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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第八章:鎖の国と……
133/204

クイーン

続きです、よろしくお願い致します。

「――タテ、壁だっ」


「はいっ、『風壁』!」


 ――ジャグルゴの街に潜入した途端、街の住民達が襲い掛かって来た。流石に、生きてるか死んでるか分から無い人間に危害を加えるわけにもいかないし、かと言って生死を判断する猶予も与えてくれそうにない。


「うしっ、突破するッス! 『クルミ』!」


 剣を水平に構えたミッチーの目の前に、半円状の斬撃が現れ、ミッチーはそれを防壁代わりに、前方に向けてダッシュする。俺達はその後に続いて、ボウリングの様に住民達を弾き飛ばして行く。――先程から、この繰り返した……。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「――うん、何とか撒けたみたい。おじさん、息大丈夫?」


「本当だわ? ――椎野さん、大丈夫ですか?」


 悠莉と愛里の心配そうな顔に、無言で何度も頷き、心配するなと手の平を突き付ける。――暫く、休憩兼作戦会議だ。


「それにしても、あの方々はどんな状況なんでしょうか?」


「それって……、生きてるか、死んでるかって事?」


 悠莉が質問の意図を確認すると、ペタリューダは静かに頷き、続ける――。


「あたくし、先程から見ていたんですが、どうやら、一度弾いた筈の方が再び回り込んで、あたくし達の進路妨害に戻っている様なんですの」


「ほな、あん人達はとーに亡くなっとると? ――幽霊ん気配はせいなんだんどすけど……」


 もし……、ペタリューダの言う事が本当なら……。――ああ、クソッ……。考えが纏まらんっ。


「ん、エサ王、大丈夫」


 すると、もも缶が、俺の袖をポンポンと叩きながら、笑顔でそう言った。――もしかして……、もも缶なりに励まそうとしてくれているのか?


「――もも缶……」


「あれ、新鮮な、匂い、きっと、ぴちぴち」


 ――そうでも無かった様だ……。ただ単に、お腹が空いただけかよ……。


「う? おじちゃん、げんきでた?」


「――ああ、元気出たっつうか、気が抜けたけど……。まあ、平常運転だよ」


 羽衣ちゃんと、もも缶の頭をグリグリと撫でまわし、俺は皆に小さく声を掛ける。


「取り敢えず、住民達は生きてる前提で動こう。それで、様子を見て、出来そうなら住民の解放、無理そうなら『伯獣』の捕獲を前提に動く――それで、どうだ?」


 皆の首がタテに動く。――さて、具体的にはどうしようかね……?


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――住民の解放に向けて動き出し、作戦を決めてから十五分……。俺達は、民家の屋根からプカプカとうろつく住民達を見下ろしていた。


「――皆、良いか?」


 俺の合図で、作戦が始まる――。


「まずは、あたしだっけ……?」


 手順が合ってるか、不安を口に出しながら悠莉が地面に降り立つ。すると、住民達は、悠莉に気付いたのか、フラフラと悠莉を追いかけはじめた。


「――やっぱり、上は気付かないんですね……」


 ――正直、理由は分から無いが、多分、背中に取り付いている蜂が関係しているんだろう……。だってあいつ等……、背中から住民に顔突っ込んでるせいで、正面しか見えて無いっぽいし。


「姐御! 来るッスよ?」


「あ、ごめんなさい、『ヨァレ』……」


 予め設定されていた地点を悠莉が通過した後、俺と愛里で敵を弱体化させる『弱化門』を作り出す。――おお、見事に全員通過していく……。


「あら、やっぱり『創伯獣(アークラフツ)』とおんなじで、考える力は少ないよおどすなぁ?」


 そう呟くと、ハオカは軽めに朱雷を放ち、第二チェックポイント『朱雷門』を作り上げた。――うんうん、通過した住民達の動きが鈍くなってきた……。


「――おやっさん……、自分、何かやり過ぎの気が……」


「あら? ミチ男さん、あれ位なら大丈夫ですわよ? それより、ね?」


「――んん……、了解ッス」


 よろよろと歩く住民達に向けて、ミッチーが『イバラ』の斬撃を放ち、その動きを絡め取る。


「――ふぅ、たっだいまぁ!」


 住民全員を縛り上げた所で、悠莉が屋根の上に戻って来た。――おし、準備完了だ。


「さて、止め――いや、仕上げは頼んだぞ?」


「はい、行ってきます! 父上!」


「――あたし、今日頑張ったよね? おじさん、帰ったら……、分かってるわよね?」


「うふふふふ……」


 俺が声を掛けると、三者三様の意気込みが返って来る。――取り敢えず、悠莉とペタリューダが怖い……。


「――じゃあ、もう一回、行ってきます!」


 そうして、悠莉は再び屋根の下に飛び降りると、住民一人一人の腹にパンチを喰らわせ、その意識を刈り取っていく。――さて、どうでる?


