ジガジガ
続きです、よろしくお願い致します。
「――どうだ……?」
「ん、少し、いる」
――俺達は現在、ジャグルゴから一キロほど離れた場所に潜んでいる。
当初は、そのまま真っ直ぐに街入ろうとしていたのだが、愛里、ハオカ、ペタリューダから、少し離れて様子を見てはと言う意見が上がり、もも缶に『伯獣』の気配がしないか探って貰っている。
「少しって事は、やっぱりいるんスね?」
ミッチーの問い掛けに、もも缶はコクリと頷く。
「んん……、でも、レンズで見る限りは人がいるんだよなぁ。――もも缶、あれ、普通の人か?」
――俺は、望遠鏡をもも缶に渡して、そこに映る人が『伯獣』かどうか、聞いてみる事にした。
「んん……、多分、違う」
「ほな、どこぞに隠れたはるんどすかね?」
「そう考えた方が良いかもしれませんね……」
もも缶が首を横に振るのを見て、ハオカと愛里がため息を吐く。すると、ペタリューダがズイッと俺達の前に出て来た。
「あたくしが空から見て来ましょうか?」
「え? ――危なくない?」
「あら? 悠莉さん、心配して下さるのはありがたいのですが、あたくしだって、強くなってますのよ?」
――どうするべきか……。確かに空から状況を確認できれば、助かるんだが……。
「んー、父上……、僕もついて行って良いですか?」
俺が悩んでいると、タテも一緒について行くと言いだしてしまった。――ますます、どうするか……?
「――でもなぁ……」
「えっと、僕なら空で襲われても『風壁』である程度、防御できますし、ペタさんとの相性は良いと思うんです」
――む……? タテが決意に溢れた目をしておる……。父としては、行かせてやるべきか?
「おじちゃん、タテちゃん、がんばりたいんだよ?」
「…………………………分かった、お願いしても良いか?」
「――っ。はいっ!」
タテは目を輝かせながら、ペタリューダの背中に飛び乗って行った――。あ、そうだ……。
「タテ、携帯を持って行け。――余裕があったら、空から状況を映してくれ」
「――タテ、自分の使うッス!」
「はぁいっ!」
ミッチーから携帯を受け取ると、タテとペタリューダはそのまま、ゆっくりと空に舞い上がって行った。
「あぁ……、タテ、大丈夫どすかね……?」
「まあ、大丈夫だとは思うが……、俺達も街の監視を続けよう」
――そして、俺達は地面と空からジャグルゴを見張る事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『――父上、聞こえますか?』
暫くすると、タテからの着信が来た。俺は、すぐさま通話ボタンを押す――。
「――タテ、大丈夫か? 問題無いか?」
『父上、流石にまだ何も無いですよ……』
しかし、何だろう? ハオカに大丈夫と言ったが、時間が経つにつれて、俺の方が心配になってきてしまった……。
「はぁ……、おじさん、あたしが代わるから、それ頂戴?」
「――あぁん……」
悠莉は、俺から携帯を取り上げると、上空のタテと何かを確認し合っている様だった。
――そして……。
「――何か、住人の動きがおかしいみたい」
どうやら、タテが見た所によると、ジャグルゴの住人達は皆、虚ろな目で、涎を垂らしながら、フワフワとうろついているらしい。
「虚ろな目……か、ミッチー、どう思う?」
俺の質問に、ミッチーは真面目な顔で――。
「――おやっさん、ゴンガと似てるっス」
「やっぱり、そう思うよな……」
「椎野さん、だとすると、また幽霊って事ですか?」
「えぇ? でも、愛姉……」
――悠莉の言いたい事は何となく分かる。以前の『霧の魔獣』みたいな奴が、そんなにいるのか? って所だろう……。
「なぁに? 悠莉ちゃん」
「うん、ここから見てみても、ゴンガの時と様子が少し違うみたいなの……」
どうやら、違ったらしい……。声に出さなくて良かった。
「――椎野さん、どう思います?」
――おぉっ。油断してたら不意打ちが……。えっと、どれどれ?
「んん? 何か、背中に背負って……、あれは、羽根か?」
「――うん、何か住人全員が羽根生えてるみたい」
羽根、羽根…………。――羽根っ?
