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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第一章:新種誕生
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天知る、地知る、蜘蛛ぞ知る

続きです、よろしくお願いします。

 街を出てから、約一時間……俺は今、森の入口付近にあった洞窟の前にいる。


 どうやら、俺が乗ってきた馬は、本当に蜘蛛の巣の場所候補を指示されていたらしく、森到着後に何カ所かを廻って、三か所目でこの洞窟を案内してくれた。


 洞窟の入り口には、蜘蛛の糸が貼ってあり、どうやら侵入者があれば、すぐに分かる様にしてあるみたいだった。


「さて、どうするか……」


 俺は、洞窟から少し離れたところに馬を繋ぎ、身を潜ませながら洞窟に侵入する方法を考えていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――時間は少しさかのぼり、椎野が森に到着した頃――


 ソレは新たに、森に侵入してくるその匂いに気が付いた。


「アカチカゲラ……イオイノノコ! アクオアロメテシミソクス……アカタタヌコユツオダラケラ、オヨノメアガワ!」


 唸り声を上げるソレは、笑っているかの様に、森の入口に目を向けていた……


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「このまま突っ込んで行っても、見つかって俺も餌になるっての目に見えてるしな……まずは、洞窟の内部を把握できれば良いんだけど……うーん」


 現在、俺の手札は武器ギルドカードと、スキルが二つ。ジョブを獲得してから、訓練は毎日行っているが、加護が宿ったという俺の所持品は、正直なところ、補助魔具と言う割には頑丈以外取り立てて何かあると言うわけではない……


「となると、スキルか……『ポーカーフェイス』は、蜘蛛相手に効果あるのか? あー、でも、効果があっても、洞窟突入に役立つとも思えないし……『名刺交換』は、発動中俺も動けないしな……」


 あれでもない、これでもない、と手持ちの札を頭で思い浮かべては放り投げる……


「残るは、武器をどう使うか……こんなことなら、魔獣狩りに一回だけでもついて行くんだった」


 もう、こうなったら無策で突っ込むかと手の中でギルドカードを弄びながら諦めかけた時、ふと閃きが走った。


「あれ? もしかして、カードを分裂させて……こうして……重ねれば……」


 そして、試行錯誤の末、現在俺は洞窟内の様子を探る事に成功している……森に潜みながら。


 結局、俺が取った手段は、まず一枚のギルドカードを硝子の様に透明にし、それに光を良く反射する様にしたギルドカードを重ね合わせ、疑似的な鏡を作ると言うものだ。


 真夜中であり、暗くて見えづらいが、洞窟内は苔か何かが薄っすらと光っているらしく、視界が全て奪われると言う事はなさそうだ。


 俺は、数個に分裂させ、宙に浮かせた鏡の角度を調節しながら操作し、少しずつ洞窟内部を調べ、それを手帳に書き記していく……


 十分後、ようやく洞窟内の構造を把握した俺は、救出プランを練っていた。


 まず、洞窟内はさほど深くはなく、内部で三つに分岐しており、その奥の広間の一か所に大蜘蛛が、恐らく産卵のためにじっとしている。もう一か所は配下の蜘蛛の休憩所なのか、所狭しと蜘蛛が敷き詰められている。そして、最後の一か所に顔以外を蜘蛛の糸でグルグル巻きにされた人たちがいた……愛里さんに、悠莉ちゃん、ミッチー、ブロッドスキーさん、それに、話に聞いていた冒険者の人達や、騎士団の人達……良かった、皆、怪我は酷いし、憔悴もしているみたいだけど、意識はある様だし。……何より生きている。


 胸を撫で下ろし、泣きたい気持ちを抑えながら、俺は次にどう動くべきかを考える……


 洞窟内は深くはない……これは、救出はしやすいだろうが、逆に気付かれればすぐに蜘蛛が出てくるという事でもある。……となると、前提は気付かれない様に、だ。


 皆の糸を解いていたら、当然時間はかかるし、俺の侵入の気配で蜘蛛に気付かれる可能性が高い……どうするか……というか、俺が考えられる中での選択肢は一つだよなぁ。


「ふぅ……今日ばかりは、羽衣ちゃんとサラリーマンの神様に感謝だな……マジで」


 俺は、ギルドカードに今から救助するから騒がない様に、とメッセージを書き、皆がいる広間に飛ばして、鏡で様子を見ながらカードを愛里さんの目の前まで運んだ。


 カードに気付いた愛里さんは、辺りを見回し、鏡にしていたカードを見つけると了解の意を示すように一つ頷いた……


「さぁ、作戦開始だ!」


 俺は一人呟き、集中し始めた……


 ――五分後――


「がぁっ! きっつい!」


 蜘蛛の糸はやたらと硬かった。俺は、カードの硬度を限界まで上げて回転させ、サンダの様にして蜘蛛の糸を切断しようとしていた。


「っ! よしっ! まずは、一人!」


 ようやく、ブロッドスキーさんの糸を切り終わると、続いて愛里さんの糸を切ろうと取り掛かる。正直、集中して出来る対象が一人ってのは不味いかも知れない……


 俺がそう考えていると、鏡に見えるブロッドスキーさんが何かを指差している。俺がその方向を映すように鏡を動かすと、どうやらミッチーの糸を先に何とかしろという意味の様に思える。


