
「嫁としてまた一歩、距離が」を「本妻としてまた一歩、旦那さんの心に」に修正。




