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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第八章:鎖の国と……
131/204

インターバル

続きです、よろしくお願い致します。

『そ・れ・で? 何時ぶりでしたっけ?』


「――……です」


『んん? 聞こえませんよぉ?』


「約二週間ですっ」


 ――どうしてこうなったのか……。


『大体、先輩はいっつも、いっつも! 肝心な時に連絡が取れないんですから!』


 久々に後輩と連絡を取った俺は、ミミナギルド内に設置されている休憩所で、携帯の画面に向かって、猛虎落地勢(土下座)を繰り出している。


『それで? 何で連絡して来なかったの?』


「いや、それがさ……、オーシでやったレースから、色々あってさ――」


『――言い訳は聞きたくないです!』


 ――えぇ……、どうしろって言うのさ? 相変わらずの理不尽さに、泣けて来るよ。


「まあ、詳しくは後でメールするけど、そっちも何か、大変みたいだな?」


『大変過ぎて、涙が出てきますよ……。――こんな時に、社長も連絡取れないし』


 まあ、それはいつもの事だしな……。さて、一通り怒られた事だし、そろそろ――。


『――誰が崩して良いと言いましたか?』


「すいません……」


 大人しく、技の態勢に戻ると、後輩はため息を吐いて、俺に告げて来た。


『報告書に、色々と書いてますが、大きく追加された社命は二つです。それと、個人的に違和感がある事も有りますので、読んでください。――絶対に、読んでくださいよ?』


 ――それだけ言うと、後輩は俺に向ける様に携帯を持ち構えている羽衣ちゃんを見て、告げる。


『――羽衣ちゃん、ありがとうね? もう、携帯離しても良いよ。それと………………うん、元気でね?』


 そして、携帯の画面から、後輩の姿が消えると、休憩所の椅子に座っていた他のメンバーから、安堵の息が漏れる。


「――今回、流石に怒ってましたね……」


「後輩ちゃん、何かおじさんに厳しいよね?」


 愛里と悠莉が、額の汗を拭いながら話し合っている。――まあ、厳しくなるのは仕方ないし、慣れてるんだが……。


「旦那さん? 立ち上がれへんのどすか?」


「もしかして、足でも痺れたっスか?」


「いや、そう言う訳じゃないんだが……」


 ――ここで認めれば、弄られるのは目に見えている。俺はちゃんと、たまには、学習する男だ。――自分に言い聞かせ、そっと静かに、立ち上がる。


「ももねーちゃん! ここ、スーってするの!」


 しかし、それを見逃す羽衣ちゃんでは無かった……。


「む、こうか?」


「ぬぉぉぉぉっ!」


 ――ここまで見越しての折檻なら……、大成功だ! ちくしょおぉぉ!


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「それで? 依頼はどんなのだった?」


 痺れた足では立つこと適わず……。――俺は、休憩所の椅子を三つ程占領し、寝仏のポーズでミッチーに尋ねた。


「何とか、手続きは出来たっス……」


「ん? いや、出来たかどうかじゃ……」


 ――そんな事を聞いてるわけじゃないと言おうとする俺を押さえて、悠莉が視線でギルドの受付を指し示す。そこには――。


「ティス……さん?」


 この時点で、それ(手続き)がどんなに苦難の道程だったかがうかがい知れる……。――後ろの人も憔悴しきった顔してるし……。


「うん、俺が悪かった」


「ウッス……、じゃあ、依頼内容の確認するっス――」


 どうやら、俺が叱られている間、皆も苦労した様だ……。――道連れって良い言葉だよなぁ……。


 ――気を取り直して、俺達はダンマ様からの依頼内容を確認する。


「どれどれ? 『ジャグルゴとの連絡が取れなくなった、住人の生存確認と、音信不通の原因を調査して欲してこいや』――?」


 これ、依頼じゃなくて、もう命令だよね?


「――どうしますか?」


 愛里が俺に尋ねてくる。さて、今から出発するには、少し遅いか……? なら、明日の朝出た方が良いかな?。


「じゃあ、今から準備して、明日の朝出発でどうだ?」


 俺の言葉に皆が頷く。


「おじちゃん、ういは?」


 ――さて、どうしよう? 置いて行った方が安全ではあるが。


「ん、エサ王、もも缶、守る、大丈夫」


「むっ、父上! 僕だって頑張りますから、大丈夫です!」


 張り合う様に……と言うか、もも缶()タテ()をからかって遊んでる感じなのか、俺の腕を左右から引っ張っている。――いや、弄られているのは俺か?


