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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第八章:鎖の国と……
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首都ミミナに住む帝王

続きです、よろしくお願い致します。

「はい、それじゃあ、ティス……さん? 少し、我慢して下さいね?」


「あらあらぁ……何するのぉ?」


 スプリギティス――ティスさん達とじゃれ合った次の朝、俺達はティスさん一味を宿屋に呼び、愛里とピトちゃんによる『欠片』の除去作業を行っていた。


「なあ、おやっさん……これ、やる必要あるのか? ティス様、痛くもなんともないんだろ?」


「それがなぁ……、『創伯獣(アークラフツ)』をジャックする栗井博士達を見てるから、念には念を――って奴だよ。お前らも、ティスさんがいきなり暴れ出したら嫌だろ?」


 心配そうな顔でティスさんを見つめるコラキに「心配するな」と伝える。


「んー? ある意味、いつも暴れてるみたいなモンだけどな……」


 その横顔からは、ティスさん絡みの苦労が垣間見える……。若いのになぁ……。――俺はそっと、コラキに飴をプレゼントする。


「あら? イグルちゃんも、ペリちゃんも、新しいお友達かしらぁ? 良かったわねぇ?」


 ――ピトちゃんの毒を流し込まれ、ティスさんがその身をガクガクと震わせながら、一味の少女二人を見て、微笑んでいる……。


「――ホラーっスね……」


 ミッチーの呟きに、ティスさん慣れしてないうちの連中が頷く。


「ほぁぁ……。――おじちゃん、おじちゃん!」


 そんな、何とも言えない空気の中、羽衣ちゃんはいつも通り元気だ。ただ――。


「んぁ……」


「ふっかふっかだぁ! おじちゃん、ふかって! あいねーちゃんより、ふっかふかだよ!」


 ティスさん達を宿屋に連れて来てから、羽衣ちゃんはすっかり、コラキ、ペリ、イグルと仲良くなってしまった。――特に、ペリの一部分に大興奮し、グリグリと埋めてその感触を楽しんでいる……らしい。


「――旦那さん……? 今、向こう見はったら……、後で踏み……いえ、一生踏みまへんよ?」


「後……、殴るから」


 だったら、音すら聞かせないでほしい……。ふと、隣を見ればミッチーも、背筋を伸ばし汗をダラダラ流しつつ、硬直している。――良く見れば、ミッチーの背後で剣が浮いて、腕を組んで……。


「――浮いてるっ?」


「椎野さんっ! 少し、静かに!」


 余りの衝撃に少し驚いてしまった……。――問題は、浮いてる事じゃない、腕が生えてる! どうしよう? ミッチーに言った方が良いのかな?


「――おじさん?」


 ピクリと動いただけで、悠莉から注意されるようになってしまった……。


「んんっ! やぁ……」


「ふっかぁ……」


「うい、そこ、寝ちゃ、だめ、おふとん、いく?」


 背後では相変わらず、何かが起きている……。ふと、前を見れば、遂にコラキまで真っ赤になっている。うらや――あ、イグルが刈り取った……。


「って……そうじゃない、ミッチー!」


「な、なんスカ?」


 監視の目と、聞こえてくる声に、ミッチーは鼻を押さえつつ、返事だけする。


「えっと、ほら、後ろ――」


「旦那はん? うちが言うた事……、覚えてはりますか?」


 そうじゃないっ! そうじゃないんだ……。――あぁ、こうしている間にも、剣の腕が消えかけている……。ミッチー、後ろ!


「――あら?」


 その時の、ペタリューダが一瞬女神に見えた……。ペタリューダは、俺とミッチーの様子を見て、少し考え込んだ後――。


「こちらも刈り取ってしまえば宜しいんじゃないんですの?」


 ――その後、次に目覚めるまで……俺の記憶は無く、目が覚めた時には、剣は元に戻っていた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「それで、おやっさん達はこれからどうすんだ?」


 コラキは目が覚めた俺の目を見て、そう尋ねて来た。――極力、頭の上を見ない様にしながら……。


「ふん、ふん、ふん! ふっかふかぁ――」


「――そうだなぁ……、お前ら、もうアッチ(コミス・シリオ)に戻る気はないんだろ?」


 俺はコラキから目を逸らさない様に、真剣な顔で答える。


「――ぁ、ああ、さっきティス様と、もう一人、参謀役のパギャさんとも相談して、この国で……孤児院で手伝いながらのんびり暮らすことにしたよ」


「ポヨンポヨーン――」


「ピュイッピュイー」


「な、なら、俺達は、ヘームストラに戻るよ……。なぁ? 悠莉?」


 ――俺にはこれ以上、無理だ……。歌姫(羽衣ちゃん)を頭から下ろし、後の進行を悠莉に任せる。


「えっ? あたし?」


 戸惑う悠莉に「お願いします」と頭を下げる。――許せ……、俺は羽衣ちゃんが主催する、如何にフカフカで、ポヨポヨだったかの品評会に出席しなくてはいけないんだ……。


「旦那はん……?」


「あ、スマン、ジョウダンダ」


 ハオカと、無言でこちらを睨む悠莉の迫力に負け、俺は再び羽衣ちゃんをペリに預け、真面目な話に戻る……。


「――で、お前ら『ティス隊』は、ティスさん含めて、この国に住むって事で良いのか?」


「はぁい、それでお願いしまぁす」


 ――「良く分かってないけど返事をしておこう」的なティスさんの言葉に、他の三人……いや、一人蹂躙されてるから、二人もコクリと頷く。


「なら……」


 俺はその言葉を受け、暫し考え込み、そして――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――『ティス隊』と話し合った翌日。