「まずいっ! ハオカ、タテとペタリューダを呼び戻せ!」
「え? あ、はいなっ! えぇっと、『絢爛舞踏』!」
――咄嗟の判断なのか、ハオカはスキルを発動し、宙を跳ねる様に蹴りながら、ペタリューダ達に近付いて行く……。
「――あ、タテッスか? 戻って来いとおやっさんが言ってるっス」
そうだよな……、俺も咄嗟にハオカに言っちゃったけど、ミッチーに頼んだ方が早いよな……。後で謝ろう――。
「む、エサ王、来る!」
「――え?」
――もも缶の声に促され、ジャグルゴの方角を見ると、何か黒いモノがこちらに向かって来ている。
「何だ……?」
「鳥っすか?」
「うーん? ――あっ、あれ、『創伯獣』じゃない?」
悠莉の指摘する様に、黒い――近付いて分かったが、あの紫の群れは、確かに『創伯獣』だ……。
「ピュイ、生意気に飛んでる……『口弾』!」
――ピトちゃんの口から、毒汁の弾丸が『創伯獣』の群れに向かって飛んで行き、数匹の『創伯獣』を貫き、撃墜する。
「むふぅ……、見たか!」
「うっ! ピトちゃん、かっこいい!」
――俺の頭上で、二人がはしゃいでいる。まあ、それは良いんだが……。
「流石に数が多いッスね」
「――おじさん、ハオカは?」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「ん、どうだろ?」
何だか、俺達の手前で紫の壁が出来つつあるが、まだ『塗り壁』が壊れない辺り、空は飛べても力が残念らしい……。
「あ、ペタちゃん達の方にも向かってます!」
――ヤバいと思い、空を見ると……。
「――『風壁』……!」
――ガッガッガガ……。
「うふふ……、タテ君、良いお仕事ですわ? ――ひれ伏せっ! 『百叩き』!」
意外や意外……、タテが風の壁で敵の動きを止めている間に、ペタリューダが柄だけの鞭を振るうと、幾束にも枝分かれした鱗粉の鞭が、敵の群れを打ち据え、落としていく。
「――これは……、俺も負けてられんな」
「ん、エサ王、どうする気?」
俺の不敵な笑みが可笑しいのか、もも缶がペチペチと俺の顔を突きながら聞いてくる。
「うん、取り敢えず、ハオカにさっさと帰って来て貰おう。――オン・サラ・リー! 『美足絢神』!」
うぁ……、久々にやったけど、これ、消耗激しいな……。
「あら? うち、さいぜんまでお空に……?」
――ハオカも、久々にこの呼ばれ方をしたせいか、キョトンとしている。
「ハオカっ、蹴散らすぞ!」
「え、あぁ……、はいなっ!」
――次の瞬間、紫の群れを押し止めていた『塗り壁』の結合を解き、バラバラにする。そして、そのタイミングで――。
「喰らいよし、『雷電』!」
ハオカが、ドラムを叩く様に両手のバチで、大気を叩くと数発の太い朱雷がハオカを中心として放たれる。――その朱雷は、『塗り壁』を構成していたバラバラのギルドカードにぶつかり、反射し、敵を貫いて行く。
「――討ち漏らしは頼みますぇ?」
「了解ッス! ――『イバラ』、『イバラ』、『イバラ』ァ!」
――朱雷によって巻き起こった煙が晴れるより早く、ミッチーは前方に向けて、ツタ状の斬撃を連発し、敵を絡め取る。
「うーにゃっ! 『一等星』!」
絡め取られた敵は、すぐに悠莉の蹴りによって吹き飛ばされて行く。
「――ピトちゃん、おいで?」
「ピュイッ!」
どうやら、ピトちゃんと愛里はこのまま、観覧に回るかと――思ったが……。
「良い? 輪っかを通してね? ――『ピン・パゥワ』……」
愛里が、肩に止まったピトちゃんの嘴前に、エメラルドグリーンの輪っかを作り出すと、ピトちゃんは息を大きく吸い込み――。
「『大口弾』っ!」
――先程より太い、どす黒い弾丸――と言うより放水を放ち始めた。
「――って、危なくないか? 悠莉、ミッチー、こっちに避難だ!」
「「はぁいっ!」」
そして、ピトちゃんの放毒によって、『創伯獣』の群れは全て煙となって消え去ってしまった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――父上、見てくれてました?」
「ああ、立派になってまぁ……」
「タテちゃん、かっこよかったよ? うい、見てた!」
「む、エサ王、もも缶の頭も、どう?」
――俺と羽衣ちゃん、ついでにもも缶の三人がかりでタテを褒め、撫で、甘やかす……。すると――。
「それで、ペタちゃん……、何か分かった?」
愛里が深刻な顔で、ペタリューダに状況の確認を行い始めた。
「愛里、どうした?」
――流石に気になって、甘やかしタイムを終了し、愛里の元に駆け寄る。
「いえ、今の『創伯獣』でたまたま、瀕死の方がいらっしゃったので、少し様子を見てみたんですが……。どうやら、あの背中の羽根、何か別のモノが寄生しているみたいなんです……」
そう言って、愛里が差し出した物は――。
「うわぁ……、おじさん、これって?」
「――蜂……だな」
――人の頭程の大きさの蜂は、愛里の手の中で少し、痙攣した後で煙の様に消えてしまった……。
「おやっさん、確か住人にも……」
「――ああ、急ぐぞ!」
俺達は大急ぎで馬車に乗り込み、ジャグルゴの街に向かった――。