 そして、俺がミッチーの糸の切断に取り掛かると、ブロッドスキーさんは「それで良い」と言わんばかりに頷いていた。


 俺がミッチーの救出に取り掛かると、ブロッドスキーさんはずっと手に持っていた剣を振るって、騎士団の人の糸を切り始めた。そこまでを見た俺は、ようやくブロッドスキーさんの意図を理解する事が出来た……糸だけに……ここに、皆がいなくて良かった……


 そこからは、順調だった、糸から解放されたミッチーや騎士団の人が手分けして他の人の糸を切る、それで解放された人がまた別の人を解放する……その繰り返しで、約三十分強経つ頃には、皆が無事に糸から解放されていた。……攻撃系のスキル便利だな……俺も欲しいなぁ……


 俺は、途中からその様子を鏡で見ながら、あるものを作っていた。


 ギルドカードを並べてコップの様な円筒状に配置し、切断した蜘蛛の糸を愛里さんに取り付けて貰った……そう、なんちゃって糸電話だ! 俺は、その糸電話をブロッドスキーさんの元に送り、テストの意味を兼ねて語り掛ける。


「あー、マイクテス、マイクテス、こちら、サラリーマン。聞こえますかー? 聞こえたら、応答してください」


「あー、こちらブロッドスキー。これはまた、面白いものを……幼い頃を思い出すよ……」


 へぇ、こっちにも糸電話みたいなものがあるのか? まぁ、それは、良いとして。


「どうやら、無事聞こえるようですね。皆さんご無事ですか?」


「あぁ、幸いな事に、まだ皆生きている……戦闘で憔悴したものも多いが、捕まって強制的に寝転がっていたお蔭で、大分体力も回復している様だ」


 どうやら、皆、脱出可能な程度には回復している様だ。


「では、今から脱出出来ますか? 俺のカードを道に浮かばせているんで、それを目印にしてください。念の為に、蜘蛛の糸には触れない様に気を付けてください」


「了解した。……救援、感謝する」


 慎重に、慎重に、ブロッドスキーさん達は洞窟の出口に向けて、歩みを進める。洞窟内部には、所々蜘蛛の糸が貼られているため、走って脱出は無理な様だ。


 それでも、時間はかかったがついに、洞窟の外から姿が確認できる程近くまで脱出する事に成功していた。その時――


 一匹の蜘蛛が、洞窟の出口で彼らと鉢合わせた。


『ギチギチギチギチギチ』


 ブロッドスキーさん達は、すぐさま蜘蛛を退治し、洞窟から出てきたが、断末魔のその音は洞窟内部の蜘蛛に届いた様で、すぐさま蜘蛛の魔獣が押し寄せてきた。


「チッ! オイッ! 戦える体力のある奴らは、すぐ戦闘準備だ、体力のない奴、怪我の酷い奴から先に逃がすぞ!」


 ブロッドスキーさんが、檄を飛ばすとミッチーや、その他数名の冒険者や騎士が「オォォォッ!」と、怒号を上げながら武器を構えた。俺は、急いでブロッドスキーさんの元に駆けつけ、用意していた包帯や、携帯食、水などを渡してから言った。


「出来ることがあれば、俺も手伝います」


「あぁ、すまないな……正直、助かる。だが、良いのか? ツチノは……」


「大丈夫ですよ。非戦闘職でも、さっきみたいに手助けくらいは出来るつもりですよ?」


「ふはっ……そうだったな……では、手助けをしてもらっても良いかな?」


 ブロッドスキーさんはそう言うと、二カッと笑った。俺は、その笑顔に同じく笑顔で返し……


「分かりました! 時間を稼げば良いんですね!」


「ん? いや、ち、ちが……」


 そう言うと、俺は洞窟の入り口に向けて走り出した。ん? ブロッドスキーさんが何か言ってる気がするが、取り敢えず時間稼ぎだな……


 迫ってくる蜘蛛達を確認してから俺は、気合を入れた、するといよいよ、親玉の大蜘蛛が洞窟から出ようとしてくる……良し! 俺の時間稼ぎ術を試してやる!


「バカもん! 非戦闘職で、前線に出る奴が有るか! 俺は、撤退する連中を支えて行けと言ったつもりで……」


 ――ゴリンッ!