「ピュイッ、あそこ、蜂動いてる!」


「あ、ほんとだぁ、おじちゃん、おじちゃん!」


 ――役目が欲しいと言うので、気絶した住民の様子を見て欲しいとお願いしていたのだが、予想以上の成果を出してくれた……。


「お手柄だ、二人供!」


 羽衣ちゃんとピトちゃんの頭を撫で、指摘された住民の様子を見る――。


「――抜け出したっ! タテ、あそこだ!」


「はいっ! 『風壁』!」


 キュポンッと蜂が住民から抜け出すと同時に、タテが住民を風の壁で包み込む。――これで、再び戻る事は出来ない筈だ……。


 次々と蜂が抜け出していき、その度にタテが住民を保護していく――。


「これ、で、最後ぉ……」


 最後の住民を包み込んだ時点で、タテの息は上がっていた。やはり、少し無理をさせ過ぎただろうか……?


「旦那さん、タテん事を思うならさっさと形を付けまひょ?」


「――そうだな……、ペタリューダ!」


「――えぇ、えぇ……、タテ君、良く頑張りましたものね? ――『魔猿(スレイブ)』」


 ――ペタリューダが舌なめずりをしながら、その翅から鱗粉をばら撒く。すると、鱗粉は風上――つまり、俺達のいる屋根の上から、蜂と住民のいる風下へと流れていく。


「――おじさまのカードみたいに、自由に操作できないのが難点ですわ……」


 そう言いつつも、ちゃっかり全ての蜂に鱗粉は襲い掛かっている。――住民達は、タテの壁で守られているから害はないと思うけど……。


「――これ、タテと組ませたらイイ感じ?」


「そうどすなぁ……」


「うふふ……、あたくし、タテ君は好みの範疇ですので、それも良いかもしれませんわね?」


 ――だから、その舌なめずりは止めて欲しい……。


「む、エサ王、蜂、止まった」


「お、どれどれ?」


 もも缶の言う通り、蜂達はその動きをピタリと止め、宙に静止している。すると、ペタリューダが柄だけの鞭に鱗粉の紐を、今回は三十センチ程の長さで出現させ、ヒュンッと一振りする。


「ほぁっ! おじちゃん、うごいたよ!」


「――修行中の奴を一回見ただけだったけど……、怖いスキルだな……」


 頭上の羽衣ちゃんに頭をガクガクと揺さぶられながら、俺は寒気を覚えていた。――何が怖いって、ちょっとだけ打たれてみたいって気持ちになるのが怖いよな……。


「成功です……、それでは、この件の首謀者の所まで案内して頂きましょうか? ――おじさま、申し訳ありませんが『椅子』を作って下さらない?」


「――え? ああ、良いよ」


 俺が人数分――正確に言えば、羽衣ちゃんに、ピトちゃん、もも缶は俺の頭、肩、膝の上、タテは何故かペタリューダの膝の上でぐったりとしているので、六人分の椅子をギルドカードで組み上げた。


「準備はよろしくて?」


 ペタリューダの問い掛けに、俺達は椅子に座り、頷く。それから、一分程の間、屋根の上で皆が揃って椅子に座っていると言う、何とも言えない姿に苦笑していると――。


「ぬぉっ!」


「――きゃぁっ」


 ――いきなり椅子が揺れ始め、俺と愛里は思わず叫び声を上げてしまった。


「――な、何なんっスか?」


「え、ふゃっ! お、おじさん、下!」


 悠莉の声に足元を見ると、先程までプカプカと浮かんでいるだけだった蜂の大群が、ウゾウゾと集まり、俺達が座っている椅子を運んでいた――。


「あ、こらあかん……、旦那さん、うち、ちびっと眠らせて頂きますぇ? ――着いやしたら、起こしておくれやす」


 ――ハオカはそう言うと、目をギュッと瞑り、下を見ない様にしていた。どうやら、間近で群れられると嫌らしい。


「「あれは小鳥、あれは小鳥……」」


 愛里と悠莉は自己暗示か……。どうやら皆、それぞれ現実逃避しているらしい。そんな中――。


 ――キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル……。


「エサ王、蜂の子は、おいしい、らしい……」


「食うなよ? 今は……、食うなよ? ――ほれ、干し肉でも、俺の手でもかじっててい……」


「ごちっ」


 ――モキュモキュ……。


 コイツ……、ノータイムで人の手ごと干し肉にかじりつきやがった。


「ういも!」


「ピュイッ!」


 ――羽衣ちゃんとピトちゃんまで真似し出すし……。一回、言い聞かせよう。


「――皆様、見えて来たようですわ」


 そして、ペタリューダの指先を追ってみると、そこには、三つの人影があった。


「あれは……、蜂と――」


「カブト、クワガタっぽいッスね……」


 その人影――蜂とカブト様、クワガタ様は、蜂を中心に、こちらを睨んでいる様だった……。


「――ちょっとおじさん? 何で、目輝かしてんの?」


「いや、だって……、なぁ?」


 俺は、ミッチーと、まだぐったりしてはいるものの、同じく目を輝かせているタテを見る。


「そうッスね……」


「うん、だって……」


「「「カブトムシは、ロマンだから!」」」


 俺達三人は、眼下の夢に視線を集中させ、気付けば声を揃えて叫んでいた。


 ――この瞬間の、皆の冷たい視線……。癖になったらどうしよう?


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