「んんんんん、分かった、宜しく頼むよ」


 そして、俺達は改めて明日の出発に向けた買い出しに出る事にした。


 ――翌日。


「旦那さん? もう朝どすぇ、起きておくれやす」


 扉を叩く音で目を覚ます。


「ん、ハオカか……、いつも済まないねぇ?」


「旦那さん、そら言わへん約束ど……すぇ?」


 扉を開けると、ハオカが軽口に付き合ってくれたのだが、その視線は俺の頭に注がれている。


「どうした?」


「い、いえ、旦那さん、小鳥ちゃんが……」


 ――俺とハオカのやり取りで目を覚ましたのか、羽衣ちゃんがトコトコと近付いて、いつもの様に、俺の頭(指定席)に座る。


「う? ピトちゃん、ふえた?」


「は?」


「――旦那さん、鏡どす……」


 ハオカに手鏡を渡されてみてみると、そこには……、ピトちゃんの他に、烏、鳩、鷲っぽい小鳥が居た……。


「………………旦那さん、モテモテどすなぁ?」


 どうやら知らないうちに、俺の頭は鳥類にとって、魅惑のコンドミニアムの様なモノになっていたらしい……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――すまねぇ!」


 俺達が朝食を済ませた辺りで、コラキ達は目を覚まし、頭を下げていた。


「いや、見送りに来たら、そこのピトに「良い別荘(営巣地)がある」って言われて、つい……」


「うん、ほど良い固さだったの……」


「ピトさん、ありがとうです」


 三者三様の言葉で、謝罪と――言うか、ピトちゃんへのお礼を口にしている。ピトちゃんは、俺の頭上(営巣地)で、胸を張り偉そうにしていたが、気まずそうに――。


「ピュイ……、ごめんなさい」


 そう言って、俺にミミ――いや、お詫びの品を差し出そうとしてきた。


「ま、まあ、荒らされなかっただけましだよ……。うん、気持ちだけで良いからっ」


 ――何だかんだで、『巣』扱いに慣れてしまった。今回は、俺の長い朋友が無事だっだんだ……、それで良いよ。


「なら……、また、良いか?」


「――は?」


 俺が、自分の頭を撫で、朋友の無事を喜んでいると、コラキが嬉しそうに、そんな事を言い始めた。


「お、おお、考えておく……」


 咄嗟にそう言う事しかできなかった……。――コラキを始めとした『ティス隊』の面々はイイ感じの『巣』が出来た事を喜んでいる様だった……。


「――椎野さん、私、『育毛』スキルを絶対に覚えて見せますから……」


 ――愛里のその言葉だけが、俺の希望となった……。


「はい、馬鹿な事やってないで、早く行くわよ?」


「愛里姉様も律儀に付き合わなくても良いんじゃないですの?」


 一連のやり取りを、冷めた目で見ていた二人からツッコミが入り、俺達は急いで馬車に乗り込む。


「あ、スマン、ミッチー」


 ずっと、御者台で待っていてくれたミッチーに、気まずく頭を下げる。


「いや、いつもの事ッスから。――姐御のスキル……、上手くいくと良いッスね?」


「――ミッチーっ!」


 出発際のさり気ない感動を胸に、馬車はジャグルゴへと向けて出発した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――x県x市『ファルマ・コピオス』臨時出張所――


「――ふぅ……」


 やっとだ……。やっと、あのバカ(先輩)が捕まった。


「ちゃんと、動いてくれないと、次は社長に言い付けますからね……」


 ボクばっかり苦労するのは、納得いかないし……。道連れって、良い言葉ですよね……。


「美空さぁん、ちょっと良いッスか?」


「はい、どうぞ?」


 ――執務室に、山内さんが入って来た。その手には、何だか分厚いバインダーが抱えられている。


「――それは?」


「えっと、市に貸し出してた、今回の調査で見つかったジョブ持ってる人達のリストと、市長からのプレゼント二つッス」


 ――また、嫌なモノ(プレゼント)を……。リストだけ返してくれれば良いのに……。


「そこに、置いて下さい」


「うぃーっす」


 そう言って、山内さんは書類を放り投げると、執務室を出ていってしまった……。


「――投げないで下さいよ……」


 ――やっぱり、威厳を出すためにもサングラスとかかけた方が良いのかなぁ?


「まあ、良いや」


 ――まずは、返却されたリストを確認する。うん、改ざんとかはなさそうですね。そうなると、気になるのは――。


「あの、市長(オネエ)さんからのプレゼントかぁ……」


 リストを自分の机にしまい込み、ボクは分厚いバインダーに目を通す。


「ん? あの人、何考えてんですか?」


 バインダーの表紙にデカデカと書かれていたのは、『横丁計画』の文字。


 ――読み進めてみれば、どうやら今回発見されたジョブ持ち達を、一か所に纏めてしまおうと言う計画らしい……。


「――馬鹿馬鹿しいですね……」


 ストレスが溜まってるんですかね?


「それで、最後は?」


 ボクは、もう一つのプレゼントに目を通す。


「――ん?」


 最後の資料には、一枚の紙に、こう書かれていた――。


「『接界地点の地質が接界前と別物』……?」


 ――ボクは専門家じゃないし、正直、意味が分から無い……。これ、報告する必要あるのかなぁ?


「うん、後は先輩に投げようっ!」


 そう呟いてから、ボクは引き出しからお菓子を取り出し、先輩にメールを送信しておいた。

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