「そこで止まり、身分を明らかにせよ!」


 俺達とティスさんは、ドーバグルーゴ帝国の帝城の表門前にいた。当然、目的は、首都ミミナ中央の帝城内にいる帝王と謁見するためだ。


「どうも、私――」


 いつもの様に、挨拶を交わしてから、ヘームストラ、テイラ、オーシからの親書を手渡す。


「――暫し、待て!」


 門番はそう言うと、別の門番に俺達の監視を任せ、奥に引っ込んで行った。――去り際に、チラチラとティスさんを見ていたのは、ギルドの看板娘と知っていたからだろうか?


「――いきなり来て大丈夫でしょうか?」


 愛里は不安そうに、俺の顔を見上げる。


「どうだろう? 師匠(ラシム様)達は大丈夫って言ってたけど……」


「そうどすなぁ、お師さんがたも、ボケが進んではるから……」


「ハオカ姉さん……、き、聞かれてたらどうするんですか?」


 ハオカとタテは、ビクビクしながらも、師匠達の「大丈夫」を信用できないでいるらしい……。


「おじちゃん、ひまぁ……」


「ピマァ……」


 羽衣ちゃんとピトちゃんは、いつも通り、堅苦しい場所が苦手らしく、俺の友を蝶々結びにしながら、ダレている。


「――もし、駄目なら……躾けましょうか? いえ、寧ろ! 躾けながら入りますか?」


「いや、ペタリューダ……様? 落ち着いて、深呼吸して?」


 ――ライアさん……、貴女、弟子(ペタリューダ)に本当何を仕込んだのですか?


 躾の鬼(女王様)を抑え込み、俺は先ほどの門番が速く戻ってくる事を祈る。――お、戻って来た。


「兄貴がお会いになるそうだ。――失礼の無い様にな?」


「あ、ありがとうございます……」


 さっさと、謁見出来るのはありがたいけど……。『兄貴』って? 不安な気持ちを胸に、俺達は謁見の間まで案内に従う……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 謁見の間は、どちらかと言えば、作戦会議室と言った方がシックリ来る様な、長い机と大きい黒板? が取り付けられた、地味な部屋だった。


「おじちゃん、ねむい……」


「ん、良いよ……寝てな?」


 羽衣ちゃんが眠くなるのも仕方ない、かれこれ三十分は待たされている……、ピトちゃんは、最初の三分頃には、巣の中(俺の頭髪)で寝息を立てていた。それを考えたら、羽衣ちゃんは良く頑張ったと思う。


「あらぁ? じゃあ、遠慮なく……」


「いや、ティスさんは起きててよっ」


 ティスさんの面倒係三人がいない今、何だかんだで面倒見の良い悠莉が、ティスさんの面倒を見てやっている。


「むぅ、ゆうり、もも缶も、ねるぞ?」


「えっ? ももまでっ! 後でケーキ食べいこ? ねっ?」


 ――ただ構って欲しかっただけらしく、もも缶は満足そうに足をバタバタさせている。


「しかし、遅いな……」


「そうッスね、何かあったんスかね?」


「――やっぱり、突然来た事を怒っているんでしょうか?」


「大丈夫ですわ! 愛里姉様に無礼を働く様なら、そんな愚王には、豚になって頂きます!」


 ――その時だった……。


「静まれっ! 帝王(兄貴)がいらっしゃる!」


 先ほどの門番が、いきなり大声でそう伝えに来た。すると、謁見の間に待機していた執事やメイドが、謁見の間の入口から、机の上座――帝王の席まで続く様に、人垣の通路を作り――。


「「「お務め、ご苦労さんですっ!」」」


 声を揃えて、そう言い放った……。


「え……?」


 ――意味が分から無い……。『お務め』? 『ご苦労さん』? 色々と言いたい事はあったが、混乱して呟く様な声しか出ない。


「おぅ、お前ぇら……下がれ」


 帝王はそう言うと、宰相と言うか、秘書っぽい人だけを残し、後の人を退室させた。そして――。


「悪ぃなぁ……俺がドーバグルーゴ帝国の王、帝王――ダンマ=シルバ=ドーバグルーゴだ」


 オールバックに、日焼けした肌、鋭い目付き……、正直、王様と言われるより、首領(ドン)と言われた方がシックリ来る……。


「――で……? お前ぇら、何しに来た? しかも、噂の『天使様』まで連れ込みやがって……」


 ギロリと睨むその視線は、俺達では無く、同行して来たティスさんに向けられていた。――ってか、『天使様』って……、全っ然隠せてないじゃん!


 ――俺はこの場にいないコラキに、ツッコミたい気持ちを押さえ『ポーカーフェイス』を発動しながら、帝王を睨み返した。


「ほぉ? 睨み返して来るたぁ良い度胸だ。――聞いてやる……話せ」


 俺は「また面倒臭そうな人だな……」と思いつつ、帝王に謁見の目的を話す事にした――。

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