 ブロッドスキーさんが俺の元に駆けつけ、俺を叱りつけたその時、俺達の耳には、ガラスの割れるような大きな音と、何かが倒れるような音が聞こえてきた……


「な、何の音だ!」


「う、嘘だろ? 俺のギルドカードが砕かれた……」


 俺とブロッドスキーさんは、その音に同時に驚いたが、その含むところは違っていた……


「今のって……おじさんの?」


 呆然とする俺に、悠莉ちゃんが愛里さんに肩を借りながらも話しかけてきた。俺は彼女の顔を見て、無言で頷いた。


 悠莉ちゃんの言うとおり、今のは、俺が洞窟の入り口に張ったトラップだ。俺は皆が洞窟から出るのを確認した後、大量のギルドカードを可能な限り透明にして、それらを隙間なく、洞窟の入り口に並べて置いた……当初の予定では、それで、入り口を塞いで時間を稼いでその間に逃げるつもり……だった。


 しかし、そのギルドカードの壁は今、あっさりと大蜘蛛に破られて……い、た?


「あ、蜘蛛がひっくり返ってる……」


 悠莉ちゃんの言葉通り、俺達の目の前では、壁を壊したものの、その反動で数メートル弾き飛ばされた挙句ひっくり返り、脚をバタつかせている大蜘蛛がいた……


「ねぇ、おじさん……どうするの?」


「……ブロッドスキーさん、どうしましょう?」


「トール……どうしたものかな?」


「うっす! ……姐御、どうしやしょう?」


「えっ! 姐御? 私なんですか! えぅ……えっと皆さん、やって……おしまい?」


「「「「「うぉぉぉぉぉぉ! 姐御の命令だー! 野郎共! やるぞぉぉぉ!」」」」」


 スキルによる総攻撃が始まった。


 蜘蛛の魔獣達は、焼かれ、斬られ、あるいは叩き潰され、ドンドンその数を減らしていった……


「残るは、親玉だけだ! 皆踏ん張りどころだぞ!」


 ブロッドスキーさんが勝鬨を上げると、皆のテンションは最高潮に上がっているようで、力を溜め今使える最高のスキルを出そうとしていた……その時。


『ギチギチギチギチギチ……』


 それまで、ひっくり返っていた大蜘蛛が立ち直った。流石に、大蜘蛛は硬かったのか、他の蜘蛛が傷付いて、退治されていく中、余り大きな傷は付いていないようだった。


 それでも、多少は効いたのか、脚をプルプルさせながら、鳴き声を上げていた。


「流石に硬いか……」


「でも、結構効いてるみたいですよ? プルプル体震わせながら、何か叫んでますし」


「って言うか、あれ、おじさんのアレに怒ってんじゃないの?」


「私も、そんな気がします……」


 皆、結構余裕が出てきたのか、そんな事を言い始める。失礼な、あれは、俺が意図してやったんじゃないぞ! あの大蜘蛛だって、そんな事……あれ、気のせいかあの蜘蛛、俺を見てないか?


「なぁ、ツチノよ……」


「なんでしょうか? ブロッドスキーさん……」


「こっちに、向かってきてないか?」


 気のせいじゃなかったみたいだ……大蜘蛛は俺達の方に向かって、突っ込んで来ている。


「ど、どうすんの? おじさん!」


「こうなったら……」


「何か策が有るんですか? 椎野さん!」


「あぁ、さっきの壁――Aプランが駄目なら、Bプランだ……」


 俺の言葉に、動揺していた悠莉ちゃん、愛里さんがぱぁっと目を輝かせる。そして、悠莉ちゃんが聞いてきた。


「で、Bプランって? 何?」


 悠莉ちゃんが身を乗り出して来るのと同時、大蜘蛛が洞窟の出口に再び差し掛かりそのまま、俺達に飛び掛かろうとして……


 ――ゴリンッ!


 再び、俺達の耳には、ガラスの割れるような大きな音と、何かが倒れるような音が聞こえてきた……


 そして、ひっくり返って脚をバタつかせている大蜘蛛……


「ねぇ、おじさん……本っ当にどうするの?」


「……ブロッドスキーさん、どうしましょう?」


「トール……以下略だ」


「姐御! お願いしゃっす!」


「えっ! えっと……はぁ……皆さん、やっておしまいなさい!」


「「「「「うぉぉぉぉぉぉ! 姐御の命令だー! 野郎共! やるぞぉぉぉ!」」」」」


「これが、最後だ! 死力を振り絞れェェ!」


 愛里さんの合図に、全員が残る力を全て振り絞り、総攻撃をかける……そして、数分後、そこには体中から煙を上げる大蜘蛛の姿があった。

……やらかした?

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